フジテレビ問題で、とうとう番組枠自体に穴が開いたようです。一社提供番組について、ロゴからの社名削除を検討したり、テレビ局に放送見合わせを要請したりする事例が出て来たのです。その一方、当ウェブサイトの調べではＣＭ差止企業は少なくとも60社弱あり、一部報道によれば75社に達したとの情報もありますが、正直、調べるたびにその社数は増えています。そして、問題の長期化リスクもさることながら、本当に怖いのはテレビＣＭそのものから撤退する企業が増えるかどうか、という論点ではないでしょうか。

「性上納問題」などと表記するケースも増えて来た

いわゆる「フジテレビ問題」を巡り、当ウェブサイトではこれまで、敢えて問題の中核をボカして、ある程度曖昧なままで議論をしてきたのですが、これをずばり、「性上納」、「女性アナ上納」などと踏み込んで記載するメディアやウェブ評論サイトがいくつか出て来ています。

フジテレビはもはや｢報道機関｣ではない…｢女性アナ上納疑惑｣で露呈した”エンタメ企業化”という大問題

―――2025/01/21 07:00付　プレジデントオンラインより

フジテレビで常態化していた女子アナ“上納”接待…プロデューサーによるホステス扱いは日常茶飯事

―――2025/01/17 10:55付　日刊ゲンダイデジタルより

この「性上納」などの（一見すると）過激な表現は、じつは、すでに村上誠一郎総務大臣の会見でも記者側から質問として投げかけられているものです。

村上総務大臣閣議後記者会見の概要

―――2025/01/10付　総務省ＨＰより

フジテレビ大炎上の理由は社長会見か…ＣＭ差止続く

フジテレビ側は「事実でないデマ」に対しては「法的措置」などをチラつかせている状況でもありますし、当ウェブサイトではいまのところ、一連の問題については「フジテレビ問題」と呼称するつもりですが、それでもネット上ではこの「性上納」などの表現が一般化しつつあるという実情は否定できません。

このため、わかりやすさのために、一連の問題を「フジテレビ問題」というよりは「性上納疑惑」とでも呼称した方が良いのではないかと思う方もいらっしゃるでしょう。

というのも、ことの発端が、ある同局の幹部が女性アナウンサーをとある男性タレントに「斡旋」したとの疑惑が週刊誌などで報じられたことにあるからであり、実際、17日午後に行われたとされるフジテレビの港浩一社長の会見も一連のトラブルに関するものだったとみられるからです。

しかも、その社長会見自体が非公開ベース・密室で行われたことに加え、肝心の疑惑に関しては、社長が「回答を控える」などと繰り返したことによりＳＮＳなどで大炎上。それだけでなく、（おそらくフジテレビにとっては予想外の）スポンサーによるＣＭ差し控えラッシュが生じてしまったのです。

これについては当ウェブサイトにて連日少しずつアップデートしている通り、ＣＭを差し控えると表明した、あるいはそう報じられたスポンサーが、調べるたびに増えている状況です。

昨日夜時点で少なくとも60社弱…「75社以上」との情報も！

昨日夜時点までに自社ウェブサイトで公表した、あるいはメディアに報じられたスポンサーは、次の通り、判明するだけですでに60社弱に達しています（一部報道だと75社以上だそうですが、ここでは社名が判明したケースに限定しています）。

金融・保険

• 株式会社三井住友銀行
• 日本生命保険相互会社
• 第一生命保険株式会社
• 住友生命保険相互会社
• 明治安田生命保険相互会社
• アフラック生命保険株式会社
• ソニー損害保険株式会社
• ウェルスナビ株式会社
• アコム株式会社

不動産大手

• 三菱地所株式会社
• 三井不動産株式会社
• 住友不動産株式会社

輸送用機器

• トヨタ自動車株式会社
• 本田技研工業株式会社
• 日産自動車株式会社
• 三菱自動車工業株式会社
• ダイハツ工業株式会社
• スズキ株式会社
• マツダ株式会社
• 株式会社ＳＵＢＡＲＵ

エネルギー

• コスモエネルギーホールディングス株式会社
• 株式会社ＩＮＰＥＸ
• 東京電力ホールディングス株式会社

外食・小売

• 日本マクドナルド株式会社
• 株式会社セブン＆アイ・ホールディングス
• イオン株式会社
• 株式会社ローソン

飲料・食品

• 明治ホールディングス株式会社
• 日清ホールディングス株式会社
• サッポロビール株式会社
• サントリーホールディングス株式会社
• アサヒビール株式会社
• キリンホールディングス株式会社
• 株式会社ヤクルト本社
• 日本コカ・コーラ株式会社
• 日本たばこ産業株式会社
• Uber Eats Japan合同会社

製薬・雑貨

• ライオン株式会社
• ユニ・チャーム株式会社
• 花王株式会社
• 株式会社資生堂
• アリナミン製薬株式会社
• 第一三共ヘルスケア株式会社
• 大正製薬株式会社

通信その他

• 東日本電信電話株式会社
• ＫＤＤＩ株式会社
• 楽天グループ株式会社
• 株式会社リクルート
• 東日本旅客鉄道株式会社
• 大東建託株式会社
• 三菱電機株式会社
• 任天堂株式会社
• 株式会社オリエンタルランド
• 日本郵政株式会社
• 興和株式会社
• 日本中央競馬会

（【出所】各種報道等をもとに作成）

ＳＮＳ不買運動懸念？企業理念に抵触？

これら60社弱の企業（あるいは一説によると80社近い企業）がＣＭ出稿を差し止めたり、控えたりする動きに出た理由については、いくつかの企業による次のようなコメントを見る限り、やはり、この17日の社長会見がきっかけとなった可能性が濃厚です。

• 「いかなるハラスメントも容認しないという当社の行動規範に照らし、当面の間ＣＭは放映しないという判断に至った」（時事通信が報じた第一三共ヘルスケア株式会社広報グループのコメント）
• 「ＳＮＳで（フジテレビに対する）批判が多く、（ＣＭ放送を継続した場合は当社製品に対する）不買運動につながる懸念が大きい」（共同通信が報じたある企業の関係者のコメント）

一部報道等によれば、この社長会見自体は外国系のアクティビスト・ファンドの要求で行われたものだったとの指摘もあるのですが、フジテレビにとっては疑惑を「晴らす」はずの会見が、結果としてはスポンサー離れを招く「悪手」となったのではないでしょうか。

自体が長引けば収益への影響も避けられないとの見方も

なお、あくまでも一般論ですが、報道等によれば、今回のようなＣＭ出稿差止と公益社団法人ＡＣジャパンへの公共広告への差し替えに際しては、広告料はそのまま支払われるようです。これには、日経電子版の次の記事などが参考になるでしょう。

フジテレビCM差し止め拡大、サントリーなど50社超に

―――2025年1月20日 13:06付　日本経済新聞電子版より

日経によるとテレビ局の放送収入には、番組中に流れる「タイム」とそれ以外の「スポット」があり、フジテレビの24年４～９月期の収入はタイムが368億円、スポットが343億円だったそうです。

ただ、日経は「今後の新規のＣＭ出稿見送りが増え、３月の番組改編期の特番向けや４月クールの広告枠が埋まらない可能性」があるなどとしており、証券会社のアナリストによる「広告収入への悪影響が出るのは確実」とするコメントが紹介されています。

すなわち、今回の一連の広告差止ラッシュでも、短期的にはフジテレビの業績にさしたる影響は生じない、ということですが、それと同時にフジテレビが今回の事態の早期収拾に失敗すれば、広告収入自体に大きな穴が開く可能性が高いということでもあります。

その意味で、フジテレビへの広告を差し控える企業が増えるかどうかという点もさることながら、これがどの程度長期化するのかが気になるところでもありますが、これも結局のところはフジテレビが公表するであろう報告書の公表時期や公表される内容次第でもあります。

「くいしん坊万才」は放送見合わせか

ただ、それ以上に気になるのが、問題が単にＣＭの差し止めに留まらないという可能性です。

そのひとつが番組枠自体に穴が開く、というものです。

キッコーマン、フジに「くいしん坊！万才」放送中止要請

―――2025年01月21日 18:11付　日本経済新聞電子版より

「くいしん坊！万才」放送見送りを　キッコーマン、フジに要請

―――2025年01月21日17時47分付　時事通信より

キッコーマン、「くいしん坊！万才」休止をフジに要請　中居さん問題

―――2025年01月21日 18時45分付　朝日新聞デジタル日本語版より

キッコーマン　フジに「くいしん坊！万才」放送見合わせ要請　1社提供、放送50年の長寿番組

―――2025/01/21 17:23付　Yahoo!ニュースより【スポニチアネックス配信】

いくつかのメディアの報道によれば、キッコーマン株式会社が21日、自社の一社提供となっている『松岡修造のくいしん坊！万才』（日曜17:25～の放送）を巡り、26日分以降の放送を当面中止するようにフジテレビに対し要請し、フジ側からは代替番組を放送する旨の回答があったというのです。

これらの報道によれば、この番組は現在は関東ローカル枠で放送されているものですが、フジテレビウェブサイトの説明によると開始は1975年と古く、過去には宍戸錠さん（４代目）や梅宮辰夫さん（６代目）などが務めたこともあり、現在の松岡修造さんで11代目という長寿番組です。

これらの報道が正しければ（※というよりも複数のメディアが報じているので誤報という可能性は非常に低いと思われます）、今回の「フジテレビ疑惑」を受け、ついに初めて、番組に穴が開いたという格好です。

放送差止は求めずとも…社名削除の対応も

また、番組の放送見合わせではありませんが、こんな話題も出て来ています。

【速報】塩野義、ミュージックフェアの社名削除検討

―――2025年01月21日 19時57分付　共同通信より

共同通信によると、塩野義製薬株式会社が一社提供している『ミュージックフェア』に関し、社名削除を検討している、とあります。

調べてみるとこの番組もやはり1964年から続く長寿番組で、番組のロゴ『MUSICFAIR』の上部に『SHIONOGI』の社名が赤字で掲載されていますが、こちらは放送そのものを差し止めるのではなく、（おそらくは）一時的に社名を消す、という対応を取るのかもしれません。

ただ、こちらもフジテレビ問題が長続きすればどうなるかわかったものではありませんが…。

そもそも費用対効果の問題が意識される可能性

いずれにせよ、今回の問題は、対応を間違えればテレビ局の息の根が止まりかねない深刻なものでもありますが、それと同時に『ＴＶ局不祥事はＣＭ撤退に向けた地殻変動の前兆なのか』でも取り上げたとおり、もうひとつ忘れてはならないのが、広告の費用対効果という視点でしょう。

このネット全盛時代にあって、テレビ広告の費用対効果は非常に低いからです。

ネットの世界だとすでに「ターゲット広告」などが実装されていて、同じ広告料による効果は非常に高いとの報告がありますが（※情報源はとある新進気鋭の企業を経営する著者自身の友人です）、これに対し、テレビの世界だと視聴者によって表示する広告を変えることができません。

そして、いくつかのスポンサーがフジテレビへの広告出稿を一定期間手控えた結果、業績にさしたる影響がなかったと評価されれば、そこから一気にスポンサー離れが加速しかねません。

先ほど挙げた60社弱のなかには、今回の問題が落ち着いたら広告出稿を再開するケースもあるかもしれませんが、それとは逆に、（フジテレビに限らず）この際、テレビ広告からの「完全撤退」を決断する企業も出て来るかもしれません。

その意味で、民放テレビ業界は、フジテレビの煽りを受け、年度初めあたりから激震にさらされる可能性を織り込んでおくべきなのかもしれない、などと思う次第です。