中国が主導する「一帯一路」と呼ばれるブロック経済圏構想に、G7の一角を占めるイタリアが正式に協力を表明したそうです。たかだか25億ユーロ(約3000億円)の案件と引き換えに、法の支配を理解しない共産党一党独裁国家のブロック経済圏構想に協力するとは正気の沙汰とは思えませんし、実際、イタリアに対しては米国やEUからも強い批判が生じているようですが、その一方で、ユーロには欧州債務危機で露呈した、「国債デフォルトのバックストップがない」という通貨として本質的な欠陥が内在しており、イタリアが「貧しい南欧」として、中国に協力する強いインセンティブがあったこともまた事実でしょう。
2019/03/25 13:50追記 お詫びと訂正
前掲文に、「25億ユーロ(約3兆円)」の記載がありましたが、正しくは「25億ユーロ(約3000億円)」です。お詫びして訂正申し上げます。大変申し訳ございませんでした。
- (誤)25億ユーロ(約3兆円)
- (正)25億ユーロ(約3000億円)
一帯一路構想、あるいは中国のブロック経済圏
中国が主導する「一帯一路」(いったい・いちろ)構想というものがあります。
これは「現代版シルクロード構想」ともいわれ、中国を起点にして、ロシアからヨーロッパに通じる陸上の「一帯」と、東南アジア諸国連合(ASEAN)からインド、中東を経由してヨーロッパに通じる海上の「一路」をあわせた構想で、一種の「ブロック経済圏」のようなものです。
実現すれば、中国を中心とする強力な経済圏が、ユーラシア大陸を中心に成立する、ということであり、中国が外貨準備を使って設立した「シルクロード基金」や、中国が設立した国際開発銀行である「AIIB」などは、「一帯一路構想」を資金面から支える目的があると見て良いでしょう。
もっとも、このうちのAIIB(※「アジア・インチキ・イカサマ銀行」の略ではありません)を巡っては、『「バスに乗り遅れた日本」と鳴かず飛ばずのAIIBの現状』などでもレビューしたとおり、このところ、どうも低調です。
なぜなら、アジアにおける国際開発金融の豊富なノウハウを持っている日本と米国が揃って不参加を表明したからであり、実際、設立から3年経過するにもかかわらず、世界銀行やアジア開発銀行(ADB)などと比べると、融資実績は極めて少ないのが実情でしょう。
ただ、中国という国の野心については、決して甘く見てはなりません。今は「低調」だったとしても、いずれ、大きく力を伸ばしてくる可能性があるからです。
何より中国は民主国家でも、法治国家でもありません。
中国共産党が支配する、軍事独裁国家です。
日本国内にも「わが国もAIIBに出資して一帯一路構想に参加すべきだ」などと主張する人がいるようですが、私自身、正気の沙汰とは思えません。
G7の一角のイタリアが中国に協力
ただ、G7諸国を含めて多数の国が参加したAIIBと違って、G7諸国は「一帯一路構想」自体からは距離を置いてきたというのが実情でしょう。
とくに、米国は民主党のバラク・オバマ政権時代から、中国の軍事的・経済的野心に対して警戒を強めており、「AIIBに参加しない」ということを含めて、その姿勢は一貫しています。
また、日本の場合も、安倍晋三総理大臣は口先では「中国との外交は正常に戻った」などと言っている一方で、中国に対する警戒は解いていないと見て良いでしょう。
ところが、日米を中心とするG7の結束を乱す国が出現してしまいました。
イタリアです。
すでにわが国の複数のメディアも「イタリアが一帯一路に協力する覚書に署名した」と報じていますが、国内メディアだと情報が少ないので、ここでは、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の記事を眺めてみましょう。
Italy Signs Up to China’s Global Infrastructure Plan Despite U.S. Ire(米国夏時間2019/03/23(土) 11:20付=日本時間2019/03/24(日) 00:20付 WSJより)
(※リンク先は英文であり、かつ、契約していないと読めないことがありますので、原文を確認できない可能性がありますが、ご了承ください。)
ちなみに「一帯一路」構想を英語では “the Belt and Road Initiative” と呼ぶそうです。
WSJによると、ローマを訪問中の習近平(しゅう・きんぺい)中国国家主席はイタリアのジュセッペ・コンテ首相との間で署名式を開催したとしつつ、イタリアがG7加盟国として初めて、この構想に賛意を表したは「習主席にとっては勝利だ」と評しています。
というのも、腐っても「西側先進国」の一角を占めるイタリアが一帯一路に参加したということは、ビジネスという側面だけでなく地政学的側面からも大きな意味を持つからです。
ただ、WSJによると、イタリアは今回の署名を巡り、米国や欧州連合(EU)に対して、「この書名には法的拘束力がない」、「イタリアの西側諸国の安全保障同盟に対するコミットメントにいささかの揺るぎもない」などと説明していたのだそうです。
しかし、記事タイトルにも “U.S. ire” 、つまり「米国の激怒」とありますが、今回のイタリアの行動に対しては、米国の外交官やEUの当局者から「西側諸国の結束を乱すものだ」との強い批判が生じているとしています。
WSJはまた、最近、5G通信規格の整備から中国企業を排除する流れが出ていることについて、EUが法に基づく支配を重視する地域だとしつつ、今回のイタリアの行動がEUの結束を乱すことへの警戒が出ていると述べています。
習近平氏は今後、エマニュエル・マクロン仏大統領、アンゲラ・メルケル独首相に加え、欧州委員会のジャン・クロード・ユンケル議長と会談する予定だそうですが、これらの首脳が法の支配や自由貿易などの重要性を強調すると見られるなか、イタリアの行動はまさに結束を乱す以外の何者でもありません。
財政出動禁じるEUの欠陥条約
WSJによると、土曜日の協定では総額25億ユーロに相当する協力で仮合意したとしており、また、来月、コンテ首相自身が訪中して覚書を最終確認するのだそうです。たかが25億ユーロ程度で国を売るとは、さすがはイタリア、といったところでしょうか。
ただ、EUが偉そうに「法の支配」だの、「自由貿易」だのと述べても、あまり説得力はありません。というのも、「人はパンのみに生きるにあらず」とは単なる建前論であって、現実には腹が膨れないと人々は満足しないからです。
ユーロ圏発足に伴い、イタリアもほかのユーロ圏諸国と同様、独自通貨・リラを廃止しました。このため、イタリア政府はマーストリヒト条約に定められた「公的債務GDP比率」という、まったく意味のないルールに縛られていて、財政出動ができない「貧しい南欧」の一角を占めています。
2008年9月に発生した、リーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する国際的な金融危機は、すぐに欧州債務危機に発展。「ポルトガル、イタリア、アイルランド、ギリシャ、スペイン」の頭文字を取って、「PIIGS」と呼ばれるほど、財政状態がまずくなりました。
すでに当ウェブサイトでは何度も指摘して来たことですが、国債であってもデフォルトが発生することはあり得ます。その条件は
- ①国内投資家にその国の国債に対する投資余力がなくなること
- ②海外投資家がその国の国債を買ってくれなくなること
- ③「最後の貸し手」である中央銀行が国債を買ってくれないこと
の3つです。
(※余談ですが、日本の場合はこの3条件のうち、現状ではどう頑張っても①の条件が満たされることがないため、ほぼ100%、日本国債のデフォルトはあり得ないと断言できます。)
イタリアの場合は国内に投資余力が乏しく、結局、ユーロ建てのイタリア国債を買ってくれるのは外国人投資家(※日本の機関投資家や、おそらく韓国銀行などを含む)に限られており、また、中央銀行であるイタリア銀行はユーロを発行する権限を持っていないため、イタリア国債の買い支えができません。
つまり、イタリアを含めたユーロ圏各国は、景気調整弁としての財政出動という政策手段が封じられており、これに中近東からの不法移民問題もあいまって、経済的、社会的には大きな苦境に陥っていると考えて間違いないでしょう。
従って、「一帯一路」に参加する欧州諸国がイタリアに留まるとも考えられません。下手をするとスペイン、ポルトガル、ギリシャなどが続々、中国陣営に陥落していくことも考えられます。そうなると、「本丸」のドイツが「機は熟した」などとうそぶき、一帯一路構想に堂々と参加する可能性だって否定できません。
こう考えていくならば、ますます、日米同盟を基軸とした「海洋諸国同盟」の結束が求められているといえるでしょう。
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更新ありがとうございます
フランスがTPP参加を画策するんだから
イタリアが一帯一路に参加してもオカシクはないな
でも、それでユーロが崩壊とかしないのかネ?
日英仏vs中独伊か
字面だけでも、勝ったな
つくづく、第二次世界大戦では日本は組む相手を間違えましたね。
これよく言われますけど、米国・英国が組む相手を間違えたんですよ。
戦後の歴史を見れば明白です。
G7の国って誰が決めているんですかね
イタリアを除名にして7番目の国募集って言ったら
かの国が一目散に駆け寄ってきそうだけど
以前、カナダの代わりになら入れそうだってよだれ垂らしてましたし
オミャアーの国ならば、G20の参画資格ですらも怪しいぜよ!
とでも、当該国にでも、はっきりと言っておくべし!
中国の国際協力事業って、単なる高利貸しでしたよね。現地スタッフの雇用を伴わないので、当事国の家計は潤いません。
スリランカの例だと年利6.3%だったと思います。これだと10年間で100%程度の投資運用効率が見込めないと元金返済ができない状況です。
これを受けてしまうと、将来的な「担保渡し=国土の切売り」は目に見えています。いくら「目先のパン」のためとはいえ、共産圏の国家と対峙しなくても・・。と、思うんですけどね。
法的な拘束力はないとはいえ、既成事実にはちがいないのですから・・。サラミスライスでお腹いっぱい。
シルクロードからの赤い影の浸食により、欧州も中国の本性を知ることになるのでしょうか?
コロッセオが中国に移築されるかもしれませんね。ギリシャのパルテノン神殿も中国にくるかも。世界遺産が中国で見られるようになるかもしれませんね。
遅かれ早かれユーロは崩壊するでしょうが、
案外ブレグジットしたイギリスが今後、繁栄するかもしれません。
そうなったら、ユーロは崩壊に向けて一直線ですね。
ローマは一日にしてならず者国家に
惜しみなく金は奪うさんへ
座布団一枚
アジア太平洋共同体(APC)(ただし中国は除く)
汎ヨーロッパ連合(PEU)が中国を含んで汎ユーラシア連合にでもなって
アフリカ統一機構(OAU)はどうでもいいか・・・。
アメリカ自由貿易協定(AFTA)は場合によってUSAがはAPCと二重加盟?
なんてSFシチュが実現しそうですね。
90式はブリキ缶だぜ。
「だが、韓国じゃマリンオンが投入されたらしい。」
「どうせ、たいした代物じゃないさ。」
更新ありがとうございます。
イタリアが「一帯一路」で中国と覚書締結ですね。欧州の体力のある国とは思ってましたが、「G7」に何故入っているの?という疑問も抱いてました(今さらですが)。自動車、航空機、機械とかは輸出も多く工業国ですが、南北格差が大きいはずです。
主要工業都市と産業は北部。農業とマフィア(笑)が南部。収入を求めて北部への転出が多く、また今は中東からの移民で地元民が就職難とか。
中国はG7で一番弱いイタリアを攻め落とした。EUではドイツ、フランス、英国の次にランクされるが、経済的には低迷し、再生の手がかりとしたいのでしょう。が、、、。中国のやり方、分かってんのかね~。
会計士さんによるとたった総額25億ユーロ(1ユーロ 124円換算)、約3兆1千億円のハシタ金で、西側の結束を破ったと言えるでしょう。他に方法が無かったのか。それともあま~い甘い中国の誘導があったのか。その資金は重要港湾トリエステ港の整備(懐かしい名前だ!有名な深海潜水艇。技術はあったんだな)にも使われる。
習近平氏はこのあと仏、独も訪問とか。ヨーロッパの南部貧国をすべて「一帯一路」に籠絡し、その後G7のメンバーも、、いや分かりませんね。 ○自由主義連合国側 日米英仏豪加 対 ●独裁国連合国側 中露独伊韓その他多数 か(笑)。 注 ○●は勝ち負けではありません。
イタリアの南北格差はねえ… 北部だけならEUでも最上位の生産性を誇っているので、北部人は南部に足を引っ張られている現状が不愉快でならないのだそうです。
プラダ、グッチ、ドルチェ&ガッパーナ、ブルガリ、マックスマーラ、ディーゼル、ミュウミュウ、エンポリオ・アルマーニ、フェンディ、などなど、いくらでもぼったくれる付加価値の高いブランドが目白押し、フェラーリ、オリベッティなどの老舗製造業、私が語り出すと止まらない自転車メーカーの数々、すごい創造力を持った国なんですけどねえ。
でも、足を引っ張る南部を作ったのは北部なんですよね。結局、自業自得だと思います。
阿野煮鱒 様
自転車メーカー!少しは分かります!イタリアの創造性、技術力は大したもんです。やっぱり行き着くところ地域格差は、自業自得ですね。
すでに、日本は一帯一路に参画していると思いますが・・・
ttps://www.sankei.com/world/news/180925/wor1809250037-n1.html
一帯一路という名は使っていませんが、「日中第三国市場協力フォーラム」という名称
ttp://j.people.com.cn/n3/2018/1027/c94474-9512414.html
アメリカから、お叱りを受けなかったのが不思議です。
このフォーラム、第三国市場進出についての日中民間企業や投資銀行間の協力フォーラムで、一帯一路のような二国間の投資協力とは違うと思いますが。
むしろ官邸HPにあるように、企業協力を通じて中国企業に透明性を要請するためのものでしょう。
なおこのフォーラムの中国側背景として、一帯一路による中国投資・開発が多国間方式に切り替えようとしている状況については、こちらが分かり易いかと。
https://www.weforum.org/agenda/2019/01/china-the-us-and-the-great-asean-infrastructure-race/
乞食根性ですからねぇ
駐伊大使館には、既に終わっている公演のチケットを売りつけにくる。
来日した伊海軍の歓迎レセプションでは、接待用の葉巻が全部無くなる(ポケットに押し込んでお持ち帰り)。
国民性は一朝一夕には改まりません。