X

大手旅行誌で日本が2年連続「世界一」を獲得したが…

英米の「高所得層」を読者層として抱えているとされる『コンデナスト・トラベラー』の人気投票で、日本が「国部門」で2年連続1位に輝いたそうです。しかも、米国版、英国版同時に、です。また、日本政府観光局によると、米国版では「大都市」部門で、昨年2位だった東京が、2024年版では1位を獲得したのだとか。ただ、日本が英米人などに人気の渡航先だからといって、オーバーツーリズム対策を怠って良いという話でもありません。

コンデナスト・トラベラーの米国版・英国版で日本が同時に1位

米国の出版社「コンデナスト・パブリケーションズ(Condé Nast Publications)」が発行する旅行雑誌『コンデナスト・トラベラー』は、毎年、読者によるホテル、クルーズ船、航空会社などに関する人気投票(Readers’ Choice Awards)を実施しています。

ちなみに “Condé Nast Traveler” (「トラベラー」の「L」が1つ)が米国版、 “(Condé Nast Traveller)” (「トラベラー」に含まれる「L」が2つ)が英国版だそうです。

  • Condé Nast Traveler→米国版
  • Condé Nast Traveller→英国版

この2024年版、が同社のウェブサイトに掲載されており、このうちの「国」部門で、読者投票の結果、なんと日本が米国版、英国版ともに1位を獲得したそうです

The best countries in the world: 2024 Readers’ Choice Awards

―――2024/10/01付 Condé Nast Traveller(英国版)より

Top Countries in the World: Readers’ Choice Awards 2024

―――2024/10/01付 Condé Nast Traveler(米国版)より

それぞれの10位まで

これによると、米国版、英国版ともに、ランキングは20位まで表示されているのですが、とりあえずどちらのランキングでも日本が1位を獲得していることがわかります(図表1)。

図表1 コンデナスト2024年「国」部門ランキング
ランク 米国版 英国版
1位 日本(94.79点) 日本(95.32点)
2位 ポルトガル(92.69点) スイス(94.62点)
3位 トルコ(92.4点) タイ(92.29点)
4位 イタリア(92.16点) フランス(91.03点)
5位 スペイン(92.14点) ニュージーランド(90.49点)
6位 タイ(92.09点) モルジブ(90.43点)
7位 ベトナム(91.91点) イタリア(90.21点)
8位 ニュージーランド(91.67点) ポルトガル(90.19点)
9位 アイルランド(91.63点) カナダ(89.76点)
10位 ギリシャ(91.53点) スリランカ(89.75点)

(【出所】『コンデナスト・トラベラー』の米国版、英国版をもとに加工)

ちなみに、これに関しては日本政府観光局(JNTO)も10月2日付で、こんな記事を掲載していました。

日本が「世界で最も魅力的な国」に選出!

―――2024/10/02付 JNTOウェブサイトより

JNTOによると、この米国版・英国版で日本が1位になるのは昨年に続き2年連続だとしており、また、米国版の人口50万人以上の大都市部門「世界で最も魅力的な大都市」では、昨年2位だった東京が1位に輝いたのだそうです。

米国版・大都市部門(人口50万人以上)
  • 1位:東京
  • 2位:シンガポール
  • 3位:シドニー
  • 4位:ケープタウン
  • 5位:ウィーン
  • 6位:バンクーバー
  • 7位:マドリード
  • 8位:コペンハーゲン
  • 9位:モントリオール
  • 10位:ロンドン

(【出所】JNTO)

なお、JNTO資料によれば、コンデナスト・トラベラーは「旅行業界において歴史が長く権威もある」雑誌であり、「高所得者層を中心とした読者を持つ大手旅行雑誌のひとつ」で、読者数は米国で約350万人、英国で約8万人、などとしています。

JNTOデータで見ると…英語圏からの旅行者は増え続けている

これについて、あらためてJNTOが毎月公表している『訪日外客統計』を改めて眺めてみると、たしかに米国、英国、豪州、カナダ、ニュージーランドといった英語圏からの訪日客が、過去最高を更新している状況にあります(図表2)。

図表2-1 日本を訪問した米国人

図表2-2 日本を訪問した英国人

図表2-3 日本を訪問した豪州人

図表2-4 日本を訪問したカナダ人

図表2-5 日本を訪問したニュージーランド人

(【出所】JNTOデータをもとに作成)

2019年秋に英国人やニュージーランド人の訪日客が急増している理由は、おそらくはラグビーのワールドカップ日本大会が関係しているものと思われますが、こうした特殊要因を除けば、どの国も訪日者数が過去最多で推移していることが伺えます。

日本の何が魅力なのか

いったい何がそんなに魅力なのか―――。

正直、私たち日本人にとっては、英米両国を中心とする英語圏の人々が、日本の何に魅力を感じているのかについてはよくわかりません。

ただ、想像するに、▼治安の良さ、▼独自の歴史・文化的建造物、▼和食、▼狭いといわれるわりには変化に富んでいる国土、▼美しい自然、▼安全で清潔で快適な新幹線、▼独自の進化を遂げた大都市―――などが、英語圏を含めた外国人を魅了しているのかもしれません。

ちなみに以前の『訪日外国人の大半はリピーターでラーメン需要も=調査』でも取り上げたとおり、株式会社電通の調査だと、とくに欧米豪各国の場合、日本を訪れる動機は「円安だから」、ではなく、「前回日本を訪れて楽しめた」というものが多いのだそうです。

訪日外国人が毎月300万人を超える時代が到来しつつあるなか、俗に「円安で訪日外国人が増えている」という説明を聞くことがあります(当ウェブサイトでもその可能性を指摘してきました)。しかし、株式会社電通の調査によれば、外国人観光客の約半分はリピーターであり、とくに欧米豪の観光客にとっては円安よりもラーメンを含めた日本食などに魅力を感じて日本にやって来ているようなのです。訪日外国人が「毎月300万人台」の時代2022年10月に日本政府が外国人観光客の受入を再開して以降、コロナ禍で止まっていた日本と外国との往来...
訪日外国人の大半はリピーターでラーメン需要も=調査 - 新宿会計士の政治経済評論

このように考えていくと、今後、欧米豪系の個人旅行を主体とした観光客が増えていけば、東京、京都、奈良、鎌倉といったメジャーな都市だけではなく、「意外な地域」「意外な街」が観光名所となる可能性は十分にありそうです。

これに関し、『コンデナスト・トラベラー』英国版の日本に関する説明を読んでいると、こんな趣旨のことが書かれています。

2021年のオリンピックでは、パンデミックという不幸に襲われたにせよ、伝統、デザイン文化、未来的な革新性など、世界中の視聴者がこの島国を愛し、そして懐かしむことを思い出させてくれた

現在、観光業は活況を呈しており、素晴らしいレストラン、ゆったりとくつろげる温泉、神道寺院、桜、非の打ちどころがないほど清潔で効率的な高速列車など、世界でも有数の風光明媚な鉄道路線が走っている。このめまぐるしい未来国家には、宿泊することも可能な1599年の城だけでなく、常に新しいものがある

伝統に縛られたこの国ではまだ珍しいことだが、(瀬戸内海の)直島の新しいギャラリーや展示、非常にスタイリッシュなグランピング・リゾート、女性シェフが指揮する寿司バーなども出現している

…。

「直島」とは瀬戸内海に浮かぶ香川県の小島で、対岸の岡山県からは直線距離で2㎞ほどしか離れていませんが、近年は「アートの島」として知られるようになっています(詳しくは『直島町観光協会公式・直島観光旅サイト』等もご参照ください)。

オーバーツーリズム課税を検討すべき局面

このように考えていくと、『コンデナスト』の読者層は、もともとは円安を契機に日本に来るようになったものの、もしかすると先日の株式会社電通の調査どおり、日本に独自の魅力を感じ、リピーターとなっているという実態があるのかもしれません。

ただ、そもそも観光業は労働集約産業でもあり、労働力不足が深刻化していく日本において、「人数ありき」でとにかく外国人観光客を誘致する、という戦略は、早晩限界を迎える、というのが当ウェブサイトの一貫した見方でもあります。

そして、英国にしろ米国にしろ、あるいはそれ以外の英語圏の諸国にしろ、旅行者として日本にやってくることができるような層は、基本的には生活に余裕がある人たちであろうと想定され、そのような人たちであれば、本当に満足ができる旅行先には、多少高くても足を運ぶのではないか、といった仮説は成り立つでしょう。

普段、当ウェブサイトでは「オーバーツーリズム」・「観光公害」対策を兼ねて、外国人観光客に対してある程度の入国税を課すべきだと主張していますが、こうした入国税は、日本国内で落とす旅行単価の低い旅客をある程度排除するとともに、日本政府や地方自治体に、オーバーツーリズム対策をする財源をもたらすものです。

「増税がやたら好きな」財務省(※著者私見です!)が、なぜか頑なに入国税構想を言い出さないのは不思議ですが、現在、日本人・外国人を問わず、一律で1,000円を徴収している出国税を止めて、外国人観光客らに1人あたり数万円レベルの入国税を課しても良いのではないでしょうか。

いずれにせよ、日本が英米圏の旅行好きの人たちなどから高く評価されるのはうれしいことである反面、目の前のオーバーツーリズム対策に関して怠って良いという話ではないことは間違いないでしょう。

新宿会計士:

View Comments (8)

  • 米英からの旅行者が日本を選ぶ(自覚しているか無自覚なのかは別にして)理由が重要なのではないでしょうか。

  • オーバーツーリズム対策費を、当事者が負担する。
    徴税の動機に整合性があれば、アリだと思います。

    *一問一答

    取材記者:入国税について一言お願いします。
    財務官僚:入国税は、『NEW・国税!!』です。(ほくそ笑み
    ・・。

  •  国が、優先してやるべき対策は、既に数々の問題が指摘されている「外国人旅行者向け消費税免税制度」の改正だと考えています。
     宿泊税や、観光施設の外国人向け価格(県外でもいいけど)といったものは、それぞれの自治体が、①オーバーツーリズムでの一般市民の迷惑②その対策にかかる費用と、③その導入による観光客の減少、それに伴う経済効果の減少を秤にかけ、判断すれば良いと考えます。全国一律の入国税は時期尚早です。
     観光は、おもてなしをベースとして、日本人には得意な産業です。加えて、東京一極集中になりがちなこのご時世に、地方での需要が多く期待できる貴重な産業です。
     ぜひ積極的に推進を、図って貰いたい。

  • 観光業は日本全体の産業の中でどの程度の位置を占めているのでしょう。例えば自動車産業は自動車本体メーカーだけでなく部品製造や電子関係などなど裾野が広く製造業全体を押し上げる効果があり、恩恵を受けている人は多数います。一方観光業の関連というと宿泊、飲食、交通、土産物店くらいしか思いつきません。確かに「おもてなし」なんぞと浮かれて、カネが入るからいいじゃないかという話ではないように思います。

    また、観光業は一種の水商売みたいなもので、過熱気味のJapanブームが去った後の観光バブル崩壊も注意が必要です。加えて世界の政治・経済の変化を敏感に受ける業種でもあります。
    従って、観光に経済の軸足を置くのはリスクが高いと感じます。 日本経済の根幹はやはり真面目で勤勉な国民性を生かしたモノづくりでしょう。
    よって手切れよく、観光で稼げるうちにしっかりと稼ぐのがよいですね。

  • 外国人から日本が注目されているようですが、この状態を持続させる対策が今必要だと思っています。
    オーバーツーリズムは、日本人ばかりでなく、外国から来た観光客も不満を感じさせるものであり、日本に対する印象を悪くさせる一つの要因となります。
    オーバーツーリズム対策は、すべての観光客の満足度を上げるために必要な対策であるべきです。
    それから、日本の地方都市が注目されるようになってきているようですが、地方都市の外国人受け入れ態勢を再点検し、外国人観光客が安心して旅行できる環境整備を進めていく事が大切だと思います。
    特に、地方都市の歴史と自然を楽しんで頂きたいですね。

  • YoutubeやSNSなどの情報では、「日本らしさ」が評価されているようです。
    日本らしさとは、
    日本社会の(特に公的区画の)整備状況、清潔さ、静かさ、・・・
    日本に住む人の倫理性、公平性、他人への気遣い、・・・
    などが挙げられているようです。

    ということはこれらに反することを制限することが、さらに評価を高めることになります。
    混乱、喧噪、自己中心的行動、差別、・・・。

    あまり言いたくありませんが、某2か国の入国ビザを厳しく(拒否ではなく)すると、より評価が高まりそうです。
    短期的には収入源として必要かもしれませんが、根本としての日本らしさを失いたくないものです。

  • もし高速道路を無料にしたら、大渋滞して動かない。全員が損する。
    (適切な受益者負担は必要)

    インバウンドも同様に、空港も鉄道もホテルも満員だし値段高騰してたら全員が損する。
    (適切な受益者負担は必要)

    農産物の実を間引く(摘果)ようなイメージかしら。
    間引かないと全滅するのを、育てた経験のない人はわからんのかもですね。

  • オーバーツーリズム混み過ぎ対応で
    当たり前の対応の入国税に賛成です(^^)/

    一律5万円でも妥当かとも思いますが
    まずは一律8千円程度でも早い導入を望みます。

    金額はなにより公正な一律金額であるのが
    おかしな異論を封じ込めるのに有効です。
    公正な一律金額であっても、ただ単に
    近くて円安で割安だからと食い散らかし
    必要以上に人数割合が多すぎる国の場合は
    彼らの滞在費消費額も低いので割高になることで
    適正な水準になる効果が期待できます。

    なお、一律入国税8千円でも
    まじめに日本に憧れ、
    でも豊かでない国の人にとっては
    高すぎてて来にくくなることは
    配慮する必要はあるでしょう
    なのでUNCTADで先進国以外の国には
    半額とかの割引制度も考慮するのが良いでしょう。
    都合の良いことに、無駄に多すぎて問題の国は
    なぜだかUNCTADの先進国なんだそうですから
    ちょうど好都合だと考えます。