愛媛県警の捜査車両に設置されたカーナビを巡り、NHKとの契約が行われておらず、受信料約644万円が未払となっていたとの報道が出てきました。色々ツッコミどころだらけですが、そもそも受信料は公金であり、捜査員が自動車運転中にNHKなどを視聴するとも考え辛い中で、改めてNHK問題の矛盾を認識させられる事案といえるかもしれません。
目次
NHKの問題の本質
NHKといえば、みずから「公共放送」と名乗り、「皆様からの受信料」で運営されている組織です。
しかし、当ウェブサイトでもこれまでしばしば取り上げてきた通り、その実態は、連結集団内に(年金資産を含めて)約1.4兆円の金融資産を抱え込み、1万人あまりの職員に対し、単純計算で1人約1500万円という人件費を支払っているという組織でもあります。
当ウェブサイトでは、NHKの経営実態についてはほぼ毎年ウォッチしており、たとえば昨年の決算データについては『最新決算で読むNHK乱脈経営実態とテレビ業界の末路』などでも詳しく触れていますので、ご参照ください(※なお、今年も似たような分析を実施したいと考えています)。
「NHKが赤字決算だった」―――。こんな話題がネット上を賑わせているようです。ただ、連結ベースで見て、保有する金融資産の額は1.35兆円と相変わらず巨額であり、また、職員1人あたりの人件費水準は、昨年よりも減ったとはいえ、依然、1489万円。NHKが公表した財務諸表や連結財務諸表、今年もやはり、いろいろとツッコミどころだらけでもあります。ただ、著者自身の予測によれば、テレビ業界もあと10年で、現在の新聞業界のようになる可能性が高いと思います。カネ持ちNHKNHKの金融資産の額は1.35兆円!NHKは26日までに... 最新決算で読むNHK乱脈経営実態とテレビ業界の末路 - 新宿会計士の政治経済評論 |
それはともかくとして、NHK問題の本質は、「国民が選択していないのに組織が存在していること」にあります。
選挙や経済競争で勝ち残るのが鉄則
これについては、いくつかの政党や企業などの事例を考えてみればよくわかります。
日本では、政治的権力を持つ人物(たとえば政治家)や組織(たとえば政党)は自由選挙を通じて選ばれますし、社会的影響力を持つ人物(たとえばビジネスパーソン)や組織(たとえば企業)となるためには、自由経済競争を勝ち残る必要があります。
トヨタ自動車や本田技研工業の役職員が高額な報酬を得ていたとしても、それはこれらの会社が素晴らしい製品を世に送り出し続けていること(そしてそれを世界の人々が支持し続けていること)の対価であり、そこに後ろめたい点はありません。
また、現在のところ、自民党は衆院側で少数与党に転落しているとはいえ、依然として第1党であり、その党の代表者である石破茂総裁は、第1党にふさわしく、内閣総理大臣としての地位にあります(※ただし、いつまで続くかはわかりませんが)。
つまり、日本のような自由・民主主義社会において政治的権力や社会的影響力を持つ個人・組織は、基本的には選挙か自由経済競争のいずれかを経ているべきだ、ということですが、それだけではありません。
もし私たち日本国民がその状況に不満を持つならば、国民の総意として、こうした状況を是正することが可能です。
たとえば自民党に強い不満があるというのならば、日本国民は次の選挙でこぞって自民党以外の政党、自民党公認候補以外の候補に票を投じればよいのであり、それをすることで政権交代を成し遂げることができます(自民党を政権から放逐することで、より良い国になるとは限りませんが)。
また、トヨタ自動車のクルマに不満があれば、トヨタに顧客としての意見を伝えるだけでなく、トヨタ以外のメーカーのクルマに乗り換えるという選択肢もありますし、これはトヨタ自動車から見れば、顧客をないがしろにする製品を世に送り出せば、自分たちが消費者から見切られてしまうリスクがある、という意味でもあります。
すなわち、自由・民主主義社会とは、政治的権力や社会的影響力のある企業・組織・個人を、正当な手段(選挙や経済活動)により押し上げることができる社会であるとともに、彼らからその政治的権力・社会的影響力を平和裏に簒奪(さんだつ)することができる社会なのです。
国民にはNHKを倒産させる自由がない
NHKには、これがありません。日本国民は、NHKを倒産させる自由がないからです。
それは、受信料の支払い義務は事実上、放送法第64条第1項に規定されていることからも明らかでしょう。
厳密にいえば、同法に規定されているのは「受信契約の締結義務」であり、「受信料の支払い義務」ではありませんが(条文参照)、契約を結べば契約に従い受信料の支払い義務が生じるため、事実上、「法で受診料支払いが義務付けられている」ようなものでしょう。
放送法第64条第1項
協会の放送を受信することのできる受信設備<中略>を設置した者は、<中略>協会と受信契約を締結しなければならない。<後略>
つまり、テレビを設置したら、その人が好む、好まざるを問わず、NHKに受信料を払わなければならない、ということです。ちなみにこの受信料は、「NHK税」ではありませんが、事実上、なかば税金としての性格があることは間違いないでしょう。
NHKが公共放送にふさわしくないと思えるような番組を放送しても、それに対する罰を与えることができないからです。すなわち、もし国民の総意が「NHKの存在は許されない」と考えたとしても、現状、NHKを直接倒産させることはできないのです。
公的団体と民間団体の良いところどり
もちろん、「NHKを廃止する」を公約に掲げる政治家や政党を大量に国会に送り込めば、あるいは、多くの国民がテレビを捨てる決断をし、NHKの経営が成り立たなくなる程度に日本全体でテレビの台数が減るかすれば、話は別かもしれません。
しかし、現状において、国民が直接、「NHK不買運動」などを通じてNHKに受診料を払わないという行動をとることは非現実的です(いちおう法に定められているわけですから、当ウェブサイトとしても、違法行為を推奨するわけにもいきません)。
それに、NHKは「公共放送」を名乗っていますが、「役所」ではありませんので、NHK職員は公務員ではありません。
「NHKはテレビ業界なので、そのテレビ業界で競争力のある人件費を維持する必要がある」、といった言い分を聞くこともありますが、いわば、民放と異なり公的な存在を装いながら、役所と異なり公務員ではないという意味で、民間、役所の「良いところどり」をしている格好です。
愛媛県警カーナビ事件をどう見るか
そんなNHKを巡って、新たな話題が出てきました。
愛媛県のTBS系列『あいテレビ』は先週金曜日、愛媛県警が捜査用の車両に設置しているカーナビを巡り、テレビの受信機能が付いているにも関わらず、NHKとの契約を締結しておらず、受信料が未払となっていた、と報じました。
警察捜査車両のカーナビ38台でNHK受信料を未払い 約644万円支払いへ「今後テレビ受信の必要のないカーナビは原則撤去する」愛媛県警
―――2025/03/14 16:06付 Yahoo!ニュースより【あいテレビ配信】
記事によれば未契約だったのは捜査車両のカーナビ38台で、未払の受信料は約644万円であり、最も古いものでは2008年度から未契約状態だったとしています。そのうえで県警は、今後、テレビ受信の必要がないカーナビについては原則撤去するなどの対応を取るのだとか。
ただ、これもいろいろおかしな話です。
捜査用の車両でNHKを含めたテレビを視聴することがあるのか、というのも想定しづらいところですし(まさか運転中に勤務中の捜査員がテレビを視聴するのでしょうか?)、また、受信料も結局は県民や国民の税負担です(地方交付税を通じて愛媛県民以外の国民もそれを負担している可能性があります)。
ちなみにNHKウェブサイトの『携帯電話・スマートフォン、カーナビ、パソコンで放送を受信可能な場合は受信料が必要か』によると、こんな記載があります。
NHKの放送が受信可能な携帯電話・スマートフォン、カーナビ、あるいはパソコンについても、放送法第64条によって規定されている「協会の放送を受信することのできる受信設備」であり、受信契約の対象となります。その他のNHKのワンセグ放送が受信できる機器についても同様です。
ただし、受信契約は世帯単位となりますので、一般のご家庭の場合、放送の受信が可能な受信機を携帯電話・スマートフォン、カーナビ、あるいはパソコンを含めて、複数台所有していても、必要な受信契約は1件となります。
一方、事業所の場合は、設置場所(部屋など)ごとの受信契約が必要となります。
つまり、警察車両はカーナビを設置している警察車両ひとつひとつが「設置場所」であり、車両ごとに受信契約が求められる、ということなのでしょう。
なんだかメチャクチャですね。
今後のNHK問題
このあたり、個人的には、これからはホテルも「地上波が映るテレビを設置しない」、あるいは「スマートTVのみを設置する」などの対応を取っても良いのではないか、という気がしてなりません。あるいは、カーナビも地上波を映さないタイプに変えていくのが正解かもしれません。
メーカー側も、テレビ業界との長年の付き合いなどがあり、そのような商品の開発は難しいのかもしれませんが、すでに一部家電量販店などでは(ハイエンド型ではないにせよ)地上波が映らない「チューナーレステレビ」などの取り扱いもあります。
いずれにせよ、すでにSNSなどインターネットが、社会的影響力という観点で、新聞、テレビを中心とするオールドメディアを凌駕している時代でもあります。総務省や国会議員も、いつまでもNHK問題を放置し続けることはできません。
国民の間で高まるNHK不信を解消するためには、いずれ、「NHKスクランブル放送化」や「NHK存続を巡る国民投票の義務化」などの抜本的な対策が必要となることは間違いないでしょう。
浜田聡事務所の対応
なお、「NHKから国民を守る党」所属の浜田聡参議院議員の公設秘書である村上ゆかり氏は17日、山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士のXへのポストに対し、NHK経営企画局へ質問を送付したとポストしています。
これに関しては、なにか興味深いアップデートがあれば、いずれ紹介したいと思う次第です。
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受信機器メーカーやホテルも、NHKに「みかじめ料」を払っているということでしょうか。
なお、カーナビのテレビを受信できなくするには、カーナビやアンテナ自体を撤去しなくても、フロントガラスに貼ってあるアンテナフィルムを剥がすという方法があります。
ある会話
「不払いの経費が嵩んで仕方がない」
「うちを見習え、取りやすいところからガッポリ頂けばいい」
かなり前ですが、うちの者が紅白歌合戦のバイトをしていたことがあり、その際にプロデューサーにでんぶを触らせたようです。NHKも他のテレビ局同様の慣行があるのかもしれません。警察のカーナビを攻撃するのであれば、反撃として、今、話題のテレビ局の捜査をしてみるのも面白いかもと思っています。NHKからも色々ネタが出てくると思います。