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韓国外交部報道官「GSOMIAはいつでも終了可能」

韓国政府外交部報道官は昨日、日韓GSOMIAを巡って、「韓国政府は『いつでも韓日GSOMIAの効力を終了させられる』という前提の下にGSOMIA終了通知の効力を停止している」、「GSOMIAを1年ごとに延長する概念は現在適用されない」、などと述べたそうです。相変わらずメチャクチャな解釈ですね。ただ、これは見方によっては、GSOMIA破棄をうまく争点化することから逃げた、という言い方もできます。あらためて、韓国のメチャクチャな解釈について振り返っておきましょう。

日韓GSOMIA終了

日韓GSOMIA終了の法的位置付け

秘密軍事情報の保護に関する日本国政府と大韓民国政府との間の協定』(俗に日韓GSOMIA)は、2016年11月23日に日韓両国間で署名された秘密軍事情報の保護に関する協定です(この日付が重要!)。

日韓GSOMIAは1年間有効とされる一方、基本的には何もない限り毎年自動延長されることとなっており、実際、日韓GSOMIA第21条第3項を読むと、次のような規定が設けられています。

(参考)日韓GSOMIA第21条第3項

この協定は、一年間効力を有し、一方の締約国政府が他方の締約国政府に対しこの協定を終了させる意思を九十日前に外交上の経路を通じて書面により通告しない限り、その効力は、毎年自動的に延長される。

要するに、「日韓のどちら側からでも終わらせることはできるけれども、もし終わらせるつもりなら、11月23日よりも90日前に文書で通知してね」、「その通知がなければ自動的に更新されるよ」、というルールです。

韓国政府は昨年8月23日、日本の駐韓大使に対し、日韓GSOMIAを「終了する」と明記した文書を手渡し、これによって「日韓GSOMIAを終わらせる」という韓国政府の意思は日本に対して伝達された格好となったのです。

GSOMIA終了通告の「効力停止」という不思議な概念

ただ、実際に日韓GSOMIAが終了する6時間前になって、韓国政府は突如として、「8月23日付けの終了通知の効力を停止させる」と発表しました。ここでは、『【資料】GSOMIA等を巡る日韓両国政府の発表内容』で触れた、韓国大統領府の記者発表を再掲しておきましょう。

GSOMIA関連 金有根NSC事務局長ブリーフィング(2019-11-22付 韓国大統領府HPより【韓国語】)

これを機械翻訳したうえで日本語表現を整え、便宜上、番号を振ると、次のとおりです。

  • ①韓日両国政府は最近の両国間の懸案を解決するために、それぞれ自国がとる措置を同時に発表することにしました。
  • ②わが国の政府はいつでも韓日軍事秘密情報保護協定の効力を終了させることができるという前提の下に、2019年8月23日付の終了通知の効力を停止させることにし、日本政府はこれに対する理解を示しました。
  • ③韓日間の輸出管理政策の対話が正常に進行されている間は、日本側の3個品目輸出規制に対するWTO提訴手続を停止させる事にしました。

…。

この韓国政府の発表だと、まるで「日韓GSOMIA終了通告自体はいまでも有効だ」、「韓国政府がこの『終了通告の効力の復活』を宣言すれば、いつでも日韓GSOMIAを終了させることができる」、とでも思っているかに見えますね。そもそも論ですが、この解釈は、正しいのでしょうか。

めちゃくちゃな解釈

「終了通告の効力停止」などという概念は存在しない

結論的には、正しくありません。これについては当ウェブサイトの下記の過去記事が参考になると思います。

【読者投稿】GSOMIA「事実上の延長」の真否

このたび、「狐の手のおじさん」と名乗る読者の方から、「GSOMIAは『事実上の延長』ではなく、『実際に延長』されたものである」とする、なかなか興味深い論考を頂戴しました。いったいどのようなことが記載されているのでしょうか。少し専門的な用語も出て来ますが、これについて読んでみましょう。<<…続きを読む>>
―――2019/11/23 16:00付 当ウェブサイトより

リンク先記事を執筆して下さったのは、「狐の手のおじさん」というハンドルネームの弁護士の方で、わかりやすく要約すると、次のとおりです(※表現については一部手直ししています)。

  • 韓国の行為は、国際法的に見れば、『条約法に関するウィーン条約』第68条の規定に基づいて『8月23日付けのGSOMIAの不延長通告』を撤回したという行為であり、したがって、この行為によって日韓GSOMIAは第21条第3項の規定に従い、1年間延長された
  • したがって、「韓国がいつでもGSOMIAを終了させることができる」などということはあり得ず、韓国がGSOMIAを終了したければ、GSOMIA第21条第3項の規定に従い、11月23日よりも90日前までに日本に書面で通知する必要がある
  • 韓国が「いつでもGSOMIAの効力を停止させることができることを前提とした」と発表した目的は、「無条件にGSOMIA終了を撤回して延長した」という国内からの批判を避けるためと思われ、これに対し日本は「その点については勝手にやらせておけば良い」と放置しているものと考えられる

…。

非常にすっきりした説明ですね。

条約法に関するウィーン条約第68条

そもそも、日韓GSOMIAの条文に、「終了通告を途中で撤回することができる」という規定は設けられていません。このような場合には、もう少し一般的な規定を読む必要があります。そこで出て来るのが、この要約にも出てくる『条約法に関するウィーン条約』です。

この条約の第65条と第68条には、こんな規定が設けられています。

条約法に関するウィーン条約
  • 第65条…「条約の終了(中略)を援用する場合には、(中略)他の当事国に通告しなければならない。
  • 第68条…「第65条(中略)に規定する通告(中略)は、効果を生ずる前にいつでも撤回することができる。

つまり、ウィーン条約上は、GSOMIAの終了にかかる通告も、

『終了』という効力が発生するまではいつでも撤回できる

ということです。

この規定に従うならば、韓国政府が昨年8月に日本に対して申し入れたGSOMIA終了通告も、その効力が発生する昨年11月23日になるまでの間であれば「通告の撤回」は可能でした。よって、韓国政府が昨年11月22日に行った行為は、国際法上の「通告の撤回」に該当します。

なお、日韓GSOMIAは「条約」ではなく「協定」という名称ですが、『条約法に関するウィーン条約』にいう「条約」とは、「国際法によって規律される国際的な合意」のことである、などと定義されています(同第2条)。

条約法に関するウィーン条約第2条

「条約」とは、国の間において文書の形式により締結され、国際法によつて規律される国際的な合意(単一の文書によるものであるか関連する二以上の文書によるものであるかを問わず、また、名称のいかんを問わない。)をいう。

当たり前ですが、日韓GSOMIAに関しても『条約法に関するウィーン条約』第68条の適用があると考えて良いでしょう。

おそらくは純粋な国内向けのアピール

では、果たして韓国政府自身、「日韓GSOMIAの終了通告の効力発生」なる考え方が、世界に通用すると思っているのでしょうか。

おそらく韓国政府自身、自分たちがやったことは『条約法に関するウィーン条約』でいうところの「日韓GSOMIA終了通告の無条件撤回」であるということを理解しているのだと思いますが、それだと国内的な説明がつきません。

だからこそ、韓国政府は「終了通告の効力停止」という、非常に苦し紛れの報道発表をせざるを得なかったのだと思いますし、また、日本政府としてもこの点については何もコメントをせず、「勝手にやらせている」というのが実情なのでしょう。

ただし、韓国側からは、この「終了通告の効力停止」という、韓国でしか通用しないメチャクチャな屁理屈を使い、「韓国はいつでも韓日GSOMIAを終了させることができる」、などと述べて来ています。

たとえば、昨年は「日本が対韓輸出『規制』(※)を撤回しなければ、韓日GSOMIAを年内に破棄する」と述べたりしていますし、この破棄する時期が「3月末」に伸びたり、「いつでも破棄できる」に変わったりしています(※誤植は原文ママ)。

これに関連し、本日も、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に、こんな記事が出ていました。

韓国外交部「韓日GSOMIA、韓国が望めばいつでも終了可能」

韓国外交部が韓日軍事情報包括保護協定(GSOMIA)と関連し、「日本に束縛されることなく韓国政府がいつでも終了できる」と明らかにした。<<…続きを読む>>
―――2020.08.05 10:49付 中央日報日本語版より

中央日報によると、韓国政府・外交部の報道官は4日の定例会見で、次のように述べたのだそうです。

韓国政府は昨年11月22日に『いつでも韓日GSOMIAの効力を終了させられる』という前提の下にGSOMIA終了通知の効力を停止している/日本の輸出規制措置撤回動向に基づいてこうした権利を行使するかを検討していくという立場はいまも変わらない」。

(※ちなみにどうでも良い話かもしれませんが、日本が韓国に対し輸出規制を講じた事実はありません。そして、適用していない措置を撤回することなどできるはずなどありません。)

GSOMIAはもっと大きな問題

GSOMIA破棄を焦点化することをうまく逃げる

そのうえで、この報道官は、

(GSOMIA)協定を1年ごとに延長する概念は現在適用されない

と述べたのだそうです。

なかなかうまい逃げ方ですね(笑)

というのも、この発言自体、国際法の解釈としてはメチャクチャです。

ですが、このように述べることで、また8月下旬の日韓GSOMIA破棄通告期限が到来した際に「なぜ今年は日本に対してGSOMIA破棄通告をしないのか」と責められたときに、「いや、わが国はいつでもGSOMIAを破棄することができるからだ」と答えておけば済む話だからです。

つまり、GSOMIA破棄という「米国の虎の尾」を踏まないで済む、というわけですね。

もっとも、韓国政府にとって、GSOMIA破棄は「絶対に切れないカード」です。いや、もう少し正しく言えば、「カード」だと思い込んでいるのは韓国政府のみであって、現実にはカードではなく、地雷かなにかの類いでしょう。

なぜなら、昨年の『韓国の「GSOMIA瀬戸際外交」は日本の勝利だが…』でも指摘したとおり、日韓GSOMIA破棄で最も激怒する国は、日本ではなく、米国だからです。

おそらく、昨年11月22日になって、韓国政府がGSOMIA破棄通告を事実上撤回させられたのは、米国から文在寅(ぶん・ざいいん)政権に対し、かなり強い脅しがなされたからでしょう。

それが何なのかはわかりません。しかし、場合によっては「米国が韓国軍をそそのかし、韓国における軍事クーデターで文在寅氏自身を排除するぞ」、といった警告も含まれていた可能性はあるでしょう。

また、先日の『輸出「規制」を巡り、米国がWTOと韓国に強く警告か』で触れましたが、韓国がGSOMIA破棄を通告するきっかけとなった日本の対韓輸出管理適正化措置自体、韓国が日本から輸入した物資に関連し、何らかの不正使用がなされた証拠を、日米が掴んでいるからかもしれません。

いずれにせよ、米韓同盟自体は遅かれ早かれ破綻する可能性があると思いますが、米国政府は、その時期は「いま」ではない、と見ているのかもしれません。だからこそ、米国政府は少なくとも今すぐに日韓GSOMIAが破棄される事態は避けたいと考えているのではないでしょうか。

文在寅政権と米韓同盟の行方

もっとも、昨年11月と比べて、文在寅氏自身は政治的立場を強めています。今年4月の国会議員総選挙で、文在寅氏の出身母体である「ともに民主党」が、衛星政党などを含めて3分の2近い議席を獲得して圧勝したからです。

そして、日韓GSOMIA自体には、日韓両国の軍事情報協力というだけでなく、むしろ日米韓3ヵ国連携を円滑に機能させるための軍事情報協力という側面があります。ということは、米韓同盟が消滅すれば、そもそも日韓GSOMIA自体も必要なくなる、というわけですね。

なにより、韓国政府が日韓GSOMIAに言及すること自体、結果的に米国に対する牽制にもなってしまいます。したがって、この日韓GSOMIA問題も、どちらかといえば、「米韓同盟が維持されるか、破棄されるか」という、もっと大きな枠組みからとらえ直すべきかのかもしれません。

なお、米韓同盟の行方については、日本を代表する優れた韓国観察者である鈴置高史氏の名著『米韓同盟消滅』が、私たち日本国民にとってのバイブルでもあります。まだお読みになられていない方は、是非、お買い求めください。

参考画像:『米韓同盟消滅

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新宿会計士:

View Comments (53)

  • この文在寅 こと外交に限り虚偽は一切言わぬ
    破棄・・・・・・!破棄するが・・・・・・今回 まだその時と場所の指定まではしていない
    そのことをどうか諸君らも思い出していただきたい
    つまり・・・・我々がその気になればGSOMIAの破棄は10年20年後ということも可能だろう・・・・・・・・・・ということ・・・・!

  • 冷静に考えるとなかなか絶妙な言い分なのかも。
    いつでもやめられるのだから8月下旬の期日も関係ない。そこでなんのアクションもとらなくても「GSOMIA終了権」は常に保持しているんだと。

    ただ、この韓国独自解釈のGSOMIA終了権は日本側からはなんら言及がありません。韓国の言い分に日本が理解を示したという韓国側の発表のみです。

    果たして国際的取り決めとしてこれが有効なのか。マスコミも含めてそれは明らかなはず(もちろん無効)ですけど、頑としてだれも指摘しませんね。ここが日本マスコミと違って言論統制されている韓国マスコミということなんでしょう。露骨な言論統制はなくとも、日本に有利なことは言ってはいけない、それを言えば「親日派」という暗黙の言論統制ですね。

  • ふと、アメリカと調整して、日本側からGSOMIA破棄出来ないものかなと思ってしまいます。

    今どき日韓で軍事情報共有する必要もないし、日米韓で共同しなきゃいけない理由もないような。

    去年段階じゃまだアメリカも激怒する話だったかもですが、この1年でさらに日韓、米韓とも疎遠になって、今度は破棄でも構わないとなってるような(もちろん的外れの可能性もあり

    • 感情面ではスッキリしますが、日本も米国共も得るものがありません。
      無駄な作業はしないに限ります。

      感情面を優先して動くと、隙を作る事にもなりかねません。

      • 確かに、、
        こんなものが(国内向け限定とはいえ)カード扱いになってしまうのかとむなしくなっちゃいますね

  • ホントにもう、日本としてはどうでもいいですね。
    この発言にアメリカ合衆国が反応するようなら、まだ米国は韓国を利用価値のある存在だと見做していることになります。
    私個人は、米国が日本に韓国の面倒を見させる構図にうんざりしておりますので、そろそろ米国も「自分で」韓国の面倒を見ていただきたいものだと願っております。

  • 毎度のことながら、K国の行動はコントにしか見えない。
    GSOMIAの件は、吉本新喜劇のギャグと被ります。

    「ドリルすんのかいせんのかい」

    ユーチューブで見れますので、GSOMIAを思い浮かべて突っ込んであげて下さい。
    「破棄せんのか~~ぃ」

  • 法治国家で無い国に、法が云々と言っても、通用しない事は、そろそろ皆さん分かって来たと思います。
    ここ最近、新宿会計士さんの発言が、過激になって来た原因も、それによる苛立ちなのかもしれません。
    韓国ネット民の世論は、GSOMIA破棄が主流で「日本は、信用出来ないから、軍事協力は出来ない」という話です。
    日本ネット民と韓国ネット民は、立場が違えど「相手国が滅びる」とか同じ事を言う事が多いですよね。
    客観性と価値観が、180度違うと一周して、同じ事を言う様になるんでしょうか(投影は、知ってます)。
    今回のGSOMIAに対する解釈が、国際社会で通用する訳はありません。しかしながら、それを恥ずかしげも無く言う政府、それを信じて、それが正しいと思う愚民。
    今月、改めてGSOMIA破棄を宣言するのは、文政権にとって負担なんだと思います。アメリカとの米軍駐留費交渉も終わってません。
    結論は、文政権が国民からGSOMIA破棄を迫られても、何も出来ないから、先に逃げ口上をしているんだと思います。

    • だんな様

      同意致します。
      かの国では、恥知らずな事に、国際的取り決めとして有効か無効かは関係無いのです。

      ウィーン条約を守るつもりがあるのであれば、「日韓請求権協定」「慰安婦合意」に絡む問題は発生しないのですから。
      最初から『国家間の約束を守る気が無い』のです。
      ただ、米国が怖いからフリで逃げているだけですね。

      基準は、「ウィーン条約」ではなく、「米国怖い」です。

  • 日本は結構厳格な法治国家なので、法にないことを行うのはとても難しいです。だから、制裁措置も出来れば法令によらなくて出来ることを考えるべきです。

    コロナで日本が行ったのは「自粛要請」。韓国への制裁も基本自粛要請で対応するのがよいかと思います。律儀な日本人は国からの自粛要請をきっちり守りますから、法的強制力なくとも制裁の効果は十分出ます。敢えて要請を破ろうとするものには厳しい批判の目が注がれます。

    あと、「対抗制裁措置がセルフ制裁になる」という仕掛けも合わせて面白いと思います。
    例えば日本からのエンタメ交流自粛とか、日本のスマホの輸出規制とか。
    それそのものはたいした実効性はなくても、対抗措置は、、、笑

  • 仮に、GSOMIAを破棄するのであれば、別に律儀に条約通りに停止しなくても、情報提供要請を拒否して実質的に無効化すればいいと思っているのかもしれませんね。
    GSOMIA自体に、情報提供をする強制力はありませんし。

    国内的には、GSOMIAは終了したといって
    実際は死文化させるだけ、と。

    もしくは表では国内的には終了したと言いつつ、裏ではGSOMIAに基づいて情報交換を続けられると思っているとか......いや流石にそこまで馬鹿ではな......いかなあうーん

  • どんなに好意的に見たとしても、いつでも破棄出来る、が有効なのは今年の8月23日までですよね
    この日までに破棄通知がなければ、いつでも破棄出来る、はリセットされて、また来年までは通常の状態に戻る

    いつでも破棄出来る、をずっと続けたいなら今年の8月23日までに破棄通知をして11月23日までに撤回する、をしないとダメでしょう

    まあ韓国には常識とか通用しないので、何もせずにいつでも破棄出来る、とずっと言い続けるでしょうね

  • 朝鮮民族は強い国の下か、弱い国の上が必要と考えているのだとおもいます。
    北朝鮮のように「鎖国」状態になったら、自分の国で殺しあいか、恐怖政治になるのを分かっているので、回りをどうにかして巻き込もうとしているのではないかとおもえてきました。

    韓国と関わり合いがなくなる方向での制裁を、希望してます。

    ジーソミア韓国から破棄してくれると、ありがたいです。

    あとは、韓国とアメリカの問題です。

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