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北海道新幹線を少し延ばして函館直結すればどうなるか

建設費次第ですが、「味覚や史跡などの観光資源が豊富な都市に新幹線1本で東京からアクセスできるようになること」の意義は小さくありません。現在、新函館北斗駅まで伸びている北海道新幹線を、ほんの18㎞ほど南に延伸して函館駅に乗り入れた場合の経済効果をどう見積もるべきでしょうか。そしてその建設コストは?興味は尽きません。

興味深い「想像する能力」

私たち人間には、非常に大きな能力が備わっています。

そのひとつが、「想像」です。

東京都練馬区に居住する、異次元空間から未来の道具を取り出して現代社会に無用の混乱を引き起こす青狸(正式な名称は「特定意志薄弱児童監視指導員」)も、結局は人間の想像の産物ですが、それだけではありません。

もう少し卑近なところで、地図を広げて空想の路線図を鉛筆で書き込んで楽しむのも、私たち人間に許された娯楽のひとつではないでしょうか。

実現に向け動き出している構想もある

もっとも、これらのなかには必ずしも「想像」あるいは「妄想」とは言い切れないものもあります。

以前の『ほんの少し延ばすだけで利便性が飛躍的に上昇する路線』などでも取り上げた、「ほんのちょっと路線が延びていたら、めちゃくちゃ便利になるのに!」といった路線の話題などは、その典型例でしょう。

たとえば首都圏の場合、「ほんの数キロ延ばすだけで飛躍的に利便性が向上する」という路線はいくつかあり、それらのなかには実現に向けて動き出している構想もいくつかあります。東京メトロ南北線を、白金高輪駅から2.5㎞ほど延伸し、品川駅にまで到達させるという構想は、その典型例でしょう。

個人的には、せっかくそこまで伸ばすなら、直線距離でさらに2.3㎞ほどの地点にある大井町駅まで延伸し、東急大井町線と相互直通運転すれば、さらに利便性が上昇するのではないかと思います。大井町線は溝の口・二子玉川間で田園都市線と複々線化しているからです。

この点、大井町線を溝の口駅から大井町・品川経由で南北線に直通させるとした場合には、運行車両数や駅の構造など、実現に向けて解決すべき諸課題もありますので、単純な話ではないのですが、イチから新しい路線を作るのと比べればハードルは遥かに低いことは間違いありません。

最近では東京メトロ有楽町線・豊洲-住吉駅間の4.8㎞の延伸工事も2022年3月に鉄道事業の許可がなされていますし、現在は田園都市線・あざみ野駅で止まっている横浜市営地下鉄ブルーラインを小田急・新百合ヶ丘駅まで6.5㎞延伸するルートは、2020年1月に公表されています。

もちろん、地価が上昇し切った都心部で、しかも近年の資材・建設費高騰のなかで延伸させるのは大変なハードルではありますが、こうした都市圏の新規路線構想、想像するだけで楽しいものです。

今度は北の大地から…函館市にとっては微妙に不便な北海道新幹線

その一方で、この手の「新規路線構想」は、新幹線についても同様に成り立ちます。

北海道新幹線といえば現在、新函館北斗-札幌間約212㎞が2030年度末開業を目指して建設中であり、札幌までは途中、新八雲(仮称)、長万部、倶知安駅、新小樽(仮称)の4駅が設置されるとのことです(函館市『北海道新幹線について』の『駅とルートの概要』より)。

【参考】北海道新幹線・建設中区間

(【出所】函館市ウェブサイト『北海道新幹線について』掲載資料を加工)

しかし、新函館北斗駅自体は函館市中心部にある函館駅から18㎞ほど離れており、現状では、函館駅に至るまでに1回以上の乗り換えが必要です。「はこだてライナー」で所要時間は20分ほどですが、なんとももどかしい点でしょう。函館市にとっては微妙に不便だからです。

素人考えですが、新函館北斗駅から18㎞ほどの在来線を広軌(または第三軌条方式)に改軌すれば、多少速度が落ちたとしても、新函館北斗駅から函館駅まで新幹線で直通できるのではないか、といった気がしてなりません。

現実に「山形新幹線」「秋田新幹線」など、ミニ規格でありながらも東京駅と直通している「新幹線」もあるわけです。

しかも函館市の人口は2023年12月末時点で24万人とされ、わずか18㎞ほど整備すれば、(新函館北斗駅からスイッチバックすることになるとはいえ)函館駅が東京駅と新幹線で直結することになります。

さらにいえば、新幹線が2030年度末に札幌まで延伸されたあかつきには、理論上は札幌・函館間の230㎞を1時間弱で直結することもでき、北海道内(とくに道南)の交通事情も飛躍的に向上します。

函館市が中間報告…最終報告は今年3月

こうしたなかで、函館市ウェブサイトにちょっと興味深い資料が出ているのを発見しました。

新幹線等の函館駅乗り入れに関する調査業務進捗状況等に係る中間報告書【※PDF】

―――2024/01/10付 函館市HPより

函館市は現在、函館駅と新函館北斗駅間に新幹線を走らせるとした場合の調査業務を実施しており、その最終的な報告書については今年3月末に取りまとめて報告する予定なのだそうですが、それに先立って現時点の検討状況を公表しています。

現時点ではまだ具体的な内容がほとんど掲載されていませんが、これに関連し、HBC(北海道放送)が22日、調査を請け負うコンサルタント会社が「新函館北斗と函館の間にはトンネルがなく、ミニ新幹線ではなく、フル規格の車両の導入可能性が高い」と指摘している、などと報じました。

新幹線の函館駅乗り入れ構想で中間報告 鉄道解説系ユーチューバー鐵坊主氏は「実現可能性は20~30%」 3月に最終報告

―――2024/01/22 19:17付 HBC北海道ニュースより

フル規格車両を導入する場合、現在は函館北斗駅から七飯駅までの約4㎞が単線となっている函館本線とは別にもう1本、フル規格用の線路を敷設し、七飯から函館までの区間は複線のうち1本を新幹線用に改造してしまう、といった手法でしょうか。

報道だけではよくわかりません。

いろいろ想像してみると…

ただ、たしかに記事の通り、新函館北斗と函館の間にはトンネルや大規模な河川などがなく、フル規格新幹線であっても単線であれば(また、函館本線の在来線区間の函館・七飯間を単線化するのであれば)比較的容易に新幹線を引っ張ってくることは出来そうです。

ミニ新幹線規格にしてしまうと建設コストは大幅に抑えられる反面、輸送力が低下するため、フル規格新幹線を安価に敷設(あるいは在来線を改軌)するための条件が整っているならば、フル規格にした方が良いことは間違いないでしょう。

また、在来線の函館・七飯間の運行本数も、現状では片道当たり1時間に1~2本ですので、在来線が単線化してしまったとしても、函館本線の輸送力の低下が函館の都市機能に大きな打撃をもたらすともいえないでしょう。

このあたり、函館駅に至るまでの区間が意外と都市化しているため、改軌などにあたって用地買収が必要となるのであれば、実現に向けたハードルは一気に上がりそうですが、もし用地買収なしにフル規格新幹線が実現できるなら、それに越したことはありません。

いずれにせよ、あとは建設費と需要予測の問題です。建設コストの抑制などの課題はありますが、「味覚や史跡などの観光資源が豊富な函館市に新幹線1本で東京からアクセスできるようになること」の効果をどう見積もるかは興味深いところだといえるでしょう。

新宿会計士:

View Comments (14)

  • あえて批判を覚悟で書きますが・・・。
    インフラの整備は、地域最適ではなく、ある程度は全体最適を目指すべきだと思います。
    例えば山形は、東根(神町)に空港を作り、新幹線を通し、東北道の村田から高速道路を2車線化しましたが、結局のところ、山形空港は便数が減り、鉄道の在来線は減り、仙台に行くのに高速道路は使わず一般道の方が活用されています。
    結局、新幹線は福島から先がほぼ特急レベルなので一般道で仙台に行って新幹線を使うとか、便数が少なく利便性に乏しいので山形空港を使わず一般道で仙台まで行くとか、買い物や通勤通学をするために在来線が少ないため新幹線を使わざるを得ない、なんてことが発生していました。
    こんな具合なら、仙台をハブにして、仙台からのアクセスの利便性をあげた方がよっぽどましだったと「個人的には」思います。
    一体どれだけの人が、函館や「札幌」に新幹線で行くのでしょうかね?むしろ在来線が廃れたり、空港が過疎化することの方が懸念されると思います。

  • 3年前、札幌と函館の間を列車で往復する機会がありましたが、小樽を経由するにしろ、苫小牧、千歳を経由するにしろ、両都市間の直線距離から考えるとひどく大回りとなるため、ずいぶん時間が掛かります。まあ、車窓から眺める風景が素晴らしいから、長時間の車中も苦にはなりませんでしたが。

    札幌ー函館間が新幹線で直通ということになれば、トンネルばっかりになるんじゃないかと想像すると、そこのところは残念ですが、ずいぶん便利になることだけはまあ間違いないでしょう。旅行客も大幅増ということになるかも知れませんが、多分、一番割を食うのが札幌(丘珠)ー函館間の空路でしょう。廃止になるのかも。

  • コロナ前の古い記事ですが、2018年当時、東京⇔函館の新幹線と飛行機のシェアは、新幹線35%:飛行機65%だったそうです。

    次世代新幹線 飛行機の牙城崩せ JR東日本 - 日本経済新聞 2018年8月4日
    https://www.nikkei.com/article/DGXMZO33782220T00C18A8XQH000/

    今のように函館へのアクセスが不便なままなら、今後もシェアは同程度でしょう。
    北海道新幹線が札幌まで延伸されると、函館⇔札幌は飛行機からシェアを奪う一方で、安い高速バスに流れる利用者もいるでしょうね。(今はドライバー不足で減便されてますが。)

    ところで、北海道新幹線が札幌まで延伸されても、はっきり言って東京⇔札幌を乗り通す人はそれほどいないと思いますね。理由は価格。
    激戦区の羽田⇔新千歳は、早割やLCCを利用すれば片道数千円のこともあるし、今は成田⇔新千歳にもLCCがいっぱい飛んでいます。(成田にはLCC専用の第3ターミナルがあるので。)

    北海道新幹線 「はやぶさ」 は、所要時間短縮のために大宮⇔仙台は無停車だし、北海道新幹線に割引切符を導入するにしても、LCCと同じ水準までは安くできないでしょう。
    そうなると、東京駅・大宮駅と成田空港までの距離が同じくらいの場所に住んでいる人なら、成田空港からLCC利用が一番早くて安くなります。

    • コメントをあらかた書いてしまった後に被っていることに気づきました。
      すみません・・・ m(__)m

  • 北海道新幹線は東京-札幌間を4時間程度で結ばないと、飛行機に勝てないと聞いたことがあります。
    現在は東京-新函館北斗が4時間強だそうです。それに対して、飛行機は1時間20分。搭乗手続き等々含めると3時間半程度でしょうかね。

    2020年に東北新幹線の運転速度が大宮以北で320km/hに引き上げられて高速化したそうですが、さらに360km/hを目指した車両も開発が進んでいるとのこと。
    また、青函トンネルは在来線併用のため160km/h運転となり鬼門になっているそうですが、今年のGW期間限定で260km/h運行を予定しているそうで、高速化の取り組みも進めているようです(下記事参照)。
    これらをクリアすると東京-札幌間4時間切りの芽もでてくるんだそうです。

    ちなみに函館空港-函館駅は20分、新函館北斗-函館は16分なので、スイッチバックであったとしても、乗り換え無しの接続が実現すれば十分勝負できるようになるんじゃないでしょうか。

    乗り物ニュース:ついにキタ! 青函トンネル内「+100km/h」運行 GWに限り北海道新幹線
    https://trafficnews.jp/post/130534

    JR東日本:新幹線の試験⾞両 ALFA-X まもなくデビュー
    https://www.jreast.co.jp/press/2018/20190315.pdf

    • 訂正。
      >大宮以北で320km/h
      宇都宮以北でした。大宮-宇都宮間は275km/hだそうです。

      >東京-札幌間4時間切りの芽
      4時間切りは無いみたいでした。せいぜい4時間半。
      このライターさん独自の試算が面白かったです。

      東洋経済:新幹線「東京ー札幌4時間半走行」は可能なのか-時速360kmが実現すれば、一気に射程圏内に
      https://toyokeizai.net/articles/-/388877

  • 先日、東北新幹線を利用して東京から函館まで行ってきた者です。JR系の旅行代理店が時折、今一伸びない需要を喚起しようとの策か、信じられないほどの格安パッケージを出してくるので、貧乏くさくそのキャンペーンに乗っかりました。
    当新幹線乗車で気付いたことは、盛岡を過ぎてからの車内のガラ空き具合と、やはり新函館北斗での乗り換えの微妙な面倒臭さです。新函館北斗で下車した後、新幹線乗客同士が競走のように乗り換え口へ走り、一度改札口の外に出されてから追加の在来線切符を購入する行為は、少額の追加支払い自体には何の躊躇もありませんが、旅の気分の盛り上がりが急に萎むような感覚を覚えました。その意味で、東北新幹線の函館駅までの延伸には賛成です。函館への新幹線を利用した観光客が増えれば、盛岡駅からの閑散度合いも多少は緩和されると思います。

  • 北海道新幹線、JR北海道、万年赤字ですね。
    函館延伸しても、赤字が解消される見込みがあるのか?

    北海道は、鉄道事業が黒字になる見込みはないでしょう。
    国鉄時代も黒字だったのか?は疑わしい。

    上の方で、元一般市民さまが、仙台ー山形について全体最適を考えた方がいいと書いておられるのは、凄く現実的な「解」だと思います。

    北海道は、交通に関しては、航空、鉄道、道路、で全体最適を考えた方がいいのではないか?
    いずれにしても、赤字になるだろうから、政府から補助金を出すしかないでしょうね。

  • >東京メトロ南北線を、白金高輪駅から2.5㎞ほど延伸し、品川駅にまで到達させるという構想は、その典型例でしょう。・・・、直線距離でさらに2.3㎞ほどの地点にある大井町駅まで延伸し、東急大井町線と相互直通運転すれば、さらに利便性が上昇するのではないかと思います。・・・

    >この点、大井町線を溝の口駅から大井町・品川経由で南北線に直通させるとした場合には、運行車両数や駅の構造など、実現に向けて解決すべき諸課題もありますので、単純な話ではないのですが、イチから新しい路線を作るのと比べればハードルは遥かに低いことは間違いありません。

    複々線で並走している大井町線を介して田園都市線の沿線から南北線と三田線に乗り換えなしでアクセス可能にするのはかなり利便性が高まるので良いアイデアだと思いますが,その実現方法として御説のような

      白金高輪~品川~大井町

    という新線建設はとても高コストなだけでなく得られる利便性も少ない(所要時間が長い)問題があります.

    実は,大井町線から白金高輪を経由して南北・三田両線に乗り入れるのは,信号システム等の保安システムやホームドアの位置の一致・不一致の問題を解決できれば,新線を全く建設せずに実現できるのです.

    東急の大井町線と目黒線とは大岡山駅で対面乗り換えが可能になっています.言い換えると,大岡山駅のホームの西側で上り線同士および下り線同士で大井町線と目黒線とを自在に切り替えられる|X|型のポイントを設置すれば(ウィキペディアの東急目黒線の路線ダイアグラムによれば大岡山駅の西側手前にポイントは設置されていますが2つの線を自在に切り替えられる|X|型ではないので,この案の実現には改修工事が不可欠),大井町線の田園都市線側から目黒線の目黒方面に乗り入れることや目黒線の東横線側から大井町線の大井町方面に乗り入れること(勿論,それらの逆向きも)が可能になります.

    そして東京の地図を見て確認して下されば,大岡山から白金高輪に行くのに大井町+品川(を通る新線)を経由するよりも現在の目黒線経由のほうがかなり距離が短くなる(従って所要時間も短い)と御理解頂けると思います.

  • 「第三軌条方式」というのは架線ではなく線路脇に設置したレールから給電される仕組みのことです。
    東京では銀座線などで採用されています。
    3本のレールを敷いて標準軌と狭軌の両方を賄うのは「三線軌条」といいます。

    • 勉強になりました!
      日本語は凄いですね。
      漢字の組み合わせで、正確な内容を表現表記できるのですから。
      「第三軌条」に「方式」を付けると、「給電方式」を示すことができる。
      軌条が三つあるから、「三線軌条」。

  • そういえば、羽田空港に乗り入れている京急空港線は、京急本線の京急蒲田で分離していますが、横浜方面から羽田に向かう場合は京急蒲田で折り返して空港線に入るスイッチバックになります。(これをスイッチバックと呼ぶのが適切かはわかりませんが)
    乗り換える必要が無いので、乗客としてはスイッチバックかどうかは意識しませんね。便利です。

    ただ私が羽田に行くときは、横浜駅からリムジンバス使いますけどね。停車駅ないし、座れますし、横浜港を見渡す景色もいいし。