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インバウンドと温泉地振興に見る交通アクセスの重要性

兵庫県の城崎温泉が外国人観光客に人気なのだそうです。訪れる外国人旅行者が13年で55倍に増えたとのデータもあるそうです。ただ、とあるYouTubeチャンネルの動画では、同地が人気となっている最大の理由は「鉄道」、すなわち日本に不慣れな外国人でも確実に訪れることができるというアクセス条件も関係しているのではないかと推測しています。逆にいえば、ひなびた観光地を振興したければ、このあたりがヒントになるのかもしれません。

インバウンドの急増

日本にやってくる外国人観光客(インバウンド)が急増している件については、当ウェブサイトでもこれまでずいぶんと取り上げてきました。

日本の一部都市、観光地などに外国人観光客が溢れることが日本経済にとって好ましい話であるかどうかはとりあえず別として、外国人入国者が過去最多を記録していることは事実であり、また、せっかくの外国人観光需要をどう取り込んでいくかが観光政策の根幹であることは間違いありません。

ただ、観光客の多寡は地域によってもずいぶんと大きな違いがあるようであり、最近だと観光客が押し寄せるなどして、地元の人々が市バスの利用に困難を来している事例もあれば、相変わらず閑古鳥が鳴いている観光地もあるようです。

その違いは、いったいどこにあるのか―――。

関テレによると城崎温泉は外国人が55倍に

これに関してちょっと気になるのが、関西テレビが今年5月6日付で配信した、こんな記事かもしれません。

「素泊まり・食事なし」が外国人客に人気の城崎温泉 ニーズとらえ客数は55倍に 人手不足の問題も解消

―――2024年05月06日付 関西テレビニュースより

タイトルにある「城崎温泉」は、「しろさきおんせん」ではなく、「きのさきおんせん」と読みます。

兵庫県豊岡市にある、1300年以上の歴史を有するとされる古くからの温泉地ですが、豊岡市におよると、この城崎温泉を訪れる外国人宿泊客は、13年前と比べ、なんと55倍に増えているのだそうです。

関テレはこれについて、「GWの城崎温泉です」、「平日なんですが<中略>多くの人でにぎわっています」とレポートしています(どうでも良い話かもしれませんが、「GWです」と言いながら「平日です」とは、ゴールデンウィークなのか平日なのか、なんだかよくわかりません)。

単純に、外国人観光客が55倍に増えたというのは凄い話かもしれません。

ただし、関テレによるとこれらの外国人の多くは「素泊まり」を好む傾向にあり、実際、城崎温泉観光協会によると加盟している80の宿泊施設のうち約10施設が素泊まり専門で、少しずつ増えているなど、外国人の傾向に合わせて宿泊施設の傾向も変わって来ている、などと示唆しています。

ただ、それはともかくとして、関テレは「多様化する旅行スタイル」にあわせ、「温泉街のもてなしの形も変わりつつある」などとしたうえで、たとえばタトゥーを外湯でOKにしたり、素泊まりOKにしたりして、受け入れ態勢を整えたことが外国人の急増という「成功例」だと述べているそうです。

YouTubeチャンネルの説明が面白い

しかし、この記事に個人的にどうも引っ掛かりがあるとしたら、単純に外国人が増えている理由はそれらだけなのか、という論点です。

こうしたなかで、『たくみっく』氏が運営するYouTubeチャンネルに、ちょっと興味深い動画がアップロードされていました。

同チャンネルは、この「外国人観光客が55倍に増えた」ことについて、少し違う見方をしているようです。

動画によると城崎温泉の訪問者は約30年前にいったんピークに達したものの、バブル崩壊等により、城崎温泉も他の温泉街や観光地などと同様、客足が途絶えたことに悩んでいたのですが、アベノミクスで円安となり、「日本全体がお買い求めやすくなった」ことで外国人旅行者が増えた、といいます。

(※このあたりはアベノミクスと日銀異次元緩和、円安などの時期的な事実関係で若干言葉足らずな部分もあるかもしれませんが、本筋ではないので先に進みます。)

『たくみっく』氏によると、城崎温泉が「大人気スポット」となった理由は、大阪から電車一本でアクセスできるという利便性にあるのだそうです。

具体的には大阪駅から城崎温泉行特急列車が1時間に1本走っていて、所要時間は2時間40分という利便性、しかも駅を降りたらバスに乗り変えることなくすぐに温泉街という立地の良さが人気の理由だ、と述べているのです。

これに加え、大阪から城崎温泉に至るまでの車窓も田園地帯で美しく、景色や旅館の料理をインスタグラムなどに投稿する外国人観光客が増え、口コミで今後さらに外国人客が増えていく可能性がある、といったところが同動画の指摘です。

この点、「大阪から城崎温泉まで特急が1時間に1本」などの解説は若干正確ではないかもしれませんが(厳密には「特急こうのとり」だけでなく「特急はまかぜ」などを使用するルートもあるようです)、それでもこの動画の指摘通り、「大阪駅から簡単に行ける温泉地」のひとつが城崎温泉であることは間違いありません。

これに関しては、同動画の仮説はこうです。

  • 団体客が多い中国人観光客を呼び込むには、城崎温泉の温泉旅館は規模が小さい
  • そこで同温泉は団体客を狙うよりも個人旅行客をターゲットに定めた
  • しかし、個人旅行客が多いのはおもに欧米系訪日客であり、彼らの多くは日本語を解さない
  • そこで、城崎温泉は地域観光づくり法人(DMO)を立ち上げ、温泉旅館、自治体、旅行会社、銀行などを巻き込み、外国語版ウェブサイトや独自の旅行サイトを立ち上げるなどした
  • 海外マスコミや海外旅行系サイトを招き、外国メディアに取り上げてもらったことで城崎温泉の知名度を上げた

…。

鉄道(とくにJR)とのアクセスの良さ

こうした努力に加え、決定的に大きかった要因が、大阪駅からのダイレクトアクセスという交通の利便性だとしています。特急列車の終着駅が城崎温泉であり(※著者注:そうでないケースもあります)、土地勘がなくても、あるいは日本語をいっさい解さなくても容易にたどり着ける、というわけです。

最終的にはバスに乗らないと辿り着けないような温泉街であったり、あるいは同じ鉄道路線でもJRではなく私鉄(とくにクレジットカードなどが使えない路線)だと、クレジットカードが使え、しかも英語によるアナウンスも充実しているJRと比べ、どうしてもハードルが上がるのだ、というのがこの動画の説明です。

これに加えて(JRを使った名古屋駅からの乗り換えなしで到達が可能な)下呂温泉についても同様に外国人観光客が「大幅に増えている」のは「国内でも数少ないサクセス」としたうえで、やはり観光地の条件としては鉄道による大都市とのアクセスが重要だ、と指摘しているのです。

この点はたしかにそのとおりでしょう。

私たち日本人にしたって、外国に旅行に行ったとしても、その国の言葉が理解できなければ、周りをよく見ながら、あるいは駅員さんなどに尋ねながら、おっかなびっくりで電車やバスに乗ったりすることが多いでしょう。こうしたときに、「この電車に終点まで乗れば目的地にたどり着ける」といわれれば、乗っている立場としても気分が楽です。

もちろん、以上の説明については、必ずしも完璧なものとはいえません。たとえば有馬温泉や雄琴温泉など、京阪神都市圏から近い温泉地はほかにもいくつかあるため、これらの温泉地との比較については研究テーマのひとつとしては面白いかもしれません。

欧米豪系旅行客の呼び込みにはアクセス改善がヒントか

ただ、それと同時に、「わかりやすいアクセス」がインバウンド(とくに欧米系)を取り込むカギだということであるならば、鉄道のみならず、たとえば観光地に直行するバス路線があるかどうかなどに関しても、ひなびた温泉郷を振興するうえでのひとつのヒントとなり得るのかもしれません。

ちなみに以前の『訪日外国人の大半はリピーターでラーメン需要も=調査』でも取り上げたとおり、株式会社電通の調査だと、とくに欧米豪各国の場合、日本を訪れる動機は「円安だから」、ではなく、「前回日本を訪れて楽しめた」というものが多いのだそうです。

訪日外国人が毎月300万人を超える時代が到来しつつあるなか、俗に「円安で訪日外国人が増えている」という説明を聞くことがあります(当ウェブサイトでもその可能性を指摘してきました)。しかし、株式会社電通の調査によれば、外国人観光客の約半分はリピーターであり、とくに欧米豪の観光客にとっては円安よりもラーメンを含めた日本食などに魅力を感じて日本にやって来ているようなのです。訪日外国人が「毎月300万人台」の時代2022年10月に日本政府が外国人観光客の受入を再開して以降、コロナ禍で止まっていた日本と外国との往来...
訪日外国人の大半はリピーターでラーメン需要も=調査 - 新宿会計士の政治経済評論

このように考えていくと、今後、欧米豪系の個人旅行を主体とした観光客が増えていけば、東京、京都、奈良、鎌倉といったメジャーな都市だけではなく、「意外な地域」「意外な街」が観光名所となる可能性はあるというのが個人的な見立てです。

とくに「四方を海に囲まれた火山国」という日本の条件を考えると、「海が見える温泉・露天風呂」がある観光地ないし宿泊施設が注目される可能性はあると思います。

この点、当ウェブサイトにおいて「観光業は日本の主要産業になり得ない」と述べて来ていますが、それと同時に、地方経済振興という観点からは、インバウンド観光は(やり方によっては)経済振興の良いチャンスとなり得ることも間違いありません。

その意味では、成功している温泉地などの事例をうまく研究し、応用していくことは重要であるといえるでしょう。

新宿会計士:

View Comments (6)

  • > 決定的に大きかった要因が、大阪駅からのダイレクトアクセスという交通の利便性だとしています。

    羽田→伊丹→但馬空港 より決定的に大きい要因なんですか?

    但馬空港から城崎温泉は、バスで11分。タクシーでも近い。宿によっては、送迎もあるカモ。

    P.S.

    JR城崎温泉駅で降車したのは半世紀位前かな?

    • 自己フォローです。

      飛行機が小さいらしいので、人数的にはJRの方かな?
      30年前、妙にケチって短い滑走路にしたツケか?
      地元は、羽田直行便を望んでいるらしいけど。

      • 観光客の皆さんが、京・大阪を巡って城崎温泉入するには、大阪から電車一本、確かにとても便利ですね。観光ルートとして良い選択だと思います。(有馬温泉もありですが)中途半端な関西人?のわたしは車でいっちゃいますけど。

  • 昔は城崎温泉よく行きました。
    いつも年度末に先輩の卒業追い出し旅行に使ってました。

    素泊まりは勿体ない。
    冬のカニフルコースがよいです。
    土日はお高いけど平日なら学生でもなんとか。
    宴会してみんなで雑魚寝。
    廊下の隅っこで別れ話が始まったりして。

    部屋にこもりきりだと湿っぽくなるけど外湯巡りがあるから、わざとらしく気分転換もできるし。
    なんのかんの楽しかったなあ。

    外人さんたち、いいところに目を付けますね。

    • 超久しく行ってないので、外しているカモ知れませんが、、、

      >> 「海が見える温泉・露天風呂」がある観光地ないし宿泊施設が注目される可能性はあると思います。

      城崎って海見えましたっけ? 川は見えるでしょうけど。

      > 冬のカニフルコースがよいです。

      蟹フルコースは私も好きですが、もっと日本海側を利用する様になりました。温泉付き料亭ですが、蟹で満腹になってからの温泉は、余り楽しめないので、最初に温泉、その後に蟹という順にしてます。料亭で泊まれるんですが、少し走って、町営の安宿で素泊まりします。町営の安宿だけあって、素泊まり以外の選択肢は、自炊になります。それでも、風呂は温泉なので気に入ってます。

      城崎は外国人観光客に譲って、日本人は穴場(次の観光地)を開拓しましょう。
      既に日本海側の蟹料亭にも、外国人がぼちぼち増えてます。
      次の穴場を探さねば。

  • JR.なら、外旅行旅行者用のパスを使えば、
    切符を購入するというハードルがなくて行きやすいですよね。