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速攻否定される「悪い賃上げ」論:パート等賃金も上昇

数日前、当ウェブサイトでは「そのうちメディアが『悪い賃上げ』論を言い出すのではないか」、と予言しました。「賃上げの恩恵を受けているのは大企業に限られていて、中小企業やパート、アルバイトの人たちにその恩恵は行きわたっていない」、とするロジックです。こうした「悪い賃上げ」論、たった数日で否定されてしまうことになりそうです。株式会社リクルートが14日に発表したデータによれば、今年2月の三大都市圏のパート、アルバイトの時給が前年同月比4%以上も上昇したからです。

「崩壊している」のは「日本経済崩壊」論者の現状認識能力

先日の『「悪い株高」論の正体は新聞業界の「自己投影」では?』でも取り上げたとおり、一部の新聞を中心に、最近、「悪い株高」論のようなものが蔓延しています。

いわく、「昨今は株高だが、実質賃金は伸び悩んでおり、円安のために輸入品物価も上昇し、庶民の生活は苦しくなっている」――。

すなわち、「株高は株高だが、それは円安で実態から遊離したバブル状態であり、庶民はその恩恵を受けることもできず、賃上げの恩恵も受けられずに、円安による物価高に苦しめられている」、という発想です。一種の「日本経済崩壊論」、といったところでしょうか。

大変残念ですが、崩壊しているのはこの場合、「日本経済」ではなく、こうした主張を展開する方々の現状認識能力の方でしょう。

そもそも現在の物価高が円安のせいではない、とする点については、以前の『円安と株高の相関消えても日本経済はまったく心配ない』などでも説明してきたつもりですが、この手の「日本経済悲観論者」の皆さまには、まったく理解していただけていないようです。

もちろん、日本は言論の自由が認められている国ですから、基本的に何を主張しても構わないのですが、それにしても経済の素人の方が経済記事を書くと、かくもトンチンカンな内容になってしまうという点において、じつにわかりやすい事例でしょう。

「悪い株高」論からの「悪い賃上げ」論

ただ、一部の新聞を中心に蔓延している、こうした「悪い株高」論をあざ笑うかのように、ついに賃上げの動きも出て来ています。先日の『企業業績上昇と株高に続き春闘満額回答相次ぐ日本企業』でも取り上げたとおり、最近、大企業を中心に、賃上げの動きが本格化しつつあるのです。

マスコミさんはきっと次に「悪い賃上げ」と言い出す「悪い円安」、「悪い株高」に続いて、きっと近い将来出て来るであろう主張があるとしたら、それは「悪い賃上げ」論ではないでしょうか。春闘で満額回答の企業が相次いでいますが、こうしたなかで、「マスコミウォッチャー」として「次のマスコミ論調」を予想するならば、「賃上げは大企業や製造業に限られている」、といった主張が出てきそうな気がします。もしかするとその理由は、マスコミ業界に関しては賃上げが難しいからではないでしょうか。株高・不動産高は「バブル」なのか...
企業業績上昇と株高に続き春闘満額回答相次ぐ日本企業 - 新宿会計士の政治経済評論

現在の日本では、企業業績も上向いていますし、雇用も拡大を続けています。

当たり前の話ですが、「雇いたい」という需要が「働きたい」という需要を上回っていれば、賃金水準は自然と上昇し始めますし、良い人材を取るという観点では、これまでのような「低賃金・長時間労働」という働き方自体が通用しなくなってきているのです。

ただ、当ウェブサイトで「予言」したとおり、やはり一部界隈では、こんな話も出て来ているようです。

  • 現在の賃上げは大企業が中心であり、中小企業にその恩恵は行きわたっていない」。
  • 大企業で働く人と違い、中小企業で働く人は、賃上げの恩恵を受けることができない」。

「現在の株高は悪い株高」という主張を「悪い株高」論と呼ぶならば、さしずめこの手の「現在の賃上げは悪い賃上げ」という意味で、「悪い賃上げ」論とでも称すべきかもしれません。

速攻で否定されてしまう「悪い賃上げ」論

しかしながら、こうした「悪い賃上げ」論も、速攻で否定されているようです。

2024年2月度 アルバイト・パート募集時平均時給調査【三大都市圏(首都圏・東海・関西)】

―――2024/03/14付 リクルートHPより

株式会社リクルートの調査研究機関『ジョブズリサーチセンター(JBRC)』が14日に発表した2024年2月度の『アルバイト・パート募集時平均時給調査』のデータによると、三大都市圏の平均時給は前年同月比+50円となる1,192円で「過去最高額を更新」したのだそうです。

また、この「平均1,192円」という時給水準は、リクルートが現在の調査を開始した2018年3月以降で見て過去最高額であり、前年同月比+4.4%という上昇率についても過去最高水準です。

リクルートはまた、職種別では「販売・サービス系」「専門職系」で2018年3月度以降の「過去最高額を更新」しているとしつつ、ほかにも「事務系」など全業種で前年同月比プラスを記録。エリア別で見たら首都圏、東海、関西ともにプラスとなっている、などとしています。

三大都市圏・エリア別
  • 首都圏…1,229円(前年同月比+49円、+4.2%)
  • 東海圏…1,124円(前年同月比+62円、+5.8%)
  • 近畿圏…1,161円(前年同月比+45円、+4.0%)

ちなみにこの調査は同社が企画運営する求人メディア 『TOWNWORK』『fromA navi』に掲載された求人情報より、「アルバイト・パートの募集時平均時給」を集計したものだそうですので、少なくともこれらの求人メディア上、本当にその平均時給水準で募集されていると考えて間違いないでしょう。

いずれにせよ、「私たち一般市民には賃上げの恩恵は及んでいない」、などと述べる人たちもいるのですが、そうした主張がこうやってどんどんとデータで否定されていくのは、少し滑稽でもあります。

「悪い賃上げ」論はマスコミ業界の幻想または怨嗟なのかもね

ただ、先日から指摘している通り、これはあくまでも「社会全体」の話であって、儲かっていない会社・業態もあることもまた事実でしょう。

とりわけ『最新版「日本の広告費」から見える新聞・テレビの危機』でも取り上げたとおり、株式会社電通が公表した2023年版の『日本の広告費』のデータによると、「マスコミ4媒体」――とりわけ、新聞、テレビ――の広告費が順調に減り続けています(図表)。

図表 広告費の推移(ネットvsマスコミ4媒体)

(【出所】株式会社電通『日本の広告費』および当ウェブサイト読者「埼玉県民」様提供データをもとに作成)

広告費全体が力強く伸びているなかで、新聞、テレビの2媒体に対する広告費が前年割れを起こしているというのは、メディアを取り巻く状況がとりわけ深刻であることを示しています。

これに加えて新聞の場合は部数が減り続け、そのわりに電子媒体版の契約も伸びていないという事情もありますし、テレビの場合も若年層を中心に、視聴時間が減り続けているわけですから、この好景気にも関わらず、新聞、テレビ業界の皆さまが相当苦しい状況に追い込まれているであろうことは、想像に難くありません。

だからこそ、「円安」から「株高」、「賃上げ」という流れの恩恵を、マスコミ業界の皆さま方が実感できないというのも、何となく想像がつきます。

このように考えると、「悪い円安」、「悪い株高」、「悪い賃上げ」論の正体とは、じつは世の中全体が好景気に沸く中で、その流れに乗れないことに対するマスコミ業界の皆さまの怨嗟なのかもしれない、などと思う今日この頃です。

新宿会計士:

View Comments (13)

  • 「新聞記者は円満転職の夢を見るか」

    こんな新刊書のタイトルを妄想しました。

  •  マスコミ各社さんは、女性社長・幹部を増やした上に賃上げを実行して社員に賃上げを実感してもらってから色々言うようにしてもろて。

     雇う側です。始業時間や労働内容、単にイメージが悪いという面はあるのですが、以前から働きに来てくれていている方(\1,200/h)よりもだいぶ高い時給(\1,500/h)を提示しても人が来てくれないねじれ状態になっています。募集の時給を上げるだけ上げて来てくれたとしたら(来なくてもですが)、公平感や妥当性のために前者の時給も上げなければですし。と、短期雇用だと、人員獲得合戦の様相となるとすぐに賃上げを体感できる状態になります。
     一部界隈さんの言うように賃上げ享受できている人が本当に少ないのだとしたら、雇用(あるいは解雇)と賃金の流動性が無さすぎる現状の雇用形態をどうにかする提言でもしたら良いのではないのでしょうか。ついでに賃下げが正当化できるのであれば賃上げが気楽ですし。今はノリで上げちゃってからヤバくなっても下げるのは困難ですから。
     あ、野党界隈の皆さんの理想・主張とは逆の社会になっちゃいますね。

    • >始業時間や労働内容、単にイメージが悪いという面はあるのですが、以前から働きに来てくれていている方(¥1,200/h)よりもだいぶ高い時給(¥1,500/h)を提示しても人が来てくれないねじれ状態になっています。

      お話しを伺って、季節限定の雇用で年間通しての雇用にならず、不安定なのがネックなのかな?と。

      キャディの仕事も冬は期間外だったりしますしね。

      対応策としては、前回はあっちの現場、今回はこっちの現場、次回はそっちの現場、といった感じで現場は変わるけれど年間通しての安定した雇用にする、ですかね。

      もうしているのかもですが。

      >一部界隈さんの言うように賃上げ享受できている人が本当に少ないのだとしたら、雇用(あるいは解雇)と賃金の流動性が無さすぎる現状の雇用形態をどうにかする提言でもしたら良いのではないのでしょうか。

      「今日付で解雇だから」と言われるし、「明日から来ません」と言われる雇用関係に付く人は、どの程度の給料があれば良しとするのか、ですね。

      >今はノリで上げちゃってからヤバくなっても下げるのは困難ですから。

      これはホントにネックですよね。

      あらかじめ契約内容に盛り込んどくくらいしか出来ない気が。

      ただ、とある一部上場企業だと新卒採用者に対して入社後に一方的に資格取得を「義務化」し、資格を取得しなければ賞与を減額する、とワンマン社長が決めちゃったりするので、労組が機能しない、御用組合な会社なら何とでもなるんじゃないかとも(;^_^A

  • そういえば、産経新聞社員は「日本新聞労働組合連合」に加入していないというかなり特異な存在。
    紅色感が弱いのはそのせいかも。
    日本民間放送労働組合連合会というのもある。
    NHK関連労働組合連合会というのもある。
    結構この辺り、埃にまみれているのかも。
    報道内容に影響していないはずはない。

  • 日鉄も人が悪いね。
    組合要求3万円に対して3万5千円の回答。
    昔なら組合幹部はつるし上げられて総退陣でもおかしくない。
    そうならないとしたら最初から組合なんかに期待していないということでは。

  • 賃上げ額が「焼け石に水」ではなく「干天の慈雨」と言える代物だと良いですね

    • 今は人件費を費用ではなく投資と見る会社が賃上げを主導してる印象です。

      ただ、日本社会にはまだまだ人件費を費用と考え、労働者を搾取して使い捨て、捨てた後の世話を日本社会に押し付ける会社が存在します。

      今の賃上げの流れの中で、そんなブラック企業がなるべく早く、そして多く淘汰される事を願います。

  • 結局の所、景気の良し悪しって万人が納得する便利な指数はないのでは?と思う今日この頃。

    個人的に最も説得力を感じるのは賃金上昇率と物価上昇率の比較ですが、
    他にも失業率やら電力使用量やら色々考慮すべき要素はあるでしょうし……

    判断材料は沢山あって、かつそれらのデータ収集は簡単ではない。
    景気の良し悪しが主観的になりがちなのはこれが原因かも?

  • 安心してくれたまい新聞社の皆さん。
    君たちの給与は悪かろうが善かろうが当面上がる事は無い。
    むしろ経費が上がって利益が減って減給か雇用の確保が難しくなる方向にしかいかないから大丈夫。

  • >「現在の賃上げは大企業が中心であり、中小企業にその恩恵は行きわたっていない」
    であるならば、
    中小企業にその恩恵がいきわたるまで、当面、日銀には現在の金融政策を堅持することを求めないといけないのではないでしょうか?そのような論評をメディアから聞いたことがありませんがこれ如何に?今後、金利が上昇するようなことになれば、より一層、中小企業の経営者さんや従業員さんは困るでしょうに。金利が上がった大喜びするのは銀行だけで、日銀の審議委員には銀行の廻し者が沢山いる?ようなことも世間では言われていますね。困ったものです。次週の金融政策決定会合どうなりますかね?

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