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日本の財政が「危なくない」理由

本日は金融論の「本丸」である、「山ほど借金をしてしまったら、一体どうなるのか…?」という問題について考えてみたいと思います。昨日公表された「資金循環統計」によると、国債発行残高は1075兆円であり、国債の増加ペースは鈍っているとはいえ、それでも国民一人あたりに換算すれば900万円です。一時期ほどではありませんが、未だに「国の借金が大問題だ!」といった論調のマス・メディアの報道を見かけることがあります。しかし、日本に限定して言えば、この認識は大きな間違いです。本日は、私が6年間主張し続けている、「日本の財政が破綻しない理由」を、正しい経済学と正しい財務分析に基づいて、改めて確認しておきたいと思います。

資金循環統計の最新解説

日銀は9月26日付で、2016年6月末基準の資金循環統計(速報値)を公表しています。これについて私は、金融資産・金融負債を主体ごとに、「貸借対照表(バランスシート)」形式で表示したものを作成していますので、確認してみましょう。

家計部門の概況

巨額の富を持つ日本の家計部門

家計部門の金融資産・負債バランスは図表1の通りです。

図表1 家計部門の金融資産・負債バランス(2016年6月末)
金融資産【億円】 金融負債【億円】
現金・預金 9,197,297 貸出 3,174,848
株式等・投資信託受益証券 2,308,465 (うち民間金融機関貸出) (2,724,888)
(うち投資信託受益証券) (867,721) (うち住宅貸付) (1,786,697)
(うち株式等) (1,440,744) その他の金融負債 653,275
保険・年金・定型保証 5,197,440
(うち生命保険受給権) (2,109,699)
(うち年金受給権) (1,528,456)
その他の金融資産 758,253 金融資産・負債差額 13,633,332
金融資産 合計 17,461,455 金融負債 合計 17,461,455

「金融資産」側を見ると、日本国全体で家計が保有している金融資産の金額は、実に1750兆円近くに達しています。ただし、家計も住宅ローンなどの名目でお金を借りることがあるため、家計部門の負債(上記バランスでは「貸出」)が317兆円少々あります。しかし、家計金融資産から家計金融負債を差し引いた残額(金融資産・負債差額)、つまり家計から見た「純資産」の金額は、実に1363兆円(!)に達しています。いわば、この1400兆円弱の金額が、家計が保有している「金融資産」から借金などの「金融負債」を引いた正味の財産です。

しかも、この資金循環統計には「不動産(土地・家屋)」、「自動車・家電」といった動産・不動産が含まれていません。そして、住宅の価値は、少なくとも負債側の「住宅貸付」に相当する金額を上回っているはずです。したがって、個人が保有している土地・建物などの価値はどんなに少なく見積もっても200兆円を超えるでしょう。

つまり、日本の家計は巨額の資産を保有しているのであり、これが日本の強さの「源泉」でもあるのです。

家計金融資産の8割が預金や保険等

ところで、家計総資産のうち、現金・預金の額はざっと920兆円、保険・年金等への拠出金は520兆円です。1746兆円のうち、実に8割以上が、銀行などの金融機関や保険会社・年金基金などの機関投資家に流れ込んでいるのです。政府は現在、「貯金から投資へ」という合言葉で、NISA(ニーサ)などの投資優遇税制を導入したものの、今のところは家計資産の預金偏重という状況は全く変わっていません。そして、巨額の預金が金融機関などの機関投資家に流れ込んでいることで、これらの金融機関は巨額の資金を運用しなければならない状況にあるのです。

預金取扱機関の概況

次に、「預金取扱機関」について概況を確認してみます。ここでいう「預金取扱機関」とは、次の金融機関のことです(図表2)。

図表2 預金取扱機関
統計上の区分 金融機関種別 会社数
銀行 都市銀行 5行
信託銀行 4社
地方銀行 64行
第二地方銀行 41行
ゆうちょ銀行 1行
その他銀行 14行
整理回収機構 1社
中小企業等金融機関 信用金庫 267金庫
信用組合 154組合
労働金庫 13金庫
系統上部団体 3機関
農林水産系金融機関 農林中央金庫 1金庫
信用農業協同組合連合会 33会
農業協同組合 683組合
信用漁業協同組合連合会 29会
漁業協同組合 101組合
在日外国銀行 54社

(【出所】著者調べ。ただし、社数は2015年3月末時点のもの)

低い「預貸率」

この預金取扱機関全体における「金融資産・負債バランス」の概況は、図表3の通りです。

図表3 預金取扱機関全体の金融資産・負債バランス(2016年6月末)
金融資産【億円】 金融負債【億円】
現金・預金 4,619,977 現金・預金 13,883,638
(うち日銀預け金) (2,898,467) (うち流動性預金) (6,144,407)
(うち定期性預け金) (1,355,432) (うち定期性預金) (7,095,248)
貸出 7,256,767 貸出 2,220,799
金融派生商品・雇用者ストックオプション 1,067,070 金融派生商品・雇用者ストックオプション 1,085,487
債務証券 3,550,343 その他の金融負債 1,702,825
(うち国債・財融債) (2,265,625)
対外証券投資 1,144,372
その他の金融資産 1,254,220
金融資産 合計 18,892,749 金融負債 合計 18,892,749

預金取扱機関は家計だけでなく、企業や地方公共団体などから預金を受け入れているため、図表1で見た家計の資産側の預金総額と、図表3の負債側の預金総額とは一致しません。また、負債の「現金・預金」には、金融機関にとって事実上の短期社債である譲渡性預金(NCD)も含まれていますし、系統金融機関同士の預け金も含まれているため、実態よりも最大200兆円程度、過大計上となっている点には注意が必要です。

さて、金融機関の経営の健全性を見るうえで、一番重要な指標は「預貸率」、すなわち負債側の預金に対する資産側の貸出金の比率です。日本の金融機関の預貸率は、長年、100%を大きく割り込んでいます。銀行の一番基本的なビジネスモデルは、いわば個人顧客などから預かったお金を企業に課すことで「利ざや」(マージン)を取ることにありますが、個人顧客などから100のお金を預かっても、50~60程度しか、企業などに対してお金を貸すことができていない状況にある、ということです。

金融機関の債券投資需要は旺盛だが…

そして、余ったお金を運用する手段が、国債等の債券(貸借対照表中の「債務証券」)です。しかし、2013年4月以降、日銀が異次元量的質的緩和(QQE)を開始したため、国債市場から国債が「干上がっている」状況が続いています。こうした状況を受けて、預金取扱機関は「日銀預け金」に資金を振り替えているのですが、これらの資金に対しても、2016年1月29日の政策決定会合で「2015年平均積期間残高」を超える部分にマイナス0.1%の利息が課せられることになってしまいました。

そのため、日本の預金取扱機関は、「住宅ローン」などを低金利でも伸ばすか、それとも外債(米国債など)を買うか、といった選択を迫られています。実際、金融機関のバランスシートを眺めてみると、外債(対外証券投資)の残高が100兆円を超えていることがご確認いただけると思います。

つまり、金融機関にとって貸出金が伸び悩む中での債券投資需要は旺盛ですが、肝心の債券が、日銀によるQQEの影響で「干上がっている」状況にあります。日本の金融機関にとっては、巨額の預金残高に見合う運用をどのように実現するかが最大の悩みどころであるといえるでしょう。

資金需要主体

さて、一国の資金循環上、最大の資金供給主体は家計ですが、その一方、大きな紫禁城主体は、政府と企業です。

政府部門のバランス

一般政府部門についてのバランスシートも確認しておきましょう(図表4)。

図表4 一般政府部門の金融資産・負債バランス
金融資産【億円】 金融負債【億円】
株式等・投資信託受益証券 1,104,722 貸出 1,601,667
(うち株式等) (1,102,701) 債務証券 10,735,012
対外証券投資 1,607,138 (うち国庫短期証券) (1,180,116)
その他の金融資産 2,608,477 (うち国債・財融債) (8,802,994)
【金融資産 小計】 5,320,337 (うち地方債) (744,251)
金融資産・負債差額 7,452,543 その他の金融負債 436,201
金融資産 合計 12,772,880 金融負債 合計 12,772,880

ただし、この「一般政府部門」に含まれるのは「中央政府」「地方政府」の両者であり、「財政投融資」は「一般政府」部門ではなく、「その他の金融仲介機能」に含まれています。これが資金循環統計上の理解が難しい部分です。

そこで、中央政府と財政投融資資金だけを抽出したバランスシートもあわせてチェックする必要があります(図表5)。

図表5 中央政府と財政投融資資金の合算バランスシート
経済主体 金融資産【億円】 金融負債【億円】
中央政府 対外証券投資 1,166,067 国庫短期証券 1,199,429
その他の金融資産 1,198,258 国債・財融債 8,467,991
金融資産・負債差額 8,211,848 その他の金融負債 908,233
金融資産 合計 10,576,173 金融負債 合計 10,576,173
財政融資資金 公的金融機関貸付金 1,286,460 国債・財融債 1,082,504
その他の金融資産 165,752 その他の金融負債 369,708
金融資産 合計 1,452,212 金融負債 合計 1,452,212

報道等で「国の借金は1000兆円を超えている!」という情報を目にすることがありますが、その正体はこれです。具体的には、中央政府が発行している「国庫短期証券(TDB)」、「国債」、財政融資基金が発行している「財融債」の発行残高のことを、「国の借金」と「誤用」しているのです。ただしくは「中央政府・財政融資資金の発行している債券」と表現すべきでしょう。

実際、財政融資資金の方は、「赤字国債」ではありません。発行した国債を公的金融機関に対して貸し付けているのであり、きちんとした裏付けのある負債です。また、国庫短期証券の残高は外為特会などが保有する対外証券投資の資金調達に使われているものです。

これに加えて、中央政府が発行している「国債」の金額と、同じく中央政府部門の「金融資産・負債差額」の金額がほぼ一致しています。つまり、純粋な中央政府の「債務超過額」は、この部分に限られるのです。

そして、国債の保有主体の大多数は国内の投資家(預金取扱機関、保険・年金基金)であり、国内の投資家にお金を貸している主体は日本国民です。最近でこそ日銀がQQEの影響で400兆円もの国債を保有していますが、その日銀にお金を貸しているのも預金取扱機関であり、結局、「国の借金」とやらは、そのほぼ全額が日本国民の家計から借り入れられたものである、ということが良くわかるでしょう。

企業部門のバランス

次に、企業部門(非金融法人企業)のバランスについては、図表6の通りです。

図表6 非金融法人企業のバランス
金融資産【億円】 金融負債【億円】
現金・預金 2,530,478 貸出 4,208,654
株式等・投資信託受益証券 2,957,553 株式等・投資信託受益証券 7,170,088
(うち上場株式) (1,136,472) (うち上場株式) (4,301,481)
(うち非上場株式) (1,550,865) (うち非上場株式) (2,448,625)
企業間・貿易信用 1,998,456 企業間・貿易信用 1,494,454
対外直接投資 1,030,271 その他の金融負債 2,376,622
その他の金融資産 1,968,117
【金融資産 小計】 10,484,875
金融資産・負債差額 4,764,943
金融資産 合計 15,249,818 金融負債 合計 15,249,818

非金融法人企業についても一般政府部門と同様に、「金融資産」の金額が「金融負債」の金額を下回っています。これは、非金融法人企業が「債務超過状態である」、という意味ではありません。企業は金融資産以外にも、棚卸資産や減価償却資産、土地、知的財産権などの莫大な財産的価値のある資産を保有しています。また、企業会計と異なり、資金循環統計は「負債」と「純資産」を分けていません。このため、負債の部に「株式」が計上されており、これが「金融資産・負債差額」のマイナスの要因なのです。

このバランスを見てよくわかるのは、企業の銀行等からの借入金額が、日本の金融機関の資産規模から見て少なすぎる、という点でしょう。日本企業の多くは、「無借金経営」が良いとする俗説に騙され、儲かっていても、銀行等からお金を借りないでむしろお金を返してしまい、さらに「資産の部」には300兆円弱という多額の現金を保有しています。なるほど、企業がお金を借りず、むしろ溜め込んでいるのですから、日本国内で資金需要がないのも当然ですね。

国内の資金需要不足が世界最大の対外純債権を生む

問題はこれに留まりません。国がここまで「借金」(?)をして、お金を使おうとしているものの、実は日本国内で資金が使われておらず、有り余っているために、その差額が外国に出て行ってしまっているのです(図表7)。

金融資産【億円】 金融負債【億円】
貸出 1,566,880 貸出 1,304,061
債務証券 1,365,972 対外直接投資 1,288,760
株式等・投資信託受益証券 1,661,486 対外証券投資 5,189,722
(うち、株式等) (1,634,213) その他の金融負債 1,260,462
金融資産・負債差額 3,276,270
その他の金融資産 1,172,397 (※外貨準備) (1,299,568)
金融資産 合計 9,043,005 金融負債 合計 9,043,005

ここで、GDPの簡単な計算式を思い出してみましょう。

GDPを需要側(支出側)から見ると、

GDP=C+I+G+X-M…①

(ただしC:消費、I:投資、G:政府支出、(X-M):純輸出)です。GDPは消費支出、投資、政府支出、純輸出(=輸出-輸入)から成り立つ、という、当然の計算式です。一方、これを所得分配側から見ると、

GDP=C+S+T…②

(ただしS:貯蓄、T:税金)です。つまり、GDP(1年間の総付加価値)は消費され、貯蓄され、税金として政府に支払われる、という形です。この①式と②式から、

C+I+G+X-M=C+S+T…③

が導出され、両辺からCを消去して全て左辺に移項すると、

(I-S)+(G-T)+(X-M)≡0…④

が成立します。この恒等式は、国内の民間部門の投資・貯蓄バランス(I-S)、政府の財政支出・税収バランス(G-T)、純輸出(X-M)の三項目を合算すればゼロになる、という均衡式です。

図表7の「金融資産・負債差額」は、わかりやすい言葉で言い換えれば「対外純債権」のようなものですが、これが400兆円弱という巨額のものになっている理由は、日本国内で生み出された総付加価値が、長年、日本国内で消費しきれずに外国への純輸出となって帳尻を合わせてきたことの裏付けです。

つまり、「世界最大級の対外純債権」を発生させた原因は、日本国内の資金需要不足であり、これが日本の最大の問題点【デフレ・ギャップ】なのです。

日本に対して必要なのは増税でなく減税

俗説では日本政府は巨額の「借金」を抱えていて、にっちもさっちもいかない、ということになっているようですが、資金循環統計分析からは、全く逆の結論が導かれます。それは、むしろ日本政府はもっと「借金」(?)をして、財政支出を増やすべきだ、というものです。専門用語で言えば、

「国債を増発して財政支出を増額する/減税をする」

ということです。今からでも遅くありません。消費税率はこれから10%に引き上げるのではなく、むしろ5%(あるいはゼロ%)に戻す、という決断をすべきでしょう。日本にとっての正しい政策は増税ではなく減税です。また、国民から選挙で選ばれたわけでもない財務官僚が巨大な権限を持ち、増税を主導するのは、国民に対する背任以外の何物でもありません。

そして、外務省と財務省が誤った政策を繰り返したことで、日本の国益がずいぶんと傷つけられてきたことは事実です。財務省に関しては、予算機能と国税徴収機能を財務省から分離することが必要でしょう。

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