往年の名作アニメ『銀河鉄道999』には、「魔女の竪琴」というエピソードがあります。すでに200年前に死んだ女王が作ったプログラムがいまだに人々を苦しめていて、人々は食料を献上しなければならないため、極端に貧しい暮らしを送っている―――。なんだか、作り話ではなく、現代の日本そのものを示しているエピソードに思えてなりません。現実の日本では、高年収層を貧しくする政策が行われる一方、低年収層も豊かに生活できるというものでもないからです。
目次
私たちはどれだけ「引かれている」のか
当ウェブサイトは「読んでくださった方々の知的好奇心を刺激すること」を目的に、「客観的な証拠と透明なロジックをもとに一定の結論を得ていくこと」という議論展開を大切にしているつもりです。
そして、厚生年金、健康保険、介護保険、雇用保険といった社会保険料、あるいは所得税・復興税・地方税といった税金に関しては、客観的に誰でも確認可能な法令などに基づいて金額が決定されているため、じつは当ウェブサイトにおいては議論が非常にやりやすい論点でもあります。
先日の『【総論】我々は給料からどれだけ「引かれている」のか』は、一種の「保存版」として執筆した記事です。というのも、現在の法令などに従い、私たち日本国民の給与から天引きされている金額を可能な限り正確に試算したうえで、実質的な賃金と手取りの関係を示したものだからです。
年金制度にみる「払い損」の仕組み
改めて指摘しておきますが、日本の税制・社会保障制度は、本当に酷いものです。
まず、年収が上がれば上がるほど、税金や社保の負担が上昇しますが、だからといって受けられるサービスが比例して増えるわけではありません。
たとえば厚生年金の場合は保険料率が9.15%と定められているため、年収が上がるほどに支払う保険料は上昇するわけですが(※ただし賞与がない人の場合は、月収665,000円・年収約800万円までで頭打ちになります)、支払った保険料に見合う年金が受け取れるとは限りません。
しかも、社保は本人負担分だけでなく、それと同額以上を雇用主も支払っているため、じつは、年金保険料率は9.15%ではなく、実質的には18.3%なのです。
そして、賞与なしの月給665,000円(標準報酬月額でいえば65万円)の人は、毎月、本人が59,475円、雇用主もそれと同額の59,475円、合計すると118,950円を支払わされているわけであり、仮に22歳から65歳までの間、ずっとこの金額を払い続けると、生涯で支払った保険料は約6300万円です。
ただ、厚労省『公的年金シミュレーター』によれば、年収800万円の人が22歳から65歳まで厚年に加入したとして、66歳以降にもらえる年金見込額(※1970年生まれ以降として想定)は、わずか267万円。
年金を受給し始めてから、自分自身とその雇用主が過去に支払った保険料を(運用利回りがゼロだったと仮定しても)全額回収するのに23.58年(!)もの年月が必要ということであり、ざっと90歳前後まで生きなければ元が取れない、という計算です。
なんとも酷い話です。
本来の受給額と実際の受給額にここまでの差があるとは!
ちなみに22歳から65歳までの間、ずっと年収100万円だった人が受け取れる年金額は117万円、つまり「年金額÷現役時代の年収」は1.17倍です。
そして、仮にすべての年収層が支払った保険料の1.17倍の年金を受け取れるならば、年収990万円の人はその1.17倍である1158万円の年金を受け取れなければおかしいはずなのに、現実に受け取れる金額はその4分の1の297万円(!)に過ぎません。
少なくとも賞与抜きで年収800万円までの層(賞与込みだともう少し上限は上昇します)は、年収が上がれば上がるほど保険料も高くなるにも関わらず、図表に示した通り、現実に受け取れる額がこの比例額と比べて著しく低いのです。
図表1 年金保険料と受給額の関係
(【前提】便宜上、生涯保険料は年収×18.30%×43年で計算。見込受給額は『公的年金シミュレーター』で試算した、1970年以降生まれとしたときの66歳以降の受給額を示す)
正直、社保、とりわけ年金と健保に関しては、現役層はあまりにも取られ過ぎですし、また、たくさんの社保を取られたとしても、その分、多くの保障が受けられるわけでもないのです。
高額療養費引き上げは現役層への「死刑宣告」
こうした問題が生じるのは、厚生年金だけではありません。
最近の話題だと、いわゆる「高額療養費」、つまりガンなどの大病を患うなどして高額の医療費を負担した際に、上限を超えたら返金されるという基準値が、2027年8月以降、大幅に引き上げられるなどの報道もあります(図表2)。
図表2 報じられている、年収・月手取りと高額療養費上限の対応表(ボーナス4ヵ月分の場合)
年収 | 健康保険料 | 高額療養費上限 |
0万円~ | 0円~ | 約3.6万円 |
98万円~ | 0円~ | 約6.1万円 |
200万円~ | 8,317円~ | 約7.0万円 |
260万円~ | 10,812円~ | 約7.9万円 |
370万円~ | 15,386円~ | 約8.8万円 |
510万円~ | 21,208円~ | 約11.3万円 |
650万円~ | 27,029円~ | 約13.8万円 |
770万円~ | 32,019円~ | 約18.8万円 |
950万円~ | 39,504円~ | 約22.0万円 |
1040万円~ | 43,247円~ | 約25.2万円 |
1160万円~ | 48,237円~ | 約29.0万円 |
1410万円~ | 58,633円~ | 約36.0万円 |
1650万円~ | 69,361円~ | 約44.4万円 |
(【注記】各年収に対応する健康保険料は月額で、介護保険を含まない本人負担分のみとし、便宜上、その金額はその年収を12で割った額の4.99%として算出している)
改めて見ると、これも酷い改悪です。
年収1650万円といえば、少なくとも毎月7万円近い健康保険料を負担しているにも関わらず、いざ病気になったときには最大で44.4万円を自己負担しなければならない、ということだからです。
そしてこの改悪は、高所得の現役層に対し、まさに、「病気になったら死ね」と宣言しているのとまったく同じです。
なにせ、年収1650万円といえば、世間では「高収入」と思われているフシがありますが、たとえば年間の賞与が給与の4ヵ月分(つまり月収が年収の16分の1)だったとすれば、ボーナスを除いた毎月の手取りは729,540円に過ぎません。
手取り73万円の人に対し、「44.4万円を自己負担しろ」、などと言われても困ります。
とりわけその人が現役の子育て世代で、子供が育ち盛りだったとしたら、子供にとっていちばんおカネが掛かる時期でもあります。そうなると、子供の塾や習い事をやめさせるか、自分自身が治療を諦めて死ぬか、という二択を迫られるわけです。
最高税率55.945%!江戸時代もビックリ、まさかの六公四民!?
ただ、日本の制度の問題点は、こうした「高負担者が低受益者となっている」という点だけではありません。
全体最適を考える者が明らかに存在せず、国民から税を取り立てる立場にある者(たとえば厚労省以外に財務省や総務省など)が力を持ちすぎている、というのも大きな問題です。
先般より指摘している通り、高年収層になればなるほど税率は上がり、所得税・復興税・住民税の合計税率は、最大でなんと55.945%(!)です(図表3)。
図表3 所得別・実質税率(所得税+住民税)
所得額 | 所得税率 | 所得復興税 | 所得復興住民税 |
1,000円~ | 5% | 5.105% | 15.105% |
1,950,000円~ | 10% | 10.210% | 20.210% |
3,300,000円~ | 20% | 20.420% | 30.420% |
6,950,000円~ | 23% | 23.483% | 33.483% |
9,000,000円~ | 33% | 33.693% | 43.693% |
18,000,000円~ | 40% | 40.840% | 50.840% |
40,000,000円~ | 45% | 45.945% | 55.945% |
(【出所】当ウェブサイト作成)
すなわち、社保のうちの年金と健保、介護に関しては負担率に上限があるのですが、税の方には上限がないため、高年収層は容赦なく、稼ぎに対して最大55.945%(!)という税金を取り立てられるわけです。これに社保だ、消費税だといった公租公課負担を合わせれば、事実上の税率は最大で60%を軽く超えるでしょう。
江戸時代もびっくりの「七公三民」、です。
低所得層は高すぎる社保負担に苦しみ、高年収層は重過ぎる税負担に苦しむ。
いったいだれが幸せになるのか。
実際のところ、これらは私たち国民が直接選んだわけでもない官僚(保険料に関していえば厚生労働官僚)らが事実上、自由にいじってきた結果でもあります。「国会議員はいったい何をやってきたのか」という点についても腹立たしい点ではありますが、最も責められるべきは官僚でしょう。
「財務省内では増税したら出世できる」といううわさがまことしやかに流れているようですが、それが事実だとしたら、財務省というのはまことに本質をはき違えた組織だと断じざるを得ませんし、「国民の敵」呼ばわりされても仕方がないでしょう。
交響詩魔女の竪琴:200年間の税の重み
さて、当ウェブサイトではもう何度となく指摘してきた通り、現代日本の問題点といえば、高年収層は累進課税と応能負担、所得制限、給付制限の合わせ技で、低年収層と比べても貧しい生活を余儀なくされることがありうる、という点ですが、それだけではありません。
低年収層も豊かに暮らせるのかといえば、そういうわけでもありません。先般より指摘している通り、社保の負担率は低年収層でも思いのほか重いからです。
こうしたなかで、改めて指摘しておくならば、以前の『剰余金21兆円!税を「取り過ぎている」亡者・財務省』でも取り上げたとおり、往年の名作アニメーション『銀河鉄道999』の第65話『交響詩魔女の竪琴』のエピソードが、現在の日本の状況を説明するうえでは一番しっくりと来ます。
あらすじは、こうです。
「『魔女の竪琴星』では、ほとんどすべての食料を貢物として女王に捧げてしまうため、200年もの間、食糧不足にあえいでいる。主人公・鉄郎が知り合った少年は、わずかな食料のため殺されてしまう。怒った鉄郎は女王の宮殿に潜入するが、すでに女王はミイラと化していた」――。
ちなみに税として徴収された食料は、人々の生活を豊かにすることに役立てられることはなく、それどころか女王の死後も集められ続けた200年分の貢物が誰にも食べられることもないまま腐敗ガスを発しているのです。
私たち現代に生きる日本国民にとっても、このエピソードを笑い飛ばすことはできません。この「税の亡者と化したミイラ女王と自動プログラム」は、まさに国富を「税の亡者」財務省がゴッソリ召し上げ、そこに腐敗利権が群がるという、現代日本の姿そのものだからです。
官僚どもが私たち民間人よりも「上手なおカネの使い方」をするというものでもありませんので、税や社保として集められたおカネは、銀河鉄道999の腐敗した食料と同じく、社会の中で死に金となっているわけです。もちろん、200年前に死んだ女王が遺したプログラムが、現代日本の税法や社会保険システムです。
腐敗利権を残すのか?それとも…
すなわち、この日本という国は、高年収層であっても豊かには生きられないための仕組みを、せっせ、せっせと作り上げてきたわけであり、その主犯こそが、国民から選挙で選ばれていない官僚という存在であり、その官僚の共犯者が新聞、テレビといったオールドメディアだったのでしょう。
余談ですが、フジテレビ問題に端を発するテレビ業界の混乱は、自浄作用が働かないマスメディアという腐敗業界を、私たちの社会がSNSの力を借りて排除しようとする動きだとも考えられます。もちろん、マスメディアの次に排除しなければならない腐敗業界は、官僚でしょう。
私たちの国・日本が「魔女の竪琴の星」にならないためにも、財務官僚を中心とする腐敗利権が作り出した「魔女のプログラム」は排除されなければなりません。
日本が極端に貧しい国になるか、それとも世界の一流国として力強く復活できるかは、それこそ今後も私たち有権者次第であることを、ここに改めて強調しておきたいと思う次第です。
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経済成長を
トランプに見習ってマスク氏のような改革推進を強引に進めて省庁のミニマム化、国の事業に群がらって公金チュウチュウをする公共法人やNPO法人を解体。とくに財務省は一旦解体して権限を弱める必要があります。
日本にトランプとマスク氏のような政治家が出てくることを願っています。
経済成長を軸に政界、官僚、法律、財界すべて見直しが必要と思います。既に見直しの過程に入っているのでは。政界のなかで経済成長に資する政策を掲げているのは、国民民主党の「手取りを増やす」だと思います。他の政党も相乗りすべきでしょう。経済成長することで、民の負担を軽減できるようになると思います。官僚も経済成長させる省を作り、ここに予算の権限を移す。法律も特に税法、入国税を課して、当該税収をICT/AIに投資した企業の減税に使うとか。財界についても、例えば、電波利権の見直し。電波オークションで国民の共有財産である電波の有効活用が必要です。
それと天下り禁止。退官後10年間は、監督関連業界に就職できないとか。
経済成長を軸に、ガバナンスを効かせる仕組みにする必要があると思います。
まずは、「手取りを増やす」から開始し、明らかに無駄なもの、例えば、電波は電波オークションで有効活用するとか、役所の監査とか。
役所の監査が無駄と思ったファクトを後日、ご紹介させていただきます。
国民医療費の55%は65歳以上の人が使っている。
1人当たりの医療費は65歳以上の人73万円、65歳未満の人18万円。
65歳以上の人口は増えている。日本全体の人口は減り始めている。
このあたりを総合すると大きな絵が見えてくる。
いまのままでは現行の健康保険制度はもたない。対策は①保険料の値上げ、②自己負担の増加、③診療費や薬価の下げ、④税金の投入増
今回の高額医療費の限度引き上げは②の一部だろう。
いつも楽しみ拝読しております。
何だか働かず税金も年金も納めないで、生活保護を受けるのが最強の生き方に思えてきました。今の日本では搾取されている富裕層が、プロレタリー革命ならぬブルジョワジー革命を起こす必要がありそうです。
企業の役員だと株主代表訴訟で個人に経営責任を追及できるので、官僚個人へ政策責任を追及できる国民代表訴訟なんてものはできないのでしょうかね。
批判ばかりしても、当の官僚さんたちはカチン!と来て依怙地になるかもしれないので、なんらかの実績があればどうかしら。
例えば農地改革。
下々の民草にバラマキして資産&手取りを増やしてみたらアラ不思議!
焼け跡の日本で世界でも指折りの高度成長期に突入。
・・・めっちゃ乱暴なアナロジーですけどね。
勉強できるお坊ちゃまは、叱られるよりも実績を例示してホメてあげた方が、頑張っちゃうような気がしなくもない。
ピンぼけな指摘だったらゴメンナサイ。
トランプ政権下で開始されたマスク氏率いるDOGE。
人権のような総論反対し難いネタに巣食う、左翼的組織の活動の場となっていたUSAIDの解体という快挙。同様にツイッター社内に巣食う左派勢力排除を行ったマスク氏のX改革をみての起用でしょう。
比較的国家予算に余裕があり人権とかに言及できる余地のある先進国諸国各国。勿論日本もその中の一員。
叩けば幾らでも埃がでそうです。
米国のみならず日本の左翼的組織、官僚、マスコミ・メディアは固唾を飲む思いで見ていることでしょう。
早速NHKに飛び火しているようですが、何で日本のマスコミ・メディア、大騒ぎしていないのでしょうねぇ?
どうやって、マスク氏のネガティブキャンペーンやるか、一生懸命考えているぐるぐるマークアイコン点灯中かなぁ?
メーテル「やれ」
鉄郎「はい」
途中で送信しちゃいました。
「交響詩魔女の竪琴」リアルタイムで観た記憶があります。考えさせる内容であったことが記憶を残し続けたのでしょう。
先のUSAIDもその一例ですが、これら組織の組織的行動、彼らにとってはWin-Win−Winなのでしょうが、プロ市民を除く一般国民はその輪に入っていません。
遅くとも15年後、こんな時代が15年前にはあったんだ。と思いたいものです。
国民「総理、明日の日本を考えて政治を行ってください」
総理「いや、オレはいつもあさってを見据えている、ねばねば」
住民税は、「均等割」はともかく、「所得割」は都道府県と区市町村合計で、だいたい10%位。
低所得者層では、結構きついのでは。
日本にも ゴダイヴァ夫人が登場してほしい。財務省役人は全員ピーピング・トムかな。