X

トランプ大統領がボルトン氏を解任 北朝鮮問題は?

日本時間の昨日夜、ドナルド・J・トランプ米大統領は自身のツイッターで、ジョン・ボルトン大統領特別補佐官を解任したと唐突に発表しました。背景にはアフガニスタンやイラン、ロシアや北朝鮮などに対する外交問題で、対外タカ派のボルトン氏がトランプ氏と対決したことにあったとしていますが、今回の解任にともない、私たち日本国民として懸念すべきは、なんといっても北朝鮮情勢でしょう。本日は内閣改造が予定されていますが、わが国としては片時も気を抜くことができない展開が続きそうです。

ボルトン氏の更迭

日本時間の昨日深夜、ドナルド・J・トランプ米大統領は、驚くべき決定を下しました。

ジョン・ボルトン大統領特別補佐官を、唐突に解任したのです。

I informed John Bolton last night that his services are no longer needed at the White House. I disagreed strongly with many of his suggestions, as did others in the Administration, and therefore .I asked John for his resignation, which was given to me this morning. I thank John very much for his service. I will be naming a new National Security Advisor next week.

(日本時間2019/09/11 0:58付 ツイッターより)

非常に短いコメントです。

トランプ氏の英文はとても簡単なのですが、いちおう逐語訳を示しておきますと、

私は昨夜、ジョン・ボルトンに対し、もうホワイトハウスには不要だと伝達した。私は彼のアドバイスの多くに強く反対しており、政権内外にもそのように考える人が多い。私はジョンに辞任を求めたところ、今朝、辞表を受け取った。ジョンが職務で尽力してくれたことを感謝したい。国家安全保障アドバイザーは来週指名するつもりだ。

というものですが、いったいどういう事情があるのでしょうか。

これについてはさっそく、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が記事にしています。

John Bolton Ousted by Trump as National Security Adviser(米国夏時間2019/09/10(火) 19:36付=日本時間2019/09/11(水) 08:36付 WSJより)

WSJによると、ボルトン氏がもともとトランプ大統領と意見の不一致が多かったものの、アフガニスタンでテロ活動を行っているタリバンとの和平協議を行おうとしていたものの、交渉が不調に終わったことが決定打となったとしています。

WSJはまた、ボルトン氏が「対外タカ派」としても知られていて、トランプ氏が外国の紛争から距離を置こうとしている方針と対立。これに加えて北朝鮮やイラン、ロシアなどを巡る政策においても、両者が対決していたと指摘しています

ボルトン氏はキャンプ・デービッドでタリバン指導者とアフガニスタン大統領の秘密会談を実施することを仲介していたものの、WSJによるとトランプ氏は「もう十分だ」と述べ、結局は白紙に戻ってしまったのだとか。

アフガニスタンの現状

ここで、外務省の『海外安全ホームページ』をベースに、アフガニスタンの現状をまとめておきましょう。

  • アフガニスタンではタリバン、ISILホラサーン州などの反政府武装勢力が各地で攻撃を繰り返すなどの厳しい治安情勢が続いている
  • 治安部隊による警備・警戒が強化されているはずの首都カブール市内でさえ、即席爆発装置(IED)の爆発、銃撃、自爆攻撃等のテロ攻撃が多発し、政府関係者、議員、軍、治安部隊、駐留外国軍、各国の外国公館等が攻撃対象となり、一般市民や外国人も巻き込まれている
  • タリバン側は、米軍をはじめとする駐留外国軍がアフガニスタンから完全に撤退するまで戦闘を継続する方針を示しており、今後も、アフガニスタンの治安情勢は厳しい状況が継続すると考えられる

…。

このような厳しい状況のなかで、米軍はアフガン戦争以来、アフガニスタンに駐留して来ましたが、次のBBC(日本語版)の記事によれば、9月2日に米国政府は20週間以内にアフガン駐留米軍5400人を撤退させると述べたそうです。

アフガン駐留米軍5400人撤退へ 米とタリバン、大筋合意(2019年09月3日付 BBC日本語版より)

ちなみにBBCによると、現在、タリバンはアフガン国土の7割で活動しており、先ほどの海外安全情報によれば、2014年から4年連続して民間人の毎年の死傷者数は1万人を超えているのだとか。

北朝鮮情勢はどうなるのか?

私自身が昨晩、トランプ氏のツイートを読んで真っ先に懸念したのは、北朝鮮情勢です。

ボルトン氏は北朝鮮攻撃に対する軍事攻撃に前向きであると報じられることも多く、実際、今年5月には韓国メディア『ハンギョレ新聞』(日本語版)に、こんな記事も出ています。

「ボルトン補佐官は対北朝鮮軍事攻撃が可能だと信じている」(2019-05-02 09:47付 ハンギョレ新聞日本語版より)

これは、米週刊誌『ニューヨーカー』が『戦争するジョン・ボルトン』という見出しの記事で、「北朝鮮に対する軍事攻撃が依然として可能だとボルトン氏が述べた」と紹介しているものです。

もちろん、本当にボルトン氏が北朝鮮攻撃を常々公言しているというわけではないにせよ、ボルトン氏は2003年3月のイラク攻撃開始にも関わっていたとされるため、この記事を読んだ人々は「さもありなん」と思うかもしれません。

こうしたなか、「対外強硬派」のボルトン氏がいなくなることで、北朝鮮情勢がどのように動くかについては、一抹の不安を抱かざるを得ません。

というのも、トランプ氏はどうも北朝鮮との融和、和解を目指しているフシがあるからです。

そもそも地政学的に北朝鮮(や韓国)は非常に微妙な場所にあります。当ウェブサイトでも常々報告しているとおり、

  • 1945年以来、南北に分断されている朝鮮半島は、基本的に北朝鮮が中国・ロシアと、韓国が日本・米国と同盟(または準同盟、友好)関係にある
  • 日米から見て、韓国はユーラシア大陸に築いた橋頭堡のようなものである
  • 中露から見て、北朝鮮は米軍進出地域である韓国と国境を接しないための「緩衝地帯」である

という状況ですが、もし北朝鮮が米国側に寝返り、米朝軍事同盟が結ばれれば、まずは韓国という国の存在意義が消滅しますが、それと同時に中国、ロシアがダイレクトに米軍駐留地域と国境を接することになるため、当然、両国はこの状態を全力で阻止しようとするでしょう。

おそらく、北朝鮮は見た目以上に狡猾な国ですので、最悪のシナリオを考える必要があります。

極論をいえば、北朝鮮が状況をうまく読み、米国、中国、ロシア(プラス日本?)を手玉にとって自国の核兵器を温存したうえで、韓国を赤化統一するというシナリオ(いわば「核武装した経済大国」が成立するシナリオ)には警戒が必要ではないかと思います。

※ ※ ※ ※ ※ ※ ※

いずれにせよ、本日、わが国は内閣改造により、安倍政権は新たな布陣で内外の様々な懸案に対応していく必要があります。外交、防衛の世界ではこれから片時も気を抜くことができない展開が続くのではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (16)

  •  バノン上級顧問
     フリン大統領補佐官
     コーン経済会議委員長
     ティラーソン国務長官
     マクマスター大統領補佐官
     ブルイット環境保護局長官
     ヘイリー国連大使
     セッションズ司法長官
     ケリー大統領首席補佐官
     マティス国防長官
     ニールセン国土安全保障長官
     コーツCIA長官
     ボルトン特別補佐官

     今まで退任または辞任したトランプ政権の閣僚です。これだけ多いと政権自体が安定するのでしょうか?
     なんだか米国も韓国と同じ匂いが漂うような気がします。

     駄文にて失礼します。
     
     

  • >それと同時に中国、ロシアがダイレクトに米軍駐留地域と国境を接することになるため、当然、両国はこの状態を全力で阻止しようとするでしょう。

    たまにはアラスカ州のことも思い出してあげてくださいw

    それはさておき、全体的に融和的だったけど世界の現実には対応せざるを得ないので消極的な軍事行動しかしなかったオバマ二期。
    「金が神」が信条のトランプは、経済戦争なら一瞬も躊躇わないが、金がかかって一円にもならないリアル戦争は嫌い。新兵器開発にも次々とストップをかけている。

    この二代でパックス・アメリカーナは完全消滅ですね。
    しかし、下手に手を突っ込んだせいで、軍事費はかえって増えるのも同じパターンw

  • 一応、韓国も喜ぶことでしょう。
    ボルトンは韓国にとっても邪魔だったはず。
    北の姿勢が軟化すれば、文在寅の出番があるかも。彼にとっては朗報なのでは。

  • 弾道弾でも短距離だから問題ない、の時のように、トランプツイッターの偶発(を装った)事故で日本が少しづつハシゴ外されてきてますが、そうなる要素がまた一つ増えたということでしょうか。
    あの時は、日本は「嘘から出た実」に付き合わないといけない立場なんだと、改めて思いました。

    短期的な押し引きはあっても、移動平均は着実に米国の関与減少方向に感じます。

    ハノイでは土壇場でちゃぶ台を返してくれましたが、次はと考えるとイヤな予感がします。

  • 強硬派ボルトン氏(笑)

    建前上同盟国の韓国政府に対しG~を・・・と圧力をかけたが駄目だった。
    同盟国に舐められてるボルトン氏が、対イラン、対北朝鮮、対中国、対アルカイダの交渉には不向きということでしょう。韓国以上に舐められてるということでしょうね。

  • 北も南も中もロも反対しているので日本にとっては留任が正解で、強硬派がいた方が良いと少し前まで思っていましたが、下記事例を読むと、日本のことは全く頭になくあまりに右なので、辞任はそれほど悪いことではないと思い直しました。

    ボルトン氏の日本にかかわる発言例:
    2016年5月のバラク・オバマの広島訪問についてはニューヨーク・ポスト紙で「恥ずべき謝罪の旅」と強く批判し、ハリー・S・トルーマンの日本への原子爆弾投下の決定は勇断と擁護した。

  • 更新ありがとうございます。

    ボルトン氏も更迭か〜。トランプ大統領になって、よく高官が変わりますね。吉か凶か分かりませんが、こうなるとなり手も「どうせ長くは無い」「ワンポイントだ」「経歴にハクが付く」(笑)と思うんじゃないでしょうか。

    日本にとってはちょい心配です。韓国と北朝鮮が外交で強く出てくるかもしれない。トランプ大統領はディールが上手くいけば、北朝鮮とも無駄な戦争でカネも血も流さなくて済む。南朝鮮が大陸側に付いても困るから、また日本に尻拭きさせるかもしれない。

    でもね、安倍総理は今度こそ韓国の無理難題、屁理屈、嘘に基づく上から目線をキッパリ断って下さい。トランプ大統領にも来年の選挙が上手くいけば、北を力づくで潰して欲しいんですよ。 以上

  • 厳しいなぁ~……
    なんとも、厳しい…
    トランプ大統領の本音は、イランや北朝鮮などを潰したいところではないでしょう…
    主敵はあくまでも中共であって、中共を弱らせる前にイランや北朝鮮などと事を構える可能性はかなり低い、と判断せざるをえません。
    イランや北朝鮮を潰すことを強硬に主張するボルトンは退けられた、ということでしょう。
    半島有事を心配せねばならない状況なのに、これでアメリカはまともに対応出来るのか、かなり疑わしくなって来ました。

    河野太郎防衛大臣が各メディアに日本の主張を寄稿できて、目の前がやっと明るくなって来たというのに、またまた苦しい戦いを日本は強いられると言うのでしょうか?

1 2