少し前には「人手不足倒産」なる用語が(一部で)流行しましたが、最近のトレンドといえば、「円安倒産」かもしれません。ただ、この「円安倒産」、あるいは「円安関連倒産」なる用語、なんだか定義自体がよくわかりません。いったい何をもって、「円安倒産」と定義しているのでしょうか。ちなみにTSR自身が公表する倒産件数・負債総額のデータと比べて、「円安関連倒産」は金額にして8.36%、件数ベースでは0.64%に過ぎないようです。
目次
「円安関連倒産」って、いったい何なんだろうか?
『円安局面で「円安関連倒産」が増加するのは当然では?』では、東京商工リサーチ(TSR)が4月1日付で公開した『2023年度の「円安」関連倒産 56件に 前年度の1.5倍増、負債は2,000億円超』とする記事をもとに、「円安関連倒産が増えた」とする話題を取り上げました。
今度は「円安関連倒産が増えた」のだそうです。「円安倒産」の定義はよくわかりませんが、もしそれが「(2022年以降に進んだ)円安を理由とする倒産」のことを意味しているのだとしたら、「円安倒産」が2022年以降に増えているのは当たり前の話です。それよりも「人手不足倒産」に続き、「円安倒産」「コロナ倒産」といった文言を眺めていると、どうも単に倒産の理由をこじつけているだけではないか、といった気もしないではありませんが、いかがでしょうか。またしても「悪い円安論」、でしょうか。東京商工リサーチ(TSR)は1日... 円安局面で「円安関連倒産」が増加するのは当然では? - 新宿会計士の政治経済評論 |
改めて指摘しておくと、この「円安倒産」あるいは「円安関連倒産」なる用語、そもそもの定義自体がよくわかりません。
TSRは、いったい何をもって「円安関連倒産」を集計しているのでしょうか?
「円安のせいで企業倒産件数が激増した」、とでも言いたいのでしょうか。
これについて考えるうえでのヒントのひとつが、そのTSRが公表している倒産件数と負債総額の推移で、データは1952年以降、直近の2023年までの分が公表されています(図表1)。
図表1 倒産件数と負債総額の推移
(【出所】株式会社東京商工リサーチ『倒産件数・負債額推移』)
これで見ると、2023年における倒産件数は8,690件で、前年(6,428件)と比べて2,262件(つまり35.19%)増えていますが、それでも金融危機時代の1990年後半から2000年代前半にかけての時期、あるいは民主党政権時代の2009年~12年を含めた円高期と比べれば、ずいぶんと低い水準です。
また、負債総額はピークの2000年には23兆8850億円に達していましたが、直近の2023年は2兆4026億円と、ピークと比べて約10分の1に留まっています。
円安関連倒産の比率は「微々たるもの」では?
では、円安(または円高)になれば、倒産件数は増えるのでしょうか、減るのでしょうか。
あくまでも一般論ですが、ある企業が経営破綻に至る際にはさまざまな要因がありますので、「円安も企業の経営破綻の要因のひとつである」、という可能性は排除できません。
たとえば輸入雑貨を仕入れて大手百貨店などに販売している業者にとっては、円安で仕入価格が上昇し、それを小売価格に転嫁できずに経営が行き詰まる、といった具合です。
ただ、問題のTSRの記事では、2023年度の円安関連倒産は56件、負債総額は2009億円、などとしているのですが、倒産件数8690件のうち56件(つまり0.64%)、負債総額2.4兆円のうち2009億円(つまり8.36%)、といわれると、円安関連倒産とやらのインパクトも、たかが知れている気がします。
(※ただし、図表1は暦年、TSRの記事は年度の数値であるため、比較のベースにズレが生じている可能性がある点についてはご了承ください。)
これで見る限り、「円安関連倒産」は件数、金額ともに全体から見て「微々たるもの」、といえるかもしれません(※金額については若干大きいかもしれませんが…)。
為替相場と倒産件数に明確な相関は見出し辛い
また、長期的なトレンドでグラフ化しても、為替相場と倒産件数の間に、明確な相関関係を見出すことは困難です。傾向の分析としてはやや不正確かもしれませんが、その年末における為替相場(USDJPY)を倒産件数と同じグラフで表現したものが次の図表2です。
図表2 倒産件数と毎年末の為替相場(1983年以降)
(【出所】株式会社東京商工リサーチ『倒産件数・負債額推移』および The Bank for International Settlements, Bilateral exchange rates time series データをもとに作成)
ちなみにグラフは1ドル=360円の固定相場制だった時代の影響を排除するためなどを目的に、1983年以降のデータのみを使って作っています。
為替相場自体は年末の値を使っているなどの事情もあってか、為替レートと倒産件数の間に有意な関係は見出し辛いところですが、少なくとも民主党政権期以降に関していえば、「むしろ円安になると倒産件数が減少する」、という相関関係が認められるともいえるほどです。
金融緩和の影響が大きいのでは?
ただし私見ですが、「円安により倒産件数が減った」のではなく、「円安」と「倒産件数減少」をもたらす「真の原因」が他にあって、「円安」も「倒産件数の減少」も、その「真の原因」がもたらしたものである、と考えておいた方が、理屈の上では整合すると思います。
その「真の原因」は、アベノミクス――というよりも、日銀の金融緩和です。
経済学の基本ですが、中央銀行が金融緩和政策を行えば、それにより失業率は下がりますし、融資基準が下がれば資金繰りを理由とする倒産件数も減るはずです。
著者自身もさまざまな会社を見て来た人間のひとりですが、一般論として、ある会社が経営破綻に至った場合、その「倒産した原因」を客観的な基準でひとつに絞ることは難しいのが実情です。なぜなら、企業の倒産には、さまざまな理由が複合的に絡んでくるものだからです。
ただ、拙い経験上で恐縮ですが、「ひとつに絞るのが難しい」という企業(特に中小企業)の経営破綻の要因を敢えてひとつに絞ったとき、その要因として最も大きいのは、「資金繰り」ではないかと思います。
どうやってその10項目に割り振っているのだろうか?
ここで、当ウェブサイトで「倒産件数」に関する話題をあまり積極的に取り上げない理由も、じつは、原因別の倒産件数や負債総額に関する信頼に値する公的なデータが乏しいからです。
もちろん、「公的なデータがまったく存在しない」、というわけではありません。倒産件数などについて調べていくと、いちおう、中小企業庁が公表している『倒産の状況』というデータを見つけることもできるのですが、ただ、このデータにしても、結局のところは中小企業庁が独自に集計しているものではありません。
このデータも、TSRが発表した調査結果がベースになっているようだからです。
しかも、そのデータに列挙されている「倒産原因」としては、「▼放漫経営、▼過少資本、▼連鎖倒産、▼既往のしわよせ、▼信用性の低下、▼販売不振、▼売掛金回収難、▼在庫状況悪化、▼設備投資過大、▼その他」の10項目があります。
大変失礼ながら、どうやって倒産原因をこの10項目に割り振っているのでしょうか?とりわけ「放漫経営」と「設備投資過大」と「信用性の低下」、「連鎖倒産」と「売掛金回収難」、「販売不振」と「在庫状況悪化」など、非常に似たような項目が並びますがをこれらをどういう基準でどう振り分けているというのでしょうか?
なんだか、よくわかりません。
いずれにせよ、もし本気で倒産状況に関するデータを一から入手しようと思えば、それこそ過去の官報などをひっくり返して調べていく必要があるなど、作業としてはちょっと非現実的でもありますし、倒産原因を分類しても、その分類に恣意性が入る可能性が大きいため、出てきたデータ自体、あまり有益なものとも思えません。
このあたりは、同じ統計であっても、人の死に関するもの――たとえば『【読者投稿】5類移行の武漢肺炎と超過死亡の関係は?』で記事執筆者の「伊江太」様が使用した「死者数を死因別に集計したデータ」など――とは大違いです。
倒産件数と負債総額自体は増えているが…それは「資金繰り」では?
ただし、図表1や図表2を見ていて気になる点があるとしたら、倒産件数や負債総額については微増傾向にある、という点です。
こうしたデータだけを見ると、なかには「円安と企業の倒産には、やはり何らかの関係があるのではないか」、などと思う方もいらっしゃるかもしれませんし、「日銀の金融緩和のせいで円安が進み、物価高になって庶民は生活に苦しんでいる」、などとする某自称経済評論家の主張を鵜呑みに信じている人もいるかもしれません。
しかし、倒産件数や負債総額の増加傾向については、「人手不足」や「円安」などによらずとも、ちゃんと説明がつきます。
これに関連し、2023年の倒産件数などが増えている要因に関し、現在、金融業界で話題となっているもののひとつを紹介しておくと、俗にいう「ゼロゼロ融資」が挙げられます。
この「ゼロゼロ融資」とは新型コロナウィルス感染症(いわゆる武漢肺炎)の影響で、一定条件で実質無利子・無担保・最大5年の貸付などを行うというもので、2020年に始まり、政府系金融機関は2022年9月まで、民間金融機関も2021年3月まで、新規貸付を受け付けていました。
ただ、この「ゼロゼロ融資」、名目はあくまでも「コロナ禍で売上が落ち込むなどした企業や事業者の支援」などに主眼が行われていましたが、実質的にはコロナ禍以前から業況が芳しくない企業の支援にも使われていたようです(※申し訳ありませんが、これについての情報源は、本稿では秘匿させていただきます)。
また、「ゼロゼロ融資」が行われた件に限らず、コロナ禍などの異常事態を受け、中小企業などに対する融資の返済基準が緩和される傾向にあったことなどを踏まえると、最近の倒産の多くは「人手不足倒産」や「円安倒産」などではなく、「放っておいてもどうせ倒産していた会社」なのかもしれません。
このように考えていくと、「人手不足倒産」だ、「円安関連倒産」だ、といったデータが出て来ても、それをそのまま鵜呑みに信じるのは難しいところですし、ましてやそれらのデータが現実の政策を決定するうえで、何らかの有益な情報を提供するものとも思えません。
ましてや集計基準がよくわからない「円安関連倒産」をもとに、一部の人たちが「悪い円安論」に飛びつき、「円安は大問題だ」、などと大騒ぎしているのを見ると、改めて基礎理論の大切さと認知バイアスの危険性を意識せざるを得ないと思うのですが、いかがでしょうか。
View Comments (7)
かつて初めて太平洋線に乗って渡米したころ都度現地で買い集めたのは学術書でした。高かったし重たかったけれど京橋丸善で買うより早くいい図書がゲットできました。もちろん世界級の名著だって。
インバウンド特需第二幕の予感がします。越境 EC とか来日観光客向けのおスぺな高額メニューとか商機は大きそうです。物品販売に話を限っても、店頭で欲しいだけ箱詰めして空港免税カウンターへ直送するのがウケるであろうことは間違いありません。
「DHMO危険!摂取者の致死率100%!!」に近しい煽りナンデスガ…まったくマスゴミは…
ほんまそれ。
「炭鉱の閉山ラッシュ」
「塩化ビニル録音レコードの倒産ラッシュ」
「和服の不況」
「お歯黒や丁髷の衰退」
技術革新があって他で盛大に消費が伸びてる時に、たいていは衰退産業もあります。
そこ「だけ」に注目して、どうしようと言うのでしょうかねえ。
そんなこと言うくらいならば、
「内燃機関を守れ!」
「男子校を守れ!」
とかも言ってほしいもんですわ。
市場メカニズムに任せて、税金は使うな。
税金欲しがるなら、まず自分が私財で助けてやれ。
>ましてやそれらのデータが現実の政策を決定するうえで、何らかの有益な情報を提供するものとも思えません。
「円安は小さな企業にはどうすることもできない。そんな企業の倒産を防ぐために補助金を出せ」みたいなことを言い出す、自称地域のボス的な政治家が出てくるだろうと思うのです♪
そういう意味では、有益でないどころか、有害な情報かもって思うのです♪
マスゴミはんの発信ベクトルが「日本貶め」「政権批判」だからナンでショーかネ?
一部は「大企業批判」にも展開しよるげにも聞きますが…
まーバラマキ利権増設拡張を目論むカンリョー機構のサシガネめ有りや無きや??
マスゴミはんらも同じ「円安倒産」を扱うにもアタラ国民の不安感を煽るより、
「為替変動に揺るがない中小企業を育てるためには…」とか、
「トリクルダウンを効果的に機能させるためには…」とか、
より国民が豊かになり国家が富み国勢が盛んになるための議論を喚起できそうな発信する方が輿論への影響力を相対的に維持伸長出来そうナンちゃいますかネェ???
円安倒産というだけでなく実質賃金が2年で3%ぐらい下がっており、必需品の電気、ガス、ガソリンが値上がりしていて、エンゲル係数が高くなっている状況の中で、必需品で無い物がこの2年で35%以上為替の影響で値上げしているので売り上げが激減しているのです
大手企業は値上げしていても35%も上がらないので相対的に割安となり強い状況です
実際アパレル業界などでもっと倒産が増えそうなのですが(昨年3月でコロナの補助が終わりコロナが終わると売り上げがコロナ前に戻ると思っていたところ季節の進み方がおかしく秋物が飛び防寒物が飛び3月になっても寒さが続き何とかここから暖かくなり何とか春物が売れるかという状況になりましたが早々に暑くなると春物がまた飛ぶ可能性もあります)
売上が伸びない中で光熱費や人件費が高くなり価格を普通に上げても売れないので利益の確保も難しく在庫も積みあがっているところが多いと聞きます
さらにSHEINのように関税も消費税も払わない中国から直送の激安の商品が大量に売れています
必需品で無い物にお金をかけられないのですから仕方ないです
ただ現状思ったより倒産があまり起きていません、それはコロナからの返済猶予が最悪の状態でも1年とかあるのでまだ倒産が広がっていませんがこれからどんどん増えていくと思います
イオンの専門店街等でお店のあった場所がベンチになっていたりガチャガチャの機械が沢山並んでいたりしていて、この1年でさらに進むことになりそうです
円安は良いと思いますが実質賃金の落ち込みをせめて2年前ぐらいまで戻してほしいです
今回の賃上げで実質賃金のマイナスが止まっても2年前まで戻りませんし、元々低価格ゾーンを買っていてくれた顧客は大企業に勤めている人が少ないだろうと想定できますし、給料や資産が大きく伸びた人は百貨店などでブランド品を買うと思うので、やはり多くの国民の消費意欲を戻すため経済を伸ばす為にも消費税減税をやってもらうしか方法はないと思うのですが
岸田さんではだめですね
多くの国民に恨まれて自民党ごと沈んでいくと思います
できるだけ早く解散してほしいです
>必需品で無い物がこの2年で35%以上為替の影響で値上げしているので売り上げが激減しているのです
減ってるのはどの品目でいつと比べて何パーセント減ってるんです?そのデータはどこで取れるんです?