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韓国人観光客が減って旅行収支が過去最大

先日の『「ノージャパンで300億円の打撃」これって多いの?』では、韓国メディア『中央日報』(日本語版)が報じた、「韓国のノージャパン運動で日本を訪れる韓国人観光客が急減し、日本経済に300億円もの打撃を与えている」という話題を紹介しましたが、皮肉なことに、現実には今年8月の「旅行収支」が8月としては過去最大の1376億円を記録したことが判明しました。というよりも、そもそも他の国と比べて「客単価」が低い韓国人観光客が減少しても、円高による旅行収支改善効果が上回ってしまうのではないでしょうか。

今年8月の旅行収支は同月比過去最大に!

日韓関係の悪化を受けて、日本にはおよそ300億円もの経済的打撃が生じている!

――。

こんな話題を、『「ノージャパンで300億円の打撃」これって多いの?』のなかで紹介しました。

これは、韓国メディア『中央日報』(日本語版)に10月7日付で掲載された『「No Japan」旅行絶壁2カ月…日本の被害額、韓国の9倍』という記事の妥当性について考察したもので、結論的にいえば「外国人観光客の消費額全体に占める割合は少ない」というものでした。

こうしたなか、もうひとつ、韓国の「ノージャパン」運動が日本にどのような影響を与えているのかを考える上で興味深いデータが出て来ました。財務省が公表する『国際収支時系列データ』の最新版によると、2019年8月の旅行収支が、8月としては過去最大の1376億円を記録したのです。

わが国の8月の旅行収支
  • 2014年…▲913億円
  • 2015年…▲482億円
  • 2016年…751億円
  • 2017年…752億円
  • 2018年…1,175億円
  • 2019年…1,376億円

また、直近6年分について毎月の動きをグラフ化したものについても紹介しておきましょう(図表1)。

図表1 旅行収支の推移

(【出所】財務省『国際収支時系列データ』より著者作成)

これをいったいどう考えるべきでしょうか?

なぜ訪日外国人が減ったのに旅行収支が改善?

シンプルに考えると、何やら違和感があります。

というのも、『訪日外国人4000万人目標の罠 中韓依存の危険性』でも触れたとおり、韓国からの入国者数が半減した影響か、2019年8月に日本を訪れた外国人は前年同月比約2%の減少だったからです(※それでも人数は252万人に達していますが…)。

訪日外国人の総数と内訳を再掲しておきましょう(図表2)。

図表2 訪日外国人(2019年8月、速報値)
区分 人数と前年同月比 構成比
総数 2,520,100(-2.25%) 100.00%
うち、中国 1,000,600(16.33%) 39.70%
うち、韓国 308,700(-48.03%) 12.25%
うち、台湾 420,300(6.53%) 16.68%
うち、香港 190,300(-3.95%) 7.55%
うち、米国 117,800(14.27%) 4.67%
うち、タイ 49,600(4.41%) 1.97%

(【出所】日本政府観光局データより著者作成)

訪日外国人が前年同月比2%減った要因として考えられるのは、韓国からの入国者が半減したことでしょう。もし韓国人入国者が前年同月並みだったとしたら、訪日外国人は前年同月比で見てプラスになっていたはずです。

これ自体、「2020年までに4000万人の訪日客」を目標にしている日本政府にとっては打撃ですが、ただ、それと同時に客単価で見れば、韓国人観光客は必ずしも多くのカネを日本に落としているわけではない、という統計もあります。

観光庁『2019年4-6月期の全国調査結果(1次速報)の概要』(P3)によると、外国人が日本で使うカネの平均値は156,670円だそうですが、韓国人に限れば平均値は69,013円と半分以下です(ちなみに客単価トップはフランスの242,491円)。

このように考えてみれば、単価の低い韓国人旅行客が減ったとして、それが旅行収支にどの程度の悪影響をもたらすのかについては、数字に基づく冷静な議論が必要であることはいうまでもありません。

旅行収支改善の主要因は円高

ただし、旅行収支が改善した主な原因は、円高にあると考えられます。

そもそも「旅行収支」とは、経常収支の内訳項目のひとつで、日本を訪れた外国人旅行者の宿泊費、飲食費などから海外旅行した日本人の宿泊費、飲食費を引いたものです。このため、基本的には

  • 日本人が外国で使うカネが増加すれば旅行収支は悪化する
  • 日本人が外国で使うカネが減少すれば旅行収支は好転する
  • 外国人が日本で使うカネが増加すれば旅行収支は好転する
  • 外国人が日本で使うカネが減少すれば旅行収支は悪化する

という特徴があります。

今年8月の旅行収支のプラス幅がさらに大きくなった理由が、訪日外国人がより多くのカネを日本に落としてくれるようになったからなのか、それとも日本人海外旅行客が外国で使うカネを減らしたからなのかについては、旅行収支だけでは判断できません。

そこで、WSJのマーケットデータをもとに、2019年8月末日時点の為替相場(ドル・円とユーロ・円)を引っ張ってみると、次のとおり、どちらも円高に大きく振れていることがわかります。

2019年8月末日の為替相場
  • USDJPY…106.28(4.32%の円高・ドル安)
  • EURJPY…116.80(9.37%の円高・ユーロ安)

当たり前ですが、日本人が外国で使うのは、日本円ではなく外貨です。そして、旅行収支はその円換算した金額が計上されますので、日本人が外国で使う外貨の額がまったく同じだったとしても、円高になれば円換算した金額が減るのは当然のことです。

また、日本人の外国人旅行者数が減れば、日本人が外国で使うカネも減るはずですが、日本政府観光局(JNTO)の報道発表資料『2019年 訪日外客数・出国日本人数』(※PDFファイル)によれば、出国日本人数は約211万人と、むしろ前年比3.7%も伸びていることがわかります。

8月の出国日本人数
  • 2018年8月…2,033,435人
  • 2019年8月…2,109,600人(※速報値)

以上から、今回の旅行収支改善も、円高の影響で日本人海外旅行者の支出額の円換算額が減少した、という要因が最も大きいのではないかと思います。

「客単価」と訪日外国人

さて、経営者の感覚として最も重視しなければならない点があるとすれば、「客単価」でしょう。

先ほども「1人あたり支出額」という考え方を示しましたが、これを加工してみると、興味深いことがわかります(図表3)。

図表3 客単価で見る外国人(2018年データ)
客単価(円) 人数の構成比 金額の構成比
中国 227,221 26.87% 42.14%
韓国 69,013 24.17% 11.51%
台湾 122,831 15.25% 12.93%
香港 154,910 7.08% 7.57%
米国 189,438 4.89% 6.40%
タイ 137,857 3.63% 3.45%
英国 235,327 1.07% 1.74%
フランス 242,491 0.98% 1.64%
豪州 231,674 1.77% 2.83%

(【出所】日本政府観光局データ、観光庁『2018年(平成30年)の訪日外国人旅行消費額』等を参考に著者作成)

たとえば、2018年を通じて日本に入国した外国人は3119万人でしたが、そのうち26.87%が中国人、24.17%が韓国人でした。つまり、入国者数に占める割合としては、中国人も韓国人もだいたい同じくらいだったのです。

しかし、2018年を通じて外国人全体が日本で使ったおカネは4兆5189億円でしたが、そのうち42.14%が中国人、11.51%が韓国人であり、中国人はじつに韓国人の4倍弱もの金額を使った計算です。

また、2018年を通じて日本に入国した台湾人は韓国人よりも少なかったにも関わらず、日本で使ったカネの総額でみれば、韓国人よりも台湾人の方が多かった、というのも驚きです。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

以上より、そもそも論としてわが国を訪れる外国人に占める韓国人の比率は高いものの、客単価が低いため、旅行者数が減少しても、旅行収支に与える影響はさほど大きくないという先日の仮説が、データからもある程度は裏付けられていると見て良いでしょう。

もちろん、報道等によれば、九州など一部地域で韓国人観光客の急減による観光産業への打撃が生じているそうですが、それらの韓国人観光客を取り戻すために、日本が韓国に対して発動した輸出管理の適正化措置を撤回せよ、というのは明らかにナンセンスでしょう。

新宿会計士:

View Comments (16)

  • 久々の書き込みになります。
    誤字なのでしょうか?

    円高になれば円換算した金額が減るのありがとうございます当然のことです。

    なんか自分、こんな書き込みしかしてないような……

    • 田舎者さん

      コメント前に念の為リロードしたら、既にコメントされてました。

      「こんな書き込み」などと卑下することないですよ。

      新宿会計士さんには記事をバリバリ書いていただいて、些細な変換ミスは読者が指摘するって、良い役割分担だと思います。

      • 返信ありがとうございます。

        なるほど、こういった役割も必要なもの……と

        また気がついたらいろいろ書き込みます。

    • 田舎者 様

      いつもコメントありがとうございます。
      また、誤植のご指摘、大変ありがとうございました。

      「あ」と入力すると「ありがとうございます」、「ありがとうございました」と出るように設定しているので、ときどきこういうポカミスをします(笑)

      引き続き当ウェブサイトのご愛読並びにお気軽なコメントを賜りますよう、何卒よろしくお願い申し上げます。

  • 失われた20年とか30年とか言いますが、それでも日本の底力の強さには日本人ながら驚きます。
    日本の経済が調子いいというわけではありませんが、それでも韓国が自国経済に影響ない範囲で不買運動しても日本にほとんど傷をつけることはできないですね。

  • 観光客の中心が韓国人だった地域には何とか乗り切ってもらい、インバウンド対策の転換を図ってもらうしかないと思います。

    かく言う当地でも、韓国からのコルフ客が大幅減となり業界がダメージを受けていることを地元紙が報じたばかりです。

    誘客が特定の国に偏るとリスクが高くなるという典型です。
    もっとも、個人的には飲食店等でのマナーが悪く、中国などからの客の方がよほど良いと思っていただけに、内心ほっとしている面もありますが・・。

    日本には、主要観光地だけではなく、魅力的な観光・文化資源が全国各地にたくさんあると思います。
    観光立国も目指すのなら、様々な媒体を使って上手にそれを伝え、ありのままの姿を見て体験してもらえたらよいと思います。

    誰からか聞いた話で定かではありませんが、中国人のリピーターが結構多いとか???

    • > 観光客の中心が韓国人だった地域には何とか乗り切ってもらい、

      韓国人観光客Onlyでいやっていたのは、殆ど、韓国資本・在日またはその関係者経営の所ばかりですから、乗り切って頂く必要ないです。むしろ、乗り切って頂かない方が国益に叶うカモ。

      > 韓国からのコルフ客が大幅減となり業界がダメージを受けている

      そのゴルフ場、韓国資本じゃないですか?

      > 誘客が特定の国に偏るとリスクが高くなるという典型です。

      リスクマネージメントができない無能経営者には御退場頂くのが市場原理です。

      > 中国人のリピーターが結構多いとか???

      大阪の南で顕著に見られますが、中国の航空会社で関空から入国した中国人の団体が、中国資本の大型観光バスで運ばれて来て、中国人留学生の俄ガイドに案内されて、中国資本に買収された店(電気店、ドラッグストア、飲食店等々)に押し込まれ、中国資本に買収されたホテルに連れて行かれる。日本資本抜きの日本観光が主流です。

      詳細不承知だが、価格も人民元表示、中国の電子決済が使え、現金も人民元、なのカモ知れない。
      (日本で使われている大手カード会社は4%位手数料を取るので、嫌われている。)

      • それぞれご指摘等いだきありがとうございます。

        一番目、四番目については詳しくありませんので、なるほどそうなのだと。
        二番目については、ゴルフ場の多い当地(平成初期にリゾート構想などに乗っかっていくつも造られました)では2箇所が韓国資本、あとはすべて国内資本だったと思います。
        三番目については、ごもっともではありますが、私どもの県は、国内でも交通アクセス等諸条件が悪い上に経営感覚の優れた人材も少なく、よって地域経済もなかなか発展しない状況が続いています。経営者が退場したとして、それなりの人材・資本が参入してくれればよいのですが。
        典型的な過疎地域であること等足下を見られ、それこそ中韓の資本が入り込んでくるのではないかと心配もしているところです。

        以上です。またいろいろ教えてくださいませ。

        • 一国民様。

          どちらの地域かは存じませんが、日本人観光客が増えると良いですね。
          日本人が、地方に旅行するより海外に行く方が安上がりというのもあるし、歯がゆいですね。

        • ブリジット 様

          コメントありがとうございます。
          これまで仕事にかまけてカミさん孝行してませんでした。
          曰く、この歳になって、もはや海外には行きたくない、ゆっくり国内旅行がしたいと。
          で、来年4月にはやや長めの休みをとって、罪滅ぼしの国内旅行(東北から北海道)をする予定です(^^;)

  • 円高は、あまり考えてませんでしたね。
    韓国観光客の減少理由に、ウォン安は考えていたんですけど。中国は、人民元安関係無いんですね。持ってる人は、腐るほど持っていると。
    韓国人観光客の減少は、外国人観光客の構造調整で、観光産業の成長に影響は、見られないといった所でしょう。
    韓国人は、日本が困ってるはずニダと思っているのでしょうが、そんな思い込みの激しい韓国人が、困り者なんですよね。

  • 更新ありがとうございます。

    2013〜2019年の日本の旅行収支(図表1)を見てますと、年々折れ線グラフが前年を上回り、完全に毎月黒字が増えていってるのが分かりますね。だいたい月に1500〜2500億円の黒字!まあ、今は円高だから余計にでしょう。

    4,000万人と言い出す前も、今まで大した「観光立国」的なキャンペーンもせずにそこそこ人気はあったんですね〜。知らなかった(笑)。

    中国と韓国で訪日客の50%以上でもケチの韓国が6万9千円で客数減が続くなら、台湾人に来て貰えればOK!タイ、マレーシア、インドネシアも。人数で前年比半数減の韓国は、もっと減って下さい。香港もほぼ横ばい(内戦?気になるが)あとの得意先国はすべて昨対比プラス。

    人数ではなく、中味(落とす金、犯罪者の流入阻止、不逞人の入国削減)で良化される事を望みます。

    • めがねのおやじさま
      政府もやることはやってまして、結構歴史は古いんです。観光庁のHPです。
      観光立国推進基本法: http://www.mlit.go.jp/kankocho/kankorikkoku/index.html
      実際には、「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」が、日本再興戦略に取り上げられて、増え方が右肩上がりになりました。当時は2020年2000万人の目標でしたが、2016年に達成したはずです。4000万人は、後から言い出したんです。
      「観光立国実現に向けたアクション・プログラム2014」http://www.mlit.go.jp/kankocho/topics02_000075.html

      • だんな様

        なるほど2014年からですか。確かずっと3ケタ万人が続いていたような記憶があります。しかし「観光」で喰っていく土地は、それなりに大変だと思います。

        人気スポットも永遠に続かない、またもう一度行きたいと思わせる仕掛け作り、それと韓国や台湾、中国、香港など近場の外国の方が国内より安い、というイメージがあります(シーズンによるが)。

        私も近くに有名温泉街がありますが、宿泊では行きません。高いからです(笑)。普通に4万円以上します。でも2020年の4,000万人は届かせるんじゃないですか。例えギリギリでも(笑)。

  • 実際に訪日した韓国人が「日本は聞いていたよりずっと良い国だった」などとコメントすることがありますが、彼らは恥ずべき親日派です。人権とパスポートを剥奪し国内に閉じ込めておくべきです。あるいは反韓は一部の安倍界隈の極右のみで、ほとんどの日本人は親韓だという風評もあります。そんなことはありません。敵意を向けてくるのは嫌韓日本人です。敵意を向けてこないのは訓練された嫌韓日本人です。

    なぜこんなことを言うかといえば…

    皆さんはもし日本が内戦になったらどうしますか。自分は日本に残るとしても、家族をどこへ逃がしますか。私なら長期滞在したり勤務経験のある外国を選びます。土地勘があるほうが不安感もマシです。

    ですから、韓国人には観光でも訪日して欲しくないのです。たとえ現実とは逆に彼らが大金を落とす上客だったとしても、朝鮮半島動乱時の避難先としての手がかりを与えたくありません。そのまま居ついて帰国しないという歴々たる実績がある問題民族に、国土を踏ませるのは嫌です。

    内戦が起こらず、南北朝鮮人が理性に目覚めて平和裡に共存することもありえるかもしれませんが、我々は最悪に備えるべきでしょう。

  •  韓国には明洞という観光地(?)があり、小生が来た頃は看板が日本語だらけで、呼び込みもほぼ日本語でした。数年たつと全てが中国語に変わりました。最近ではまた日本語が復活しつつあります。

     この間、色んなものが淘汰され、新たに色んなものが派生しました。その結果、明洞は今でも観光スポットになっております(ただ、小生は明洞が何故観光地なのかイマイチ理解できません)。

     韓国人が減少して一部地域の方々はご苦労なさっていると思います。しかし、もっと長い目で見て頂き、新たな観光地としての特色を作り上げていって欲しいと思います。

     駄文にて失礼します。