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米国の新たな北朝鮮金融制裁、日本にとって他人事ではない

米国財務省が現地時間の10日、北朝鮮の高官3人に対する経済制裁を発表しました。これは北朝鮮による人権侵害や言論弾圧が続いていることを問題視するもので、今回の措置に伴い、在米資産の凍結や銀行取引の中止などが課されます。ただ、私たち日本国民にとっては、このニュースを「ああそうですか」と聞き流すべきではありません。遠く離れた米国が北朝鮮への制裁を加えているのに、肝心の日本国民が北朝鮮による犯罪行為をどこか遠い世界のことのように受け止めるのは妥当ではないからです。

米国財務省、北朝鮮の高官3人を経済制裁対象へ

米国政府は、北朝鮮における深刻な人権侵害や言論弾圧の現状に関するレポートを公表しています。

Report on Serious Human Rights Abuses or Censorship in North Korea(2018/12/10付 米国国務省HPより)

これは、2016年2月18日に米国で成立した「北朝鮮制裁と政策強制に関する法律」(the North Korea Sanctions and Policy Enhancement Act)に基づいて米国議会に報告するためのものです。

英単語の “censorship” は、辞書で調べると「検閲」、「弾劾」などの訳が出て来ますが、わかりやすくいえば、言論の弾圧、封殺が行われている、とういことでしょう(なお、本稿ではこの “censorship” を「言論弾圧」という意訳で統一したいと思います)。

そして、このレポートの公表にあわせて、米国財務省(U.S. Department of the Treasury)は現地時間の10日、北朝鮮の高官3人を「深刻な人権侵害と言論弾圧」により制裁対象に指定したと発表しました。

Treasury Sanctions North Korean Officials and Entities in Response to the Regime’s Serious Human Rights Abuses and Censorship(2018/12/10付 米国財務省HPより)

指定されたのは、北朝鮮の秘密警察である「国家保衛省」トップの鄭敬沢(てい・けいたく/Jong Kyong Thaek)、北朝鮮労働党の事実上の「ナンバーツー」とされる崔龍海(さい・りゅうかい/Choe Ryong Hae)、労働党副委員長の朴光浩(ぼく・こうこう/Pak Kwang Ho)の3人です。

また、今回の措置で2017年以来、米国が「人権侵害や言論弾圧」などによって制裁対象に指定した個人・企業は500を超えたとしています(ただし、これはシリア、南スーダン、ベネズエラ、ロシア、イランなどの制裁プログラムとあわせた人数であり、そう考えると、「意外と少ないな」、という気もしますが…)。

米国財務省によると、今回の指定をもって、財務省外国資産管理室(OFAC)が指定したこれらの3名の在米資産はすべて凍結されるとともに、銀行等に対してこれらの3名との取引を行うことが禁止されます。

なぜこのタイミングで?

では、なぜ米国財務省は、このタイミングで北朝鮮高官に対する経済制裁を発表したのでしょうか?

米国財務省は、この制裁指定の理由について、1年半前に発生した、米国人青年のオットー・ワームビアさんの死亡事件を挙げています。これは、2016年に北朝鮮当局に拘束されたワームビアさんが2017年6月に昏睡状態で米国に帰国し、その後、亡くなったものです。

米財務省はドナルド・J・トランプ大統領自身が「オットー(・ワームビアさん)の記憶を米国人が共有すべきだ」と呼びかけていると指摘。人権侵害に遭い、自ら不満の声をあげることができない北朝鮮人民の代わりに、米国が北朝鮮に人権侵害を辞めることを促す目的があるとしています。

しかし、もしそうだとしても、米国が北朝鮮と対話局面に転じているのだとすれば、なぜわざわざこのタイミングで北朝鮮に圧力をかける必要があるのか、説明が付きません。

だいいち、トランプ大統領自身、今月、アルゼンチンG20会合の帰りに記者会見に応じ、金正恩(きん・しょうおん)との2回目の米朝首脳会談に応じる用意があると述べたばかりです(『「2回目の米朝首脳会談」?北朝鮮が核放棄に応じますかね?』参照)。

ちなみに日本国内では、「6月12日の米朝首脳会談以降、米朝両国間では緊張緩和が続いていて、すでに『対話局面に転じた』」とする分析も見られます(『読者を置き去りでどんどん先鋭化する朝日新聞』参照)。

しかし、今回の報道発表で見る限りは、米朝が「対話局面に転じた」、「緊張緩和ムードに入った」というものではありません。外国政府の高官を経済制裁の対象に指定するということ自体、米朝間が強い緊張状態にあることの証拠です。

このように考えれば、米国は「北朝鮮との首脳会談に応じてやっても良いが、やること(=経済制裁)はしっかり続けるよ」、というメッセージを北朝鮮に突き付けた、という言い方もできるでしょう。

本当に怖いのは金融制裁

そして、本当に怖いのは、在米資産の凍結ではありません。

銀行等に対する取引の禁止規制です。

米国財務省・OFACは資産凍結対象者と銀行取引を行った場合、その銀行に対しても厳しい制裁措置を講じると述べており、また、疑わしい取引については応じないよう、銀行に対して求めるアドバイスを公表しています。

Advisory on Human Rights Abuses Enabled by Corrupt Senior Foreign Political Figures and their Financial Facilitators(2018/01/12付 米国財務省HPより)

民間銀行が、「北朝鮮やイランなどの資産凍結対象者との取引だ」と知らずに銀行取引に応じてしまうと、その銀行自体が米国財務省により制裁を喰らう可能性があるのです。これを、制裁対象者と取引をした者に対する制裁という意味で、一般に「セカンダリー・サンクション」と呼びます。

そして、北朝鮮に絡むセカンダリー・サンクションの対象は、今後、もしかすると中国やロシア、そして韓国などに広がっていくのではないかと思うのですが、このあたりについて議論し始めると少し長くなりますので、近日中にこの論点については是非、別途詳しく取り上げたいと思います。

日本国民も覚悟が問われる

ただ、今回のこのレポートを見て、私たち日本人にとっては、「ああ、そうですか」で済まされるものではありません。北朝鮮における人権侵害は深刻ですし、何より、私たち日本国民の同胞が、あの非人道的な国に囚われたまま、いまだに帰ってこない状況にあることを、しっかり認識する必要があります。

当ウェブサイトでは『日本国民に問う。北朝鮮という国を存続させておいて良いのか?』でも問いかけたとおり、私自身、そもそも地球人類が北朝鮮という国をこの地球上に存続させておくべき国ではないと考えています。

しかし、残念ながら世界情勢はきれいごとだけでは動きません。

北朝鮮という存在自体が絶対的な悪であることは論をまたない点ですが、北朝鮮をなかば公然と支援する、中国やロシアという国がある以上、北朝鮮という体制が自然に倒れることは期待できません。

それどころか、日本国内にも、朝鮮総連や日本共産党、立憲民主党、あるいは朝日新聞のように、北朝鮮の立場を代弁するかのような「国民の敵」が存在していますし、最近だと、多くの日本国民が「準同盟国」だと思っていた韓国ですら、北朝鮮に取り込まれてしまっています。

そのように考えていくならば、北朝鮮という体制に対峙するためには、私たち日本国民が日本人拉致問題をはじめとする北朝鮮の犯罪の数々を、しっかりと認識することから始めなければならないのです。

新宿会計士:

View Comments (5)

  • 日本から北朝鮮への送金ルートって今どうなっているんでしょうね。
    万景峰号などの北朝鮮船舶は一切寄港できなくなったのでハンドキャリーも難しくなっていますし、日本海側で密輸でもしてるのかな。

    数日前にも北朝鮮の工作員が第三者を使って化粧品を購入して北朝鮮に送ろうとして捕まったニュースが流れて、「工作員が化粧品www」とかいうコメントがネットで付いていましたが、化粧品購入で工作員を逮捕できるシステムを作ったのはむしろ褒められることではないかと思いました。

  • 自己コメントです。

    この北朝鮮に対する制裁を巡って、韓国メディア『中央日報』(日本語版)も記事に取り上げています。

    世界人権デーに北朝鮮にだけ狙って人権制裁加えた米国の狙いは?(2018年12月11日11時17分付 中央日報日本語版より)

    この記事に対するコメントを見ていると、


    本来ならば同胞の人権侵害に一番敏感にならなければならないのは韓国ではないのか。

    という趣旨の指摘があったのですが、まったくそのとおりだと思います。

    なぜ韓国が北朝鮮の人権侵害や拉致事件などについて、もっと声をあげようとしないのか、私にはどうもよく理解できません。

  • < 更新ありがとうございます。

    < 日本にも会計士さんの指摘以外にも、北朝鮮を庇う連中がワンサカ居ますね。パチンコ屋、焼肉屋、飲み屋、キャバクラ、ファッションヘルス、デリヘル、違法ギャンブル場らの経営者および関係者、指定暴力団、等等。

    < これらの方全員とは言いません。しかし、多いのは間違いなし(笑)。ミョンバク議員も送金してないか?

    < 米国がナンバー2の高官含む3人を仕留めた、という事は、米朝の宥和は遠いです。もちろんその制裁で良いのですが、もう少し早く行動起こして貰ったら、なお良いのにと思います。

    < 日本も動け!対北雪どけなどあり得ない。拉致被害者全員を返して貰う。核はCVID譲らず。しないなら日本も小型核ミサイルを作るゾ!

    < ま、韓国の徴用工敗訴企業を助けるのが先だし、在韓日本企業を撤退粛々と進めます!南北には経済制裁で日干しにする。

  • > 北朝鮮という国を存続させておいて良いのか?

    私個人の意見は「良いわけがない、でもどうすることもできない」です。

    以前に、拉致問題を解決するには、憲法を改正し、海外の諜報活動と武力行使を可能にした後、北朝鮮で諜報活動を行い拉致被害者の居場所を特定した上で、特殊部隊を降下させて力尽くで拉致被害者を確保するしかないと書いたことがあります。

    北朝鮮は交渉が通用する国家ではありません。中国もロシアもそうです。軍事力だけが外交力の裏付けです。ロシアや中国に対しては、武力行使せよと言いたいわけではなく、相手国に致命的なダメージを与えうる軍事力を背景にして初めて、対等な外交交渉が可能になると言いたいのです。北朝鮮に対しては、拉致被害者の奪還に特化した極めて限定的な武力行使であれば中国もロシアも介入しないという読みです。

    とにかく、国会で憲法改正の議論すらできない現状ではどうすることもできません。拉致被害者ご本人およびご家族には気の毒ですが、私の予想では、拉致問題は解決を見ないまま被害者が老死・病没して終了すると思います。日本政府が拉致問題を、力尽くで取り返す決意なく、北朝鮮と交渉して解決しようとする限り、北朝鮮はそれを馬の前に吊り下げた人参として利用するだけだからです。

    次に進みます。仮に、日本が憲法を改正でき、拉致問題を限定的武力行使で解決できたとします。その上で北朝鮮をどうしましょうか。海洋勢力にとって朝鮮半島の利用価値はバッファ・エリア(緩衝地帯)です。人にも資源にも魅力はありません。結局、海洋勢力がコントールしやすい南朝鮮と、大陸勢力がコントロールしやすい北朝鮮を38度線で分断し、同じ民族がイデオロギーと利害を異にしつつ、同一民族ならではの馴れ合いで対峙する現状が一番楽だという結論に落ち着くと思います。

    後は北の核をどうするかだけです。これも西側主導で強引に進めるしかないと思います。前もって中国とロシアに北朝鮮は温存すると約束した上で、日本軍と米軍が威嚇的に空母や原潜等を日本海と東シナ海に巡航させ、戦闘機の国連名義の査察団を重武装護衛と共に送り込み、全ての疑わしき施設の座標を特定し、それらに非核爆弾搭載のミサイルを向けて「自主廃棄するか、MOAB攻撃を食らいたいか、どちらかを選べ」くらいのことをしない限り解決できないでしょう。

    日本はもとより、米国にそこまでの事を起こす気概はないように思えます。なし崩しの現状維持が一番楽です。「北の核核兵器は、実際にはICBMに搭載可能なレベルには達成していない」とか何とか言いながら、口だけは勇ましい北朝鮮の茶番劇を鑑賞しているつもりの無作為が続くと予想します。70年間そうしてきのです。向こう70年間これが続いても不思議ではありません。

    自分で書いていながら、自分が書いた文章に腹が立ちます。

    • 100%正しい見方だと思います。

      北朝鮮には、今の様に飢え死にするまで経済制裁を続けるのが一番「経済的」かつ北朝鮮の支配層に対しても有効なのです。
      工作員が化粧品の密輸を画策する事件なんか、いかに日本が有効な作戦を実行しているかの証拠です。
      それなのに、飢え死にしそうな北朝鮮に「食物を輸出するのは禁止されているが栄養の点滴は禁止されていない」とか言ったりして援助する馬鹿な国・・・。

      韓国が、貿易で依存している中国に対して、えげつない経済戦争をしてくる米国をなぜあれほど甘く見られるのかも謎です。
      最近でも軍事演習を中止したり、机上軍事演習の中二病的な名前(アメリカ人の大好物)を廃止するとか、在韓米軍経費の負担増加をとんでもないとか文句付けたり。
      またTHAAD配備でも、レーダーに電力を供給しないという嫌がらせをしたのにはびっくりしましたね。