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中国報道官「民進党は台湾住民の主流世論を代表せず」

なかなかに強烈な話題が出てきました。中国国務院台湾・事務弁公室の陳斌華(ちん・ひんか)報道官が17日の記者会見で、今年の台湾の選挙について尋ねられ、「民進党は島の主流世論を代表していない」と答えたというのです。完全に自由で民主的な選挙が実施されたことがないくせに、民主主義のプロセスにイチャモンを付けるという発想は、なかなかに印象的です。

久しぶりに驚いた!中国台湾事務弁公室の報道官の発言

人間、年を取ってくると、あまり驚かなくなるものです。

ましてや、長らくウェブ評論活動をしていて、世の中のさまざまな話題を見つけてそれらを世に紹介し続けていると、たいていの話題にはあまり新鮮味がなく、ちょっとやそっとの話題だと、思わずスルーしてしまうことも増えてくるような気もします。

ただ、さすがに驚いたのが、中国国務院台湾・事務弁公室の陳斌華(ちん・ひんか)報道官による記者会見です。

國臺辦新聞發佈會輯錄(2024-01-17)

―――2024-01-17 16:00付 中共中央臺灣工作辦公室/國務院臺灣事務辦公室ウェブサイトより

陳斌華氏はチャイナ・デイリーの記者の質問で、今年の台湾の総統選などに関して質問されたところ、これに対して次のように答えたのです。

臺灣地區選舉是中國的地方事務。這次臺灣地區兩項選舉結果顯示,民進黨並不能代表島內主流民意。選舉結果撼動不了臺灣是中國一部分的地位和事實,改變不了兩岸關係的基本格局和發展方向,阻擋不了祖國必然統一的歷史大勢」(※下線部は引用者による加工)。

「民進党は島の主流世論を代表していない」

漢字(なぜか繁体字)で書かれているため、少しわかり辛いのですが、翻訳エンジンなどを参考に下線の「民進黨並不能代表島內主流民意」部分を意訳すると、こんな具合ではないでしょうか。

民進党は島の主流世論を代表していない」。

ここでいう「民進党」とは、おそらく、民進党の頼清徳(らい・せいとく)候補が総裁選を制したことを指しているのでしょう。

先日の『台湾新総統に祝意の日本政府…中国反発に官房長官反論』でも紹介しましたが、13日に投開票が行われた台湾総統選では、現在の与党・民進党の頼清徳(らい・せいとく)副総統、蕭美琴(しょう・びきん)前駐米代表のペアが勝利をおさめ、当選しました。

これまですでに2期8年、民進党・蔡英文(さい・えいぶん)政権が続いてきましたが、台湾が民主化されて以来、同じ政党の3期連続で政権を担うのは初めてのことです。

ちなみに台湾メディア等によれば、速報ベースですが頼清徳氏の得票率は40.05%で、これに33.49%を獲得した最大野党・国民党の侯友宜(こう・ゆうぎ)氏(新北市長)、26.46%だった第2野党・民衆党の趙少康(ちょう・しょうこう)氏が続きます。

韓国大統領選に対しても、文句を言いましたか?

これに対し中国政府は繰り返し、「ひとつの中国」原則という立場に基づき、「台湾の選挙は中国の内政問題である」、などとする声明を対外的に出しているのですが、これらの声明自体は(実態がどうであれ)いままでの中国の立場をそのまま反映させたものである、という言い方もできます。

しかし、さすがに今回の「民進党は民意を代表せず」、には無理があります。民主主義国家における選挙は、事前に決められたルールに従い、投票が行われ、その結果によって当選者を判定するものだからです。

敢えて陳斌華氏の主張を無理くり解読するならば、「得票率が過半数ではなかった」から「島の主流世論を代表していない」、などと言いたがっているということなのかもしれませんが、過半数であろうがなかろうが、「民主的に実施された選挙で、最多得票で頼清徳氏が当選者に決まった」ことに違いはありません。

通常は、これを「民意」といいます。

もちろん、フランス大統領選のように、国や選挙によっては「過半数を制した候補がいなかった場合に決選投票が行われる」という事例もあり、この場合、理屈の上では1回目の投票でトップだった候補が2回目の投票で落選することもあり得ます。

ただ、韓国大統領選のように、決選投票が行われず、1回目の選挙でトップだった候補者がそのまま当選するという事例も数多くみられます。

たとえば2017年5月の大統領選を制した文在寅(ぶん・ざいいん)氏の場合も、得票率は41%程度でしたし、2022年5月の大統領選を制した尹錫悦(いん・しゃくえつ)氏の場合も、得票率は48.6%でギリギリ過半数に届いていません。

しかし、中国政府や中国共産党が、「文在寅(ウェン・ツァイイン)は南韓の住民の民意を反映していない」、「尹錫悦(イン・シーユエ)は南韓の住民の民意を反映していない」、などとする声明を出した、とする記録は見当たりません。

中国共産党の得票率を知りたい

ついでに議院内閣制の日本の場合も、とくに衆議院の小選挙区では死票が大量に出ることが知られています。

2021年の選挙のときも、小選挙区での自民党の得票率は48.08%と過半数に届きませんでしたが、289議席中187議席と小選挙区全体の64.71%の議席を獲得しています(ただし、衆院選は比例代表並立制でもあるため、自民党の議席占有率は、全体ではもう少し下がります)。

どうして韓国大統領選の当選者に対して何も言わないのに、また、日本の衆院選で自民党に対して何も言わないのに、台湾の選挙でこうしたイチャモンをつけるのか、理解に苦しむところです。

このあたり、中国では「中華人民共和国」成立以来、これまで完全に自由で民主的な秘密選挙をまともに実施したことがないという事情もあってか、「民意」の決まり方をよくしらないのは仕方がないのかもしれませんが、それにしても強烈過ぎます。

もし悔しければ、中華人民共和国でも中国共産党が日本や台湾のような完全な自由・普通選挙で中国人民の信を問うてみたら良いのではないでしょうか。

中国共産党が過半数の票を得られるのかどうか、ちょっと見てみたい気がする今日この頃です。

新宿会計士:

View Comments (11)

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    中国:「台湾は中国の一部であり、台湾住民とは中国人民も含めた人のことである。そして、中国本土の方が台湾内での人口より多いのだから、中国人民が賛成しないことは、主流世論とはなり得ない」
    中国に不都合な発言したので、私は捕まるのでしょうか。

    • >中国に不都合な発言したので、私は捕まるのでしょうか。

      日本は遣隋使、遣唐使を通じて中華世界に従属する事を表明しただけで無く、江戸時代は中華の属国藩塀国である李氏朝鮮から冊封使の派遣を将軍の代替わり毎に実施しています。故に日本は我が中華人民共和国の歴史的不可分の固有の領土です。

      この見解が正しいかどうかは『民主主義のルール』に基づき日中両国で投票によって決定する事を提案します。
      なお、『科学的社会主義による科学的、かつ理性な意見はトップから赤子迄同一になるので』全中華人民共和国の意思は朕たる習近平世界皇帝が総ての票を代表して投票します。
      という事で、日本の全主権を中華人民共和国に無償で引き渡して日本人を科学的社会主義を理解できない劣等民族として『中華人民共和国の意思を理解できない非人間的存在として総ての自由と権利を剥奪してゴビ砂漠の中に新設する洗脳…でなく習近平思想教育機関でbrain washingする事に戸籍外の人間含めて14億票(笑)』
      をどーんと投票します。

      アメリカも文句を言えない平和的かつ民主主義的な多数決で国家併合を決定する様にすれば、インド以外の大抵の国は習近平世界皇帝の1票に多数決で負けてしまう(笑)のでインドかアメリカに移住を検討すると良いかもしれません(笑)。

      もちろんアメリカの最終的手段は

      民主主義?何だソレは?と言いながら星一徹流ちゃぶ台返しの実施です(笑)。

  • 日本共産党でも、凡そ四半期ぶりに委員長が交代したことをNHKはかなり大きく報じてました。日本でも広く民主的選挙でトップを選出できず専制体制をとること、一部の政治結社では大同小異なのかもしれません。
    さて、中国共産党について素朴な疑問があります。
    中国社会において共産党に入党することは、その人の人生においてかなりの便益(実利)があるように思います。
    それでも入党していない人も多々おられると思うのですが、その理由は何なのでしょうか?
    本人自らが共産党の思想は相容れないと考えたためか、いや、入党を希望していても入党にあたっては厳しい厳しい身元調査なり思想検査なり入党金なりの壁があって、そんじょそこらでは入党できないのか?
    どうなのでしょうね。

  • そもそも弁公室が総統選挙の存在を否定するわけではなく、結果を素直に受け取っている立場なのが面白いと思いました。

    ちょっとテーマズレで恐縮ですが・・・
    大陸からの情報戦が指摘された中であっても、結果的に国民党が3割もの支持を得たという点が気になっています。議会は民進党が少数になってしまったとも。
    選挙の前後で台湾に行ったという日本人のレポートの中に、たまたま乗り合わせたタクシーの運転手がよく喋る人だったのだが、その中身は陰謀論を捲し立てて民進党を扱き下ろすものだった、などというものもありました。
    支持率は世代の傾向もあるそうですが、ネット世論の操作がそういう層を作っているという指摘も多く見かけました。

    ネット時代ではマスコミの情報支配が揺らぎつつありますが、それは人口に占める陰謀論者の比率を上げたのかどうか気になっています。情報に対するその人の姿勢とその人の意見は一致するとは限りませんし、測定が難しいので客観的な数字はきっと出てこないとは思いますが。
    ただ、どっちみち技術の進展と時間経過でネット化は不可逆的に進み社会は変わっていくので、それを受け入れて対応していくしかないんですけどね。

  • 中国報道官「民進党は台湾住民の主流世論を代表せず」

    そうですか、あんたの国では醜菌屁異政権が支那国民の世論を代表していませんが。だからかどうか知らないが醜菌屁異政権に都合が悪い意見を主張すると捕まえるようですが、それはどう説明するのでしょうか?

  • いつも興味深いテーマを取り上げて下さり有難うございます.

    >下線の「民進黨並不能代表島內主流民意」部分を意訳すると、こんな具合ではないでしょうか。
    ・・・
    >ここでいう「民進党」とは、おそらく、民進党の頼清徳(らい・せいとく)候補が総裁選を制したことを指しているのでしょう。

    それは少し違うのではないでしょうか?
    下線部の直前の部分は「這次臺灣地區兩項選舉結果顯示,」となっています.この部分を可能な限り逐語訳風に訳せば次のようになるでしょうか.

    ―試訳:今次の台湾地区の両方の選挙結果は(以下を)顕示している,(即ち)・・・下線部分・・・。

    ここで注目したいのは,【顕示する】の主語である【両方(の選挙結果)】と訳した「兩項(選舉結果)」という言葉が入っている点です.

    つまり,ブログ主様が推察の対象となさっている「民進党」は総統選挙と議会選挙との両方の選挙結果における民進党であって,それはつまり総統選挙では勝利したが立法院選挙では前回から無視できない議席数を失い過半数を制することができなかった民進党です.

    実際,頼新総統はこの8年間の蔡総統時代とは違って政策の立案や遂行において立法院対策にかなりの労力を割きまた様々な譲歩や妥協に追い込まれる事態が少なからず生ずると危惧されます.何しろ台湾国民は政権としては民進党に初の連続3期を許しましたが,立法院でも過半数の議席を与えるという形の白紙小切手を民進党政権第3期には与えず,必要ならばいつでも踏めるブレーキ装置を少数与党という形で立法院に仕掛けたのですから.

    ですので,今回の中国国務院台湾・事務弁公室の報道官の民進党は島の主流世論を代表していない」という弁は全くの強がりと切って捨てることは出来ないと私は考える次第です.

    • 私も、総統選でなく議会選挙の結果を
      悪用しての発言だと思いました。

      もちろんだからといって、
      大陸の民度の低い中共政府が、
      人口多くて国土が広くて
      武力みたいなものがあるからと
      民主主義国台湾に
      そんなこと言える筋合いではない
      あほくさい言であるのは
      かわりはありません。

  • 単純に、選挙を知らない中国が民心と選挙結果との関係を理解できるとは到底思わないんだよね。

    中国のいう「民心」ってのは上層部が想像するもの って再定義してみると、中国の言い分が全く違和感なくなるのが面白い。

  • アメリカに冷たくされるようになった中国国民党、悔しさにおいて相通じるものを共有する中国共産党と合体を始めたのです。