中国の通信機器メーカー「ファーウェイ」などが、通信機器にバックドアを仕掛けていたなどとして、政府調達や5G(第5世代移動通信システム)などから排除される方向にある、といった報道が相次いでいます。これについて、少なくとも日本政府の立場としては、「特定企業の製品を政府調達などから排除するものではない」などと述べていますが、現実には、日本政府は数年前に安倍政権下で成立した「サイバーセキュリティ基本法」に基づいて、粛々と対策を進めているもようです。
目次
先月のWSJの報道:ファーウェイを5Gから排除
先月、米国政府が同盟国に対し、中国企業のファーウェイ(華為)を次世代規格の第5世代移動通信システム(いわゆる5G)から排除するように求めたという報道がありました。
Washington Asks Allies to Drop Huawei(2018/11/23 4:56 ET付 WSJオンラインより)
報じたのはウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)など、米国メディアが中心でしたが、リンク先のWSJによれば、
“American officials have briefed their government counterparts and telecom executives in friendly countries where Huawei equipment is already in wide use, including Germany, Italy and Japan, about what they see as cybersecurity risks.”
とあります。私の文責で意訳すれば、
「(事情に詳しい関係者によれば、)米国政府当局者はドイツ、イタリア、日本など、ファーウェイ社の製品が広く利用されている友好国の政府や通信会社に対し、サイバーセキュリティ・リスクのリスクを伝達した。」
ということであり、暗に「ファーウェイ社の製品には『バックドア』が仕組まれていて、情報漏洩のリスクが増えるよ」、つまり、「同社の製品を使うなよ」と圧力を掛けた格好です。
ちなみに「バックドア」とは、もともとは裏口、勝手口などの意味ですが、この場合は、製造者によって最初から仕組まれた、仕組まれた、正規の手続きを踏まずに機器の内部に侵入できてしまう仕組みのことを意味します。
WSJはまた、
“The U.S. is also considering increasing financial aid for telecommunications development in countries that shun Chinese-made equipment, some of these people say.”
つまり、事情に詳しい関係者の説明として、米国政府が「脱中国製品を進める企業に何らかのインセンティブを付与する方針だ」と述べています。
日米両国政府はファーウェイなどの排除に動く?
ただ、このWSJの報道に対し、現時点でホワイトハウスのウェブサイトなどを見ても、少なくともこの1ヵ月前後でファーウェイを名指しして政府調達などから排除すべきだ、などとする声明文が出ているわけではありません。
しかし、昨日も『世界は中国共産党と共存できるのか?』のなかで少しだけ紹介したとおり、先週はファーウェイ創業者の娘で同社のCFOを務めている孟晩舟(もう・ばんしゅう、Meng Wanzhou)氏がカナダで逮捕されています。
Canadian Authorities Arrest CFO of Huawei Technologies at U.S. Request(2018/12/05 18:34付 WSJオンラインより)
WSJなどの報道によれば、逮捕容疑はイラン制裁違反とのことですが、自然に考えてみれば、先ほどの「ファーウェイ排除」の動きと関わってきます。さらには、同社製のスマートフォンには「余計なもの」が含まれていたとの話もあり、やはり本件に関する疑念は晴れません。
分解したら“余計なもの”が見つかった!?日本政府も「ファーウェイ排除」へ(2018/12/07 21:28付 FNNプライムより)
このように考えていくと、ファーウェイが何らかのバックドアを仕組んでいて、そのことを日米両国政府などが問題視しているという話は、相応に信憑性が高いようにも思えるのです。
内閣サイバーセキュリティセンターの対策会議
こうしたなか、わが国も黙って手をこまねいているわけではありません。
意外と知られていませんが、安倍政権下の2014年(平成26年)には「サイバーセキュリティ基本法」という法律が成立し、この法律に基づいて「サイバーセキュリティ対策推進会議」という、各省庁横断の連絡会議が実施されています。
昨日も、内閣サイバーセキュリティセンターのホームページに、最新の対策推進会議の様子が公表されています。
サイバーセキュリティ対策推進会議(CISO等連絡会議)(2018/12/10付 内閣サイバーセキュリティセンターHPより)
これは、杉田和博・内閣官房副長官が議長を務め、内閣官房、人事院、宮内庁、総務省、警察庁、公正取引委員会、外務省、財務省、文科省、厚労省、農水省、経産省、国交省、環境省、防衛省、さらには衆参両院事務局や日銀などからも担当者が出席する、非常に広範囲な会議です。
簡単にいうと、「1.対象となる政府機関」における「2.対象となる情報システム・機器・役務等」のうち、「3.重要性の観点」を満たすようなものについては、政府のIT総合戦略室、内閣サイバーセキュリティセンターと協議することとされたのです。
1.対象となる政府機関
▼内閣官房▼内閣法制局▼人事院▼内閣府▼宮内庁▼公正取引委員会▼個人情報保護委員会▼警察庁▼金融庁▼消費者庁▼復興庁▼総務省▼法務省▼外務省▼財務省▼文部科学省▼厚生労働省▼農林水産省▼経済産業省▼国土交通省▼環境省▼防衛省▼会計検査院
2.対象となる情報システム・機器・役務等
通信回線装置
▼ハブ▼スイッチ▼ルータ(VPN 等サービス統合型含)▼ファイアウォール▼WAF(Web Application Firewall)▼IDS(Intrusion Detection System)▼IPS(Intrusion Prevention System)▼UTM(Unified Threat Management)
サーバ装置
▼メールサーバ▼ウェブサーバ▼DNSサーバ▼ファイルサーバ▼データベースサーバ▼認証サーバ▼メインフレーム▼管理サーバ(ADサーバ等)▼Proxy サーバ▼NAS(Network Access Server)
端末
▼デスクトップPC▼ノートPC▼モバイル端末▼ノートPC▼スマートフォン▼タブレット端末▼プリンタ▼ネットワークプリンタ
3.重要性の観点
- ①国家安全保障及び治安関係の業務を行うシステム
- ②機密性の高い情報を取り扱うシステム並びに情報の漏洩及び情報の改竄による社会的・経済的混乱を招くおそれのある情報を取り扱うシステム
- ③番号制度関係の業務を行うシステム等、個人情報を極めて大量に取り扱う業務を行うシステム
- ④機能停止等の場合、各省庁における業務遂行に著しい影響を及ぼす基幹業務システム、LAN 等の基盤システム
- ⑤運営経費が極めて大きいシステム
これを見て頂ければわかりますが、一部の省庁に関する、国家安全保障や治安関係の業務を行うシステムなどが中心であり、政府の全部の省庁が対象となっているわけではなく、また、すべてのシステムが対象となっているわけでもありません。
また、別に特定の企業の名前が明示されているわけでもなく、実際、菅義偉(すが・よしひで)内閣官房長官は昨日午前の記者会見で、「特定の企業を排除する措置ではない」と明言しています。
なぜか中国が猛反発
ただし、時系列が前後しますが、この対策会議に先立って、中国の在日大使館が「強烈に反対」したそうです。
日本の華為排除方針、中国が非難/在日大使館「強烈な反対」(2018/12/9 15:37付 共同通信より)
共同通信によれば、「日本政府が中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)と中興通訊(ZTE)の製品を政府調達から事実上、排除する方針を固めた」ことについて、東京の在日中国大使館は9日までにウェブサイト上、次のような声明を出したそうです。
- 両国の経済協力のためにならず、強烈な反対を表明する
- 両社(ファーウェイとZTE)の製品に安全上のリスクが存在するとの証拠はない
- 中国の法律はいかなる機関にも、通信企業を通じて通信傍受などの権限を授けていない
まことに分かりやすい反応ですね(笑)
私に言わせれば、中国共産党はあまり頭がよろしくないので、「図星」だったときには勝手に大騒ぎして逆切れするという特徴があります(2010年の尖閣諸島漁船侵入事件のときなどがその典型例です)。
ちなみに最後の下りについては、そもそも中国が法治主義国ではないという事実を無視しています。別に法律で通信傍受の権限を受けていなくても、通信傍受が日常的に行われているであろうことは想像に難くありませんので、まったく反論になっていませんね。
ただ、中国がこのように猛反発しているということは、やはり、探られると痛い腹がある、ということの、濃厚な状況証拠ではないでしょうか。
ドイツ+中国の連合、出現?
ただ、今回の中華製情報端末騒動を巡っては、最終的な決着は見えていないものの、現段階でなかなか興味深い報道も出ています。
ドイツ、ファーウェイを政府調達から排除せず 5G整備巡り(2018年12月8日 03:41付 ロイターより)
ロイターによると、ドイツ政府の内務省高官は7日、ドイツ政府としては「5G」のネットワーク構築において、「いかなるメーカーやハイテク企業も排除しない」と言明したのだそうです。
ロイターはこれを「ファーウェイを政府調達から排除しない方針だ」と述べているのですが、このロイターの報道が事実であれば、米国、豪州、ニュージーランド、日本などが相次いで「同社製品の排除」に踏み切る中で、ドイツの対応の異質さが目立つ状況です。
歴史に学べば、なぜかドイツと組むと負けるという、一種の「マーフィーの法則」のようなものがあるような気がしますが、そういえば、現在のドイツがやっていることといえば、確かに中国とそっくりでもあります。それは、「デフレの輸出」です。
OECD加盟国の中で、ドイツ、中国、韓国の3ヵ国は、とくにGDPに占める輸出依存度が高いという共通点を持っているのですが(※これについてはどこかで議論したいと思います)、似たもの同士が群れるというのは万国共通なのかもしれませんね。
現段階で「中独連合成立」と軽々しく断定すべきではありませんが、このあたりのテーマについては、「韓国問題」が片付いたあとの「海洋同盟」対「大陸同盟」という視点で議論しても面白いのかもしれません。
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中韓ドイツの輸出依存の記事も楽しみにしていますし、シーパワーランドパワーの記事も楽しみに待ってます!
>別に法律で通信傍受の権限を受けていなくても、通信傍受が日常的に行われているであろうことは想像に難くありませんので、まったく反論になっていませんね。
中国版LINEと呼ばれているWeChatですが、すがすがしいほどの通信傍受・個人情報ぶっこ抜きアプリです。
https://www.mag2.com/p/money/303190
人気アプリ「WeChat」ユーザの全データを中国当局に送信
利用規約に書いてあるから何の問題も無いそうですw
なんかメンテリティが違う・・・。
本当に謎、ドイツが失政を繰り返しファーウェイも排除しないと完全に中国寄り。
ドイツ人は賢く優秀な民族だと思っていたし、日本のようにチャイナが政治やマスコミに浸透してしまっていたとしても、日本人が民主党から自民党へ政権を取り返したように、国を取り戻そうという動きにならないのでしょうか?ドイツ世論に詳しくないのですが、ドイツがまたもや第二次世界大戦に続き負け戦をするとは思えなくて…どうしたよ?という感じです。
どなたかわかる人いたら教えてください。
ユキさん ドイツ銀行が本当に抜きさしならない状況なのではないでしょうか? 中国こけたら共倒れ心中と推測します。 こんどは日英同盟復活で、アングロサクソン・シーパワーにつくのが、正しい道と考えます。”あやまち繰り返しません”です。
ありがとうございます。中国に金融が人質状態なのでしょうかね、そこまでズブズブだったとは、ドイツともあろう国が…
でも、このまま中国と一緒にいても共倒れのような気も
一発逆転の芽があるのか気になります。
少なくとも経済的には、中国依存度が非常に高そうですよね。
ドイツの貿易収支は、以下のサイトによると、
http://blog.livedoor.jp/veritedesu/archives/1883462.html
ヨーロッパ圏内をを別にすると輸出はアメリカに次いで2位、輸入は1位ですね(2016年のデータ)。
こちらはEU全体での貿易収支ですが、
http://eumag.jp/questions/f0717/
やはりアメリカと中国が1位2位になっています(2016年のデータ)
この流れだと、半導体とか通信機器のメーカーのがんばり具合が気になるところですね。
日本だとソニーや富士通、NECあたりかな。苦しそうですが頑張っておられる模様。
ドイツだとシーメンスあたりでしょうか。
そちらで手に負えないのであれば、排除できないという状況になってしまう訳ですが...
単に公的にはやると言わないけど、裏でやるって意味ならいいんですけど。
ありがとうございます。
後戻りできないくらい中国が経済に入り込んでいるということでしょうか。
国民はどういう選択をするのでしょう
ドイツがアメリカ陣営に入れば、表向きは欧州も一枚岩のように見えてくるのですが
見守りたいと思います
ドイツは現在経済以外がボロボロなんですよね。経済が好調だからどうにかなっているように見えるだけで爆発しそうな爆弾を山程抱えています。その経済もEUに加盟しているために失速したらまず立て直せません。ドイツが率先して動く強大国だと思うから見誤るのだと思います。過去の遺産でどうにか外見は整えていますし影響力も残していますが、中国、ロシア、アメリカと言った大国を敵に回す余裕なんて欠片もないように見えます。
特に軍事力なんかは下手しなくても北朝鮮に負けかねない状態なんですよね。それも陸海空、全ての領域で。金は掛けていますしランキングとかも高いんですが稼働率が極端に低く技術が断絶してしまったので復活の芽も見えないんですよね。よくお笑い韓国軍とか言いますが比較対象が悪いだけで世界的に見れば普通かちょっと上程度なんです。それに対してドイツ軍はちょっと本気で笑えない状態にここ十数年でなっています。
韓国は全力でやって、あの状態なのに対して、ドイツはメルケルおばさんの緊縮財政病のせいで軍隊が崩壊状態になったのだから笑えませんね。
NATO加盟国は防衛費をGDPの2%レベルにすることを要求されていますが、EU成立後の国で守っている国は少数派。
http://www.garbagenews.net/archives/2258868.html
トランプがNATOの同盟国にもっと軍事費増やせと圧力をかけるのは決して無茶を言っているわけではないのです。
その意味では日本もGDP2%くらいは防衛予算を増やすべきという圧力を受けるのは当然なんですよね。
日本とドイツはどっちも1%前後ですが、分母のGDP額を考えれば、同列にはして欲しくありません。
リンク先の時系列グラフを見たら、冷戦時の3%から1%へって、こんな仕打ちをしていながら、NATO域外への海外派遣の出兵をしたりと、そりゃ軍隊が崩壊しない方がおかしい。
また、これでも潜水艦や駆逐艦を輸出したり、西側の小火器のかなりのシェアを握っているというのも日本的には業腹。
>中国の法律はいかなる機関にも、通信企業を通じて通信傍受などの権限を授けていない
面白い話ですなぁw
中国共産党>中国憲法>中国法律
一番下にある法律に権限がないだけで、中国共産党の意思があれば何でも許される国ですからw
特亜にあるのか華夷秩序(かいちつじょ)だけですからなww
そうですね。中国政府が盗聴していないなんて、誰が想像できますかって話。ファーウェイの通信機器には当然、盗聴装置が組み込まれているのが常識でしょう。あえてそれをファーウェイがやらなかったら、逆に中国政府に消されると思います。
ランドパワーとシーパワー地政学的見解期待しています。
そういえば新宿様はドイツは日本との国家の価値観、戦略的関係の中で
別のカテゴリーに分類していましたね。
ご存じかとは思いますが、私はこれを見てびっくりしました。
https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2018/11/1000-9.php
>サイバー空間での軍民協力を促進する方針の下、人民解放軍は通信機器大手の中興通訊(ZTE)や華為技術(ファーウェイ・テクノロジーズ)のような企業とのパートナーシップを強化してきたほか、大学との連携も推し進めている。そうした企業や大学は、中国の「サイバー民兵」の一角を成している。
また、HUAWEIの創設者は、人民解放軍の情報工学学校の出身であり、なおかつ元妻は共産党幹部の娘だそうです。
軍(盗聴組織)との関係を疑うには十分と思います。
http://www.itmedia.co.jp/business/articles/1811/29/news029_2.html