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【夕刊】アルゼンチン、IMFの支援を受ける

r日本時間の今朝、南米の大国・アルゼンチンが国際通貨基金(IMF)の支援を受けることで合意したと米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が報じています。これについて、前半ではアルゼンチンについて、後半では日本、韓国、ユーロ圏について、それぞれ簡単にコメントしておきたいと思います。

アルゼンチンの通貨暴落

アルゼンチンへのIMFの支援

日本時間今朝方の米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によれば、アルゼンチンが国際通貨基金(IMF)から総額500億ドル相当の救済を受けることで同意したそうです。

IMF, Argentina Agree on $50 Billion Bailout Deal/Size of program is at upper end of what analysts had expected(米国夏時間2018/06/07(木) 21:08付=日本時間2018/06/08(金) 10:08付 WSJより)

アルゼンチンは2001年に外貨建ての国債の元利払いができなくなり、デフォルト状態に陥りました。また、その後はアルゼンチン政府が一方的に国債の元利の繰り延べを宣言していたものの、これに異論を唱えた投資家の主張を米国のニューヨーク地裁が認め、2014年には再びデフォルトに陥りました。

この「第二次デフォルト」を発生させたときのクリスティーナ・フェルナンデス・デ・キルチネル政権は2015年に倒れ、現在はマウルシオ・マクリ大統領が政権を担っています。WSJによると、マクリ氏は財政再建を急ぐとともに、通貨・ペソの下落を防ぐために、IMFから500億ドルの融資枠を確保したとのことです。

アルゼンチンの通貨・ペソは、2001年のデフォルトまでは、公式には「1ドル=1ペソ」で固定(ペッグ)されていました。しかし、その後はじわじわとペソの価値が下落していきます。

時点 為替相場 備考
1999年頃 1ドル=1ペソ ペッグ制度
2001年以降 1ドル=1.4ペソ 公式相場
2008年1月 1ドル=3.14ペソ 実勢相場
2012年1月 1ドル=4.30ペソ 実勢相場
2014年1月 1ドル=6.52ペソ 実勢相場
2016年1月 1ドル=13.63ペソ 実勢相場
2018年1月 1ドル=18.39ペソ 実勢相場
2018年6月 1ドル=24.98ペソ 実勢相場

(【出所】2001年までの数値は著者調べ、それ以降はWSJなどを参照)

とくに、今年に入ってからのペソの下落が加速していることがよくわかります。WSJは「ペソの急落により対外債務の支払能力に疑義が生じていること」( “the peso’s slide threatened Argentina’s ability to pay its debt” )で、マクリ大統領がIMF支援を決断したと述べています。

国家デフォルトのメカニズム

さて、これをどう読むべきでしょうか?

実は、今回の話題は、「国家デフォルト」のメカニズムを学習するうえで、典型的な事例です。とくに、国家であってもデフォルトすることはあり得る、という脅威を、改めて意識する必要があります。

まず、アルゼンチン・ペソと米ドルは、まったく違う国が発行する、まったく違う通貨です。アルゼンチン国内で流通しているおカネはアルゼンチン・ペソですが、基本的にアルゼンチン・ペソを外国企業との貿易の決済に使うことはできません。なぜなら、アルゼンチン・ペソは典型的なローカル・カレンシーだからです。

ここで「ローカル・カレンシー」とは、その国でしか通用しない通貨のことであり、「ソフト・カレンシー」と表現することもあります。これに対し「ハード・カレンシー」とは、その国を越えて広く外国で通用する通貨のことであり、米ドル、ユーロ、日本円、英ポンドなどがその典型例です。

いずれにせよ、アルゼンチンの通貨・ペソは海外で通用しません。よって、アルゼンチンが外国からモノを買ってくるとき(つまり輸入するとき)には、外貨(たとえば米ドル)が必要です。だからこそ、アルゼンチンは外国の投資家から、ドルのおカネを借りなければならないのです。これが「対外債務」です。

一方、借りたおカネは、いつかは返さなければなりません。

たとえば、1ドル=1ペソだったときに、1千万ドルのおカネを借りたとします。このときに借りたおカネを自国通貨に為替換算すれば、1千万ペソです。おカネを返すときにも同じく1ドル=1ペソだったとすれば、同じく1千万ペソを準備すれば済む話です。

しかし、おカネを返す時点で、ペソの価値が10分の1の1ドル=10ペソになっていた場合、1千万ドルを用立てるために必要なペソは、1千万ペソではなく、1億ペソです。つまり、債務負担が10倍になってしまう、ということです。

通貨暴落時にその国の政府は信用を失うが…

外国からおカネを借りていたときに、自国の通貨が暴落すれば、最悪の場合、その国の政府におカネを返す能力がなくなってしまうことを、「国家のデフォルト」と呼びます。

また、その国の政府がなんとかカネをかき集めて、外国から借りたおカネを返したとしても、それで問題はお終い、ではありません。通貨が暴落しているときには、その国の政府は市場の信用を失っています。そうなれば、再びおカネを借りること(リファイナンス)はできません。

  • 借りたおカネが返せなくなること(デフォルト)
  • 再びおカネを借りること(リファイナンス)

つまり、通貨が暴落したときには、その国の経済が大混乱し、最悪の場合、外国から石油や生活物資を買ってくることができなくなることで、国民生活にも支障を来してしまうかもしれません。

これに対し、通貨が暴落しても、外国からおカネを借りていない国(例:日本)や、自国通貨自体が世界で通用している国(例:日本)、産油国(例:サウジアラビア)や農業国などの場合は、国民生活が直ちに破綻する、ということはありません。

むしろ、自国通貨が下落すれば、輸出競争力が出てくるという長所もあるため、輸出主導で経済成長を加速させることができます。

外国の事例

日本の「国の借金」問題の大ウソ

さて、日本の場合は「国の借金」(?)が1000兆円を超えていて、財務省や日本のマス・メディアの報道によれば、日本はいつ財政破綻してもおかしくないはずです。しかし、「国の借金」が1000兆円を超えている割に、国債市場では低金利が続いており、短期債についてはマイナス利回りで取引されています。

もし、日本政府がそのうち財政破綻するのなら、誰も日本国債を買わないはずです。誰も日本国債を買わなければ、国債の利回りは上昇します。ユーロ危機の最中のギリシャのように、10年債利回りは10%、20%と暴騰しなければ理屈に合いません。

それなのに、現在の日本の10年債利回りはゼロ%前後で安定しています。その理由は、日銀がイールドカーブ・コントロールを行っているという要因もあるかもしれませんが、日本の場合、根本的な理由は、国債の99.9%が自国通貨建てで発行されている、という点にあります。

いや、日本の場合、2017年12月末時点の対外純資産は349兆円にも達していて、むしろ日本は国を挙げて、外国におカネを貸している立場にあります。

「日本国債がデフォルトする」という珍説を唱える人物は、既存のマス・メディアを中心に多数存在していますが、「国家財政が破綻するプロセス」について、経済学の理屈から正しく説明した人物を、私は寡聞にして知りません。

通貨下落を悪用した国

一方、国を挙げて外国から大量におカネを借りている人たちが、日本の隣の国・韓国です。

2008年のリーマン・ブラザーズの経営破綻に端を発する金融危機の際には、韓国の通貨・ウォンは暴落し、韓国が対外債務の大々的なデフォルトを宣言するのではないかと懸念されたことがありました。しかし、その際には、日本や米国などが韓国と通貨スワップを締結し、結局、韓国は「事なき」を得ました。

ただ、韓国は通貨危機が去ったあとも、1ドル=1200ウォン前後という「ドル高・ウォン安」状態を、わざと維持しました。この理由は非常に簡単で、おそらく、自国通貨を安値誘導することで、貿易の競争力を高めるためです。

韓国は外国から大量におカネを借りているため、通貨が暴落すると困る国ですが、それと同時に、輸出依存国家でもあるため、通貨が上昇すると困る国でもあります。韓国が「ちょうど良い水準」に為替相場を維持するためには、やはり通貨が暴落しない「バックストップ」として、日本との通貨スワップが必要なのです。

もっとも、通貨スワップを必要としている国は韓国であって、別に日本は韓国との通貨スワップなど必要としていません。韓国が通貨スワップを必要とするならば、日本に対して平身低頭して通貨スワップの再開を懇願するのが筋でしょう。

ユーロ圏危機は再々々々々々々々々々々々々々々々燃する

さて、アルゼンチンの問題に言及するならば、先進国にも、どうしようもない欠陥を抱えた通貨があることを指摘しなければなりません。それが共通通貨・ユーロです。

以前、『【速報】イタリアのユーロ離脱不安が招くリスク回避』でも紹介しましたが、先月末、イタリアではユーロ懐疑論が台頭しており、総選挙でもユーロ離脱派が少なくない議席を獲得。イタリアのユーロ離脱不安から金融市場が混乱したことがありました。

これなどは、本来ならば「車の両輪」であるはずの金融政策と財政政策を、機動的に行うことができないという、ユーロ圏の本質的な欠陥が再び意識されたものだと考えて良いでしょう。

通貨・ユーロを発行しているのは欧州中央銀行(ECB)という組織ですが、ユーロ圏に加盟している国は、いずれも独自の財政政策を自由に展開することはできません。マーストリヒト条約上、財政赤字GDP比率などが厳格に制限されているからです。

しかし、南欧諸国の財政赤字は、実は、産業競争力が強いドイツなどの貿易黒字とセットで論じるべき問題です。というのも、南欧諸国がドイツに対し、無限に貿易赤字を累積させていることが、財政赤字の本質的な原因だからです。

(※貿易収支と財政収支の関係については、近日中に機会を見て紹介したいと思います。)

いずれにせよ、欧州でユーロ圏危機が再々々々々々々々々々々々々々々々燃することは、ほぼ間違いないと見て良いでしょう。

新宿会計士:

View Comments (8)

  • 毎日の更新ありがとうございます。
    まとめサイト等に韓国の外貨建債権の返済期限が6月と9月にあって
    スワップ渇望が隣国メディアに目立っていると掲載されています。
    ソースが確認できませんが、会計士様はご存知でしょうか。
    仮に借り換えできても、金利の上昇とリスクプレミアムが上乗せされる事に
    なりそうですね。

    • 自分も気になりソース元を探したのですが出てきませんでした。
      ただ南朝鮮ですのであり得ないとは言えないので注意は必要でしょう。

      韓国では不動産バブル崩壊も進行しているのでダメージは大きいかと予測されます、また外国人労働者を受け入れると言っている日本だと韓国人の日本流入が増えそうで最悪です。

  • アルゼンチンはかつては先進国なみに発展した時期があった。日本も油断すると途上国に転落するかもしれない。アルゼンチンを笑ってみていることはできない。

    • < 非国民様
      < アルゼンチンがかつて先進国並み、というのはいつ頃のお話でしょうかね?フォークランド紛争の頃ですか。その頃は既に米独仏伊英豪日ソらからは、遠く離れた三流国でしたね。勝ち目の無い戦さでした。もっと以前なら具体的にいつ頃か教えてくださいな。あれば(笑)。

      • 初めまして。
        会計士様の卓越した見識を毎日読ませて頂いております。

        アルゼンチンが経済発展して豊かな国であったのはおおまかに言うと19世紀末から20世紀前半にかけてですね。昔、母を尋ねて三千里という物語がありましたが、この物語の時代がアルゼンチン経済の絶頂期ですね。アルゼンチン経済が衰退したのは、農業に依存した単純なモノカルチャー経済だったからです。経済構造が全く違うのでアルゼンチンの例を当て嵌めることはできないと思いますね。

        • 国であろうと会社であろうと、経済環境の変化に合わせて変化していかないと没落するのでは。日本は確かに現在はお金もあり、技術もあり、盤石の態勢だが、うかうかしていると中国はもとよりベトナムやミャンマーに負けていくかもしれない。不断の努力が必要なのではと思う。

      •  すでに話が出ておりますが、第一次世界大戦前のアルゼンチンは国民一人あたりの総生産が世界4位だったこともある富裕国でした。日露戦争時の帝国海軍の巡洋艦2隻はアルゼンチン海軍から購入したものです。
        経済失速の理由は、ブロック経済による農産物輸出の減少、工業化の失敗、経済政策の失敗など挙げられていますが、決め手となる定説は無いようです。ただ、他人事ではないというのはその通りだと思います。

    • >非国民さま
      我が国は、大昔から超先端技術人種に国であり、かつ、国内外問わず良いとこ取りの人種ですので油断したくとも油断などしようにもできないんですよ。
      我が国は大昔から文化の国であり超先端技術の人種だ。
      ....世界最古の小説を女性が書いた文化の国であり、江戸は水道を完備した極めて清潔にして世界最大都市という文明国であり、西洋白人がなん世紀も研究してきても発見できなかった黒死病の病原菌をたった二日で発見し3ヶ月で沈静化させた天才医師の有した国ですから平凡な庶民ですら究極を求める究極の超先進人種。個人的に油断することはあっても国全体が油断するなど無様な民主党政権の大失敗に懲りて二度とない.。