本日の「小ネタ」です。やっと日本も情報漏洩対策に本腰を入れ始めたのでしょうか。朝日新聞は本日、「政府は先端技術者の信用度に資格を新設する方針を固めた」と報じましたが、これについてどう考えれば良いのでしょうか。本稿ではショートメモとして、中国におけるFTT、これに対する米国におけるECRAをはじめとした技術漏洩対策などの動きを簡単に振り返っておきたいと思います。
朝日新聞「先端技術者の信用度に資格新設」
朝日新聞に本日、なにやら気になる記事が出ています。
先端技術者の信用度に資格新設へ 中国への警戒感にじむ
政府は先端技術を扱う民間人について、信用度を保証する資格制度を創設する方針を固めた。<<…続きを読む>>
―――2020年8月13日 5時00分付 朝日新聞デジタル日本語版より
朝日新聞は「複数の政府関係者が明らかにした」として、政府は先端技術を扱う民間人に関する信用度を保証する資格制度を創設する方針を固めたと報じました。その狙いは、政府が審査・保証することで、国際社会に対し、機密情報を漏洩するおそれがない人材であると裏打ちすることだそうです。
情報源が情報源だけに、どうしても眉に唾をつけてしまう人もいるかもしれませんが、これはべつにおかしな制度ではありません。すでに数年前から、米中貿易戦争は単なる「貿易赤字」の問題ではなく、西側諸国の最新技術が中国に漏洩している(つまり、技術のタダ乗り)、という問題に発展しているからです。
中国のFTT
たとえば、香港の英字紙『サウスチャイナ・モーニングポスト』(SCMP)は昨年の時点で、「強制技術移転( “forced technology transfer,“ FTT)」と呼ばれる、外国企業が中国に進出しようとしている際に、中国当局にその技術を開示させるという政策について取り上げています。
Is the US right to cry foul about forced technology transfer to do business in China – and what is Beijing’s position?
- Foreign companies’ concerns about having to share their tech secrets are among the matters being discussed in ongoing US-China trade talks
- Beijing’s draft foreign investment law could legislate against the practice, but businesses are sceptical about enforcement
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―――2019/01/10 23:32付 SCMPより
このFTTは、「中国に進出したければ技術を渡せ」、というルールですね。
米ECRAなどの規制
もちろん、こうしたFTTに対し、米国は強く反発しています。そして、2018年8月に成立した「国防権限法2019」という一連の法制によって、外国への技術移転を包括的に規制するという流れができました。
このあたりは、「一般財団法人安全保障貿易情報センター(CISTEC)」が昨年9月13日付で公表した『米中の貿易関連等の諸規制の動向について(全体概観)』というレポートに、詳しい動向が掲載されています。たとえば、次のような項目です。
- 輸出管理改革法(ECRA)…新興技術(エマージング技術)、基盤的技術に関する規制
- 国際輸出管理レジーム…2018年12月のワッセナー・アレンジメント合意に基づき輸出管理上のリスト規制品に次世代量子暗号技術、電磁パルス、EMP対策ソフトウェア等の5品目を追加
- 外国投資審査現代化法(FIRRMA)…新興技術、基盤的技術を含めた重大技術(critical technologies)を含めた米国内投資に関する規制
- 包括的武器禁輸国に対する輸出、再輸出、国内移転に関する許可要件
- 中国企業製通信・監視機器等及びその利用企業の製品等の米国政府機関との取引禁止
- 「外国敵対者」の情報通信機器等の米国内民間取引の禁止
これは、中国を名指しこそしていないものの、事実上、中国への技術移転を厳格に取り締まるという流れだと考えて良いでしょう。
また、このレポートの執筆時点では、まだ「輸出管理改革法(ECRA)」の詳細要件については煮詰まっていない部分もありましたが、日本企業にも影響は甚大であり、とくに中華製の通信機器を使用しているようなケースでは、わが国企業も影響を受ける可能性は否定できません。
わが国も先端技術防衛の第一歩を急ぐべき
いずれにせよ、わが国の「先端技術資格者」なる話題について報じているのは、現在のところ、朝日新聞だけのようですが、決しておかしな話ではありません。というのも、こうした資格制度が日本に存在しないため、米国内で開催されるシンポジウムなどに日本人が参加できないというケースもあるからです。
朝日新聞は、次のように述べています。
- 新たな制度では、大学の研究者や企業の技術者らの申請を受け、政府が国際的な水準に沿って審査し、申請者の信用度を評価する
- 欧米では国籍、海外渡航歴、犯罪歴などを総合判断している
- 「政府が提供する資格サービス」との性格を明確にするため料金を徴収する案もある
いずれにせよ、普段から当ウェブサイトでも申し上げているとおり、わが国には先端技術を含めた情報の漏洩を予防するための罰則付きの仕組みが不十分です。
朝日新聞の報道が事実ならば、という前提が付きますが、こうした日本政府による資格制度法制化の動きについては、技術の安全保障の第一歩であり、まずは第一報としては歓迎すべきであると思う次第です。
View Comments (12)
遅くともやらないよりはよい
半導体技術漏洩がわかった時点でやって欲しかった
これを足掛かりにスパイ防止法の制定議論までは持ち込んでほしい
先端技術は民間と協力して「ブラックボックス化」を考えなければ流出するばかりだと思う
更新ありがとうございます。
日本のマスコミで言い出しっぺが朝日新聞ですからネ〜ハナシ半値8掛け5割引(答えは元値の20%の意です。つまり全然アテにならない。笑)ぐらいのモンかもしれませんが、やらないよりやったほうが良いでしょう。
『先端技術者の信用度に資格を新設する』良い響き(笑)。
西側諸国の最新技術が中国に漏洩しているのは、もはや既成事実です。中国に来るなら情報を共有しよう(中国のFTT)なんて言われて当時は安っすい人件費、ワンランク落ちる原材料でもトータルコストが見合う、と日本企業らは進出した訳です。
今更ボヤいても始まらへん。遅きに失するが是非進めて、日本の有能者が自由世界からハミダシにされないよう、安全保障の強化として取り組んで貰いたいです。
独断と偏見かもしれないと、お断りしてコメントさせていただきます。
(できれば、自分でもドラマの見過ぎと言って欲しい
ので)
先端技術者が情報を漏らさなくても、その上の年齢を重ねただけの無能な上司から情報が漏れることがあるのでは。
ドラマの見過ぎと言われることを願いながら。
○○党関係者が、政府高官が、要人によると、等々の枕詞がついた記事は信憑性が薄いですね。
経済が発展すれば、民主化する。希望的な部分と目の前の利益で、中国共産党に世界が関わった感じがします。
しかし経済発展した結果、中国共産党は民主化の反対、独裁を強め言論の自由がなく基本的人権を犯し、世界に進出しています。
反省して、舵を逆にするべきだとおもいます。
言論の自由がない国、基本的人権を侵害する国が発展して良いことはないということを学び、実行するべきだとおもいます。
日本の特許制度も見直して欲しいですね。
日本が特許技術情報公開のせいで世界中で大量破壊兵器製造が可能になってしまっている。
韓国の原発技術も日本の特許を丸パクリしているだけだ。
海外では重要な技術情報は非公開にする事が出来る。
暑くて暑くて、脳みそが働きません。
FTTですか。フーリエ変換ですね。
物事を虚軸と実軸に分けてみるのはよいことです。
(すっとぼけ)
FFTやないかーい!
FFTと言えば投石ですね。
中国製品を使ったことのない者だけが石を投げよ!
一寸本題から逸れてしまいますが、報道の自由を保障した上で「報道関係者の信用度に資格新設」もして欲しいです。
裏付けの無いフェーク・ニュースを垂れ流しても責任を取らない記者やアナウンサーに「正確さ」、「客観性」、それから「責任ある行動」を加味した等級とか成績表どか「偏差値」でも付けて欲しいです。
産経新聞には「B」と「C」が多く、毎日新聞では殆どが「D」と「F」になってしまうとか...
芽島津様、ブログ主様
やらないよりはやった方が良いとの皆様の考えに賛成です。特許以外でも、公開情報だけでは上手く行かないノウハウの流出防止もできるとよいかと。
あと、芽島津様の報道の正確性の保証、やはり何らかの手段が必要だといつも思っています。発表と報道機関の考えを分けるようにさせるとか。報道への介入もほぼ確実にありそうですし、情報戦と考えると外せない分野だと思います。
ついでに中小企業を虐める大企業もなんとかして欲しいっす。金型の技術なんかが流出したのは大企業の所為でしょ。半導体のプロセス技術者も破格の年俸で募集中みたいですね。数年で切られるのでしょうけど定年された方でしたら問題無いっすね。そういえば以前エルピーダの社長だった方が中国の半導体メーカーの顧問になってなんて記事をみましたが、自分の会社潰しといて???
それはなんだっぺ?と思うのは私だけでしょうか?