手紙が84円から110円に、はがきは63円から85円に、それぞれ値上げされるようです。報道等によると、郵便物の減少や人件費高騰などで郵便事業が赤字となっている日本郵便は収益改善のために値上げに踏み切るのだそうですが、それ以前の問題として、収益環境が厳しい時の値上げは、一時的な収益改善に寄与したとしても、長い目で見たらユーザー離れを加速させたりしないのでしょうか。
年賀はがきの発行枚数は毎年1~2億枚減っている
紙媒体の新聞の部数が急落している、といった話題は、これまでに当ウェブサイトで何度となく展開して来たものですし、今後ともそれを続けるつもりです。
ただ、急落しているのは、新聞だけではありません。
郵便に対する需要も落ちているようです。
たとえば以前の『年賀状枚数で過去最低を更新した人が多かったのでは?』などでも議論したとおり、年賀状の発行枚数は、年々、減少を続けています。
データで見ると、年賀状の当初発行枚数は減り続けていて、下手をするとあと10年、いや、5年以内に、年賀状を授受するという習慣そのものが廃れてしまう可能性が濃厚です。こうしたなかで、ちょっとした答え合わせです。著者自身、年賀状の授受(こちらから送った枚数、相手から受け取った枚数)が社会人になって以来の最低を更新しました。読者の皆さまはいかがでしたでしょうか?減り続ける年賀状の発行枚数ちょっとした答え合わせでしょうか。昨年の『年賀状離れとテレビ離れで大きく変わる年末の過ごし方』などでも触れましたが、... 年賀状枚数で過去最低を更新した人が多かったのでは? - 新宿会計士の政治経済評論 |
図表は、日本郵政のウェブサイト等を参考に、年賀はがきの毎年の発行実績(当初発行枚数ベース)がどのように推移していったかを示したものです。
図表 年賀はがき当初発行枚数
(【出所】日本郵政ウェブサイトデータ等を参考に作成)
2003年以降の約20年あまりに関していえば、最高だった2004年用の44.5億枚と比べ、昨年発売された2024年用のはがきは14.4億枚と、およそ3分の1以下に激減していることがわかるでしょう。
ちなみにここ数年に関していえば、コロナ禍で前年比4.1億枚の減少となった2021年度分を除いたとしても、毎年1~2億枚ずつのペースで枚数が落ち込んでいることがわかります。なかなかに、これは象徴的な現象ではないでしょうか。
「面倒くさい」
このあたり、著者自身の見解ですが、年賀はがきの枚数が落ち込んでいる大きな理由は2つあります。
そのうちのひとつはもちろん、インターネットの発達により、わざわざあいさつのための紙を送るという風習が廃れているからでしょう。
考えてみたら、ネットと比べ、紙の手紙を送るのは大変な手間です。
メールだと宛先欄をBccにすればいくらでも送付先を追加できますが、はがきだと相手に届けるために、1枚1枚、宛先やメッセージなどを記載する必要があります。
住所録から1枚1枚、手書きで住所を書くのも大変です(※著者自身はMicrosoft Accessなどを使って知り合いの住所を管理していて、印刷に際してはアクセスのレポート機能やワードの差し込み印刷機能などを使用しているのですが、この点は脇に置きます)。
また、マナー講師の皆さまは「印刷した年賀状を送る際は必ず一筆手書きでメッセージを添えるべし」などとおっしゃる方も多いのですが、正直、印刷したうえでさらに手書きでメッセージというのも大変です。本当に面倒くさい、というのが、多くの人にとってのホンネでしょう。
「個人情報保護法」
ただ、年賀状が廃れている理由は、おそらくはそれだけではありません。
2003年に施行された個人情報保護法の影響もあってか、相手の個人情報である住所を相手から入手してまで年賀状を送る、というカルチャーが、なくなっている可能性があるのです。
著者自身の記憶ですが、昭和時代から平成前半にかけて、学校や職場では、クラスでも部活でもサークルでも部署でも、全員の電話番号が書かれた「連絡網」などが配られており、これに加えて住所、氏名、電話番号などを記載した名簿などが作成されているケースも多かったのではないかと思います。
しかし、近年だと個人情報保護の観点から、滅多なことでは個人情報をやり取りしなくなりました。
学校や職場で仲良くなったとしても、連絡はメールやiMessage、LINEに代表されるスマホアプリなどで行うことが多く、また、相手の家に遊びに行くということも、(とくに社会人の場合は)それほど多くないのではないかと思います。
必然的に、年賀状の年賀状のやり取りをする機会は徐々に減っていく、というわけです。
年賀状の送付先は、大昔の友人や恩師、あるいは高齢の両親・祖父母・親戚など、インターネットへのアクセスがない人たちに対するものに限定されてしまっている――。
そんな時代なのかもしれません。
郵便物の値上げ
こうしたなかで、少し気になる話題があるとしたら、これです。
手紙の郵便料金110円に値上げ了承 政府の関係閣僚会合 10月ごろ改定見通し
―――2024/5/21 09:43付 産経ニュースより
産経ニュースなどによると、政府は21日、手紙(25グラム以下の定形郵便物)の郵便料金の上限を、現行の84円から110円に引き上げる改定案を了承。これにより今年10月頃に、郵便代が84円から110円に値上げされる見通しとなったのだそうです。
これに加え、日本郵便は省令改正を要しない50グラム以下の手紙についても94円から110円とする一方、はがきも63円から85円とし、定形外郵便物も一部を除いて約30%引き上げる方針――、などとしています。
正直、近年のエネルギー価格高騰や人件費高騰などの影響もあって、さまざまな物価が値上がりしている、といった事情もわかりますが、経営学的な視点で見たら、その社のサービスに対する需要が減っている局面での値上げは、サービスの減少を加速させることにしかならない、という一般原則が思い出されます。
そういえば、「値上げ」という観点からは、昨年以降、主要新聞社(全国紙、ブロック紙、地方紙・地域紙など)も月ぎめ購読料を大幅に引き上げていることが話題ですが(『「業界衰亡期」なのに…「値上げ断行」相次ぐ新聞業界』等参照)、郵便料金の値上げもこれと似たようなものではないでしょうか。
郵便局にせよ、新聞代にせよ、値上げによる収益改善効果は一時的なものに留まり、結局はユーザー離れを加速させるのが関の山なのかもしれません。
View Comments (11)
郵便物が減少しているのは郵便代が高いからではなく、情報技術の進歩と社会環境の変化が原因です。郵便物の数量は郵便代金の高低に拘わらず今後も減少することになるでしょう。郵便料金の高低によって郵便物の数量に影響を与えているわけではなく、情報技術や社会情勢の変化によって郵便物量が減少しているのだから、減少した数量に合わせた料金設定をすべきです。郵便料金が高くなったからといって貧乏人が困る時代ではないので、値上げしても構わないでしょう。郵便事業は均衡点まで値上げと数量縮小とを繰り返していくのでしょう。
しかし、郵便事業は、新聞とは異なり、完全になくなっては困ります。訴状の特別送達など、郵便事業が必要とされているものがあります。全廃しても困らない新聞とは事情が異なります。
サラリーマン時代、新しいやり方に異様なほどの抵抗を示す人がいた。
例えば社員旅行の参加率が4割を切っているのでいっそやめようという意見に強硬に反対するとか。
紙の新聞も紙の年賀状もそういう人たちでもっているのかもしれない。
最後の意見には、与しないけれど。
給料の支払いが銀行振込みに移行する時代に、現金で支給しろ、延々と銀行振込みの同意書に判を押さない社員が、あちこちの会社には一人二人いたらしい。何年間も。上司が説得しても、経理が説得しても、ガンとし押さない。まあ、そういうのに限って、仕事の能力今一。その頑固さを仕事の能力を向上させることに使ってくれれば良いのだが。
メインのユーザーの高齢者が死んでいくからね
先日、久方ぶりに郵便を出そうと思い、幾らかな?と調べたら、84円だと。
えっ!?84円になったのいつだったかな?未だ、84円だったの?と。
郵便については、幾らになっても、赤字が解消されることはないだろう。
紙1まいだろうと、今の時代、こんな値段で届くとは信じられない話。
と言って、宅配便で、1000円程じゃなきゃ送れない、というのも困る。
郵便事業、国家の基本的な根幹のインフラサービスとも言えるもの。かつては郵政省という独立した省で運営されていたし、どこの国でも根幹のインフラ事業。
赤字なのは、どこの国でも同じようだが、無くてはならないもので、しかも、低料金でなければならない。
国家として、採算度外視で行う必要のある事業だ。
逓信、というのは、国家の命脈にも匹敵することで、民営化するものではなかった。
個人的には年賀状制作は楽しみにしている方なのですが、どうやらそういう方はあまりいらっしゃらないようで…。しかし85円となるとちょっと考えてしまいますね。
郵便事業は民営化しなくてもよかったのではないかな。
匿名隊員様
小生は、年賀状制作を「楽しみ」とまではいきませんが、年賀状制作の面倒くささを、「不便」益と思って、年に1度はあって良いものと思っています。
枚数は年を経るにつれ減ってきていますが、手書きで宛名を書く面倒くささも、「書き心地の良い筆記具」を見つけて、使ったときの喜びを得るのに役立つ「不便」の効用と思っています。
せっかく民間は人手不足なのだから、民間への人材の移動を促進したいですね。
個人的には郵便は追跡番号付きのサービスしか利用していない
もう普通郵便がどうなろうと関係ないかな
年賀状を止めようかどうしようか迷った一時期が有りました。
でもある人からの年賀状に「ついに私一人になりました」 との一言
年賀状つながりではあったのですがこれで
「たったの80円程度で繋がり合える」と考え深いものがあり続けていこうと思いました。
ただし届かなくなる年賀状もあり減少中ではあります。