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「募金活動」にも会計監査を義務付けるべきではないか

テレビ放送で有名な募金を受け入れる公益社団法人が、会計監査を受けていないらしい、という点について、調べてみました。法令の規定によれば、収益・費用がともに1000億円未満で負債の部が50億円未満であれば、公認会計士や監査法人の会計監査を受けなくても良いのだそうです。現実に寄附金流用事件が発生しているわけですから、自主的に会計監査を受けたりはしないのか、という疑問もないではないのですが…。

公認会計士は会計監査の専門家

世間的にはあまり知られていない話かもしれませんが、じつは、公認会計士は「会計監査」の専門家です。

会計監査とは、わかりやすくいえば、会社などが発表する決算が信頼できるものであるかどうかについて、意見を述べる仕事です。

簿記を勉強したことがある方ならわかるかもしれませんが、会計というものは、意外と幅があります。

たとえば同じ業種に属し、同じような売上高・従業員数の業種であっても、会計処理の方法が異なれば(たとえば減価償却の方法が異なれば)、最終的な利益の水準に違いが出てきますし、極端な話、A社は利益を計上しているのに、B社は最終損失に転落する、といった事例はよくあります。

これについては、たとえば、「A社の決算が正しく、B社の決算が誤っている」、という話になるとは限りません。極端な話、A社、B社のどちらの決算も、「会計基準に準拠して適正に作成されているものである」という可能性すらあります。

では、なぜこんなことが起こるのでしょうか。

著者自身の実務家としての感覚ですが、結局のところ、企業会計も、現実の企業活動を平面に写し取る「鏡」のようなものに過ぎないからだと思います。

企業は毎年の期間を区切って「儲かった」、「損をした」などと報告しなければならないわけですが、その企業の活動というものは継続しており、べつに「区切り」など存在しません。つまり、決算とは人為的に年度を設けて無理矢理区切り、その時点での企業の財政状態と経営成績を写し取るという経済行為なのです。

そして、立体的な経済行為を決算数値という平面に写し取るわけですから、それを写し取る角度によって、儲かっているように見えることもあれば、損をしているように見えることもあります。それをどのような角度から写し取るかについては、ある程度、財務諸表の作成者(=企業経営者)に委ねられている、というわけです。

だからこそ、「企業会計について知り尽くした専門家」(?)である公認会計士が、その企業の決算について、「だいたいその企業の実態を適正に表示しているかどうか」についての「意見」を述べることが求められており、これが会計監査の正体なのです。

公認会計士と税理士は別物です

このあたり、著者自身もかつて会計監査を業として行っていて、現在でもその近接する業界で禄を食んでいるわけですが、やはり、企業会計の仕組みをよく知らない人に「公認会計士ってこんな仕事なんですよ」と説明することの難しさに、日常的に直面しているのです。

もちろん、上場会社などで働いている人からすれば、公認会計士ないし監査法人という存在は、多かれ少なかれ、目にすることはあるかもしれませんが、そうでない人にとっては、公認会計士といえば「税理士と似たような仕事でしょ?」くらいの感覚しかないのかもしれません。

実際、X(旧ツイッター)などで、特定の政党を支持する人たちをおちょくって遊んでいると、彼らから「どうしてこの会計士は確定申告の時期なのにSNSに投稿しているんだろう?」などと悪口を言われることもあるのですが、大変恐縮ながら、彼らには公認会計士と税理士の区別がついていない可能性が濃厚です。

余談ですが、公認会計士資格保持者は、申請すれば税理士試験を受けなくても税理士登録することができるという「特権」を持っていて、その逆はないのですが、だからといって、そのことは「公認会計士は税理士の上位資格である」ことを意味するものではありません。

現実問題として、公認会計士と税理士に求められるスキルはまったく異なるものだからです。

ちなみにごく稀に、Xなどでは公認会計士試験受験者の方が税理士試験を「あんな試験は簡単だ」、などと下に見ている人を見かけることもあるのですが、こうした態度は感心しません。

もし「あんな試験は簡単だ」とおっしゃるのならば、じっさいに「そんな簡単な試験」に受かってみせてはいかがかと思う次第です。

会計監査の領域は広い:企業だけじゃなく学校や政党、自治体も!

さて、それはともかくとして、この「会計監査」、最近だと必ずしも企業会計にのみ求められるものではなくなってきています。

たとえば、学校法人(私立学校)の場合は私学振興助成法に基づいて補助金を受けようとする場合などには、基本的に会計監査人(公認会計士または監査法人)の会計監査を受ける義務があります。

また、地方公共団体も外部監査人(※公認会計士だけでなく弁護士、税理士も含む)の監査を受ける義務がありますし、政党助成法に基づく政党交付金の支出などの報告書に対しても、公認会計士または監査法人の監査を受ける義務が課されています。

これについて日本公認会計士協会ウェブサイトの『日本の監査制度』というページで調べてみると、監査制度については次のようなものがあるのだそうです。

法定監査

金融商品取引法に基づく監査(上場会社など)、会社法に基づく監査(大会社や委員会設置会社など)、保険相互会社の監査、特定目的会社の監査、投資法人の監査、投資事業有限責任組合の監査、受益証券発行限定責任信託の監査、国や地方公共団体から補助金を受けている学校法人の監査、寄付行為等の認可申請を行う学校法人の監査、信用金庫の監査、信用組合の監査、労働金庫の監査、独立行政法人の監査、地方独立行政法人の監査、国立大学法人・大学共同利用機関法人の監査、公益社団・財団法人の監査、一般社団・財団法人の監査、消費生活協同組合の監査、放送大学学園の監査、農業信用基金協会の監査、農林中央金庫の監査、政党助成法に基づく政党交付金による支出などの報告書の監査、社会福祉法人の監査、医療法人の監査…など

法定監査以外の監査

法定監査以外の会社等の財務諸表の監査、特別目的の財務諸表の監査…など

国際的な監査

海外の取引所等に株式を上場している会社又は上場申請する会社の監査、海外で資金調達した会社又は調達しようとする会社の監査、日本企業の海外支店、海外子会社や合弁会社の監査、海外企業の日本支店・日本子会社の監査…など

ずいぶんとさまざまなものがあるようです。

要するに、「外部からおカネを受け取っている人たち」に対しては、そのお金の使い道が正しく報告されているかどうかに関し、公認会計士や監査法人のチェック(会計監査)を受けなさいよ、というのが現在の一般的なルールだと考えて良いでしょう。

この点、正直、マンパワーが限られている公認会計士・監査法人がすべての不正を見抜けるとも思えませんが、ただ、公認会計士または監査法人という「外部者」の目が入ることは、とても重要でもあると思います。外部者の目が入ること自体、不正に対する牽制にもつながるからです。

社会的な重要性の大きい上場会社や大企業、あるいは国民の税金が投じられている私立学校振興助成法や政党助成法の規定はもちろんのこと、他人の善意のおカネを預かっている組織に対しては、基本的にその決算報告の信頼性を確保するうえで、外部監査は必要ではないかと思います。

個人的には財務省に対して、厳格な会計監査を実施すべきではないかと思うのですが、この点についてはいずれ別稿にてねちねち触れたいと思う次第です。

あれ?「あの募金」に会計監査は?

こうしたなかで思い出しておきたいのが、某テレビ番組で行われた募金活動で集まった資金の一部を、テレビ局の職員が横領し、パチンコや飲み代などに浪費した、とする事件です。これについては当ウェブサイトでは『寄付金着服事件に対し「ダンマリ」決め込む日本テレビ』などを含め、これまでに何度となく取り上げてきました。

ちなみに問題の番組については今年も放送されたらしく、報道等によれば出演者がマラソンを行ったところ、約4.4億円もの募金が集まったとのことだそうで、これは昨年度1年間を通じた8億4805万9341円の半額を超えるものです。

このあたり、あくまでも個人的には「寄附金横領事件」の影響で、募金は大して集まらないのではないかと思っていたのですが、現実には多額の募金が集まった計算です。現実に募金は1年を通じて行われているそうですので、これからもっと増える可能性も十分にあります。

ただ、これについては、(あくまでも個人的な疑問ですが)本当に一般の人々からの善意が寄せられた結果なのか、よくわかりません。あまり厳しいことは言いたくないのですが、テレビ局の局員やその関係者らが自腹で身銭を切って募金をした、という可能性はないのでしょうか?

これに関し、山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士が、自身のXにこんな内容を投稿していたようです。

じつは公益社団法人の監査基準は緩い

この発言を受け、Xではこんな趣旨の発言がありました。

…。

これは、Motosanというユーザーの方がポストしたものですが、なかなかに秀逸で鋭く適切な指摘です。

まさに、募金活動をするのであれば、基本的には外部監査人の会計監査を義務付けるのが筋です。

これに関し、「公益社団法人24時間テレビチャリティー委員会」のウェブサイトを調べてみたのですが、著者自身が調べた限りにおいては、事業報告書決算報告書には公認会計士または監査法人の監査報告書は添付されておらず、会計監査を受けている形跡は見られませんでした。

じつは、『一般社団法人及び一般財団法人に関する法律』と『公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律』という法律を読むと、公益社団法人に対しては会計監査人(公認会計士または監査法人)による監査を受けることが義務付けられているのですが、これに例外規定が設けられています。

それが、次の3つの条件を同時に満たす場合だそうです。

  • ①最終事業年度に係る損益計算書の収益の部に計上した額の合計額が1000億円未満であること
  • ②最終事業年度に係る損益計算書の負債の部に計上した額の合計額が1000億円未満であること
  • ③貸借対照表の負債の部に計上した額の合計額が50億円未満であること

(【出所】『公益社団法人及び公益財団法人の認定等に関する法律』第5条第12号および同施行令第6条)

この点、問題の公益社団法人については正味財産増減計算書上の収益も費用も1000億円どころか⑩億円も超えておらず、また、貸借対照表上も負債の額はゼロであるため、想像するに、会計監査を受ける義務は免れているのでしょう。

ただ、昨年、「善意で寄せられた募金」を横領するという、あそこまで社会的に大きなインパクトをもたらす事件を発生させた当事者として、会計監査を受けない、というのもなんだかよくわかりません。自主的に監査を受ける、といったことくらいはしても良いのではないか、などと思ってしまいます。

(※なお、あらかじめお断りしておきますが、著者自身は火中の栗を拾いたくないので、同社団の会計監査を受けるつもりはありません。)

いずれにせよ、公益社団法人も規模が一定未満である場合には、会計監査を受けなくて良い(らしい)、というのは、個人的には新たな知見である、という点については申し添えておきたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (18)

    • 始まったばかりの頃の24時間テレビ寄贈の福祉車両って24時間テレビのロゴとは別にドアの所に日本船舶振興会って書いてませんでしたっけ?なんせ子供の時の記憶なんで定かではないんですが‥ずっと日本船舶振興会(現日本財団)と24時間テレビは関係深いように思ってましたけど‥記憶が定かで申し訳ないです。ただ記憶が正しければ安倍元総理の奥さんにも近いですよね

  • 某テレビ局では、ドラマの原作者の漫画家が亡くなるという痛ましい事象が
    ありました。それに関して、ドラマ制作における指針なるものが
    7月22日付で某テレビ局のサイトに公表されていました。
    https://www.ntv.co.jp/info/pressrelease/20240722.html
    新宿会計士さんの表現を拝借すると、何とA4の1枚ぺらで、
    内容も抽象的で、文末も「努めます」「目指します」等となっていて、
    極論すると、この指針を無視しても従来同様にドラマが制作できてしまう
    代物だと感じました。
    なお、当方も、今回の24時間テレビは視聴していません。

  • 公認会計士による会計監査を義務付けて欲しいものは、たくさんあります。
    第一位は、政治家の政治資金管理団体(まずは国会議員だけでも良い、順次県会議員等にも拡大)
    第二位は、一定規模以上の宗教団体(学校法人は助成金の関係で事実上義務付け)
    第三位は、公的助成を受けているNPO
    募金活動も、その対象かもしれません。

    • 宗教法人も、税務調査の対象にはなります。
      宗教法人から支払われる聖職者や職員への給料には所得税が課されますし、収益性事業には法人税が課されるからです。
      お布施や寄付金をこっそり私のポケットに入れていないか、宗教法人の経費にして私的な物品やサービスの購入に充てていないかなども調べられます。
      そもそも信仰者の収入には税金が課されてますから、信仰者の共有財産から支払われる給料に更に課税するのも奇妙なことかもしれません。
      宗教法人の収入でスーパーカーなどの常識を超えた贅沢品を購入するなど、聖職者にあるまじき行為を抑止するためなのかもしれませんが。
      お布施や寄付の違法な強要、オカルトグッズの押売りなどは、どちらかというと警察案件のように思いますが、監査するなら法曹関係者でしょうね。

      • 同業者さま
        コメントありがとうございます。
        でも、税務署の宗教法人に対する調査は甘い、と伺っております(仰るような目に余る行為が聞こえてきたときのみ調査)。
        それから、法的にまた税務上も、宗教法人は独立しており、信者の共有財産とは異なります。
        檀家に依存する小さな寺をどうこうするつもりはありませんが、少なくとも信者数10万人以上を公称する巨大宗教法人については、無税というメリットを受けているなら、公認会計士による会計監査を義務付けるべき、と考えております。
        まあでもそれより、政治家の資金管理団体が先ですよね。

        • 残念ながら、地方の一寺社であろうが、数年に1回は税務調査にやって来ます。
          それがノルマなのかどうかは存じませんが、毎回理不尽なご指摘を受けて徴税されるそうですから、決して甘くはないと思いますよ。
          政権与党とズブズブの関係にあった統一教会や公明党の支持団体の創価学会については存じ上げませんが。
          わが国の法律上は、法人格のない組合と違って、法人格のある宗教法人の財産は宗教法人自身の財産とされています。ところが、氏子や檀家などの信仰者はそうは思っていないんですよ。
          試しにお布施や寄付による収入に課税する法案を国会に提出してみればわかります。

  • 慈善金 事前準備が 次善なり!
    最善は「不正無し!」ですけどね。



    *下の囲みの②の記述は転記ミスでしょうか?
    「損益計算書の”負債の部”」になっています・・。

  • このTV局の募金もひどいですが、代々木方面のK党の募金もひどいようですね。
    おおきな災害が起きたら必ず募金活動するようですが、党の活動費(もしかしたら遊興費や党幹部の生活費?)に使われるようですからうっかり募金しないようにしましょう。

  • 募金活動は、善意で行われているのが前提であるので、不正が行われたとしてもそれに口出しをする必要がないです。
    そんな不正で、募金する人も、される人も喜ばない。
    24時間テレビでも、今まで続けてこられたのは善意があるからです。
    タレントが、高額の出演料をもらっていたとしても、本人の本心でもらっていいのか判断は付くと思います。
    水卜アナウンサーがお詫びの放送をしていたのは、仕事上でお詫びをやるように
    いわれたのではないと思います。

  • パーティー券収入の記載除外と同じ理屈で募金の受け入れ除外があり得る。
    カネの入り口は第三者に任せるのがいい。
    賽銭と同じで1か所に集めて銀行員に数えさせるのがいいかも。

  • てか、今年の24時間テレビは会計監査入れないんですかね。
    まあ、募金全てに会計監査をというつもりはないですが、24時間テレビは当然それをやるべきですよね。名のある大手会計事務所がしっかりと監査して会計報告する。
    募金の外枠で巨額の放映に絡む収入があるのですから、会計監査の費用くらい募金に手をつけずとも捻出できます。会計監査費用をスポンサードする企業があっても良いし。

    • 新宿会計士さま

      まあ、まともに会計監査しようと思ったら、各地の募金箱に手を突っ込まないかまで見る必要があるので、小規模な事務所じゃ手に負えないでしょう。大企業の監査以上の費用請求できる大規模案件ですよね。

  • デジタル庁の長官が、助け船を出せばよかったのに。

    「全ての募金を、電子マネーでもらえ。」
    「必要な端末は、全台数をデジ庁で責任をもって貸与する。」
    いつ誰からいくらは、これでパーフェクト。
    総裁選争いも、これで一歩も二歩もリード間違いなし!

    「ふざけんな調子にのんな、麻布食品の件を報道するぞ」
    「・・・・ほな、サイナラー」

    政治資金も
    「全額を電子マネーで」
    「入金時にマイナンバーを見せたら全額控除」
    とかしてみたらいいのにね。