「取って配るくらいなら最初から取るな」。「給付より減税」。これは当ウェブサイトでずいぶんと繰り返してきた論点です。給付にはコストもかかるし恒久措置でもありません。これに加えて現在の日本では税社保を取り過ぎており、現実に一般会計では8兆円近い上振れが生じる見通しだそうです。これに加え、日経新聞に2日、非課税世帯の多くは高齢世帯であるとの指摘も出てきています。
今年の上振れ額はなんと8兆円弱!
当ウェブサイトでは普段から「取って配るくらいなら最初から取るな」と提唱しています。
すでに報じられている通り、昨年度の決算も税収の上振れがあったのに加え、予算の使い残し(不用額)が発生するなどしています。
財務省が今月2日に公表した『令和6年度決算概要(見込み)』と題した1枚紙によると、税の上振れなどが1兆7970億円、税外収入(日銀納付金など)が1兆6055億円、歳出の不用額が4兆3109億円でした(図表)。
図表 令和6年度決算概要(見込み)
(【出所】財務省『令和6年度決算概要(見込み)』)
この3者の合計額、なんと7兆7134億円(!)にも達しています。
しかも、2024年には岸田文雄首相(当時)のイニシアティブに基づき、ひとり4万円の定額減税が行われていたにも関わらず、です。
ちなみにこの約7.7兆円については、国債の発行取りやめで5兆円、地方交付税交付金等の「財源増」に4490億円が使われ、残額の2兆2645億円が「財政法第6条の剰余金」として計上される見込みなのだそうです。
「手取りを増やす」の「必要財源」とほぼ同額!
ところで、この「約7.7兆円」と聞いてパッと思い出すのは、昨年秋の衆院選で「手取りを増やす」を旗印にして国民民主党が大躍進した際、同党が主張する「基礎控除の一律75万円引き上げ」を実現させるのに必要な「財源」が約8兆円だ、などとする言説です。
この「8兆円減収」については昨年の『根拠薄弱…ペラペラの「7~8兆円の税収減」説明資料』などでも指摘したとおり、その計算根拠はペラ紙1枚で、「現在の基礎控除で減収となっている税額を、基礎控除拡大でそのまま掛け算したら8兆円」という、極めて杜撰(ずさん)な代物です。
しかも減税に伴う乗数効果の試算もまったくできておらず、経済理論に照らせば明確に「誤った計算式」だと断言できるものです。
いずれにせよ、「減税するなら財源を示せ」という主張自体がさまざまな意味で誤っていることについては、改めて指摘しておく必要があります。
- 減税に伴う乗数効果を無視している
- 現実に毎年、剰余金が発生している
- 歳出見直しの議論がなされていない
- 政府資産売却議論がなされていない
…等々。
給付金は単なるバラマキ
ただ、政府はこの税収増などを使い、今度はひとりあたり2万円の給付金を配るようですが、これも正直、ひどい話です。給付金と名乗っていますが、実態は高額納税者だろうがそれ以外だろうが、一律での給付であり、明らかに事実上のバラマキです。
そして、減税と異なり給付金には地方自治体などに事務コスト負担を押し付けているようなものでもあり(『「取って配る」の不合理…事務コストは自治体に押付け』等参照)、一部では国民ひとりあたり数百円から数千円の事務コストが必要との試算もあるようです(※試算の妥当性についてはよくわかりませんが…)。
つまり、「取って配る」は、最初から減税したときと比べて余分な事務コストもかかるうえ、税負担に照らして正しく給付が行われるということもありませんので、負担と給付の関係が崩れ、きわめて不平等な仕組みであると断じざるを得ないのです。
問題は、それだけではありません。
今回の給付金、どうやら子供に加え、住民税非課税世帯などに対しては2万円でなく、4万円を給付するのだそうです。
『負担と給付の関係がおかしい日本』を含め、現在の日本では負担と給付の関係がおかしい、といった話を何度となく指摘してきたつもりですが、今回の給付金も厚年などと同様、明らかに「負担と給付の関係がおかしい」事例でしょう。
日経新聞「給付金は事実上の『年金』」
こうしたなか、この「住民税非課税世帯への給付」を巡っては、「事実上の年金ではないか」とする指摘が出てきました。日経新聞に1日付で掲載されたこんな記事がそれです。
給付金は事実上の「年金」 高齢者=弱者ではない
―――2025/07/01 10:30付 日本経済新聞電子版より
執筆したのは日本経済新聞社論説委員の柳瀬和央氏です。
有料読者限定記事であるため、全文の引用は控えますが、思わずうならされる部分の要旨はこんな具合です。
「2023年国民生活基礎調査によると、住民税非課税世帯の75%は世帯主が高齢者(65歳以上)であり、また、全国の高齢者世帯の5割弱が住民税非課税世帯である。『住民税非課税世帯』という区分は真の困窮者と定義するのにふさわしいのか」。
このあたり、高齢者世帯のなかにも当然、生活困窮世帯が含まれている可能性はありますが、それと同時に高齢世帯のなかには多額の金融資産を保有するケースもありますし、また、そもそも「住民税非課税」となる年収のラインは、現役層と比べ高齢層の方が高いという事実も忘れてはなりません。
これについて柳瀬氏は、東京23区に住む夫婦世帯を例に、こんな比較を行います。
住民税がかからないライン
- 高齢夫婦の場合…世帯主の年金が211万円以下かつ配偶者の年収が155万円以下
- 現役世代の場合…世帯主の給与収入が156万円以下かつ配偶者の年収が100万円以下
要は夫婦合計だと、現役の課税ラインは256万円であるのに対し、高齢者の課税ラインは366万円と、現役層のそれを110万円も上回ってしまっています。そのうえで柳瀬氏は厚年モデル世帯の年金額がこの課税ラインを下回っているとする事実を指摘している、というわけです。
取って配るくらいなら最初から取るな
こうした事実を踏まえると、政府による「勤労層等への一律2万円」「非課税世帯への一律4万円」という「バラマキ」が不平等であるだけでなく、貧困対策という観点からも見当外れであることがよくわかるのではないでしょうか。
いずれにせよ、「取って配る」には政策としての合理性がないだけでなく、バラマキコストがかかる、本来の支援対象として意図している「貧困層」に支援が届いていない可能性があるなど、正直、百害あって一利なしの可能性が高いものかもしれません。
こうした観点からも、当ウェブサイトとしてはやはり、「取って配るくらいなら最初から取るな」、「給付より減税」説を強く支持したいと思う次第です。
View Comments (10)
>減税に伴う乗数効果を無視している
>現実に毎年、剰余金が発生している
実際に減税で8兆円も税収が減少するわけがないので、
結局「財源」は不要だったわけですね。
省庁の予算は、実績や効果をろくに検証せず
「使い切ったら翌年は増額」
「使い切れないと翌年は減額」
という謎の慣習や評価システムが前提にあるため
不必要な事業に「キッチリ予算を使い切って」
翌年度予算の増額をずっと繰り返してきた。
無数の天下り法人ができているのも
「安定的な高額役員報酬&予算使い切り先」を確保するため。
そして「財源」という名のカ〇アゲを際限なく繰り返す。
高所得者への減税は断固拒否するのに、
裕福な高齢者へのバラまきは気にしないのも意味がわからない。
貧しく困っているひと=低収入=住民税非課税なのだけれど、住民税非課税=貧しく困っているではないということ。年金収入は大したことないけど上場株の配当がたっぷりあるようなひと。配当は申告不要だからね。
要するに住民税非課税かどうかでは本当に困窮者かどうか把握出来ないということ。
配当の申告は必要です。
「平等と公平の違い」で知られる画像を、拝読していて思い出しました(もし未見でしたらググってみて下さい)
拙いながら簡潔に説明しますと、
大人、少年、幼児の3人が、スキマのない柵越しにスポーツ観戦しようとしています
大人は普通に立っても柵より高く、観戦できます
少年はギリアウト、幼児は全く見えません
そこに3つの観戦台が運ばれてきました
3人「平等」に、全員に1段の高さの観戦台を配ると、、、
大人はムダに高くなり、少年は見えるようになりますが、幼児はまだ高さが足りず見えません
「公平」だと、、、
大人はそのままで見えるのでナシ、少年には1段、幼児には2段、
これで全員、観戦できます
石破政権の真の狙いは「背の高い人へのムダな観戦台」=「高齢富裕層へのバラマキ」だったんですね、いつも気が付かせて下さりありがとうございます!
コロナの10万円の給付金。あの時はどういう議論だつたっけ? 困窮者を見つけるよりも国民全員に配るほうが早いということだったと記憶しているが。
今回は物価高の影響、とくに食品の影響を受けない国民はいないはずだということで年間の食品にかかる消費税を試算して2万円を給付金として払うということ。
8%をゼロにするのと効果は同じ。
私の疑問は明日から8%をゼロにしますといえば物価が8%下がる保証はあるのかということ。
人件費や中古売買などは、消費税は非課税だから、消費税ゼロにしても下がらんですね。
でもこういう話の時は無視してよい要素。
マクロの話では、
「消費税ゼロなら、物価も8%下がる」
でよいと思いますよ。
それに、財務省や国税庁の威信にかけてでも、
「把握できてないアングラ経済規模が大きいから、そのまで下がらない」
とか、言えるはずもないでしょうし。
100円のものを108円で売ってきたけど、消費税ゼロになったんだから106円くらいで売らせてもらおうか。仕入コストの上昇をずーと転嫁できなかったからね。
こういう店主がいても便乗とは責められない。
当たり前の経済政策が実施できないこの内閣、なんなの。穴だらけの移民政策をやった結果、怪しい薬の中継基地になったり、どんな戦略で関税交渉したのか、取引コストの爆上がりで大損害を日本にもたらしている感じです。まともに交渉しろよ。情けない。
いつも楽しみに拝読しております。
国民民主党が基礎控除の一律75万円引き上げと言っていた時も同様に思ったのですが、税の仕組みは翌年以降も営々と続くものです。自らの収入の予測に基づいて今後の手取り金額が予測できるのであれば、国民本人が自己責任で将来設計や消費性向など使い道を判断できます。一方、取って配る一時的な給付金は、その時限りの目先のものでしかありませんから人生の先のことまで影響することはありません。
国民が自分の判断で自分のお金の使い道を決めることを、なぜ政府がこれほど忌避するのか不思議でなりません。一部の野党が騒いでいる消費税減税も同じように目先のものに見えています。投票には必ず行きますが、誰に投票するか本当に悩ましいですね。
>>住民税非課税世帯の75%は世帯主が高齢者(65歳以上)
>>現役の(住民税)課税ラインは256万円であるのに対し、高齢者の課税ラインは366万円と、現役層のそれを110万円も上回ってしまっています。
一方、子育てに費用がかかる30代、40代、50代の住民税非課税割合は12.0%、10.0%、13.6%となっています。(「LIMO」yahooニュースより)
こんなところにも、現在の少子化の一因があると思います。