数日前から、北朝鮮が韓国に対し、「すべての南北通信線の遮断」などを警告しており、早ければ本日正午以降、それを実行に移すのだそうです。南北朝鮮の瀬戸際外交を見慣れた私たち日本人の立場からすれば、「やりたければどうぞ」としか言い様がない話題ですが、こうした瀬戸際外交には韓国の側が困っているようです。北朝鮮の要求を呑めば自由民主主義国の体裁をかなぐり捨てることになりますし、自由民主主義国の体裁を大事にするなら北朝鮮に怒られてしまいますね。南北揃って、わぁ、大変。

しょせんは同じ民族の国

「なんだか、やっていることがそっくりだなぁ」…。

おもわず、そう思ってしまう記事を発見してしまいました。

北朝鮮「金与正氏、すべての南北通信連絡線の完全遮断を指示」

脱北民の北朝鮮向けビラ散布に反発し、南北関係断絶の最初の順序として南北共同連絡事務所の閉鎖を<<…続きを読む>>
―――2020.06.09 07:01付　中央日報日本語版より

すでにいくつかのメディアが報じているとおり、北朝鮮当局は韓国で脱北者などが北朝鮮に向け、ビラを散布していることに反発しており、それをやめさせない限りは南北の連絡をすべて断絶すると示唆しているそうです。

中央日報によると、金与正（きん・よしょう）らの指示に基づき、９日正午から北朝鮮が南北間のすべての通信連絡線を完全に遮断、破棄すると述べたのだとか。中央日報の報道の孫引きですが、北朝鮮の『朝鮮中央通信』は９日、次のように報じたそうです（※日本語表現は整えています）。

「金与正（キム・ヨジョン）党第１副部長と金英哲（キム・ヨンチョル）党中央委副委員長は８日、対南事業部署の事業総和会議で、対南事業を徹底的に対敵事業に転換しなければならない点を強調しながら、裏切り者とくずどもが犯した量刑を正確に計算するための段階別対敵事業計画を審議し、まず先に南北間のすべての通信連絡線を完全遮断してしまうことに対する指示を与えた」。

いったいどうやれば、国営メディアに「裏切り者」、「くずども」といった罵倒語を平気で掲載することができるのかわかりませんが、いずれにせよ毎度ながら、北朝鮮メディアの報道はじつに勇ましいと感じてしまいますし、私たち日本人には理解の範囲を越えていることは間違いありません。

ただ、言葉は勇ましいのですが、実際に北朝鮮が韓国に対し、ビラ散布をやめさせるために、軍事攻撃に踏み切ることができるかといえば、そんなことはありません。

実際に打ち出してきた措置が「通信回線の遮断」という措置であるのは、その証拠でしょう。それをやることで、具体的に何が困るのかよくわかりませんし、傍観者でもある私たち日本人にとっては、「やりたきゃどうぞご自由に」としか言い様がありません。

このあたり、日本企業の資産を「売却するぞ、売却するぞ、今度こそ本当に売却するぞ～！」と脅してみたり、輸出管理上の優遇措置を回復させるために日本をＷＴＯに「提訴するぞ、提訴するぞ、今度こそ本当に提訴するぞ～！」と脅してみたりしている国と、行動がまるっきりそっくりですね。

よっぽど困っている証拠

ただし、北朝鮮がここまでの措置を講じて来るというのは、そもそものビラ散布に北朝鮮当局がかなり困っているという証拠ではないでしょうか。では、その「ビラ散布活動」とは、いったいどういうものなのか、韓国メディアの報道などを参考に、概要を確認しておきましょう。

北朝鮮が体制非難のビラ散布を問題視　頭痛める韓国政府

韓国国内の北朝鮮脱出住民（脱北者）支援団体による北朝鮮に向けた体制非難のビラ散布が、停滞が続く南北関係に再び重大な影響を及ぼそうとしている。<<…続きを読む>>
―――2020.06.04 11:45付　聯合ニュース日本語版より

「風向き合えば１００万枚飛ばす」…ビラ散布に強行意思明らかにした脱北民団体

北朝鮮が問題にした韓国の脱北民団体のビラ散布に関連し、統一部が中断を強制するための法律を検討していると明らかにしている中で、団体側はビラ散布を強行すると明らか<<…続きを読む>>
―――2020.06.04 15:54付　中央日報日本語版より

『聯合ニュース』（日本語版）の記事によると、ビラを散布しているのは脱北者で作る韓国の団体「自由北韓運動連合」で、北朝鮮の独裁者である金正恩（きん・しょうおん）を非難するビラなどを大型風船にくくりつけて北朝鮮に向けて飛ばすなどの活動を行っているようです。

また、『中央日報』（日本語版）の記事によると、この団体はビラのほか、１ドル紙幣やＳＤカードなどとともに北朝鮮に向けて飛ばしているようです。たとえば、

５月31日午前１時ごろ、京畿道金浦市から「新たな戦略核兵器を発射するという金正恩」と書かれたビラ50万枚と小冊子50冊、１ドル紙幣2000枚、ＳＤカード1000個などを大型風船⑳個にぶら下げて北朝鮮に飛ばした

といった具合で、朝鮮戦争開戦70周年を迎える６月25日までに、追加でビラ100万枚、１ドル紙幣3000枚、ＳＤカードなどとともに風船20～30個にぶら下げて北朝鮮に飛ばす予定なのだそうです。

なかなか興味深い活動ですね。

たしかに、北朝鮮で宝物のような米ドル紙幣が含まれているとあらば、北朝鮮の人々はこぞってその風船を拾うでしょうし、その過程で金正恩に対する非難声明を見るはずです。

個人的には、技術的なことはよくわからないのですが、北朝鮮の人々が「大好物」であるとされるチョコパイを金正恩の非難ビラに包んで100万個の風船で飛ばした方が費用対効果が高いのかもしれないな、という気がしています。

韓国がビラを規制するのかどうか

もっとも、あくまでも当ウェブサイトなりの理解で恐縮ですが、現在の韓国を支配している文在寅（ぶん・ざいいん）政権の究極的な目標は、おそらく、「大韓民国」という国自体を北朝鮮に献上することにあるのだと思います。

そうなれば、大好きな北朝鮮様に怒られると文在寅政権としても困りますので、警察力などを使ってビラを飛ばす活動を妨害する、といった行動に出るのかもしれません。

この点、先ほど紹介した聯合ニュースによれば、金与正が４日の談話で、韓国当局に対して何らかの措置を講じるように迫ったとしているそうであり、冒頭で確認した中央日報の「連絡手段遮断」という記事は、この４日の談話を受けた北朝鮮なりの「対抗手段」のつもりなのでしょう。

聯合ニュースなどは

「近ごろ存在感を増している与正氏が厳しい警告に乗り出したことで、停滞する南北関係へのさらなる悪材料を懸念する声が上がる／特に共同連絡事務所と軍事合意は文在寅（ムン・ジェイン）政権が誇る南北関係の最大の成果だけに、政府の今後の対応が注目される」

などとしているのですが、常識的に考えたら、「やりたきゃどうぞご自由に」、という反応しか出ないような気がしてなりません。

しょせんは南北揃って瀬戸際外交に慣れ親しんだ国ですから、やっていることのレベルが同じなのでしょうね。もし安倍政権が同じ立場に立っていたとすれば、無視してお終いだと思いますが…。

表現の自由の制限か、それとも…

ただ、北朝鮮のわけのわからない反応よりも、むしろ大事なのは、韓国政府が今後、どういう行動をとるのか、という点です。というのも、韓国政府は北朝鮮との関係を取るか、西側諸国の価値観を大切にするか、その試験を受けているようなものだからです。

文在寅政権が形の上では「自由・民主主義国」の側に残るためには、北朝鮮の要求を呑むわけにはいきません。いちおう、韓国政府は関連団体にビラ散布の自粛を呼びかけているようですが、表現の自由が存在するため、規制するにも限界があります。

一方、北朝鮮との関係改善を大切にしている文在寅政権が北朝鮮側の要求を呑むならば、脱北者団体の活動を制限しなければなりませんし、そうなれば、「自由・民主主義国である」という体裁をかなぐり捨てることになりかねません。

しかも、文在寅氏の出身母体である「ともに民主党」は衛星政党などとあわせて３分の２近い多数を保持していますし、その気になれば対立政党の国会議員を不正選挙で摘発したり、寝返らせたりするなどして、３分の２を超える多数を形成することも視野に入って来るでしょう。

つまり、やろうと思えばできるのです。

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もっとも、個人的な感想を申し上げれば、国際法に違反した自称元徴用工判決を出すような韓国は、すでに法治主義国ではありませんし、そんな国があらためて「自由・民主主義国ではありません」と宣言したとしても、いまさら「約束破りのデタラメ国家」という韓国の評判が変わるとも思えません。

また、北朝鮮としても、通信回線を遮断して困るのは自分たちの側でしょうし、これを本気で「瀬戸際外交」のつもりでやっているならば、正直、金与正の瀬戸際外交力は「まだまだ」です（ついでにいえば、瀬戸際外交のあまり「セルフ経済制裁」をしてしまうというあたりも、南北そっくりですね）。

そういえば、以前の『慰安婦団体と徴用工団体などの内紛が発生している模様』などでも報告したとおり、放っておけば内部で勝手に喧嘩を始めるのは、民族の性（さが）のようなものなのかもしれません。今回の騒動も、インチキ外交が好きな国同士の争い、という程度で見ておくくらいがちょうど良いと思うのです。