X

「手取り増やす」は維新が潰す?

結果的に、維新が国民民主の「手取りを増やす」の実現を阻んだことになった、などと評されることになるかもしれません。いくつかのメディアの報道では、自公維3党の予算案修正に向けた合意文書案が作成され、週明けの25日、維新が内部で受け入れ可能かを検討するのだそうです。ただ、万一、維新が予算案に賛成することになれば、自公としても国民民主党とこれ以上交渉する必要はなくなり、結果的に国民民主案が実現しない可能性が非常に高くなります。

「手取りを増やす」は必要だし実行可能な政策

「手取りを増やす」、は、国民民主党が昨年の衆院選で掲げた公約のひとつです。

著者自身としては、国民民主党が常に正しいことを主張しているとは考えていませんし、また、完璧な政治家ばかりが所属しているとも思いませんが、少なくともこの「手取りを増やす」に関してだけいえば、経済政策的には非常に正しく、適切なものであると断言しておきたいと思います。

いや、国民民主党が主張する「178万円」が、新たな「壁」の水準として適切なのか、という問題はありますが、少なくとも「壁」を引き上げること自体は必要ですし、また、十分に可能である、とするのが、スタンダードなマクロ経済学、および現在の日本国内の資金循環構造からみて導き出せる結論であることは間違いありません。

そもそも現在の日本では、税金を「取り過ぎて」います。

日本では過去最高の税収を毎年のように記録していますが(※おそらく今年度もそうなるでしょう)、使いきれずに残る巨額の剰余金をほぼ毎年のように計上している状況(『財源論者に不都合な事実…来年度税収見通しは過去最高』等参照)で、税不足は生じていません。

最近、減税反対派は「減税派は財源を示していない」、とする主張に終始しているようです。減税に反対する理由がひとつひとつ論破されたためでしょうか。ただ、この「財源論者」にとって、またしても不都合な事実が出てきました。一般会計では毎年のように巨額の剰余金が計上されています(しかも毎年のように、公債の発行が中断されていながら、です)が、それだけではありません。先日の補正予算で2024年の税収見通しが上方修正されたばかりですが、報道等によると、27日にも閣議決定される来年の税収見積もりが70兆円台後半と過去最...
財源論者に不都合な事実…来年度税収見通しは過去最高 - 新宿会計士の政治経済評論

また、そもそも「国の借金がたくさんある」とする言説自体、現在の日本の資金循環構造を無視した暴論のようなものであり(『【総論】「国の借金」説は、どこがどう誤っているのか』等参照)、なにより国に存在する資産を無視して債務の絶対額だけを議論しても意味はありません。

3番目の外貨準備組入れ通貨…これのいったいどこが「信頼を失っている通貨」なのでしょうか?巷間で最近よく見かける「国の借金」プロパガンダは、たいていの場合、その冒頭から間違っています。というのも、そもそも「国の借金」などという概念は、存在しないからです。本稿では大事な「総論」として、この「国の借金」論のどこがどう不適切なのか、改めて詳細に論じてみたいと思います。そのうえで、私たち国民が有権者として懸命に振る舞うことが必要だ、という点についても、あわせて指摘しておきたいと思う次第です。プロローグ:...
【総論】「国の借金」説は、どこがどう誤っているのか - 新宿会計士の政治経済評論

日本の国を挙げた対外債権が過去最多かつ世界最多であるという事実を見るまでもなく、日本には国全体で資産が有り余っていますので、国が債務を発行せずに税金でカネを吸い上げれば、あっという間にデフレ状態に逆戻りすることは、経済学的な視点から見れば当たり前すぎる話です。

財務省はともかく自民党は何をやっているのか

ただ、それと同時に現在の自民党が党を挙げてこの正しい経済学の知見を持っているのかについては大いに疑問があります。

財務省が減税に否定的な理由は、「論より証拠」で、もし大幅な減税が行われてしまえば日本経済が大いに回復してしまい、財務省が進めてきた増税原理主義が明らかに誤っていたことが白日の下にさらされ、財務省にとっては組織の存続問題にも発展しかねないからでしょう。

そんな財務省が正しいマクロ経済学を理解していないことは、いまさら言うまでもありませんが、自民党までそうだと困り物です。故・安倍晋三総理大臣がなぜ、若者たちに支持されていたのかといえば、まさに安倍総理のリフレ派的な政策が若年層に支持されていたからです(※著者私見)。

この点、高市早苗氏については、自民党税調インナーに対して異例の強い口調で批判をしたことがちょっとした話題になっていますが(『減税に後ろ向きな自民税調インナーを高市氏が公然批判』等参照)、それ以外の現職自民党国会議員らの考えが、なかなか見えてきません。

宮沢税調会長の案に一般国民から怒りの声多数

それどころか、少なくとも宮沢洋一税調会長は、明らかに財務省の立場を代弁しているのか、次から次へと複雑怪奇で減税効果の実質的骨抜きを図るかの減税案を出してきている状況にあります。

昨日の『今度の減税「与党案」は基礎控除が8つの区分に複雑化』でも取り上げた「8段階の基礎控除」に関してもその典型例であり、これなど「税は公平、中立、簡素であるべき」などとする原則から、著しく逸脱したものであると断じざるを得ません。

自公国3党は22日、いわゆる「年収の壁」を巡って協議するなかで、与党側が新たな提案を行ったようです。ただ、控えめに申し上げて、意味がわからないと断じざるを得ない内容です。年収区分などに応じて細かく基礎控除の額を変動させるという、大変複雑な仕組みだからです。宮沢洋一氏に調整能力などないことがわかったわけだから、自民党は宮沢氏をさっさと税調会長から外すべきではないか―――。老婆心ながら、そう思わざるを得ません。控えめに申し上げて、意味がわからない自公案先日の『公平でも中立でも簡素でもない…自民党の複雑...
今度の減税「与党案」は基礎控除が8つの区分に複雑化 - 新宿会計士の政治経済評論

というよりも、(これは著者自身の主観かもしれませんが)Xやヤフコメなどにおける一般人の反応を見ていると、どうも安倍総理の時代に自民党を支持していた保守層、あるいは現役で働いている中間層や高所得層などを中心に、明らかに自民党に対して失望や怒りの意見を多く見るようになりました。

これは、大変に良くない兆候ではないでしょうか。

安倍総理の時代であれば、「年収の壁」が話題になりだした瞬間、それをさも自民党の以前からの主張であるかのごとく、あるいは国民民主党のお株を奪うかのごとく、「年収の壁を103万円から200万円まで引き上げま~す」、などと宣言していたのではないでしょうか(※あくまで個人的主観です)。

今回の「年収の壁」問題に加え、年金保険料の上限引き上げ、高額療養費の上限引き上げなどの問題を見ていると、石破茂・現首相率いる自民党には、こうした臨機応変さもなければ国民経済に対する深い洞察もないのではないか、などと思わざるを得ないのです。

本来ならば政治家側が猛勉強し、賢くなったうえで、財務官僚、総務官僚、厚生労働官僚といった官僚ごときの屁理屈を国民の信を得た力でねじ伏せるべきなのですが、少なくとも石破首相本人に、そうした「猛勉強の痕跡」が見当たらない気がするのは、本当に気になるところです。

自公維3党で合意文書…維新は週明けに検討か

さて、それはともかくとして、(著者自身の理解だと)国民民主党は所得制限なしの一律での基礎控除引上げを要求してきたはずであり、また、自公が衆院側で少数与党状態となるなか、自公側としては国民民主党か日本維新の会のいずれかの協力を必要としているはずです。

国民民主もこの自党の立場をよく理解し、予算案への賛成などと引き換えに、先の衆院選で掲げた公約のうちの「年収の壁」とガソリン暫定税率廃止などを自公側に要求してきました。

ただ、自公側としては、べつに国民民主党に「だけ」協力を要請しているわけではありません。

当然、維新との間でも協力を模索しており、金曜日の深夜から土曜日にかけ、自公維3党が予算案修正に向けた合意文書を取りまとめた、などとする報道が出てきています。

いくつかの社が類似する報道を出しているようですが、ここでは時事通信の記事を紹介します

自公維、予算修正合意へ 吉村代表「実行すれば公約実現」―年度内自然成立は困難

―――2025年02月21日22時24分付 時事通信より

時事通信によると3党の政調会長は21日、2025年度予算案修正に向けた合意文書を取りまとめ、維新派この文書案が受け入れ可能かについて、週明けの25日にも党内で議論する方針だ、というものです。

そして、記事にはこう記載されています。

維新内には予算案賛成に慎重意見も残るが、吉村洋文代表(大阪府知事)は正式合意に前向きな姿勢を示しており、文書案は了承される公算が大きい」。

…。

維新が潰す「手取りを増やす」

もちろん、現段階では維新が予算案への賛成を正式に決定したわけではなく、「文書案が了承される公算が大きい」というのも、あくまでも時事通信の観測に基づくものでしょう。

ただ、現段階で「もしも」の議論をするには少し早いものの、万が一、これが維新内部で了承され、予算案の採決時に維新で大規模な造反でもない限り、予算が成立することになります。

当然、自民党としても、国民民主党との協議をこれ以上続ける必要がなくなります。

ちなみに肝心の文書案には、教育無償かをめぐる私立高校生向けの就学支援金を45万7,000円に引き上げることと、国民医療費を最低4腸炎削減し、現役世代の社会保険料を年間6万円引き下げることが盛り込まれているのだそうです。

ただ、(あくまでも記事で見る限りは)社保の引き下げに向けた具体案と明確なスケジュールがあるのかは不明ですし、『維新「社保引き下げ」主張するも…具体案はこれから?』でも指摘したとおり、肝心の維新案自体、現時点で中身は「空っぽ」に近い代物です。

ということは、(自公維3党にその意思があるかないかは別として)維新が結果的に国民民主党の減税案を潰した格好となりかねません。

国民民主は今夏の参院選に注力か

これはあくまでも「政党間の理屈」の話ではなく、「国民の目からはどう見えるか」、という論点です。

おそらく、(とりわけ「年収の壁」引き上げを期待していたであろう)多くの勤労者の目から見て、維新は減税を「潰した」ように見えるでしょうし、国民民主党自身にとっても、ここまでコケにされたのであれば、予算案に賛成する義理などなくなります。

つまり、「自公維3党の賛成多数で予算案が成立したこと」で、「国民民主党が提唱した減税案が潰える」という事象が発生しているのであり、これにより、維新は自公両党と並んで「減税に後ろ向きな政党」という烙印を受ける可能性が出てきてしまった、というわけです。

このあたり、維新と国民民主が連携し、年収の壁と社保を「どちらも下げる」という方向を模索する、という道はなかったのか、など、見ていてなにかとツッコミどころもあります。

ただ、いずれにせよ、国民民主党の戦略「だけ」で見るならば、同党としてはこれ以上譲歩する必要も何もありませんし、今夏の参院選でできる限り多くの候補者を立てることに注力するのが、同党としての賢明な戦略なのかもしれない、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (12)

  • 国民民主玉木代表が本日から3日間の予定で台湾を訪問するとの記事が出ました。現地からの招きだと記事にあります。
    自民石破党首と立憲民主野田党首、どちらもまとめて過去の人と見なされる可能性が強まってきました。機会主義者の維新も道連れになるでしょう。2025年がどんな終わり方をするのか楽しみでしょうがありません。

  • 維新の関西のゴタゴタ(対処の悪さ)を全国民が見てるし、合わせて国政でも103万つぶし。
    自公維は参院選でひどい目を見る可能性はある・・・
    けど、国民民主のどれくらいが候補者を出すのかか・・・

  • 今回の件このまま手取りを増やすが潰れるとすると新宿会計士さんの仰る通り「参院選は非常に厳しい」結果になるのではないでしょうか。

    自民食堂は、「家族連れや現役の労働者」現場で沢山働いてこれから体力をつけなければいけない人には「少しのご飯」しか出さずに値上げで「高額な料金」を、理由を尋ねると「経営が苦しい、潰れてしまう」といい
    その一方で「高齢者や働いていない人」に「贅沢な食事」を与え、をき何故かお金まで渡して」いるという状況に見えます。

    これでは現役世代が激怒するのも無理はないのでなんとか方針転換してほしいと思います。

  • いつも楽しみに拝読しております。

    維新が予算を早く通したい本音は、国の予算に計上されている大阪万博費用の早期執行のためではないかと、東洋経済にジャーナリストの安積明子さんという方が書いておられました。
    高校無償化も医療費削減も単なる言い訳なら、具体的な中身が薄いのも当然です。こんな政党はさっさと「大阪」維新の会に戻って国政関わらないで欲しいですね。

  • 何故維新が民意に背いてでも自己中心的な行いをしたのかというと、今年の参議院選挙では負けても痛手にはならないからだと思います。
    なぜならば今回の参議院選挙で維新の改選議席数は18議席中6議席でどんなに悪くとも大阪選挙区で2議席、比例で1議席の合計3議席は取れて3議席を減らす程度でそこまでの痛手にはならない。なので国民からの反感を買ってでも自己中心的な振る舞いをしたのではないでしょうか?
    大阪の人、良く考えて投票してくださいね。

  • 自民も維新もわかって無いんですよね。ご指摘の通りだし、選挙は参衆も地方も首長も色んなのがあり、延々と続く中で昔と違って今は、その時だけの公約とか通じなくなって来てますからね。
    あ、こいつ維新かよ、コイツは自民かとなりますよ
    昔は党内政局、永田町の理論とかふざけた話が今は優秀な集合知のSNSとかが民意を作りますし。
    国民民主も内心はハラハラしてるし、自公維とかは思い知っても手遅れですよ

  • 自民・公明・維新が国民の手取りを増やす政策を潰したことになればお仕置きが必要ですね。参議院選挙で国民が意思を示しコヤツらに(ついでに増税大好き党首の立憲共産党にも)思い知らせないとあきませんけど、投票率が50%そこそこならば、今の状況を作っているのは正しく国民の意思そのものなので、この国は主権在民・民主主義が機能しない官僚主権と操られ政治屋を支えるアホウな国民の国の証左になるのでしょうね。昔、衆院選挙の最中に世論調査で投票先未定と答えた人が多数いることに触れて『そのまま(選挙に)関心がないといって寝てしまってくれれば』と言った元総理がいましたが、予算案を通した後の自民・公明・維新の思いそのままではないでしょうか?と、思いますけれども。皆さん選挙に行きましょう。特に10,20,30代の若い諸君。諸君らの投票率が80%を超えるようになれば、この国の政治は若者が有利な方向に劇的に変わると思いますよ。何時までも年寄り優遇(と思われる)でいいんですか?因みに私も年寄りですけれどもね。

  • 榛葉「178万円に近づけて上げていくのを邪魔をしたのは、維新にも責任」
    吉村「いや違う!他党のせいにするな!だいたいfd;えgっ*※?*ふじこ
    ・・・」
    前原「へへっ!僕って頭いいでしょ?」

    まあこれを見て、有権者がどう判断するかですね。

1 2