韓国の文在寅(ぶん・ざいいん)前大統領と聞いて、真っ先に思い出すのは、「運転席理論」かもしれません。これは「運転席に座っているのは韓国」とする、なかなかにイタい理論ですが、もちろん、韓国が運転席に座っているという事実などありませんでした。それどころか米朝双方からの不興を買っていた、という方が、実態に近いかもしれません。
文在寅政権時代の「運転席理論」
文在寅(ぶん・ざいいん)政権時代の韓国からしばしば聞こえてきた主張のひとつに、「運転席理論」というものがあります。
これは、朝鮮半島の未来を決めるのは自分たちだ、などとする考え方で、たとえば米国と北朝鮮の「仲介役」を辞任するなど、自分たちこそが「運転席」に座っている、などとする自負心とともに語られることが多かったように思えますが、いずれにせよなかなかに強烈な発想です。
もちろん、現実問題として、文在寅政権の韓国が、「運転席」に座ることはありませんでした。
当時のドナルド・J・トランプ米大統領から、文在寅氏自身がかなりの不興を買っていたらしい、という点もさることながら、現実問題として文在寅氏が北朝鮮からも信頼されていなかったフシがあるからです。
ネタとしては面白かったが…
その一方で、日本では当時、「反アベ派」(?)の人士やメディアの間でよく聞かれていたのが、「蚊帳の外」理論――すなわち「日本が朝鮮半島問題で蚊帳の外に置かれている」とする主張ですが、これもわかりやすくいえば、韓国の「運転席理論」と表裏一体のような関係にあったといえるかもしれません。
もちろん、安倍晋三総理大臣がトランプ大統領と個人的に緊密な関係を構築するなかで、むしろ蚊帳の外に置かれていたのは韓国の方だったといえるでしょう(ちなみに2019年6月の大阪G20サミットで日本を訪れた文在寅氏は、安倍総理に会談すらしてもらえませんでした)。
いずれにせよ、コリア・ウォッチャーにとって、この文在寅氏は「ネタ」として見れば大変に興味深い存在ではありましたが、正直、外交の世界では、韓国が安全保障上の脅威として浮上していたのが文在寅政権時代だった、といえるかもしれません。
文在寅氏の回顧録:中央日報は異例の長さで報じる
さて、そんな文在寅氏が回顧録を出版したとして、コリア・ウォッチング業界ではちょっとした話題となっています。ここでは韓国紙『中央日報』(日本語版)が配信した記事を取り上げておきましょう。
<文前大統領回顧録出版>「米国、連合訓練中断を明文化すべきだった」(1)
―――2024/05/18 12:28付 Yahoo!ニュースより【中央日報日本語版配信】
<文前大統領回顧録出版>「米国、連合訓練中断を明文化すべだった」(2)
―――2024/05/18 12:28付 Yahoo!ニュースより【中央日報日本語版配信】
中央日報によると問題となっているのは文在寅氏が17日に出版した外交安保回顧録『辺境から中心へ』で、655ページという膨大な分量の対談集形式の書籍だそうです(ちなみに回顧録の質問者は文在寅政権で交換を務めた崔鍾建=さい・しょうけん=延世大学教授だそうです)。
書名からしてイタい感じですが、中央日報の記事も合計7000文字近い、中央日報としては異例に長いもので、このことは、中央日報としてもこの「回顧録」に高い関心を払っている証拠といえるかもしれません。
ただ、肝心の回顧録の中身は、まさに「運転席理論」を地で行くようなもので、たとえば2018年6月にシンガポールで行われた米朝首脳会談を巡る、こんな記述も参考になります。
「『史上初めて朝米首脳を向き合って座らせるのに成功した』とし、仲裁者としての役割を浮き彫りにした。しかし『我々としてはテーブルを整えたが、十分に反映されなかったのが残念だった』と振り返った」。
この点、米朝首脳会談は文在寅政権がセッティングしたと韓国国内では広く信じられているフシがありますが、韓国観察者の鈴置高史氏は、じつは首脳会談自体、韓国とは無関係に米朝双方がセッティングしたものだと明らかにしています(『鈴置論考に見る文在寅政権の5年と「日韓関係の未来」』等参照)。
文在寅氏の支持母体はいまでも韓国国会で多数占める
なお、この回顧録で日本についてはどう書かれているかに関しては、時事通信の次の記事なども参考になるかもしれません。
安倍元首相、不安あおった」 文前大統領が回顧録 韓国
―――2024/05/18 20:56付 時事通信より
いずれにせよ、この文在寅氏という人物、「北朝鮮が大好き」ということもさることながら、国家観のなさ、主要国を敵に回すほどの政治的センスのなさは、ある意味では天然級だったのですが、それだけではありません。
文在寅氏の支持母体でもあった「ともに民主党」やその関連政党は、今年の韓国国会議員総選挙でそこそこの勝利を収めましたし、尹錫悦(いん・しゃくえつ)現大統領の支持母体である「国民の力」は、「3分の1割れ」こそ回避したものの議席を減らしています。
私たち日本人としては、我々の隣国がかくも厄介であることを正確に認識しておいた方が良いかもしれません。
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ついでにハンギョレ版もです。
文在寅回顧録「金正恩委員長は延坪島を慰問したいと言っていた」
http://japan.hani.co.kr/arti/politics/50045.html
>文前大統領は、在任中の主要な外交相手だった米国のドナルド・トランプ前大統領について、「無礼で乱暴だとの評価もあるが、私は彼が率直なため好きだった」と評価しつつ、「歴代のどの政権より韓米関係が強かった」と強調している。
『歴代のどの政権より韓米関係が強かった』という認識に震えます笑
>一方、日本の安倍晋三元首相については、「会った瞬間には良い顔をしていて言葉使いも柔らかいが、別れるとまったく進展がなかった」と批判的に語っている。在任後半期の日本による輸出規制と強制動員問題については、複数の解決策を提示したが、日本の首相官邸にすべて拒否されたと述べている。「日本政府は実務者レベルでは前向きな議論と意見の接近を示していても、結局は首相官邸に上がると微動だにせず頑強に拒否しているという報告を受けた」とし、「それだけ安倍首相はこの問題を右傾化した視点で扱っていた」と述べている。
安倍晋三氏が暗殺されていなければ、
岸田文雄が日韓関係を戦後外交に逆戻りさせる事も無かったんでしょうね。
文全大統領でこれだけインパクトが強いのでしたら、ぜひ 鳩山前首相の回顧録を見てみたいですね。
「日米関係は、宇宙一強かった」辺りのキレを期待します。
※しょせん、回顧録。客観的に評価できないのであれば、こうなるのは仕方ありません。後世の治療薬開発に期待しましょう。
とくめい係 さん
鳩山視点からの回顧録じゃなく国民視点からの解雇録なら既に結構まとまってる気がします笑
例のトラストミーも後日「そんな事を言ってない」と言い出してるし、回顧出来るだけの記憶がなくて回顧録を出せない気もしますね。
なるほど…
問題は次期大統領返り咲きの可能性すらあるトランプ元大統領が他人や他国を評価出来る程の能力と実績を持った器であるかどうかというの視点が必要なのかもしれません。
トランプ政権下での対外的政策が知性的で善政だったという前提が成立していません。
バイデン大統領に至っては…
やめときましょう。相対比較しても仕方がありません。
なんで世界のトップがこんなんばっかりになっちゃったんですかね…
がみ さん
>なんで世界のトップがこんなんばっかりになっちゃったんですかね…
「お金や力はあるけど品性や教養の無い卑しい成り金」という一面と、
「病的潔癖症な左派原理主義過激派」という一面があるからじゃないかと。
就職した会社でマニュアル人材として有能さを示し、
実績を出して昇進したけど、
管理職になるとマニュアル人材ゆえの人間的薄っぺらさが露呈して使い物にならない、
みたいなところと、
常に「正義の守護者」「正義の執行者」であろうとして、
現実との妥協は悪魔との取り引きと受け止め、
悪魔との取り引きをした者は厳しく糾弾する、
みたいなところを米国に感じます。
米国社会で得られるカネに惹きつけられた者達と、
米国社会が実現させようとする理想に惹きつけられた者達との分断は、
余程の社会改革が無いと実現出来ない気がします。
>たとえば米国と北朝鮮の「仲介役」を辞任するなど、
↓ こんな記事もあったし、あながち間違いじゃないのかな??
トランプ政権、韓国と決別か 米朝会談で“韓国外し”提案 「米国は文政権を信じない」
https://www.zakzak.co.jp/article/20190205-CEX57KU375M4BBSJZJWD3ZCAZQ/
所詮、政治家の回顧録とは、後世の人に自己の実績を誇るためのものではないでしょうか。
「みんなあんましほめてくれないからじぶんでたたえてみたにだ」
<文前大統領回顧録出版>GSOMIA終了決定関連「世論調査結果圧倒的」…米国側の大きい失望呼ぶ
https://japanese.joins.com/JArticle/318800
>これと関連し米国の関与にも言及された。バイデン政権発足後に米国が強制徴用問題を韓米日安保協力を損ねる事案と判断し「米国の共同基金参加」などを通じて問題解決に出ようとしたということだ。文前大統領は「その解決方法を提案したキャンベル調整官に尋ねたところ、まだ日本と協議はできていなかったが、韓国さえOKすれば日本はすぐ説得できないだろうかとした。ところが日本はその提案も断った」と話した。
バイデン政権には米国案を日本に呑ませる為として安倍晋三氏を暗殺する動機があった、と見ても良さそうな気がしますね。
で、岸田文雄は安倍晋三氏同様暗殺される事を恐れて韓国の基金案を呑んだ、と。
強烈な思い出は、板門店の米朝首脳会談。
会談のために韓国側の建物から現れたトランプの後ろに、いつでも後を付いて出られるよう、ニコニコ顔でスタンバってる文在寅。
トランプの護衛官にしっかりとドアを締められてしまう。
「あいつは怪しい」って評価は、既にあの時には醸成されていたのかもと思います。
お荷物を乗せるのは運転席ではなくトランクなんですが、韓国車はどういう構造してるんでしょうね。
農民様
この先どれほで険しく曲がりくねった悪路が続こうが、エンジンかけずに運転席にボーっと座ってるだけで、高速道路並みに快適にブッ飛ばしてたちまち目的地到着。そんな白昼夢に耽らせてくれる車があったら、わざわざ走らせてみる必要なんかないですね。自分的には「ヤッタゼー」の達成感が得られるんだから、それで十分満足。
夢の遊眠社
夢見るムンタン車(笑)。
夢でなければ結構な下り坂ですねぇ……(巻き込まれないようにして)見守るしか出来ない。
ムン・ジェインの頃から気になっていたのですが、彼はいわゆる「人権派」弁護士上がり。
次ぎに大統領になったのが、検察の大物だったユン・ソンニョル。
で、次は誰かと言ったら多分、弁護士というより、三百代言の名の方が当たってるような、イ・ジェミョン。
大穴は、元法学部教授の、ご存じタマネギ男、チョ・グク。
韓国という国では、法曹畑の人間って、そんなに尊敬される存在なんですかねぇ。
この国の人間の「法治」に関する意識の低さ、遵法精神の欠如を考えれば、とてもそうは思えないんだが。
じゃあ、一体何なんだ?
周りが自分と同じように、我が儘勝手に振る舞ってれば、社会はカオス。危なくって生きていけない。だから、右派であろうが左派であろうが、社会の半分はいるはずの、自分の反対側にいると見做す連中を、棍棒で殴ってでも温和しくさせてくれれば、その分だけは心配は減る。だから警察、検察は頼みの綱。
だからといって、警察、検察の締め付けが、自分の身に及ぶのは勘弁。そのとき頼りになるのは、法的正当性がどうとかではなくって、右派であろうが左派であろうが、自らが属している陣営論理をいかなる詭弁を弄しても押し通してくれる弁護士。その存在は、何と言っても重宝。
そんなこんなで、これから先、この国の大統領と言ったら、弁護士→検察官→弁護士のたらい回しになるんじゃなかろうか?
そんな民意を背景にのし上がってくる人物なればこそ、「運転席理論」なんて誇大妄想の極みみたいな言をシャラリと吐いて、恬として恥じない、半ば己でも信じ込んで、自省の念などからは縁遠い。その故を以て大統領の座にまで上り詰めることができたってことになるのかな?、なんて(笑)。
シンシアリー著「Z世代の闇」。これから、どんな法治意識、遵法精神を持った人間の群れが、この社会の中核を担っていくことになるのか、十分に伺わせてくれる内容の本です。
伊江太 さん
>そんなこんなで、これから先、この国の大統領と言ったら、弁護士→検察官→弁護士のたらい回しになるんじゃなかろうか?
なるほど、韓国は検弁国家となる訳ですね。
ハングル読めないんですけど回顧録にタイトルが
「そしてドアは目の前で閉まった」
だったのだけはなんとか頑張って読解しました。
おサル電車の運転席に
おサルさんがちょこんと座っていますが
彼が運転しているわけではありません
運転手理論は正しいでしょう。
運転手、乗客ともに韓国人だけですが。
既存マスコミの人は一緒に運転しようとか乗ろうとか言うかも知れませんが。それだけは勘弁ですね。