先月の『訪日外国人99.9%減は「人数ありき」を見直す好機』の続きです。17日に日本政府観光局(JNTO)が公表した訪日外国人数は1700人(※推計値)に留まり、前年同月比ではじつに99.94%という大幅な減少を記録した格好です。こうしたなか、現時点でインバウンド観光の正常化にはまだほど遠いと想定されるものの、コロナ禍はあらためてインバウンド観光を振興する目的と意義について再考する好機であると申し上げておきたいと思います。
今年5月の訪日外国人は1700人!
日本政府観光局(JNTO)は17日、『月別・年別統計データ(訪日外国人・出国日本人)』のページに今年5月までの訪日外国人の人数を公表しています。
これについてはすでに目にしたという方も多いと思いますが、2020年5月の訪日外国人総数は1700人(※推計値)で、2019年5月の2,773,091人と比べ、じつに99.94%という大幅な減少を記録しました。
ほぼ完全な「鎖国」状態だったとされる江戸時代と比べれば、それでも1700人という人が入国しているのは「多い」と見るべきなのかもしれませんが、「2020年4000万人目標」を目指して日本政府の鼻息が荒かった昨年5月と比べれば、惨憺たる状況といわざるを得ないでしょう。
ちなみに入国者がもっとも多かったのは米国(50人)で、2位はインドと中国が同数の30人で並び、4位はフランスと韓国が同数の20人で並んでいます(といっても、今回の公表値は「推計値」であるため、正確な人数は出てこないようです)。
これらの外国人の入国目的、入国資格(あるいはどこの国から入国したか)についてはよくわかりません。ここに挙げた米国、インド、中国、フランス、韓国からは、日本政府は現在、事実上の入国拒否措置を講じているからです。
また、日本政府が入国拒否を発動する直前の3月中に日本にやってきた外国人は、一部の国を除き、理論上は90日間、日本に滞在できるはずですが、これらの人々の滞在可能期間は6月中に到来しているはずです。
たとえば、米国人の青年が気ままな個人旅行を楽しむために、3月中に日本にフラリとやってきていたとしても、そろそろ日本から退去しなければなりません(※コロナ自粛期間でそのような観光をしていた人がいるかどうかは別として)。
いずれにせよ、外国人観光客という存在は、現在の日本からはほぼいなくなってしまっていると考えて間違いないでしょう。
数値目標見直しの好機に
この点、コロナ禍の影響で外国人観光客目標をゼロから立て直す必要が出てきた格好ですが、これこそ、当ウェブサイトが以前から何度も強調している、「外国人観光客数を数字目標として掲げることの弊害」を見直してほしい、という論点と関わって来ます。
具体的には、政府が数値目標を掲げると、それが相手国にとって政治的な「カード」として悪用しやすくなる、という点です。とくに、中韓両国からの入国者が全体の半数前後を占めてしまうという状況は、日本の中韓両国に対する政治的立場を弱める方向に働きかねません。
もっとも、誤解しないでいただきたいのは、そもそも論として「インバウンド観光産業を振興する」という点自体は、決して悪いことではない、という点です。というのも、①カネを落としてもらうことと、②日本に良いイメージを持ってもらえること、という「2つの効果」が得られるからです。
実際、1人あたり20万円を超える旅行支出を日本に落としていく中国人観光客が、日本の観光産業にとっては有難い存在であることは間違いないのですが、ただ、それと同時に特定国にあまりにも観光客の出身国が偏り過ぎるのは、安全保障上の観点から望ましくないのです。
では、数多くの国から日本に観光客として来てもらうということは可能なのでしょうか。
この点、日本は独自の伝統建築物や伝統文化、美しい自然などもさることながら、新幹線に代表される最先端の技術と大都会の高度な社会インフラ、美味しい食事、治安の良さなどの条件を兼ね備えているため、観光立国としてのポテンシャルは十分です。
すなわち、コロナ禍自体は不幸であったにせよ、、地域振興とセットにした良質な観光資源の掘り起こしと開発、外国人1人当たり旅行支出の最大化、特定国に偏ったインバウンド需要の見直しなどの好機が訪れている、という言い方もできるのです。
「台湾の皆さん、来てください!」
こうしたなか、金曜日にこんなリリースが発表されています。
【独自調査】インバウンド回復は「2月」予想最多、もっとも誘致したいのは「台湾」:19日”観光解禁”うけ「新型コロナと緊急事態宣言解除」意識調査を実施
政府は6月19日に都道府県をまたぐ移動の自粛を全国で解禁し、観光振興に取り組んでいく方向性を示しました。そこで、訪日ラボでは各社のインバウンド事業に対する影響度合いを探るため、読者・メールマガジンユーザーの皆様を対象に「新型コロナと緊急事態宣言解除に関する意識調査」を実施しました。<<…続きを読む>>
―――2020年6月19日付 『訪日ラボ』より
これは、『訪日ラボ』、『訪日コム』などのウェブサイトを運営する株式会社movが、『訪日ラボ』読者や『訪日コム』登録ユーザーを対象に意識調査を実施したところ、79.3%が「台湾」を選択した、などとする話題です。
同記事によると、調査自体はインターネットにより行われ、調査時期は2020年6月4日から10日、設問は最大12問、回答者数は92名だったそうですが、このなかで『優先的に戻ってきてほしい国・地域』(※複数回答)の1位が台湾だったのだそうです。
- 1位…台湾(79.3%)
- 2位…香港(58.7%)
- 3位…タイ(50.0%)
- 4位…豪州(46.7%)
- 5位…中国(45.7%)
また、「その国・地域を選んだ理由」については、「その国籍・地域の観光客の客足が多かったから」が60.9%で最多を占めており、次いで「客単価が高かった」が32.6%、「マナーが良かった」が25.0%だったのだそうです。
直感とは反する部分もあるが…
もっとも、個人的にこの調査結果を読んだ際、直感に反する部分があったことも事実です。
というのも、「その国・地域の観光客の客足が多かったから」を選んだ意見が60.9%を占めているわりには、2019年を通じた訪日客の1位であった中国が「戻ってきてほしい国」の5位に留まっていること、2位であった韓国に至っては「戻ってきてほしい国」の15位であるなどの点は、少し引っ掛かります。
また、客単価に関して言えば、観光庁が3月31日に発表した『訪日外国人消費動向調査2019年年間値(確報)』に掲載されている20ヵ国に関しては、1人あたり旅行支出は豪州がトップで、次いで英国、フランスなどが続くものの、中国は第5位に入っています。
- 1位…豪州(247,868円)
- 2位…英国(241,264円)
- 3位…フランス(237,420円)
- 4位…スペイン(221,331円)
- 5位…中国(212,810円)
- 14位…香港(155,951円)
- 16位…タイ(131,457円)
- 18位…台湾(118,288円)
- 20位…韓国(76,138円)
つまり、「戻ってきてほしい国」の1位から3位を占めた台湾、香港、タイの各国・地域は、1人あたり旅行支出でみれば、20ヵ国中、それぞれ18位、14位、16位であり、「カネ払いから戻ってきてほしい」という説明はどうも不自然です(20位の韓国は論外ですが…)。
近隣に友好国を増やす
以上、この調査にはどうも不自然な点もあるものの、ただ、ある会社が実施した調査で「戻ってきてほしい国・地域」の1位に台湾が輝いたということ自体は、注目に値する現象でもあります。
先ほども申しあげましたが、そもそも当ウェブサイトなりの理解に基づけば、日本がインバウンド観光産業を振興する意義は、「①外国人におカネを落としてもらうこと(産業振興)」だけでなく、「②近隣国を含め、全世界に日本のファンを増やすこと」にあるはずです。
今回のアンケート調査結果が日本のインバウンド産業のコンセンサスなのかどうかはよくわかりません。ただ、もしそうなのだとしたら、やはり観光産業の前線では、台湾、香港、タイ、豪州など、アジア・大洋州からの訪日客を歓迎するという空気が非常に強い、ということなのかもしれません。
現在、コロナ禍によりインバウンド観光がほぼ停止状態にあるなかで、「インバウンド観光産業の再始動」について議論するのは尚早だ、というお叱りがあることは承知していますが、それでもあえて「インバウンド観光産業を振興することの意義」を改めて認識することの重要性については指摘しておきたいと思います。
要するに、インバウンド観光産業の振興は、「全世界に日本ファンを作ること」にあり、間接的に日本の安全保障にも寄与するものであるはずです。
その意味でも、特定国に偏らない観光需要の掘り起こし、日本全国に埋もれている観光資源の開発などについては、今後の日本の重要なテーマのひとつであることは間違いないでしょう。
※余談です。あくまでも個人的感想ですが、台湾人観光客に「戻ってきてほしい」という気持ちはあるものの、もうひとつ、私たち日本人の間では「観光客として台湾を訪れる」というニーズもあるように思えてなりません。台湾に行きたいわーん!
View Comments (38)
戻って来て欲しくない国のランクもあれば分かりやすかったですね。
データがちょっと古いですけど、こんなところでしょうか。
https://news.goo.ne.jp/article/skorea/world/skorea-52608.html
半島で1位2位独占かと思いましたが、意外でした。
と言うほどでもないか。
くだらない、、
何がくだらないって?
台湾の故宮博物院と八田 與一の烏山頭ダムは見てみたいな~。
近隣の迷惑な国家とは比較にならない立派な国ですな、台湾は。
老害さま
故宮博物院には、行きました。
昔の中国、凄いなと思いました。
日本語喋れるガイドさんと、運転手付きで、ワゴン車一台、3万くらいでチャーター出来ました(話が古いかも)。
5人いれば間違いなく、ツアーより安いです。
台湾の人は、日本人と同じような、油断した顔で歩いていました。
漢字は、上海より読みやすいですよ。
良いところだと思います。
だんな さま
情報ありがとうございます。
いつも欧米中心でしたので、台湾はいつか行きたい国なのです。
中共がちょっかい出して邪魔しないことを願っております。
K防疫の国は、15位らしいコメントを見ました。
来日数2位でしたよね。
入国禁止の継続と、不法滞在の摘発を徹底して欲しいと思います。
安全保障のために、世界各国に日本ファンを作るのであれば、短期間の観光よりも、フルブライト奨学金制度のような長期の日本滞在経験を通じた「日本通」育成の方が効果が高いのでは?
奨学生審査を通じて、将来相手国の社会で有力な地位に就けそうだと期待できる若者を日本に招き、専門分野と共に日本の歴史や文化も学んでもらい(もちろん日本語も)、母国に帰ってからの日本との交流に期待する、とか。
30年ほど前に台湾を訪れたことがあるのですが、その当時台湾は日本語ブームでした。
現地の人の案内で、とある日本語の教室を覗かせてもらったんですが、源氏物語の文章がどうのこうのとかずいぶん高度なことを教えているのでびっくりした覚えがあります。
(おまけに、「生の日本人が来た」というので、助詞の使い分けについて質問を受け、こりゃネイティブじゃないと難しいわいなと思いながら説明に四苦八苦・・・)
今はどうなっているんですかね
今からでもやるべきでしょう。
小池百合子氏は逆の意味で彼の地の政権に弱みを握られたような気がします。
インバウンド、観光事業って虚業のように思ってしまいます。
物珍しい風景などあっても需要が一巡すれば忘れ去られる。
どんなに一世を風靡した名所でも120年もすれば熱海の「貫一お宮の松」
のように、「金色夜叉」という小説があったことから説明するようになる。
現在江ノ電の踏切が、スラムダンクの聖地だそうですが、100年後
表現としてアニメが残っていても「スラムダンク」の作品紹介から
始めることになるでしょう。
お隣の「冬のソナタ」の聖地は今はどうなっているのでしょう。
日本人のファンが屯して、周囲のホテルや土産物屋は儲かってまっか?
カジノ作って、ばくち打ちを世界から集めてその寺銭で生きる。
論語とソロバンを書いた渋沢栄一翁は何というのでしょうか?
いくらお金があると言っても限界はあるのですから。
もう虚業に必要以上の資本や人材の投入をしないのが
国家100年の計ではありませんか。
おいでになるお客さんを、大事にするのは当然ですが、それだけでは
いけないと思います。
研究技術生産で一番や唯一を目指さないと大国に押しつぶされるという
危機感があります。
昨日の朝、テレビでプラスティックによる注射器と注射針の一体成型
を視ました。
北関東の県立研究施設でしたが、あのような技術に資本や人材を投入
する方が将来性があるのではありませんか。
〇〇大学観光学部にはたくさん志願者がいるのに、
工業高校、高専、工業大学に志願者殺到とはいかない現状に危機感あります。
インバウンドはポストコロナでは、もう要らないかな。
個人的感想でした。
ポプラン様
「〇〇大学観光学部にはたくさん志願者がいるのに、
工業高校、高専、工業大学に志願者殺到とはいかない」
観光学部の希望者と理工学志望者は重なり合わないでしょう。
理工学志望者は報われるか否かは別にして、その方に進むしかないのかも。
それが当人にとってよいのではないでしょうか。
その道が報われるようになりますように。
こんにちは、久しぶりにコメントします。以前から思っていることは、特に東洋人は見分けが付きにくいので
例えば日本人は海外に行く際に見分けが付きやすいマーキングがバッグ等に張り付けなれたらなと
co.jpとか、逆に入国する外国人にも同様の国別の識別が目で、すぐに判るようにできないものでしょうか?
機内持ち込みの荷物とか、国旗のステッカーでもよいです。
ていうか、区別して何するん、、
悪い事をする時は日本人になりすます国の人達がいますから反対です
Yossy様
一言、失礼します。
【日本人は海外に行く際に見分けが付くマーキングがバッグ等に張り付けなれたらな】あの、イメージ的にかなりオールドファッションというか、ジャ○パッ○の農協団体ツアーを彷彿とさせるのですが(笑)。
そんなマーク、例えばJAPANとか日の丸とか旭日旗を付けて区別する理由は何ですか?ジャパンだ!カモだ!と思われるか、反日人に嫌がらせされるだけじゃないですか。また、反日民族が、ワザと日の丸付けて良からぬ事されたら困りますよね?
訪日する外国人にも【識別できるマークを付ける】って、プライバシーやら基本的人権や民主主義違反だ!とか言われますよ。貴方の言うマークは、ナチスがユダヤ人に付けた識別印を思い出しますが。およそ、近代国家ではあり得ないです。
陸上イージス配備プロセス停止からの国家安全保障戦略の改訂があるので、親中派の妨害に耐え切ればインバウンド戦略の見直しも入ってくるかもですね。というか、コロナ禍からのBLMデモとか、、世界の環境は激変していますので、策源地攻撃能力という文言の追加とかだけではダメなのは明白。今のインバウンド戦略は目先の小銭につられて明らかに国益を害している面も多いので、是非とも国益にかなうインバウンド戦略へと変化していって欲しいものです。
参考
↓↓
Thailand aims to turn away from mass tourism and target the wealthy
タイは大衆観光から富裕層をターゲットにすることを目指す
https://www.straitstimes.com/asia/se-asia/coronavirus-thailand-aims-to-turn-away-from-mass-tourism-and-target-the-wealthy?utm_term=Autofeed&utm_campaign=sttw&utm_medium=social&utm_source=Twitter#Echobox=1592541710
"This is an opportunity to reset the entire tourism system."
これ(コロナ禍)は全体の観光事業システムをリセットする機会だ
国内観光需要は22兆円規模で、海外からのインバウンドは、中韓合わせても3兆円程度。
量より質を求める方向に転換すべきでしょうね。
> そもそも論として「インバウンド観光産業を振興する」という点自体は、決して悪いことではない、という点です。
とは言い切れません。
京都の様に外国人観光客が多過ぎた為に、日本人観光客が大幅に減ってしまった場所もあります。
星野リゾート代表の分析によれは、国内観光市場の約8割は日本人による消費なのですから。
従って、「オーバーツーリズムに陥らない範囲で、インバウンド観光産業を振興する」のがベースラインでしょう。
京都、奈良に、15年くらい前から行っていました。
3年くらい前に、行くのをやめました。
落ち着いたらどうしようか???
更新ありがとうございます。
実は2年前に妻と台湾旅行しました。とっても楽しかったです。見るモノ、食事、お土産、そして親切な台湾の方々。言う事無し!また近いうちに行きたいですね。
台湾ビールも旨いし(笑)。日本円は使えるし(笑)。コンビニで台湾の圓札(ニュー台湾ドル)を使ったら、日銀券千円札2枚がお釣りでした(爆笑)。ココ何処?(笑)あと豪州もヨカです。また行きたい。
日本人が思う「優先的に戻ってきてほしい国・地域」の1位が台湾。そらそうでしょう。2位以下香港、タイ、豪州も納得!一人当たりの落とすカネだけじゃない。しかし5位に中国?え?
確かに金は使うが、マナー悪い。何処でも喚き散らし、食べカスを捨てる。500万人も600万人も来て要らんヨ。それと、台湾人と揉め事を起こさないでくれ。地方空港は中国・韓国便は止めるべし。
基本、中・韓便は成田、羽田、関空をメーンに札幌、仙台、新潟、中部、広島、福岡、長崎、鹿児島、那覇で良いでしょう。
あとの小空港で中・韓との便しか無い空港には、国際便は不要です。第一、いつ中韓が解除になるか分からんしね。
来て欲しい国の15位が韓国。分かるな〜。本当はワーストなんでしょ?(笑)幾ら750万人来ても、反日で悪さをしに来る奴が潜んでます。日本で落とすカネも7万6千円、国内旅行ですか?
あと数年は中国、韓国との観光客渡航は止めて欲しいものです。以上。