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    Categories: 外交

欧州で進む対露制裁強化議論と「日本の有権者の選択」

ロイターの報道によると、欧州では現在、米国でドナルド・J・トランプ前大統領の再登板に備え、ロシア制裁のさらなる強化を検討しているのだそうです。これにはキャッチオール規制の強化も含まれているとのことですが、ここで思い出すのがセカンダリー・サンクションや日本の輸出管理などの在り方です。端的にいえば、台湾有事は日本有事であり、それを防ぐためにはロシアによるウクライナ侵略を失敗に終わらせなければなりません。私たち日本国民も責任ある選択をしなければならないのだと思うのですが、いかがでしょうか?

対ロシア制裁は世界の4分の1しか参加していない

ロシアが現在、西側諸国の経済制裁を受けていることについては、当ウェブサイトの読者の皆さまも良くご存じのことでしょう。

ロシア制裁に参加している国は、ロシアが発表している「非友好国」(約50ヵ国・地域)とだいたい一致していると考えられますが、ただ、逆にいえば世界に約200存在するとされる国・地域のなかで、ロシア制裁に参加しているのは4分の1に過ぎない、ということでもあります。

ということは、残り4分の3の国・地域は、ロシア制裁には参加していない、ということであり、このことから、「ロシア制裁には穴があるのではないか」、といった主張が出てくるのは、ある意味では当然のことでもあります。

ちなみに当ウェブサイトでも2022年3月頃から、西側諸国のロシア制裁のパッケージには、支払い手段である外貨準備の凍結やSWIFTNetからのロシア主力銀行の排除といった措置が「きわめて強力」だとしつつも、「ロシアにとっては人民元決済という逃げ道もある」と指摘して来たつもりです。

北朝鮮ですら生きながらえているのだから…

これに加えて、弱小国・無資源国として知られる「あの」北朝鮮ですら国際社会からの厳しい経済制裁を耐えているわけですから、資源国であり農業国でもあるロシアが、ちょっとやそっとの経済制裁に耐えられなくなるはずはない、といった点についてもまた、予測してきた次第です。

すなわち、ロシア制裁は中・長期的な観点から、少しずつロシア経済の体力を奪う効果はあるかもしれないにせよ、ロシア経済を直ちに破綻させることは難しい、というのが著者自身の一貫した考え方のつもりです。

この点、一部の読者からは、当ウェブサイトにおいて、「西側諸国の対ロシア制裁により、ロシアは3ヵ月以内にモノが作れなくなる」と主張していたではないか、といったコメントもいただいているのですが、これについては残念ながら、そのコメント主の方の勘違いだと思われます。

これに関して調べてみると、「開戦後3ヵ月でロシア経済は破綻する」という主張は当ウェブサイトのものではなく、このコメント主様ご自身が数ヵ月前に書き込んだ、「西側は金融電撃戦として3ヵ月でロシアを破綻させようとした」とする趣旨のものが初出であったことが判明したからです。

なんだか、ロシアが大好きな方は、「西側によるロシア制裁は機能していない」などと自信満々で主張するわりには、基本的な事実確認すら苦手なようであるなど、面白いと断じざるを得ません。

でも、その「4分の1」のGDPシェアは6割なんですが…

なお、「ロシア制裁に参加している国・地域は世界の約4分の1しかない」という点は事実ですが、これについて若干補足をしておくならば、この「たった4分の1」が世界のGDPの6割と国際与信の9割超を占め、世界の外貨準備に組み入れられている通貨の9割超を発行しているという事実も見過ごせません。

詳しい数値については以前の『ロシア「非友好国」は名目GDPで世界の約6割占める』でも指摘したとおりですが、念のため数値を再掲しておきましょう(図表)。

図表 対ロシア制裁に参加している国の実力
区分 具体的な金額 世界シェア
名目GDP(2023年末) データが取れた43ヵ国合計
61兆1162億ドル
105兆4350億ドルのうちの
57.97%
外貨準備構成通貨(2024年6月末、内訳判明分のみ) 米欧日英加豪瑞7ヵ国で
10兆8103億ドル
11兆4655億ドルのうちの
93.52%
国際与信(最終リスクベース、2024年3月末時点) 上位20ヵ国合計
32兆6489億ドル
33兆1250億ドルのうちの
98.56%

(【出所】世界銀行、国際通貨基金、国際決済銀行)

すなわち、ロシア制裁に参加している国・地域「の数」は全体の4分の1ほどですが、経済・金融面で見たら圧倒的なシェアを依然として誇っているというわけです。

これに加えて(とくに日本がそうなのですが)サプライチェーンの上流を握っている国も多く、たとえば工作機械などは日独が、大型トラックはドイツ、半導体製造装置は日本、といった具合に、産業のより上流過程を国内に保持しているというケースが散見されます。

このため、半導体などは中国経由でロシアにいくらでも流れる可能性はあるのですが、西側諸国がもし本気を出せば、半導体製造装置(やその部品など)の輸出を止めることで、中国などの産業に大きな打撃を与えることもできます(※ただし、ケースによってはその制裁が自国に跳ね返ることもあるので注意が必要ですが…)。

セカンダリー制裁

こうした観点からは、個人的には現在の西側諸国の制裁の在り方についても、じつは強い不満を持っていたりもします。

その在り方が「セカンダリー制裁」と「キャッチオール規制」です。

このうち「セカンダリー制裁」とは、直接の制裁対象国だけでなく、その制裁対象国を幇助している国、地域、銀行などに対しても制裁を加えるという考え方です。

これに関しては以前からしばしば当ウェブサイトにて示してきたものですが、具体的な実例としては、最近だと米国のセカンダリー・サンクションを恐れ、中国の銀行がロシア企業との取引を断る事例も相次いでいます(ただし詳細は『深まるロシアの中国依存…「友好国」も取引を続々中断』などをご参照ください)。

ロシアのメディア『ザ・モスクワ・タイムズ』の報道によると、米国財務省によるモスクワ証券取引所等に対する経済制裁の影響で、ロシアの外為市場の取引の99.6%が人民元で占められているのだそうです。それだけではありません。どうも、ロシア自身が「友好国」と位置付けて頼りにしている相手国の銀行が、ロシアとの取引を断り始めているようなのです。ロシアに対する経済制裁と「ダーティー人民元」昨日の『ロシア産ガス価格4分の1に暴落か?人民元決済制限も』では、『UAWIRE』というウェブサイトに掲載された、こんな記事...
深まるロシアの中国依存…「友好国」も取引を続々中断 - 新宿会計士の政治経済評論

キャッチオール規制

また、「キャッチオール規制」は、おもに先進国における輸出管理における考え方のひとつです。

輸出管理は基本的に「リスト規制」と呼ばれ、品目を限定した輸出管理を行っているのですが、稀にリスト規制品に指定されていない品目であっても、大量破壊兵器や通常兵器の開発などに使用されるおそれが生じることもあります。

具体的には、「リスト規制品」ではなくても、(食料や木材等を除く)すべての貨物や技術が対象とされ、輸出業者が用途の確認または需要者の確認を行った結果、軍事転用などのおそれがあると判断した場合や、(日本の場合は)経産大臣から「許可申請をしなければならない」と通知を受けた場合などに適用されます。

この点、以前の『韓国がなくても日本経済はまったく心配ない』でも説明しましたが、日本政府の場合は現在、世界各国を4段階に分類し(いわゆるグループA~グループD)、「グループA」(旧ホワイト国)以外のすべての国に対し、このキャッチオール規制が適用されます。

仮に「グループD」に該当した場合は、キャッチオール規制がかなり厳格に適用されるだけでなく、そもそも輸出自体がほとんど許可されなくなりますが、現在のところ、日本政府はロシアを「グループD」には区分していないようです。

この点、日本の場合、ロシアに対しては「輸出管理の強化」(外為法第48条第1項)ではなく、「輸出規制」(外為法第48条第3項)の方である程度は制裁の実効性を確保しようとしているようですが、やはり不十分です。

「第三国」経由でロシアに物資が流れる可能性は排除できないからです。

ちなみにここでいう「第三国」は、中国やインド、韓国などを念頭に置いています。

とりわけインドは日本にとって、「日米豪印クアッド連携」の相手国であり、外交・安保政策上は非常に重要な相手国でもありますが、それと同時にロシア制裁に参加していない国でもあるため、西側諸国の一員である日本としては、インドが対ロシア制裁の穴となることは懸念されます。

また、韓国に関しては日本政府が2023年春、(おそらくは国民の90%以上の反対を押し切って)強引に「グループA」(旧ホワイト国)に戻したという経緯もあるのですが、韓国が第三国に物資を横流ししていたなどの疑いが払拭されないなかでの「旧ホワイト国」復帰が正しかったのかは疑問です。

いずれにせよ、セカンダリー・サンクションとキャッチオール規制の強化により、ロシア制裁を強化すべきではないか―――というのが、著者自身の最近の問題意識でもあるのです。

欧州で進むロシア制裁の強化の検討

さて、こうしたなかで、ちょっと興味深い記事がありました。

Exclusive: Europe seeks to underpin Russia sanctions, fearing Trump overhaul

―――2024/10/25 15:55 PM GMT+9付 ロイターより

ロイターによると、ドナルド・J・トランプ氏が米大統領に再選された場合に備え、欧州規制当局の間で、いわゆるキャッチオール規制の強化などを含め、今のうちにロシア制裁を強化しようとする動きが出ているというのです。「関係者」によると、トランプ氏がロシア制裁の緩和をにおわせているためなのだとか。

ロイターはまた、これらの当局者らの間で、もしも米国が対ロシア制裁の方針を変更することがあったとしても、欧州は独自の厳格な制裁を長期間維持するとともに、ロシア向けの疑わしい貨物輸送を特定して阻止するための「キャッチオール」包括条項の強化などが議論されている、としています。

さらには、凍結済みのロシア中央銀行の資産(※外貨準備資産など)について、現行の「6ヵ月ごとに見直される」とする規定を撤廃することなども議論の遡上に載せられているのだとか。

正直、一般紙(?)で「キャッチオール規制」などの文言を目にしたのは久しぶりな気がします。

ちなみにロイターの記事によれば、一部の国ではキャッチオール条項を軍事関連品のみならず、さらに広範囲に適用させることの具体的検討が行われているという点を、「3人の外交官」が明らかにした、などともしています。

(※このあたりはガセネタがやたら多い【※著者私見ですよ!】日本のメディアにはあまり見られない記述だと思う次第です。)

ではいったい、どのような規制が検討されているのでしょうか。

これについては欧州独自の興味深い事例が出ていて、たとえばこんな具合です。

中央アジア諸国を仕向け地としているが、貨物がなぜかロシア領を経由するなど、不自然な貨物を発見したときに、税関職員はその発送を差し止めることができる」。

これ、想像ですが、実例でもあったのかもしれませんね。

台湾有事は日本有事:有権者は責任ある選択を!

いずれにせよ、ロシア制裁を巡って日本も日和見をすることは許されません。

ロシアによるウクライナ侵攻で、仮にロシアが1平方メートルでも領土を拡大することがあったならば、同じことを中国がやろうとするかもしれないからです。

そして、台湾有事は日本有事であり、台湾有事を未然に防ぐためには、「国際法をないがしろにして他国を侵略した国が、どれほど悲惨な末路を辿るのか」という実例を見せつけることが必要でもあります。

こうした観点からは、日本は安倍晋三総理大臣という偉大な政治家を失ったことが悔やまれてなりませんが、それと同時に今回の自民党総裁選に出馬した小林鷹之氏のような若い政治家も育ってきていることでもあります。

こんな大事なときに、「もりかけ」だ、「さくら」だ、「統一教会」だ、「裏金」だ、「世襲」だと騒いでいる暇はないはずなのですが…。

いずれにせよ、私たちも有権者として、決して希望を失わず、ウクライナと西側諸国が勝利を収めることを信じながら、責任ある選択をしなければならないのだと思うのですが、いかがでしょうか?

新宿会計士:

View Comments (10)

  • >「中央アジア諸国を仕向け地としているが、貨物がなぜかロシア領を経由するなど、不自然な貨物を発見したときに、税関職員はその発送を差し止めることができる」

    欧州はシベリア鉄道を使わない対中央アジア諸国輸送路を必要としている。頑張れトルコ、頑張れエルドアン。

  • 田嶋陽子氏の名言
    「軍隊なんかいらねえよ、侵略されたらぁ、そん時は国際社会が黙っちゃいないよ」

    国防を国際社会に頼る国だからこそロシアに好き勝手にされてはいけないのです、ウクライナに最も支援しなければいけないのは日本なんですよ、、、、、九条教のみなさん。
    ん?声が聞こえないですね、息してる?

    • 田嶋陽子女史の明言「軍隊なんかいらねえよ、侵略されたらぁ、そん時は国際社会が黙っちゃいないよ」
      自分の過去の発言を覚えているでしょうか。

      • 田嶋陽子女史は、もし次期米大統領選でハリス副大統領が負けた場合、「これだからアメリカの男どもは」と言い出すのでしょうか。だとすると、自民党総裁選で高市早苗候補が負けたことも批判しなければならないと思うのですが。

        • もっともガラスの天井とやらは女性自身みたいですからね。
          自分がなれないのはガラスの天井のせい
          自分以外の女性にはガラスの天井そのもの

  • 北朝鮮兵士のウクライナ戦争参加の可能性で、東アジアに戦火が拡大する可能性がでてきました。ということは、日本も台湾有事や朝鮮半島有事についても準備をする必要性がでてきました。そして、準備というのは一瞬で終わるものではなく時間がかかるものです。お花畑日本人は、これを理解しているのでしょうか。(もっとも、都合が悪くなれば、前と全く逆のことを、前々から言っていたという顔で言いだすかもしれませんが。その意味では彼らにとって、一般人が過去の発言を拡散するネット社会は不都合な社会かもしれません)

    • 毎度、ばかばかしいお話しを。
      日本の有権者:「全ての問題を完璧に解決する候補者がいないのが悪い」
      まあ、そんな人がいれば文句はないですが。

  • イスラエルがイラン軍事施設を攻撃しました。
    >https://www.bbc.com/japanese/articles/c9vnp3k1xj2o
    原油価格高騰が意識されれば、「オクトーバー サプライズ」になるのでしょうか。

  • 混沌とした国際情勢の中で、日本は漂流する可能性も出て来ました。
    「悪夢の民主党政権時代」と呼ばれていた2010年にカナダで開催されたハンツビルサミットの際に菅直人総理(当時)だけがハブられている写真がネット上で出回っていますが、正にあの様な状態になってしまうかもしれません。
    2012年12月の総選挙でに安倍晋三自由民主党総裁(当時)によって自由民主党が政権を奪還する事が出来ましたが、外交面に於いて相当苦労をしていたそうです。
    何せ外交での日本の扱いが、アフリカ諸国並みにされていたのですから。

    • ロシアのウクライナ侵攻に加えて、イスラエルのハマス殲滅作戦がイランとの戦争危機にまで発展しそうになっている今、アメリカに中国と対峙する余裕や気力がどれだけあるのか危惧される事態になっていると思います。
      台湾政府の排除を国是とする中国と正面から対峙しなければならない日本は、アメリカの指示を待つという対中国政策から、自らの軍事力の強化に加えて、アジア諸国が中国に囲い込まれないような対策を主導しなければいけない立場にあります。
      しかし残念ながら石破新首相が提案した日本の安全保障政策は「アジア版NATO」と「日米地位協定の見直し」という何とも的外れな対応でした。
      この方は安倍さん良く言っていた世界を俯瞰する外交では無くて、日本の都合だけに囚われた近視眼的な安全保障感しか頭の中に無いようです。
      石破新首相の、アメリカだけでなくインドからも疑念を持たれるような安全保障政策により、FOIPやQUADの弱体化が進むのではないかと大変気になります。
      石破首相は、就任後の迷走ぶりで、支持者からの期待感や信頼も失いつつあるようです。
      日本の安全保障のためにも、そろそろ見切りをつけるべき時期では無いかと思います。