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韓国政府が外国為替平衡基金債券発行へ=韓国メディア

韓国政府が7月から9月にかけて、「外国為替平衡基金債券」というものを発行するそうです。金額的には合計で15億ドルくらいであり、また、報道によれば、発行残高自体も10兆ウォン(≒83億ドル)程度と、韓国の外貨ポジションに照らし、正直、大した金額ではないのですが、それとは別次元の問題があります。韓国の債券市場や資金循環統計などを調べていくと、どうも数字にさまざまな矛盾があるようなのです。

2020/06/25 12:35追記

記事タイトルで「韓国」と記載すべき部分を間違えていましたので修正しております。

通貨安定証券?それとも外国為替平衡基金債券

以前から当ウェブサイトではときどき、韓国政府が発行しているとされる「外国為替平衡基金債券(外平債)」なるものを紹介して来ました。これは、韓国メディアの報道によれば、「通貨の安定を目的に発行される債券」のことだそうです。

韓国銀行のデータベースをもとに、韓国国内で発行されているとおぼしき主要な債券のデータを引っ張ってくると、「通貨安定証券」(Monetary Stabilization Bonds)という項目が計上されていることが確認できます(図表)。

図表 韓国銀行データベースから確認できる債券発行残高(2020年4月時点)
原文 仮訳 金額
Treasury Bonds 国債 663兆8710億ウォン
National Housing Bonds 住宅債券 76兆4716億ウォン
Industrial Finance Debentures 産業金融債 103兆4022億ウォン
Monetary Stabilization Bonds 通貨安定証券 166兆1900億ウォン
Seoul Metropolitan Subway Bonds ソウル地下鉄債 5兆0547億ウォン

(【出所】韓国銀行データベース “6.3.Issues and Outstanding Amounts of Principal Government, Public and  Corporate Bonds” を参考に著者作成)

上記図表の「国債」と「通貨安定証券」を合計値すれば、830兆0610億ウォン(1円=11ウォンと仮定すれば、約75兆円)です。

一方で、少し時点はズレますが、韓国銀行が発表する資金循環統計(2019年12月末基準)によれば、2019年12月末時点において韓国の国債の発行残高は794兆2240億ウォン(約72兆円)です。

比較している時点が異なっていること、債券市場統計と資金循環統計では金額のベースが異なっていることなどを踏まえると、両者はピタリと一致しないにしても、だいたい合っていると思います。

  • 2019年12月末時点の資金循環統計の国債発行残高…794兆2240億ウォン
  • 2020年4月末時点の債券統計の「国債+通貨安定証券」…830兆0610億ウォン

このことから、外国為替平衡基金債券は韓国の資金循環統計上、「韓国国債」に含められている可能性があります。

誰が発行しているのか?

もっとも、上記考察では、「外国為替平衡基金債券を発行しているのは韓国政府だ」という可能性を検討したのですが、上記考察は不十分です。なぜなら、韓国銀行のバランスを見ても、「その他の外国債権債務」「一般金融債」という項目が計上されているからです。

2019年12月末時点でいえば、資産側に「その他の外国債権債務」が390兆9490億ウォン(約35兆円)計上される一方、負債側には「一般金融債」が164兆1810億ウォン(約15兆円)計上されています。

おそらく「その他の外国債権債務」については、中央銀行が管理している外貨準備だろうと思うのですが、こんな巨額の「その他項目」を計上するあたり、意味がよくわかりません。もし外貨準備で保有するならば、「対外証券投資」などの項目に計上されていなければおかしいからです。

一方、中央銀行が計上している巨額の「一般金融債」なる項目については、むしろ先ほどの韓国国債ではなく、こちらこそが「通貨安定証券」の正体ではないかという可能性もあるのですが、もしそうだとすれば、先ほど挙げた「韓国国債の金額」に矛盾が出て来てしまいます。

このあたり、当ウェブサイトでは今から約3年半前の『韓国の闇「外為平衡基金債券」を斬る!』などでも報告したとおり、結局のところ、「そもそも中央政府が発行しているのか、中央銀行が発行しているのかがよくわからない」、という、非常にモヤモヤした結論に落ち着いています。

債券市場のデータと資金循環統計データに矛盾があるなど、そのあたりの真相はよくわかりません。

外国為替平衡基金債券は「外貨建て国債」?

ただし、調べていくと、どうもこの「外国為替平衡基金債券」には、外貨建ての部分が含まれているようなのです(関連する報道からは、上記15兆円規模の債券のうち、どこまでが外貨建てなのかはよくわかりませんが…)。

ということは、外国為替平衡基金債券はいちおう、当ウェブサイトではこれまでに何度も報告してきた「外貨建国債」の要件を満たしますし、「外貨建ての国債」は、「国債デフォルトの3要件」のうちの③を満たしてしまう可能性があります。

国債デフォルトの3要件
  • (1)国内投資家が国債を買ってくれないこと
  • (2)海外投資家が国債を買ってくれないこと
  • (3)中央銀行が国債を買ってくれないこと

このうち(1)については、国内で資金が足りないような状況(たとえば好景気のため、民間で資金需要が非常に高いような状況)が生じているときに発生しがちであり、一部の新興市場諸国に加え、米国などでも常にこのような状況が発生しています。

次に(2)については、外国の投資家がその国の国債を買ってくれないという状況であり、大きく考えられる理由としては、①その国の通貨に信用がないこと、②その国の政府に信用がないこと、の2つが考えられます。

たとえば自国通貨建ての国債であったとしても、その国の通貨自体が国際的な市場で通用していないならば、外国人投資家がその国の通貨で国債に投資するのはかなりリスクが高い行為です(韓国ウォン自体がソフト・カレンシーであるため、韓国ウォン建て国債などその典型例でしょう)。

また、外貨建ての国債に関しては、その国の政府に対する信頼がなければ、外国人投資家はそもそも引き受けてくれません。9回も国債をデフォルトさせているアルゼンチン(『アルゼンチン9度目のデフォルトとTPPスワップ構想』等参照)など、その典型例でしょう。

さらに(3)については、国内投資家、海外投資家が国債を引き受けてくれない事態が生じたとしても、「最後の手段」として自国の中央銀行が引き受けてくれれば、国債の「デフォルト」自体は回避できるという議論ですが、そもそも外貨建国債の場合、中央銀行であっても買い支えることはできません。

ちなみに「外貨建国債のデフォルト」という事例は、今年に入ってからも頻発しています。最近だと3月には中東・レバノンで(『レバノンのデフォルトと「国債デフォルトの3条件」』等参照)、4月には産油国・エクアドルで、それぞれ国債のデフォルトが発生しているようです。

韓国メディア「韓国政府が外国為替平衡債の発行」

では、実際のところ、韓国政府(または韓国銀行)が発行している外貨建債券の残高は、いったいいくらなのでしょうか。

本日、韓国メディア・韓国経済新聞(韓経)の記事が日本語訳され、『中央日報』(日本語版)に掲載されていました。

韓経:韓国、外貨準備高4000億ドル超えるのに…外平債また発行

韓国政府が今年も大規模な外国為替平衡基金債券(外平債)発行を推進する。<<…続きを読む>>
―――2020.06.25 08:11付 中央日報日本語版より

韓経の記事について、日本語表現を整えたうえで要約すれば、次のとおりです。

  • 投資銀行業界関係者は23日、韓国政府・企画財政部が今年7月から9月にかけて、15億ドル規模の外平債の発行を計画していると明らかにした
  • 外平債の発行残高は約9.8兆ウォンだが、計画通りに15億ドルを調達すれば、発行残高は11.6兆ウォンとこの13年で最大に増える
  • 市場関係者は政府が頻繁に外平債を発行することで、海外の民間企業の起債環境を悪化させかねないとも指摘する

…。

発行残高は10兆ウォン弱で、15億ドルを調達しても11.6兆ウォンになるに過ぎない。こうした韓経の記事が事実ならば、正直、外平債の発行残高自体、大した金額ではありません。

なにせ、韓国は「4000億ドルを超える外貨準備」を保有していると胸を張っているわけですから、外平債の発行残高自体が外貨準備高の40分の1という規模である以上、まったく心配するに値しないものです。

また、15億ドルくらいであれば、海外の債券マーケットでは正直大した金額ではありませんし、その金額を韓国政府が調達したところで、外部格付が良好な韓国企業の海外での資金調達に何らかの影響が生じるとも言えません。

以上より、韓経の報道が事実なら、15億ドル程度の「外国為替平衡基金債券」自体、発行したとしても、韓国の財務安全性にまったく影響を与えるものではないと考えて良いでしょう。

むしろ、本日償還期限を迎える、韓国の民間金融機関が借り入れている79.2億ドルの米韓為替スワップの資金の方が、金額的には遥かに重要です(おそらく現在の市場環境等に照らし、償還にはまったく問題がないとは思いますが…)。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

もっとも、ここまでの事実関係を調べて来て、いろいろと疑問に思ったことが多々あります。

まず、上記でも少し触れたのですが、用語の定義が統計などによっててんでバラバラであり、「通貨安定証券」だの「外国為替平衡基金債券」だの、あるいは「外貨準備」だの「外国為替平衡基金」だの、さまざまな概念が混在していて、実態が見え辛くなっています。

また、そもそも韓国の外貨準備統計については矛盾も多く(『韓国の外貨準備、果たしてどこまで「誤魔化せる」のか』等参照)、本当に4000億ドルという金額は、すぐに危機に際して使い物になるのかどうか、よくわかりません。

なにより、今朝の『CMIMでなぜか「支援受ける気満々」=韓国メディア』でも紹介したとおり、どうも韓国メディアは100億ドル、200億ドルというレベルの通貨スワップには狂喜乱舞する傾向があります。

本当に4000億ドルの外貨準備を持っているのなら、そこまで狂喜乱舞する必要はないようにも思えてなりません。このあたり、やはり「モヤモヤ」が払拭できない点ではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (15)

    • 陰謀論者 様

      いつもコメントありがとうございます。
      ご指摘どおり、タイトルに大きな間違いがありましたので修正しております。

    • 変更しちゃったのですね。
      まあ、でも……あながち間違いとは言えないような気が……

  • 外国為替平衡基金債券ってドル建てですよね。将来のドル安も想定してヘッジしてるのでしょうか。政権担当者と異なり,韓国の金融担当者はかなり能力が高い,というのが今までの個人的感想です。

  • 外貨準備が4000億ドルあれば外平債はその40分の1でたいしたことはない。

    翻っていえば外貨準備4000億ドルのうち実効性のあるものが少ないため、外平債の発行残高が比較として大きい、ニュースとして価値がある、って話に思えます。

    外平債の目的からして、得たドルは安定運用していざというときに備える、真の意味での外貨準備として作用するのでしょう。

    韓国の信用力で発行した債券を米国債で運用したら間違いなく韓国にとっては逆ザヤになります。これは今までもずっとそうだったのでしょう。我慢しきれず高利回りの信用力の低い債券を買ってしまってる例はあるかも知れません。

    普通こういうのは満期が来たらロールオーバーするだけなところ、今回の話では残高が純増するみたいで、何らかの積み増ししなきゃいけない事情があるのでしょう。

    • > 高利回りの信用力の低い債券を買ってしまって
      割合は高くないかもしれませんが,ポートフォリオの一部としてジャンク債を組み入れている,という噂は昔からあります。3月からの経済変動で,それなりに傷ついているものもあると思います。どういう投資スキームかは知りませんが,いろいろ計算(数学的な意味で)した上のことだと思います。あまり回答になっていないかな。

  • 為替も気になるのですが、時事通信の記事よると、韓国が対日強硬派の兪氏をWTOの事務局長選に立候補させるそうです。明らかに、日本の輸出管理厳格化のWTO提訴を優位にするための措置でしょうけど、水産物輸入禁止是正の提訴では、油断して韓国に負けているので、今度はしっかり対処してもらいたいところです。

    【ソウル時事】 「韓国通商高官が立候補 WTO事務局長選、米動向カギ」

  • 外平債は政府発行の外貨建国債、通貨安定証券は中央銀行がIMFの介入回避目的で発行した「国債の代替債券」だと思っています。3分の1程度が外貨建てだった印象があります。

    かりに、通貨の保有高が国家主権の持分割合(株式会社における発行済み株式のようなもの)であるのならば、コーポレート・サウスコリアの支配地図の実態はどんな感じなのでしょうね。

    国債みたいに最大保有国が中国だったりするのでしょうか?(サスガニ、ソレハナイカ・・。

  • 韓国銀行、債券無制限買入れを1ヶ月延長
    https://biz.chosun.com/site/data/html_dir/2020/06/25/2020062503861.html
    (その直前の報道。買い入れが終わるか心配する一方、ドル流動性は問題ないという認識)
    https://cm.asiae.co.kr/article/2020062309012586692

    つまり最近の韓国報道を見ると、韓国国内では「ウォンは足りない」のに「ドルは十分」という、結構矛盾した状態になっているのかと思います。中国との決済ですらほとんどドルが使われているというのに。
     ひねくれた見方をして、「ドルを買うためのウォンが足りない」としたら債券を喜んで韓銀に差し出し、その金でドルをせっせと買うのではないでしょうか。
     ウォン建ての債券を韓銀に集め、債券を売った側は手にしたウォンをドルに変え、ドル高ウォン安になったらドルを売ってウォンに戻す。「民間委託型の為替介入」とでも言いますか。そのための外平債かと思います。
    せっかく民間がドルを持ってても、それを政府が回収出来なきゃ意味が無いですからね。(だからウォン建てじゃなくてドル建てなんだと思います)
     これのミソは、外貨準備高に手をつけることなく、手数料だけで最終的にドルを売ることができます。言い換えれば「外貨準備高が無くても為替介入できる」ということです。

    ウォン債券→韓銀が買い取りウォンを放出→債券売却者がウォンでドルを買う→政府がドル建て債(外平債)を発行→ドルを回収→為替介入→外平債償還はウォンで

  •  韓国が$不足に陥っているのを裏付ける記事です。重要な部分だけ翻訳します。

     https://www.mk.co.kr/news/economy/view/2020/06/627613/

     タイトル:コロナ発ドル品薄時…大企業の輸銀買い

     18日、関連業界によると、三星電子はコロナ19で市場が冷え込んだ3月末に議論を始め、今月初め、輸銀の外貨建て私募社債数億$を買収したという。私募社債は公開募集ではなく、投資家の個別接触を通じて証券を販売する債券をいう。

     実際、「コロナ19」の全世界の拡散への懸念が高まった3月中旬の資金市場は急速に悪化した。1.5~1.6%水準だったCP金利(91日物)は韓国銀行の基準金利引き下げ直後の3月17~18日に1.35~1.37%に下落したが、すぐに暴騰し同月26日には2.04%に跳ね上がった。2%台の金利は15年3月以来、約5年ぶりのことだ。この金利は4月2日、2.23%でピークに達した後、徐々に安定を取り戻し、現在は再び1.53%水準を示している。

     省略

     市場で優良債権といわれている輸銀も、このような状況では苦戦を強いられている。輸水は3月中旬ごろ、ユーロCPの発行を通じて外貨資金を調達しようとしたが、何度も壁にぶつかったという。$を確保するための輸銀の切迫さは外貨調達の実績にも表れている。今年に入って輸銀が調達した外貨は計89億900万$と集計されたが、このうち78%に達する69億3400万$が3~4月に集中した。

     また、サムソンにとっても良かったという部分があります。

     サムスン電子の立場からも、私募社債を通じた輸銀投資は「Win-Win」だったという解釈が出ている。 国策銀行である輸銀が発行した債券は、国の格付けと同様のAA等級で、安定性の面で選好度が高い。 金融界の関係者は「韓国の外平債や他の銀行債に比べて発行頻度が頻繁で取引が活発だ」とし、「企業の立場では低金利の時期に良い投資先になることができただろう」と分析した。

     ここまで

     *輸銀:韓国輸出入銀行

     サムソンも副会長を人質に取られているので苦しいです。この時期に韓国国策銀行の債権なんかを購入しても、なんら良い事には思えません。色々と誤魔化しているような内容に見えます。

     駄文にて失礼します。

    • サムスンにとっては数億ドル程度など大した金額じゃないので、仮にチャラにされたところでサムスンの経営が傾くことはないでしょうが、むしろ国策銀行たるものがたかだか数億ドルを調達するのにこんな手段を取らざるを得ないという事実の方が重大でしょう。私募債の条件が解らないので断定はできませんが、現政権の姿勢から考えてサムスンに対して好条件を提示するとは考えられません。おそらくは、限りなく利率ゼロに近い条件と想像されます。常識的な条件ならば、公募債とすれば良いだけなので。
      以上を総合して考えると、今回の私募債押し付けは、現政権によるサムスンいじめの一環、もしくは本当に輸出入銀行がドル調達に支障を来たしているかのいずれかと考えられます。どちらもありえそうな話ですね。