言論ＮＰＯは韓国側の機関と共同で実施した第８回目の共同世論調査の結果を昨日公表しています。言論ＮＰＯは「韓国人の対日認識はこれまでにない規模で悪化」したと述べていますが、実際、調査結果の詳細を読み込んでいくと、たしかに日韓関係の認識の齟齬は日韓両国政府というレベルではなく、もはや草の根レベルにまで及んでいることが判明します。

言論ＮＰＯ「韓国人の対日認識、これまでにない規模で悪化」

言論ＮＰＯは昨日、韓国の東アジア研究院と共同で実施した「第８回日韓共同世論調査」の結果を公表しています。

韓国人の日本に対する印象が大幅に悪化

言論NPOは10月15日、８回目となる日韓共同世論調査結果を公表しました。今回の調査では、韓国人の対日印象や日韓関係に関する認識が、この一年間でこれまでにない規模で全般的に悪化していることが明らかになりました。<<…続きを読む>>
―――2020/10/15付　言論ＮＰＯより

詳しい内容を閲覧するためには読者登録が必要だそうですが、現在のところはいちおう、メールアドレスさえあればだれでも登録でき、かつ、無料で閲覧可能であるようです。そこで、本稿では、個人的に気になった部分をいくつか紹介してみたいと思います。

（※ただし、読者登録しなければ閲覧できない部分を丸ごと転載することはしませんので、気になる方は、ご面倒でも言論ＮＰＯの正規の手続を踏んで閲覧してください）。

まずは、「相手国に対する印象」です。これについては図表化しておきましょう（図表１）。

図表１　相手国に対する印象（2019年から2020年の変化）

相手国に対する印象	日本の世論	韓国の世論
良い印象	20.0%→25.9%（＋5.9pt）	31.7%→12.3%（▲19.4pt）
良くない印象	49.9%→46.3%（▲3.6pt）	49.9%→71.6%（＋21.7pt）
どちらともいえない	29.8%→27.3%（▲2.5pt）	18.2%→16.1%（▲2.1pt）
無回答	0.3%→0.5%（＋0.2pt）	0.2%→0.0%（▲0.2pt）

（【出所】言論ＮＰＯデータをもとに著者作成）

リンク先記事によると、この１年間で日本の対韓世論は若干軟化していて、相手国に「良くない印象」を持つ人が3.6ポイント減少する一方、「良い印象」を持つ人が5.9ポイント増えていますが、それでも依然として半数近くの人が韓国に「良くない印象」を抱いています。

輸出「規制」が大きく影響か？

個人的には、この状況で日本国民の４分の１が韓国に対し「良い印象を持っている」と答えたことが意外だと思いますし、昨年10月時点の内閣府の調査（『【速報】「韓国に親しみ感じない」が初めて７割を超過』）と比べても、韓国に好意的な調査結果であるようにも思えます。

もっとも、そもそも世論調査というものは、調査実施主体や調査方法、母集団の抽出方法、質問項目などによっても、回答結果は揺れるものであるため、このあたりはとりあえず無視することにしましょう。

ここで注目したいのは、韓国側の対日感情の著しい悪化です。韓国側では、日本に対し「良い印象」を持つ人が19.4ポイント減少して全体の１割少々に留まる一方、「良くない印象」を持つ人が21.7ポイントも上昇し、じつに韓国側の世論の７割超が日本に対し「良くない印象」を持っているのだとか。

最近の韓国は、慰安婦合意を覆したり、根も葉もない自称元徴用工問題で国際法違反の判決を仕掛けてきたりするなどの「加害者」ですが、その加害者である側の韓国が日本に対して悪印象を抱いているというのは、個人的にはどうも理解に苦しむところです。

ただ、もっと興味深いのは、韓国側で日本に「良くない印象を持っている理由」です。

今回の調査によると、対日感情を悪化させている要因のトップは「韓国を侵略した歴史について正しく反省していないから」ですが、興味深いことに、この理由は昨年の76.1％から今年は61.3％へと14.8ポイント減少しているのです。

同様に、理由の２番目にある「独島をめぐる領土対立があるから」については45.0％でしたが、これも昨年の57.5％と比べて12.5ポイント減少しています。ということは、今回の調査で韓国側の対日感情が悪化した原因は、「歴史問題」、「領土問題」以外にある、と考えた方がよさそうです。

この点、言論ＮＰＯは、次のように説明しています。

「日本政府が韓国への輸出規制を行い、８月には韓国を貿易の優遇措置対象国のホワイト国リストから削除し、それに韓国政府が猛反発し、韓国内で日本製品のボイコットなどの動きが加速しました。今回の韓国の対日認識の急速な悪化の背景には、日韓両国の政府間の不信の構造が存在しています。」

（※なお、日本政府が韓国に対する輸出規制を発動した事実はありませんが、言論ＮＰＯが「日本政府が韓国への輸出規制」と誤記している部分については、あえて修正していません。）

言論ＮＰＯの調査結果を信頼するならば、今回は「日韓双方で」国民感情が悪化したのではなく、「おもに韓国の側で」国民感情が悪化しています。それを「日韓両国政府の不信の構造」などと、あたかも日韓双方に等しく原因があるかのように論じるのは、いかがなものかと思うのも事実です。

しかし、韓国政府自身が「日本が不当な輸出規制を仕掛けてきた」と国民に偽って説明していることを思い起こせば、「輸出『規制』問題」が感情対立に拍車をかけたという分析自体は、説明としては若干不正確ではあるものの、あながち間違いとは言い切れないでしょう。

日韓関係：日本側は「匙を投げる」

次に興味深いのは、「日韓関係の今後」に関する質問事項です。

今回の世論調査では「現在の日韓関係をどう思うか」、「今後の日韓関係はどうなるか」という質問項目も含まれています。

このうち「現在の日韓関係」については日韓ともに「非常に悪い／どちらかといえば悪い」が日本側で過半数、韓国側で９割近くに達していて、「今後の日韓関係」は「変わらない」とする回答が日本側で３割強、韓国側で５割弱を占めています。

しかし、「日韓関係の改善のためにすべきこと」という項目に関しては、「関係改善に向けた努力をすべき」とする回答が、日本側で40.2％から38.8％へ、韓国側で70.8％から61.2％へ、それぞれ微妙に減っているのです。

もちろん、「関係改善に向けた努力をすべき」とする回答が日本よりも韓国で多いのは、日韓関係が断絶状態に陥れば、より困る国は日本ではなく韓国である、という理由によるものだと思われますが、こうした回答が韓国の側で大きく減少しているというのもまた事実でしょう。

そして、日韓関係が重要であると答えた人に対し、「なぜ日韓関係は重要なのか」と尋ねたところ、その回答が興味深いのです（図表２）。

図表２　なぜ日韓関係は重要なのか（抜粋）

理由	日本世論	韓国世論
隣国同士だから	57.40%	34.10%
重要な貿易相手だから	15.20%	50.70%
同じアジアの国だから	42.20%	31.40%
経済・産業面	41.40%	56.60%

（【出所】言論ＮＰＯ。なお、「理由」のうち「同じアジアの国だから」は「同じアジアの国として歴史的にも文化的にも深い関係を持っているから」、「経済・産業面」は「経済や産業の面で相互依存関係を強めており、多くの共通利益があるから」の略。また、原文にはほかにも６項目掲載されているが、ここでは省略している）

これによると、日本側では「隣国同士」、「同じアジアの国」といった、単純に「地理的・文化的に近い」という回答が多数を占めているのに対し、韓国側ではおもに経済面で日本に依存していることにより、日本との関係に重要性を感じている、といった回答が多いのが特徴的でしょう。

つまり、日韓関係を巡っては、日本の側よりも韓国の側の方が、関係改善に向けてより切実である、という可能性を示唆しています。

自称元徴用工問題では世論に分断

さて、今回の調査で個人的にもっとも興味深いと感じたのが、自称元徴用工問題（原文では「徴用工問題」）に関する日韓両国の意識差です。「徴用工問題解決のために何をすべきか」とする質問に対する回答が、日韓で大きくずれているのです。

日本側では、「わからない」が34.6％で最も多く、次に「徴用工問題はすでに解決済みであり、日本企業は韓国最高裁の判例に基づく強制執行に従う必要はない」が29.3％、「解決は難しいと思う」が15.9％でした。

ほかにも「元徴用工への補償は韓国政府が行う」が8.7％「仲裁委員会の設置または国際司法裁判所に訴える」が7.1％でしたが、「被害者と日本企業の間の話し合いで解決する」は6.4％、「財団による解決」に至っては2.3％に過ぎませんでした。

何らかの形で「韓国側に譲歩すべき」とする回答が日本側で全体の10％にも満たなかったとうい事実は、日韓関係が質的に大きく変化している証拠ではないかと思えてなりません。

これに対し韓国側では、「韓国最高裁の判決に従い、強制執行を行うべき」が36.0％、「韓国最高裁判決に基づき法的責任は日本企業が果たすが、実際の金銭的支援は韓国政府や民間が代わりに務めるような政治的決断が必要である」が18.2％、などとなっています。

もっとも、韓国側でも「最高裁判決は日韓請求権協定に反するものなので、日本企業は強制執行に従う必要はない」が14.0％、「仲裁委員会の設置または国際司法裁判所に訴える」が13.2％、という具合に、自国の判決に対して疑問視する意見も一定数存在している事実は無視してはなりません。

ただし、自称元徴用工問題を巡っては、全体として見れば韓国側では、損害賠償を命じた判決そのものを支持する意見が多数を占めているのに対し、日本側ではこの問題を巡って、もう完全に匙を投げてしまっている、というのが実情に近いのではないかと思う次第です。

実際、言論ＮＰＯの調査レポートでも、

「被告日本企業の資産差し押さえや売却が行われた場合に、日本政府が対抗措置を取ることを54.2％の日本人が容認している。日本側が対抗措置を取った場合の韓国側の対応としては、韓国人の54％が『韓国政府も対抗措置を講じなければならない』と回答している。」

と述べています。日本側の世論はむしろ韓国で資産売却が行われることを前提に、対抗措置もやむなしと考えている、ということなのかもしれません。

「韓日未来志向」という周回遅れのテーマ設定

さて、この言論ＮＰＯの調査結果については、韓国メディア『中央日報』（日本語版）も記事にしています。

韓国人の半分以上「強制徴用、資産現金化以外の解決方法を探すべき」

韓国大法院の強制徴用判決、日本の輸出規制などをめぐり韓日葛藤が激化し、反日感情も高まったことが分かった。<<…続きを読む>>
―――2020.10.16 07:12付　中央日報日本語版より

リンク先記事によれば、言論ＮＰＯの工藤泰志代表は

「日本の国民は、こうした動きの中で、日韓関係というのは、文在寅（ムン・ジェイン）政権がある状況においては、もうやむを得ない、ある程度解決が難しいんじゃないかと思っている人たちが多い」

と述べたのだそうですが、これは言論ＮＰＯ自身の調査結果を踏まえたうえで適切な認識ではないでしょうか。

なお、中央日報によると、今回、言論ＮＰＯと共同調査を実施した韓国・東アジア研究院（ＥＡＩ）や崔鍾賢（さい・しょうけん）学術院は、言論ＮＰＯと共同で16日から17日にかけて、韓国で第８回日韓未来対話を開くそうです。

ちなみにテーマは「世界秩序の変化の中の韓日協力：未来指向の韓日関係の構築は可能か」だそうですが、周回遅れも甚だしいテーマ設定だと思う次第です。