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新紙幣発行でパチンコ閉店加速か

パチンコ業界といえば、最盛期と比べて1万店舗以上減少するなど、衰退する業界の典型例のひとつと見られています。こうしたなかで、パチンコ業界にもうひとつ襲い掛かろうとしているのが、7月3日以降に予定されている新紙幣の発行でしょう。これにより、パチンコ店では「台間サンド」を含め、多くの両替機などでシステム更改ないしは台そのものの入れ替えが必要になるからです。

減少するパチンコ店

パチンコ店の減少傾向が続いています。

先日の『パチンコ店の減少続く:最盛期と比べ1万店舗以上の減』では、警察などの発表をもとに、全国でパチンコ屋の減少が続いていて、「最盛期」の1995年の17,631店舗と比べ、2023年末には7,083店舗と、じつに1万店舗以上減少している、とする話題を取り上げました。

本稿は、「ショートレビュー」です。警察庁の発表によると、2023年におけるパチンコ屋の店舗数は7,083店舗となり、前年の7,665店と比べてさらに7.59%減りました。ピーク時の1995年の17,631店舗と比べれば、10,548店舗も減少しています。ただし、パチンコやスロットの台数は店舗数の減少と比べて緩やかであり、このことから、パチンコ業界では店舗の大型化で生き残りを図っている、とする仮説も成り立ちます。以前の『30年で半分に減ったパチンコ店』では、警察庁および「全日本遊技事業協同組合連合会(全日遊連)」のデータをもとに...
パチンコ店の減少続く:最盛期と比べ1万店舗以上の減 - 新宿会計士の政治経済評論

問題の図表を再掲しておきましょう(図表1)。

図表1 パチンコ店舗数

(【出所】過去の警察白書等を参考に作成)

これでわかるとおり、パチンコ店は2000年に前年比増えているものの、これを例外とすれば、1995年のピーク以降、前年割れを続けています。

また、2008年以降は、いったんパチンコ店の減少にやや歯止めがかかったようにも見えるのですが、その後もジリジリと減少が続き、2015年頃からその傾きが大きくなり、2019年に1万店を割り込んで以降は、毎年平均600店舗ほど減っている計算です。

毎年600店舗ずつ減少すれば、あと12年後には日本からパチンコ店が一掃される計算です。

台数自体はさほど減っていない=店舗の大型化が進んでいる

といっても、店舗数が直線的に減少していく、というものでもありません。

たしかにパチンコ店自体は減っているのですが、その分、残っているパチンコ店の大型化が進んでいるからです。

図表2は、全国のパチンコ、パチスロの台数を示したグラフです。

図表2 パチンコ・パチスロの台数

(【出所】警察白書および全日遊連データなどを参考に作成)

パチンコ店自体が最盛期の1995年以降の30年弱で1万店舗以上減ったのに対し、パチンコ・スロットの台数は1996年のピーク時の781万台と比べ、2023年には416万台と、半分も減っていません。

結果的に、1店舗当たりの台数は、2023年において587台となり、これは2005年の390台と比べて約1.5倍です(図表3)。

図表3 パチンコ1店舗あたり台数

(【出所】警察白書および全日遊連データなどを参考に作成)

つまり、パチンコ店のなかには経営に行き詰まるケースが増える一方で、生き残る店舗は大型化によって対応を図り、来るべき「新時代」に向けて、この苦しい時期を乗り切るつもりなのではないでしょうか。

余裕のあるうちに業態転換するのはひとつの知恵

このあたり、経営コンサルティング的な立場からすれば、「業態転換できるタイミングで業態転換する」というのは、賢明なやり方だとは思います。

たとえば、パチンコ店について、「ギャンブルの店」ではなく、「娯楽を提供する店」という側面に焦点を当ててみるならば、提供する娯楽はべつにパチンコ・パチスロでなくても良いわけであり、極端な話、ゲームセンターやカラオケ、ビリヤード、ボーリングなど、「ほかの娯楽業」に転換したって良いはずです。

また、パチンコ店の多くは駅前の一等地に立地しているのですが、もしも自社ビルで経営しているならば、その立地を生かして商業施設に衣替えしても良いはずです。実際、著者自身は都内の某繁華街をもう30年近く見つめているのですが、このような業態転換はよく見られます。

  • 店舗A→パチンコ店からコンビニエンスストアに衣替え
  • 店舗B→パチスロ店からカラオケ店に衣替え
  • 店舗C→パチンコ店からゲームセンターに衣替え

また、「廃業できる体力が残っているうちに廃業し、従業員に割増退職金を支払って身ぎれいにしたうえで、不動産物件を売却してしまう」というのも、ひとつの選択肢でしょう。

キャッシュレス化が進まないパチンコ業態

なぜこんなことを述べるのかといえば、パチンコ店舗には、やはり将来が見えてこないからです。

たとえば、世の中は全体として、キャッシュレス化の流れにあり、最近だとゲームセンターでも電子マネーで遊べる台などが出現していたりしまますが、こうしたキャッシュレスから取り残されているのがパチンコ業態でもあります。

では、なぜパチンコ業界でキャッシュレスが進まないのでしょうか。

これに関してはウェブ評論サイト『東洋経済オンライン』に、今から約2年前に掲載されたこんな記事が参考になるかもしれません。

パチンコ業界で「キャッシュレス」進まぬ複雑背景

―――2022/08/28 5:00付 東洋経済オンラインより

東洋経済によると、パチンコ業界でキャッシュレスがなかなか進まない理由は、警察がそもそもキャッシュレスに消極的だからだそうです。

実は、ほとんどのパチンコホールはいまだに現金でしか遊べない。クレジットカードやそれと紐付いた電子マネー・コード決済でパチンコを楽しむのは、いわば借金をして遊ぶようなものだからだ」。

いわば、パチンコのユーザーがのめり込み過ぎないよう、警察当局がこうした決済手段を導入しないよう、「口を酸っぱくして指導して来た」からです。

記事では業界側からパチンコ・パチスロ業界のキャッシュレス化に向けた要望も上がっているとしつつ、「スマート遊技機」などの構想も出て来ていると述べます(それにしても、「スマート遊技機」って…)。

ただ、業界のキャッシュレス化に向けた最大のハードルが、主要なキャッシュレス事業者がパチンコのキャッシュレス化に後ろ向きである、という風潮なのだとか。

たとえば交通系電子マネーの代表格であるSUICAを巡って、JR東日本は「パチンコ事業者からの導入希望に対して、当社として応じる方針はございません」と否定的であるほか、PayPayも現時点でこれに応じる見込みは立っていない、などとしています。

これに加えて記事ではキャッシュレス業界関係者の発言として、こんな内容が紹介されています。

パチンコホールのお金がどこに流れていくのか、調べることは難しい。キャッシュレス各社はこの点を懸念しているのではないか」。

記事ではほかにも、「パチンコペイ」構想など、業界特有のキャッシュレスサービス構想などに関する話題も出て来ているのですが、この記事から2年経っても、(調べた限りでは)そのようなサービスが実現している形跡はありません。

したがって、パチンコ業界は当面、キャッシュレス対応が進まない可能性が高いとみるべきでしょう。

新紙幣発行でパチンコ店に「大量閉店ラッシュ」!?

こうしたなかで、もうひとつ、ちょっとした話題があるとしたら、7月3日に予定されている新紙幣発行です。『週刊SPA!』が今月1日に配信した次の記事によると、この新紙幣対応がパチンコ店にさらなる費用負担を強いる可能性がある、というのです。

パチンコ店の“大量閉店ラッシュ”を加速させる「新紙幣発行」問題。1億円以上負担するホールも

―――2024/06/01 08:30付 Yahoo!ニュースより【週刊SPA!配信】

記事によれば、新紙幣発行により、店舗によってはパチンコ店の新紙幣対応に伴うコスト負担が発生する可能性がある、としています。

たとえば、関東近郊で10店舗以上展開している大手に勤めるAさんは、「プログラムの書き換えだけなら1台7,000~8,000円くらい」、「新しめの機械は改刷(※新紙幣発行)も見越して作っているので対応できる」、などとしつつも、こう指摘するそうです。

10年以上前の機械だと、それができない。モノによっては紙幣識別機の交換だけで済む場合もありますが、機械を丸ごと入れ替えるとなると、メーカーやタイプ、購入台数にもよりますが、おおむね1台20万円前後になるんじゃないですかね」。

この「台間サンド」、正式には「台間玉貸機」と呼ばれ、台と台の間に設置された、紙幣で玉やメダルを借りることができる機械のことです。

先ほどの図表3では、昨今だとパチンコ店の平均的な台の数は587台だ、という話題が出ていましたが、もしこの台間サンドが600台設置されている店で、1台1万円でプログラムを書き換えるならば、その費用は600万円で済みます。

しかし、(記事では記載されていませんが)もしもこれらの台間サンド、プログラム改修では対応できず、1台20万円かけて交換しなければならないのだとすれば、交換費用は1.2億円(!)に達する計算です。

問題は、それだけではありません。Aさんはこう述べたそうです。

町のスーパーなどでは今回の改刷のシステム更新に関して、全額ではないけど助成金が出ます。でも、パチンコ店は一切出ないから辛いんですよね。しかも、事務所で使う売上金を数える機械とかも変えないといけないし、この際だから新しくしちゃおうっていう設備も含めると、それくらいはいきますね」。

なかなかに厳しそうです。

人力での交換対応も…やはり限界がある

もちろん、新紙幣が出ても、現行紙幣がすぐにそれらの新紙幣に置き換わるわけではなく、若干のタイムラグを伴うであろうことは想像に難くありません。

したがって、機械類の交換もただちに行わなければならないわけではなく、実務的には店頭で「新紙幣にはまだ対応していません」などといった注記を行っておき、新紙幣を持って来る客が増えたとしても、しばらくは有人カウンターで紙幣交換をするなどの対応を取ればよいのかもしれません。

実際、記事によればAさんは、前回(2004年)の新紙幣発行時ポケットの中に「常に旧札を200万円くらい入れて、人力で交換するためにホール中を走り回っていた」のだそうです。

ただ、いつまでもこうした対応を続けるわけにもいきません。新紙幣発行から時間がたてばたつほど、世の中から旧紙幣そのものが回収され、なくなっていくからです。

実際、Aさんは、こう予想しているそうです。

ここ数年でホールが閉店しまくってますが、今回の改刷でさらに1000店舗くらい減っちゃうんじゃないですかね。実際、買い替えないといけないハズの古い機械を使っているのに、工事の予約を入れていないホールの話なんかも聞きますし」。

ただ、改めて考えてみたら、「不特定多数の客が来店し、大量の紙幣が集まる」という意味では、パチンコ業界は非常に不健全でもあります。銀行でもないのに常に多額の現金があるからです。

いずれにせよ、パチンコ業界を巡っては、業界が上向きになるという話はあまり耳にしませんが、このままじわじわと業界が衰退していくのか、それとも一部はいわゆる「統合型リゾート」などの形での生き残りを目指すのかは気になるところです。

しかし、一般論でいえば、事実上の「ギャンブルと名乗らないギャンブル」でもあるパチンコも、店舗数が少なくなっていけば、規制としてはよりコントロール可能性が高まることは間違いありません。

もし記事の指摘通り、新紙幣導入などを機に、パチンコ店が今年、一気に1,000店舗以上廃業すれば、全国のパチンコ店舗数は6,000軒を割り込む展開もあり得ます。さらに2~3年後には、店舗数は5,000店を割り込む展開すらあり得ます。

さすがに全国に17,631店舗存在した1995年の時点だと、一気にパチンコ規制を強化しようとするのには無理があったかもしれませんが、パチンコ店舗数が規制当局にとって「十分にコントロール可能な水準」にまで減ってくれば、パチンコ規制の在り方も変わってくるかもしれません。

その意味では、今後のパチンコ業界の動きについては、目が離せないといえるでしょう。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • 息を吐くようなダブルスタンダードをやらかすリベラル野党ですが。
    カジノについてギャンブル依存症を増やすつもりか!と怒気を撒き散らして反対しますが。
    ギャンブル依存症を大きく作り出しているパチンコにはだんまりです。

    特定の場所でしかできないカジノと、日本中どこにでもあるパチンコ
    どちらがギャンブル依存症を引き起こす数が多いか自明でしょう。

    結局のところ自身の票田が大事なだけであって
    日本人のことを大切に思っていない証左です。

    そういった意味でパチンコ店が衰退していくというのはリベラル野党の力が削がれるという意味でいいことだと思います

  • >たとえば、パチンコ店について、「ギャンブルの店」ではなく、「娯楽を提供する店」という側面に焦点を当ててみるならば、提供する娯楽はべつにパチンコ・パチスロでなくても良いわけであり、極端な話、ゲームセンターやカラオケ、ビリヤード、ボーリングなど、「ほかの娯楽業」に転換したって良いはずです。

    葬儀の多様化が進む昨今、アミューズメント・セレモニーホールなんてのもありかもですね。

    お客様のご来店は不定期になりますが。

  • パチンコ業界、パチンコ店がどちらを選択するか、

    現金商売のメリット
     収入そのままが売り上げとなる
     日銭が入る
     脱税をしやすい

    非現金商売のデメリット
     手数料が掛かる
     入金が一定期間後
     収入をごまかしにくい

    ですかね。

    非現金化の方が対策費は安そうだけど、脱税のために現金商売を続けるか、
    因みに、伊丹十三監督のマルサの女を思い出しました。

      • ドラちゃん様
         非現金商売のメリット(逆は現金商売のデメリット)は、
          釣銭小銭を用意しなくていい
          手持ち金額以上の支払いを他者保証で得られる

         という事でしょうか。
        その後、ちょっと調べると、
        パチンコ等ギャンブルにカード決済は原則として利用できないようで、
        また、仮にカード決済を利用しようとすると、そちらの設備投資も結構かかるようで、

        店舗での新旧紙幣の両替が現実的な対応でしょうか。

  • このサイト、何故かパチンコやの話題が多い。
    パチンコに何故そんなに関心がある?

    • 「ブログ主さんが、自分の選んだテーマを自身のブログで公表している」

      から何の問題も無いと思いますが・・

      • 何の問題もありません。
        ただ、こちとら、パチンコに全く関心が無いので、どうしてそんなに関心が持ち続けられるのかな?と。

        • そりゃ事実上の違法ギャンブルなのに事実上野放しにされていて、多くの人を苦しめてきたパチンコ産業が、絶滅しそうになってるって、これ以上ない痛快な話題だからじゃないですか?嫌なら見なきゃ良いだけの話では?

          ちなみにこのブログってみんなの嫌われ者であるマスゴミ(新聞とか)や立憲民主党や蓮舫さんなどの話題も多いですが、そういうことだと思いますよ。

    • 私は普通にスロットユーザーですが、普段立ち寄らない方にとっても、ギャンブルが禁止されてる法治国家において三点方式でのグレー運用が罷り通ってて、かつ縮小傾向であるものの巨大産業化してる業界の話ですから、興味があっても不思議ないかと。

    • サラッとググったところでは、売上規模が15兆円弱あるらしいです。それに伴う機械設備や景品等々も相応の金が流れるのでしょうから、全国展開でもあるし、結構重要な産業じゃないでしょうか。
        例えば https://news.p-world.co.jp/articles/25804/nippon
      飲み屋の与太話では「朝鮮玉入れ」などど揶揄される業界ですが、その動静は経済的にも社会情勢的にも関心持つのが適切だと思います。

      このサイトでは、パチンコ機種の個々の性能や誘惑を紹介している訳じゃないし、かなり終焉の見えている産業だと解明すると不味い事があるのでしょうか。

    • パチンコに関心があっちゃ駄目なんですか?マスコミ業界の終焉を論じてるのと同じノリだと思いますよ?

      別にこのサイト、パチンコの攻略法とかを紹介しているわけじゃなく、単純に事実を元に淡々とパチンコ業界の終焉について述べてるだけで、政治経済評論として何らおかしくはないと思いますが?

      脱法賭博として日本社会を悪くしてきた元凶の一つが、正に今、終焉を迎えつつあることを共に祝うのは、むしろとても良いことだと思う。