「フジテレビ問題、明日はわが身」、ねぇ…。思わずそうつぶやいてしまいそうになります。いわゆるフジテレビ問題をめぐっては、その中核を占める「性上納疑惑」などについては、現時点ではあくまでも単なる「疑惑」ですが、しかし、その疑惑への説明責任の果たし方という点で、フジテレビの対処を見ていると、「放置、のんびり初動、閉鎖的な会見」のコンボでCM離脱が発生したという意味で、リスク管理的には非常にわかりやすい事例です。ただ、不祥事という意味では他局、あるいは他社も五十歩百歩ではないでしょうか。
リスク管理の失敗事例
連日ネットで騒がれている、いわゆる「フジテレビ問題」をめぐっては、調べれば調べるほど、「リスク管理という観点からの失敗事例」と断じざるを得ません。
疑惑の中核を占めている「フジテレビの従業員が男性タレントへの『性上納』を行ったのかどうか」という点については、正直、私たち外部者としては知る由もないところであり、また、肝心の週刊誌が「シレッと訂正」しているなかで、今後の焦点は第三者委員会の調査待ち、といったところでしょう。
現時点では、あくまでも「疑惑」の段階であり、この「疑惑」をもって同社を批判することは差し控えたいと思います(というよりも、当ウェブサイトでは基本的に、この「性上納疑惑」をもって同社を批判することを避けているつもりです)。
ただ、CMの差し止めラッシュなどに関していえば、少なくとも今年に入ってからの同社の対応が招いた事態であると考えられます。それが生じるきっかけとなったのが、今月17日の「密室社長会見」だったからです。
テレビ局のくせに閉鎖会見
しかも、(一部報道によれば外国人機関投資家の要望で開催されたとされる)17日のフジテレビ社長の会見は、映像撮影禁止、中継禁止で、限られたメディアの記者のみの参加を認め、雑誌、ウェブ媒体、フリーランスの記者らの参加が認められず、社長も「回答を控える」との発言に終始したとのことです。
これも冷静に考えたら大変におかしな話です。
フジテレビ(正式社名は株式会社フジテレビジョン)が属するテレビ業界は、たんなる「疑惑」の段階でも、まるで「有罪が確定した」かのように、「疑惑」がもたれている会社に大挙して押しかけたうえでカメラのフラッシュを炊いたりして社長にインタビューを申し込んできたからです。
あるいは頼まれてもいないのに、新居の所在地を勝手に報じたことで、新居への転居を断念せざるを得なくなったという大谷翔平選手の事例(『大谷選手がテレビ報道のせいでせっかくの新居を売却か』倒産將)でもわかるとおり、テレビ局は本人の同意なく、勝手に放送したりする人たちです。
そんな業界に属する会社が、自分たちに向けられた疑惑について、カメラの前での説明責任から「逃げた」こと自体が、少なくないスポンサーからの不満と失望を買う行動であったことは間違いありません。
スポンサー離れ、3つの要因
実際、著者自身が見たところ、スポンサー側の反応は、少なくとも大きく次の3つのパターンがあるようです。
- ①人権意識の高まり
- ②SNSの炎上懸念
- ③TVの影響力低下
ひとつ目は、企業におけるコーポレート・ガバナンス・コード遵守の動きと人権意識の高まりであり、これにより(現段階ではあくまでも「疑惑」であるにせよ)人権をないがしろにするような放送局にCMを出稿することの是非が問われている、というもの。
ふたつ目は、SNSの社会的影響力が強まるなかで、「疑惑のテレビ局」にCMを出稿するという行為自体がその企業に対する不買運動を招きかねない、という懸念。
そしてみっつ目が、ひと昔前と比べてテレビの社会的影響力が大きく低下し、テレビCMの放送を差し止めても、企業にとって(以前と比べれば)そこまで大きな実害が生じなくなってきている、という事情でしょう。
こうした潮流を、フジテレビ経営陣が読み違えたことは、どうも間違いありません。
第三者委員会の設置をめぐる動きも迷走
この点、27日(から28日未明)まで行われた2回目の社長会見が1回目の失敗を挽回できていたかと問われれば、そこも微妙でしょう。
この会見自体、10時間超という長丁場で、なかには大変低レベルな質問、あるいは記者会見場を自分の意見をぶちかます場と勘違いしている者などであふれていたという代物でもあります(『記者は話を聞くプロじゃないの?』等参照)。
ただ、フジの経営陣自体は、記者からの質問にはある程度、現時点で答えられる内容を真摯に答えていたとは思われる反面、17日の会見から10日間、期間が空いていたにも関わらず、やはり準備不足の感は否めないものだったかもしれません。
また、第三者委員会設置までの流れも不透明で、当初は(一部報道によれば)日弁連のガイドラインに基づく第三者委員会の設置は予定されておらず、港社長もこれを単なる「調査委員会」と濁すだけで、第三者委員会を設置しない理由についても「後日明らかにする」と述べるにとどめていました。
しかし、『CM問題は地方に波及…契約解除や返金請求の動きも?』などでも取り上げたとおり、フジテレビはその後、23日までに、公認不正検査士資格を持つ弁護士を委員長とする第三者委員会を設置することを決めたのです。
客観的に状況を見ると、CM離脱ラッシュが始まって慌てて方針を転換したかにも見えてしまいますし、もしCM離脱ラッシュが生じていなければ、あわよくば第三者委員会ではなく内部委員会でお茶を濁すつもりだったという意図でもあったのかと疑わざるを得ません。
「明日はわが身」、ねぇ…。
ただ、こうしたフジテレビの問題もさることながら、この問題が他局、あるいは他メディアにとっても無関係ではない、という点についても知っておく必要があります。これについてちょっと興味深いのが、共同通信が29日付で配信した、こんな記事です。
「明日はわが身」テレビ業界衝撃 フジ問題、キー局や地方局
―――2025/01/29 17:38付 Yahoo!ニュースより【共同通信】
「明日はわが身」、ねぇ…。
記事表題に「明日はわが身」とありますが、これは「あるキー局の管理職」が共同通信に述べたもので、この「あるキー局の管理職」はこうも述べたそうです。
「対応を誤るとここまでたたかれるのかと怖くなりました」。
この認識に、驚いてしまいました。
というのも、テレビ業界ではこれまで、今回のフジテレビのような対応が当然だったからです。これまでの世の中であれば、メディアだけは「自分たちの不祥事」についてちゃんと説明しなくても許されてきたフシがあります。メディア業界が身内でかばい合ってきた、というべきでしょうか。
しかし、一般の民間企業だと、「対応を誤るとメディアからメチャクチャに叩かれる」のは常識であり、だからこそ、一般の民間企業に勤める人間とメディア業界の人間で、リスク感覚が極端に開いてしまっているのではないでしょうか?
共同通信の記事では、「別のキー局職員」のこんな発言も取り上げています。
「放置、のんびり初動、閉鎖的な会見と、悪手の連発でスポンサーが離れた」。
この評価自体は、言いえて妙です。
ただ、「放置、のんびり初動、閉鎖的な会見」は、べつにフジテレビの専売特許ではありません。
そういえば、昨年は上川陽子外相(当時)が述べてもいない「(子供を)産まずして何が女性か」という趣旨の発言を報じるという事件もありました(それを報じたのがどこの通信社だったかは伏せますが…)。
そういえば、わが国の「大手新聞社」、「大手テレビ局」、「大手通信社」、あるいはNHKといった組織は、どこもたいていの場合、何らかの「シャレにならないレベルの誤報・捏造報道事件」を発生させていますし、従業員が「シャレにならないレベルの不祥事」を発生させている事例もあります。
あるいは、ヨルダン・アンマン国際空港でクラスター爆弾を爆発させた新聞記者。
あるいは、世界文化遺産である熊野古道などを破壊したNHK。
あるいは、日韓間の諸懸案のひとつとされる自称元慰安婦問題を捏造した新聞社。
あるいは、オウム真理教関係者にインタビュー映像を見せた放送局。
あるいは、英語版ウェブサイトで虚偽の内容を垂れ流し続けた新聞社。
あるいは、看板番組に寄せられた募金を着服し、飲み代やパチンコに使っていた某局員。
「明日はわが身」とは、民放テレビ、新聞、通信社、NHKを含めたオールドメディア全般について成り立つ話ではないかと思うのですが、いかがでしょうか?
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「番組の製作費はスポンサーが負担している」というのが食いしん坊万歳の放映中止で証明されたね。テレビ局が製作費を負担して、スポンサーが広告費を出しているだけならキッコーマンが放映中止を要請する筋合いないでしょ。この番組キッコーマンの1社提供、つまりキッコーマンが製作費出してる。したがってそれをフジに「放送するな」という権利はある。複数社で提供なら他社との兼ね合いでそれはできないかもしれない。
「明日は我が身」か「自分だけは例外」か、さて他のテレビ局は、どちらでしょうか。
【放送免許】
放送局を開設する業者が、(中略)開設の目的、事業計画、放送区域、希望する周波数などを記して申請する。審査は主に放送設備に関して行われ、放送内容等は免許交付とは別に放送法などで規定される。(後略)
他業種の免許、許認可では、専門的な教育を受け技術を持った者が責を負い、関連法を知悉し、施設も人員も運営に適すかどうかの審査を受けてやっと開業できるものと思います。
例:飲食店 実務経験か専門教育を受けた調理師免許取得者が必要で、衛生管理に問題が無い設備があるかを審査され、営業開始後も問題が起きれば立入検査を受け入れ、重大であれば当然に営業停止処分、法的処罰を受ける。
で放送局は設備能力に主眼を置いた免許審査で、放送法は"放送の危険性と注意点"など実務的な規制をする役目ではなく、公平性云々ですら実際にはザル。その従業員って、採用枠は要高学歴であっても、専門教育も資格も処罰規定も無いんですかね。誤報と食中毒って(身体への直接被害はともかく)社会的影響は同様に高いと思うのですが。ましてや本件のような職権濫用の違法行為なんて。
現在の放送局、特に今回のフジテレビなんて、調理師免許を持たない集団に数万人に料理を振る舞わせたり、危険物取扱資格を持ちもせず引火物どころか爆薬を取り扱うことを許していたようなものでは。
飲食店は「どうすれば食中毒を出さずに済むか」、危険物取扱者は「どうすれば危険な物体を安全に運用できるか」を通常は熟知しています。そのための免許と関連法です。が、放送免許・放送法とは一体。フジテレビは、今回表面化した問題を「裏でならやっても良いこと」と認識していたはずです。そのまんま、産地偽装や、昔あった食べ残しの流用などと同じですね、放送局がさんざっぱらブッ叩いたあの。
"明日は我が身"など、何十年も前には認識していないとおかしいのです。
いつも楽しみに拝読しております。
普通の上場会社だと、社外取締役は外部でそれなりの経験をされた方です。なので、新任時には新鮮かつ素朴な疑問が沢山出ますし、会議でも異なる視点からの意見が出て、それが業務執行の牽制となっています。
フジやテレ朝の役員構成を見ると、形式的には社外でも天下り、同業のお仲間、高齢の名誉職ばかりで、とても牽制機能があるとは思えません。フジの今回の失態の一因はこんなところにあったのかもしれませんね。
ちなみに、TBSとテレ東はいくらかましな役員構成に見えます。
フジテレビの第三者委員会とはせいぜい弁護士を入れた集団で捜査権も何もなく
ただ、当事者に聞いて辻褄の合った部分を張り合わせた結果になると思います。
仮にうそをついていても罪にはならないし、どうすることもできない。
あとは、早急に日枝相談役を降ろすだけです。
どこまで行くか楽しみになっている人は私だけではないと思っています
やはり変わってきたのはネット社会になったから
人の噂も〇〇日 と言われたのももう昔の事
時間の経過は関係なくネットでは情報が流れ続けます
文春が訂正記事を出したなどと一部オールドメデアでは騒いでいますが
オールドメデアの隠蔽体質、従業員の使い捨ては変わらず
TBSが新興宗教に情報提供をし悲惨は一家殺人に発展した件はお咎めなしでしたよね(違ったらゴメンナサイ)
今回 事件に発展した場合。それを隠蔽しようとしたフジTVへ総務省は動くのか
やはり天下り4人の効果は気になりますね
一つの放送局に、報道というコンプライアンスや客観性、倫理性、論理性などが求められる分野と、芸能界という娯楽性優先の分野が共存していることがテレビ業界の質の低下を招いているのではないでしょうか?
経営幹部は娯楽分野出身の方が多いようですので、常識に欠ける方もおられるのではないかと想像します。芸能分野の方がすべて常識が無いとは言いませんが。
いつも素晴らしいお話ありがとうございます。
今回のフジの2回目の記者会見は成功裏に終わったと思います。
一、司会者がすごくうまかったです。質問を相手個人に任せ、深く追及できないようにしたこと。同じ質問をパラパラ出し、それにむにゃむやと答弁するの繰り返し。結局記者団が崩れてしまいました。(フジの司会者としては素晴らしいです。)
一、社長、会長がさっさと辞任してしまったこと。これで、もう生の声は聴けません。第三者委員会で話すそうですが、非公開です。最後の機会をつぶしてもらってほっとしているかもです。
一、1回目とは異なり、フルオープンにすることで、みんなの意見を取り入れました。時間も無制限にしました。やりました感を出せたこと。無茶な記者が出たりして、ガス抜き成功でした。疲れた登壇者を映すことで、視聴者の納得を得た(あの方々の時間給を考えると何とも言えませんが)
一、文集の誤報問題も出てよりよかった。
残された方々のご活躍を祈念します。
政府も広告止めたそうです。
政府、フジテレビ広告4件中止 官房長官「状況鑑みた」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA302U70Q5A130C2000000
「フジテレビを巡る現下の状況などを鑑みた」と述べた。
まあ、どっちでもいいんですが、雰囲気に乗っちゃう政府ってのもどうなんだか・・・
他のオールドメディア、フジテレビを守れる物なら守りたいでしょうねえ。
今回の件で本当にフジテレビが潰れてしまったら、オールドメディアに批判的な層は
成功体験を得るし、スポンサーはこれから広告を値切り・見限りやすくなるとルンルンだし、
株主達はもっと厳しく監視してくる……と彼らにとっては百害あって一利なし。
でも、道義的にはフジテレビを庇うのが難しすぎる。それどころか自分達の所の
スキャンダルに目をつけられて、飛び火するのが怖くて怖くてたまらない。
さてさて、どうしたものやら?ニヤニヤしながら見守るとしましょう。