外国人観光客が増えるに従い、さまざまなトラブルも生じているようです。ウェブ評論サイト『デイリー新潮』によると、チケットを持たずに発車前の京成スカイライナーに乗車した外国人に対し、車掌が「チケットがない?出ていけ」などと暴言を吐いたという「事件」が掲載されています。もしそんな暴言を吐いたのが事実ならば大問題ですが、だからといって、京成スカイライナーのチケットについては、買い方を含めて「時代錯誤」と断定するのは不勉強に過ぎます。
目次
インバウンドの効用
インバウンド、つまり日本を訪れる外国人が急増していることについては、『訪日外国人が史上初の三百万人台も…素直に喜べるのか』などを含め、当ウェブサイトでもしばしば指摘している通りです。
日本を訪れる外国人が増えてくれば、日本に大きな経済波及効果をもたらすことが期待されますが、それだけではありません。日本のファンとなり、日本を何度も訪れる外国人も出現するようになってくると、そのこと自体、国際社会における日本の地位を高めることにもつながります。
日本は南北に細長い国であり、宗谷岬から与那国島までの距離はざっと3,000㎞弱ありますし、距離の起点を宗谷岬ではなく、戦後、ソ連・ロシアに不法占拠されたままの日本領・択捉島の先端に置いた場合は、3,000㎞を優に超えます。
さらには、ごく近い将来、ウクライナ戦争でロシアが無様に敗北することなどを通じ、日本領になる可能性が非常に高い占守(しむしゅ)島から与那国島までだと、日本列島の長さは4,000㎞ほどにも達しますが、これは欧州でいえばノルウェー北端からスペイン南端までの距離とあまり変わりません。
香港は昨年3400万人:日本のポテンシャルは非常に高い
この点、香港の場合は、人口約740万人・面積1,110平方キロメートル(東京都の半分)に過ぎませんが、例年、大変多くの観光客が訪れる観光都市でもあります。
ちなみに『マカオ経済新聞』の次の記事によれば、2023年を通じて香港を訪れたインバウンド旅客は約3400万人だったそうです(もっとも、そのうちの中国本土からの旅客が全体の約8割を占めていたため、この3400万人の8割は「国内旅行」の感覚ではないか、といった疑問もないではありませんが…)。
香港、2023年のインバウンド旅客数は約3400万人…中国本土からの旅客が約8割占める
―――2024/01/15 11:39付 Yahoo!ニュースより【マカオ経済新聞配信】
いずれにせよ、香港ですらこれだけの人々が訪れるわけですから、香港よりも遥かに面積が広く、四季の豊かさにも富み、北海道のスキーリゾートから沖縄のビーチリゾートに至るまで、観光資源が豊富な日本に、年間数千万人の観光客が押し寄せる時代が到来しても不思議ではありません。
その意味で、観光業は大きく成長するポテンシャルを秘めている、という言い方をしても良いでしょう。
(※ただし、個人的には、人材不足が指摘される現在の日本が振興しなければならないのは、むしろ半導体を中心とするモノづくりであったり、金融産業であったりするのではないか、などと考えているのですが、この点についてはとりあえず本稿では脇に置くことにします。)
どこまで英語で対応してあげるか
ただ、私たち日本人は、せっかく日本を訪れてくれた外国人観光客に対し、各自ができる範囲で「おもてなし」の心で接すべきだ、というのはそのとおりですが、だからといって、どこまでその外国人観光客らに配慮すべきかを巡っては、明確な線引きができているとは限りません。
その典型例が、「英語問題」でしょう。
たとえば、相手が日本語を理解しない場合に英語で話してあげるのは、最低限の親切心の表れといえるかもしれません。英語が事実上の世界共通語となっていること、私たち日本人も外国(※非英語圏を含む)に出掛けるときには英語で話そうとすることを踏まえると、カタコトの英語くらいは話せた方が良いかもしれません。
これに対し、著者の知り合いには「日本国内で話しかけられたら日本語で返す」を徹底している人もいますが、これはこれで、ひとつの考え方です。英語を話さなくても日常生活を送ることができるのが日本社会の日本社会たるゆえんでもあるからです。
この「日本語・英語問題」の延長でしょうか、最近だと一部の飲食店で、「日本語が話せない人の入店はお断り」、などとする方針を取っているケースもあると聞きます。
これについては「外国人差別だ」とする意見もある一方で、「飲食店側にも、客を選ぶ権利はある」といった意見もあるようですし、とりわけ個人営業の飲食店などの場合、別途、イングリッシュ・メニューを用意するのが大変な手間だ、という事例もあるでしょうから、一概にこれが悪い話とも言い切れません。
個人的には、「もし自分自身に最低限の英語力があり、自分に時間的余裕があり、街で見かけた外国人観光客が困っていれば、それを助けてあげる」くらいの善意で良いのではないか、などと、なんとなく考えているくらいですが、この点については社会的合意が形成されるまで、まだ少し時間がかかりそうです。
ラーメン屋でズルズル音を立てても良い?
ただ、だからといって日本の法律や慣習をないがしろにするような人たちに対してまでも、過剰な配慮をしなければならない、というものではありません。
というよりも、現地にいる時には、現地の風習を尊重するのは、古今東西の鉄則です。日本には「郷に入れば郷に従え」ということわざがありますし、欧米でも同様に、 “Cum Romae, ut Romani faciunt fac” (ローマに居るときにはローマ人と同じように振る舞え)という慣用句があるからです。
たとえば、日本人だとラーメンにしても蕎麦にしてもうどんにしても、ズルズルすすりながら食べる人が一般的ですが、欧米だと、幼少期より「麺をすするな」と厳しく躾けられて育てられるのが一般的です。
日本人は欧米などに出掛けると、ついいつもの癖で、音を立ててパスタをズルズルすすってしまいがちですし、スープを飲むときにもズルッと音を立ててしまいがちですが、これは現地の方々に不快感を与える可能性があるのでやめた方が良いです。
しかし、日本国内にいて、ラーメン屋などで欧米人がいたとしても、その欧米人らに不快感を与えないように配慮してズルズルすするのをやめるべきだ、という話にはなりません。ここは音を立てて麺をすすることが許容される日本社会なのですから、そのような配慮は不要です。
ましてや、日本の法律や規則を守らないならば、それは大きな問題でしょう。
チケットなしにスカイライナー乗車の外国人に車掌が暴言
こうしたなかで、ちょっと考えさせられるような話題がひとつあるとしたら、これかもしれません。
日本の“玄関口”で「露骨な外国人差別」 京成スカイライナーの「時代錯誤ぶり」にあきれ
―――2024/04/25 06:05付 Yahoo!ニュースより【デイリー新潮配信】
ウェブ評論サイト『デイリー新潮』が25日に配信した記事によれば、とあるフォトジャーナリストの方(記事では実名)が成田空港から京成スカイライナーに乗ったときの様子として、自身のX(旧ツイッター)に、こんな趣旨の投稿をしていたのだそうです。
「外国人らしき青年が、乗車方法が分からないまま、発車前の車両に乗っていた。その彼に車掌が何度も怒鳴っていたらしい。その内容が『No ticket? Get out!! (チケットがない? 出て行け!! )』」
…。
さすがに、この “No ticket? Get out!!” は、言葉として少しきつすぎます(もし本当にそんなことを述べたのならば、ですが)。
記事によると、このフォトジャーナリストの方が車掌に話しかけたところ、丁寧に「強く言い過ぎてしまった」「不快な思いをさせてすみません」と謝罪してきたのだそうですが、これについてデイリー新潮の記事では、著者の方がこう指摘します。
「京成スカイライナーといえば、日本の玄関口である成田空港と都心を結ぶ路線である。当然ながら外国人の乗客も多い。その車掌が2024年にもなって本当にこんな対応をしていたのなら、時代錯誤もいいところである」。
この点については、半分は同意できますが、半分は同意できません。というのも、この記事では問題をゴチャゴチャに混ぜて議論してしまっているフシがあるからです。
暴言はたしかに問題だが…チケットは別問題
「半分は」、と述べた理由は、たしかにこの車掌の「チケットがなければ出ていけ!」とする趣旨の発言が、言葉としてはきつすぎた、という点にあります(くどいようですが、「本当にそんな発言をしたのならば」、という前提条件がつきます)。
また、日本の場合は鉄道会社によって乗車方式が微妙に異なるため、そのことが外国人にとっても難しい、という問題があることも間違いありません。私たち日本人ですら、初めて利用する路線の乗車券の買い方で戸惑うこともあるほどだからです。
しかし、そもそも日本にやってくるのであれば、最低限、日本国内の「鉄道・バスの乗り方」については学習しておくべきでしょう(私たち日本人だって、外国に出掛けるときには、最低限、その国の鉄道・バスの乗り方について学習するのではないでしょうか)。
そして、たいていのガイドブックにはスカイライナーの乗り方について説明がありそうなものです。
乗車券・特急券なしに鉄道車両に乗るというのは、少なくとも京成鉄道の運送約款には違反しているようにも見えます(日本には特急券なしで鉄道に乗り、車内で特急券を買い求めることができるケースもありますが、少なくともスカイライナーの場合はそうではないようです)。
鉄道会社に過失はあるのか?
この点、デイリー新潮の記事では、「この事件」が「日本の玄関口」たる京成スカイライナーで発生したことを問題視しています。
「なぜ京成スカイライナーに、外国語能力も持ち合わせていない、露骨な外国人差別をするような職員を配置したのか。ちょっとした国際問題になりかねない」。
この点については、先ほども指摘したとおり、もしもそれが「事実ならば」問題となり得ますが、もしそうであったとしても、乗車に必要なライナー券なしに鉄道車両に入ってしまった本人にも、過失はゼロではありません(幸いにも発車前だったので、降車したようですが)。
それなのに、記事ではあくまでも鉄道会社の側に過失がある、といった論調に持って行こうとしているように見受けられます。「空港での切符売り場はわかりにくい」し、「ウェブは古くさく使いにくい」、などと記載されているからです。
しかし、「空港での切符売り場はわかりにくい」「ウェブは古くさく使いにくい」、などとする主張は、そもそも事実なのでしょうか。
ためしに京成電鉄のウェブサイトで成田空港駅の構内図や空港第2ビル駅の構内図を確認してみましたが、どちらも改札口のすぐ付近に切符売り場があるように見受けられます。はたして、これで「切符売り場がわかりにくい」のなら、具体的にどうレイアウトすれば良いというのでしょうか?
また、『スカイライナーインターネット予約サービス』や訪日外国人向けの『Skyliner e ticket』などのサイトも確認してみましたが、これが「使いにくい」というのも、なんだか理解し辛いところです。あくまでも個人的印象ですが、どちらも一般的な電子チケットサービスと、あまり変わらないように見受けられるからです。
スカイライナーは「時代錯誤」なのか?
この点、諸外国ではクレジットカードのタッチ決済などの仕組みが普及していること、日本でも福岡市営地下鉄がこの仕組みを採用していることなどに言及したうえで、記事の末尾では、こんなことも記載されています。
「京成スカイライナーの時代錯誤ぶりにはあきれてしまう。せっかく成田空港と上野を最短36分でつなぐ便利な列車なのに、全く時代に対応できていない。この国もインバウンドに期待するなら、せめて玄関くらいは奇麗にしておきたいものである。家の印象は玄関で決まると言っても過言ではないのだ」。
不勉強なのはむしろ、記事を執筆された方の方ではないでしょうか。
そもそもタッチ決済云々については、今後の課題でしょう。
調べてみると首都圏でも一部の路線でタッチ決済に対応した乗車サービスが始まっているようですが、そもそも日本(とくに首都圏)の鉄道システムは相互直通運転も多く、料金体系も非常に複雑であることなどを踏まえると、タッチ決済の普及にはまだ課題が多そうです。
また、スカイライナーは特急という種別に対応し、別途、座席を指定するための特急券が必要である、という点については、仮にタッチ決済が導入されたとしても変わらないでしょう。外国人青年が特急券を持っていなかったという問題と、スカイライナーのシステムの問題は、まったく別物なのです。
いずれにせよ、なにか議論する際には、事実関係についてはしっかりと調査すべきである、という点については間違いないといえるでしょう(※自戒を込めて、ですが)。
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最近スカイライナー使わないので何とも言えないけど、そもそもスカイライナー券なしでホームに入れるの?
成田第2は、駅構造上の問題でスカイアクセス線としてアクセス特急とスカイライナーが
同じホームなので、スカイライナー券の検札はないです。
本論からすると蛇足ですが、その他追加で停車するようになった青戸と新鎌ケ谷も
中間改札はないでしょうね。
本論の方のコメントですが、駅での改札のない信用乗車方式の国々では、外国人で
あろうと有無を言わさず不正乗車はペナルティーの対象でしょうから、別に今回の
京成の券は日本で差別がーなんて話じゃないと思いますね。
ウロ覚えですが、ドイツでは、乗車券無しで乗車すると、即逮捕される、という、川口・マーン・恵美さんの記事を読んだ記憶があります。外国人でも、容赦なく。
何年も前のドイツでのことですが、私はチケットは持ってましたが、ホームでチケットへの打刻をする必要があり、よく分かってなかったのでそれを忘れて乗車して罰金とられたことがあります。容赦ないです。
六本木を散歩してたら、ビルの谷間に古風で瀟洒な洋館がポツンとありました。
ホホーッと感心して近づいてカメラを出したら、警官隊に囲まれて職務質問されてビックリ。
アメリカ大使館(居室?)だったようです。
「知らなかったから」
なにをしてもどこに立ち入ってもよい訳ではありません。
日本だけでなく世界中どこでもそうだと思います。
知らなかったことで無罪にもなりません。
知らなかった方が悪いのです。
たぶん日本人でも外人でも差別区別なく職務質問されるかと思います。
日本語のわからん外人に便宜をはかれ!と無茶を言うてる人たちは、事情を知らない田舎者が職務質問されることにも抗議の声を上げてほしいもんですよ。
考えすぎかもしれませんが、外人に便宜をはかれ!と騒ぐ人たちは、中華王朝の来賓にペコペコしてた半島の人たちと、考え方が似てますな。
事大して媚びてへつらって、そうしない同胞をみると攻撃するのですな。
実にかっこう悪いのですな。
>先進国のちょっと気の利いた街の、空港からのアクセス線は、クレジットカードのタッチ決済で乗れてしまう
これが言いたかったのかもしれないが、京成の成田空港駅は特急料金がいらない種別の電車(快速など)も発着しているから、これは無理でしょう(関空も同じ)。
>ライナー券を持っていない乗客がいれば、その場で買えるようにすれば済む話だ
外国だと、しめしめとばかりに高額な罰金を請求してきそう。それで国際問題になったとか聞いたことがない。
日本の自称ジャーナリストは、直ぐに体制側が悪いということしか書かない。体制側を批判すればインテリだあ、という思い込みがあるようだ。
それは兎も角、問題は、京成は、この「特急券がない方は、この電車にのれません、降りて下さい」という定型句をエレガントな英語で言う、定型英語を乗務員に覚えさせておけば良いだけのこと。これくらいは、外国人が多いのだから対策しておいてもよいのではないか?
次に、日暮里駅では、スカイライナーのホーム入口にゲートを設けて、係員がいて、スカイライナーに乗ろうとする外国人に英語で、特急券を買うように説明しているし、外国人も直ぐに券売機で買ってから乗っていて、何の混乱もない。
成田側にも同じ対策が講じられているだろうから、当該の外国人は、偶々、そのゲートを係員が気付かない内に通り抜けたのだろう。そうでなければ、特急券を持たない外国人がワンサカ乗車してくる事態が頻発するでしょう。
だから、京成が時代錯誤ということは、全く無い。
これを機に、乗務員に先のような英語定型文を覚えさせて置けばよいのでは?
コメントに同意致します。
ただ乗務員に英語対応力を求める場合には、その分の能力開発コストを利用料に転嫁する仕組みも必要だと思います。
京成の給与事情が存じておりませんが、仕事として英語力スキル向上が求められるのであれば、手当てなどの形で乗務員に還元されると良いと思います。
日本の自称ジャーナリストは取材不足だと思います。
提起した問題の背景を調べず、課題も洗い出さずに報じ、ただ火を大きく延焼させるだけの役立たずだと思います。
理路整然と書かれていない記者、コメンテーターのお気持ち表明など無価値です。
成田空港駅や関西空港駅は、特急料金/座席指定がいらない種別の電車(快速など)も発着しているから、クレジットカードのタッチ決済はゲートとホームを分けないと無理でしょう。まさか、筆者が成田空港駅を利用も取材もしたことがないということはないよね。
外国だと、しめしめとばかりに高額な罰金を請求してきそう。それで国際問題になったとか聞いたことがない。
京成では、特急は特急券の必要ない一般種別で、スカイライナーはその上の種別というのも、わかりづらい。特急は英語では 「Limited Express (限定された急行)」 なのに。私鉄では特急に乗るのに特急券が必要ない場合も多いが、京成は変えるべきだと思う。
あとは脱線だけど、「京成上野駅」 は 「東京上野駅」 に改称したほうがいいんじゃないか? 阪急や阪神が 「梅田駅」 を 「大阪梅田駅」 に、「三宮駅」 を 「神戸三宮駅」 に、「河原町駅」 を 「京都河原町駅」 に改称したように。
近鉄も 「近鉄難波駅」 を 「大阪難波駅」 に改称してましたね。これは阪神も難波まで延伸して、直通運転を始めたのが理由だけど、
>「京成上野駅」 は 「東京上野駅」 に改称したほうがいい
これはその通りですね。
学会が言えば、公明党国交大臣、直ぐにやるかも。
> 無理やり国際問題にでもしたんですかね。
無理やり国際問題にでもしたいんですかね。
訂正します。失礼しました。
この記事、なんで外国人側の非を一切問うていないんだろう?
と思ったら、この記事のライターはあの「古市憲寿」氏でしたか。納得。
幸いヤフーのコメント欄の方は「外国人側もルールを守る努力が必要」
「分からないフリをしてわざと乗ろうとしていた可能性は?」などと書かれていたので、
こういうやり方はいつまでもは通用しないでしょう。
車掌の暴言と言うことですが英語力の問題が大きいと思います。
たとえば日本語で応対するなら「チケットがないと乗車できません。購入してから乗ってください」ぐらいの言い方になるのかな。
とっさに使う英語としたら今回のような最低限相手に通じる言い回しになってもしょうがないのでは。
あの記事の古市氏って、社会学者でしたっけ?
ただのフィクション作家だと思うのですが。