日本の一般紙の多くはネットで生き残れないというのが著者自身の見立てですが、日経新聞はその例外で、ネットで生き残る可能性が高いだろうとされているようです。しかし、講談社のウェブ評論サイト『マネー現代』が27日に配信した記事によると、これまで右肩上がりで増えていた日経の有料・無料をあわせたデジタル会員の数が、ついに減少に転じたのだそうです。これが事実だとしたら、象徴的な出来事です。
目次
順調に減り続ける新聞部数
『【最新新聞部数速報】夕刊はあと5年で消滅するのか?』で「速報」的にお伝えしたとおり、新聞の部数が今年も順調に減りました。
一般社団法人日本新聞協会が『新聞の発行部数と世帯数の推移』のページで公表した2023年10月時点の一般紙・スポーツ紙の合計部数は、①朝夕刊セットを1部とカウントした場合で2859万部、②朝夕刊セットを朝刊1部・夕刊1部の合計2部とカウントした場合で3305万部となりました。
どちらの方法でカウントしたとしても、前年比で見て大幅な減少です(図表1)。
図表1 新聞部数の増減(2023年vs2022年)
区分 | 2023年 | 2022年との比較 |
合計①(※) | 2859万部 | ▲226万部(▲7.31%) |
セット部数 | 446万部 | ▲147万部(▲24.83%) |
朝刊単独部数 | 2368万部 | ▲72万部(▲2.95%) |
夕刊単独部数 | 45万部 | ▲7万部(▲12.60%) |
合計②(※) | 3305万部 | ▲373万部(▲10.14%) |
朝刊部数 | 2814万部 | ▲219万部(▲7.22%) |
夕刊部数 | 491万部 | ▲154万部(▲23.85%) |
(【出所】『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成。「合計①」は「セット部数」を1部とカウントした場合、「合計②」は「セット部数」を2部とカウントした場合の合計部数。以下同じ)
これは、なかなかに強烈な数値です。
とくに夕刊部数に関しては、昨年の時点ですでに645万部にまで減っていたものが、今年は一気に154万部減って、いきなり500万部の大台を割り込みました。過去5年の平均値に沿って部数が落ち込んだ場合は5年以内に、2023年の減少ペースが続けば3年以内に、夕刊は消滅する計算です。
新聞というビジネスモデル自体が陳腐化している
そして、夕刊だけではありません。おそらく朝刊も、遅かれ早かれ、「終焉」が見えて来るでしょう。
いったいどうしてこうなってしまったのでしょうか。
著者自身の仮説ですが、これには大きく2つの要因が考えられます。
ひとつめは、技術の進歩に伴うビジネスモデルの陳腐化です。
きょうび、世の中のニューズというものは、インターネットですぐに手に入ります。少なくない人々がPCをもち、さらに若年層から中年層に至ってはほとんどの人がスマートフォンを持つ時代が到来したことで、わざわざ自宅に紙媒体の新聞が配られるのを待たなくても、多くの人が新聞を取る必要性を感じなくなっているのです。
もちろん、『たしかにスマホは便利、しかし全面電子化は早すぎる?』でも指摘したとおり、高齢層を中心にスマートフォンを持たない人もいますので、紙媒体の新聞・雑誌に対する一定の需要は、まだしばらくの間残るであろうことは間違いありません。
しかし、▼手にインクが付く、▼重くてかさばる、▼高い、▼情報が古くて不正確――など、欠陥だらけの新聞紙が廃れていくのは時間の問題であり、きょうび、若者は新聞に見向きもしません。
それに、紙媒体の新聞は、発行する2の莫大なコストがかかります。紙代、インク代、電気代、高価な輪転機の減価償却費、そして刷り上がった重たい新聞紙を人海戦術で各地に送り届けるための人件費、ガソリン代等々――は、いずれもネット配信すれば不要なコストです。
紙媒体の新聞事業はもともと高コスト体質であるなかで、新しい顧客が増えないわけですから、紙媒体の新聞発行が商売として成り立たなくなる程度に部数が減るのは時間の問題でしょう。ごく近い未来(下手したら数年後)にはそうなるはずです。いや、すでにそうなっているのでしょうか?
日本の新聞独特の理由は「品質の低さ」
ただ、新聞が廃れる要因は、この技術革新のみにあるわけではありません。新聞部数が急速に減っているもうひとつの理由はおそらく、日本の新聞業界がこれまでに行ってきた報道の品質の低さが、日本国民から拒絶されていることにあります。
昨日の『NHKにまたコミュノート…失墜する「マスコミ権威」』では、「責任あるマスコミの権威」なる概念を紹介しましたが、その「マスコミの権威」とやらが失墜している大きな要因は、新聞、テレビを中心とするマスコミ自身にあります。
マスコミの商品といえば「正確な情報」であるはずですが、『「事実を正確に伝える力」、日本の新聞に決定的に欠如』や『椿事件から玉川事件へと連綿と続くテレビ業界の問題点』などでも指摘してきたとおり、日本の新聞やテレビが報じる情報は、正直、あまりにも不正確です。
「クオリティが低すぎる」、と言い換えても良いでしょう。
そういえば『科学を否定し責任を取らない=官僚とメディアの共通点』でも指摘したとおり、日本のマスコミ業界は科学的思考態度を欠いており、かつ、自分たちの仕事に対して責任を取らないという意味では、日本の官僚業界とソックリでもあります。
こうしたなかで、徐々にではありますが、「マスコミに代替し得る情報源」がインターネット空間に形成され、「新聞やテレビがなくても困らない」と思う人が増えているというのが、昨今の新聞離れやテレビ離れの大きな要因ではないでしょうか。
朝デジ会員が増えていないという事実
もしこの2番目の仮説が正しければ、新聞が電子媒体化しても、読者は新聞の電子契約に応じないことになるはずです。
これについては実際のところ、とりわけ一般紙のケースだと、紙媒体から電子版への契約に切り替える読者は多くないようです。というのも、最大手の一角を占めているあの朝日新聞ですら、「朝デジ有料会員」はほとんど増えていないからです。直近の2023年9月だと、むしろ微減に転じています(図表2)。
図表2 朝日新聞メディア指標の一部
時点 | 朝刊部数 | 朝デジ有料会員 | 合計 |
2022年12月 | 383.8万 | 30.5万 | 414.3万 |
2023年3月 | 376.1万 | 30.5万 | 406.6万 |
2023年9月 | 357.3万 | 30.3万 | 387.6万 |
(【出所】株式会社朝日新聞社・コーポレートサイトの報道発表をもとに著者作成。なお、「朝刊部数」はABC部数を意味する)
最大手の株式会社朝日新聞社ですらこうなのですから、それ以外の各紙も推して知るべし、でしょう。結局のところ、インターネット上で手に入る情報と比べ、新聞社が提供する情報に魅力がないことに、人々が気付き始めているのです。
すなわち情報に付加価値がない一般紙を待つのは「滅亡あるのみ」、です。その時期が早いか遅いかという問題であって、新聞業界に緩慢な死が近寄っていることは間違いありません。
週刊現代「日経デジタル会員数が減少に転じた」
もっとも、これは一般紙の場合の話であり、日経新聞などのように「独特の強み」があるケースでは、電子媒体戦略が成功するのではないか、などと見る人が多いことも事実でしょう。
もっとも、これに関連して講談社が運営するウェブ評論サイト『マネー現代』に27日、『週刊現代』が配信した、ちょっと気になる記事が出ていました。
新聞、まもなく消滅へ…読売、朝日を辞めた記者が「ヤバすぎるマスコミの内情」を明かす
―――2023.12.27付 週刊現代より
新聞「大崩壊」のあと、読売だけが生き残る…ネットに敗れたマスコミの末路と「ささやかな希望」
―――2023.12.27付 週刊現代より
ウェブページ換算で9ページ(5ページ+4ページ)分の記事ですが、ヒトコトで要約すれば、「新聞はまもなく消滅する」、といったところでしょう。新聞業界人などに対する取材に基づいて書かれている分、興味深い記述も出てきますが、それでも当ウェブサイトでこれまで論じてきた内容を知っていれば、あまり新味はありません。
ただ、これらの記事に関連し、本稿で是非とも取り上げておきたいのが、次の記述です。
「全国紙の中で『いちはやくデジタル化に成功した勝ち組』と言われてきた日経新聞でも、昨年から雲行きがあやしくなってきた」。
「日経の有料・無料をあわせたデジタル会員の数は、これまで右肩上がりで増えていましたが、それがついに減少に転じた」。
なぜこの記述が注目に値するのでしょうか。
日経新聞の強気のデジタル戦略
じつは、日経新聞はこれまで、「紙媒体が消滅しても生き延びる、数少ないメディア」と見られていたのですが、そのカギとなるのが、新聞購読料とさして変わらない値段で提供している日経電子版の有料サービスです。
日経新聞は今年7月に、月ぎめ購読料(※朝夕刊セットの場合)を、それまでの4,900円から5,500円へと、一気に800円も引き上げました。これに加えて「統合版」についても、4,000円から4,800円へと800円値上げされています。
これに対し、日経電子版の有料会員は月額4,277円です(※紙媒体の配達とのセット料金は5,800円、または宅配での購読価格+1,000円だそうです)。
こうした強気の値段設定は、まさに日経新聞が独特のステータスをもっているという証拠でもあったのですが、もしも『マネー現代』の記事が事実ならば、日経新聞ですら安泰ではない、ということになりそうです。
もちろん、日経新聞の場合は英 Financial Times 紙を買収するなど、独自の経済メディアとしての地位を確立しようとしているわけですが、現実に新聞社に対しそこまでの大金を支払う価値があるのか、という観点からは、日経新聞も読者からは厳しく査定されている、ということなのかもしれません。
この点、個人的には、日経新聞が「経済に詳しい新聞」を名乗っていることには強い違和感を覚えます。
たとえば『日経新聞、「グラフの不備」認めて再投稿したものの…』などでも紹介したとおり、日経新聞は縦軸が明らかに歪曲されたグラフを作成して配信したことがありますし、『「ドル建てのGDP」で豊かさを論じて意味はあるのか』でも取り上げたとおり、ドル建てのGDPを日本人の豊かさの指標として用いたこともあります。
正直、日経新聞というメディアに経済的なセンスが存在するといえるのでしょうか。
いずれにせよ、新聞業界自体が、早ければ来年か再来年あたりから夕刊や朝刊の廃刊ラッシュを迎えると予想されるなかで、デジタル版の世界の動向も、新聞社経営という観点からは隠れたテーマのひとつであることは間違いないでしょう。
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日経電子版の減少への転換が示している事は、やはり、情報はコンテンツの質だけが価値であるという事でしょう。
日本経済新聞を辞めた、後藤達也氏、ネットを駆使して稼ぎまくっているらしいですね。彼のような中身のある記事を書く人が居なくなれば、日経新聞の記事の質が落ちるのだから、日経電子版の会員数も減るでしょう。そのやめた会員、後藤氏のnoteのサブスク会員になってたりするかも。
いよいよ、有能な社員から会社を辞めて、ネットで活動を始めて、マスゴミの崩壊を加速させるのか?
つまり、当サイトなどのせいで、日経も値段のわりにクオリティが低いことが露呈したと。
「辞め記者」と言えば大手新聞社を辞めた野島剛氏、先ほど台湾のオンライン経済番組に出演されているところを拝聴しました。滑らかな中国語を話し番組ホストと互角にやりとりをする、非常に頼もしく感じました。今後の活躍が期待できる人物と当方は思います。
内容はともかく現代さんは他人事みたいな顔してられる立場かなあとは思いましたが
いま世間ではNISA投資ブームが起き始めている。
投資歴0年の初心者が、参考に日本の経済新聞を購読するのだろうか。
中国に直接投資を煽りに煽りに煽って、大失敗の日本の経済新聞社。
社の方針に、記事に、信頼性がないと国民に判断されたのだろうか?
いや!これからだ!NISA投資ブームを牽引するのは日本の経済新聞者だ!!
一種の装置産業製品として位置付けられる紙新聞。紙新聞文化にどっぷり漬かり、その形態以外は受入れることが出来ない人びとが数多く居るであろう団塊世代の人口減少に従い、早晩たちいかなくなるのは明らかでしょう。
一方、垂直統合の装置産業から脱却を図り、身軽な電子メディアに移行できたら、損益分岐点が下がるため、突然死ではなく、ひょっとすると暫くは生き残りできるかもしれません。(残存紙新聞希望者には外注印刷&外注配達で対応)
勿論、そこは強豪が多数ひしめく世界ですから、今までのような自分中心の傲ったルールは通用しません。生き残りはできず緩慢な死がやってくるのかな、と予想しています。
日経新聞という経済新聞だが、経済が分かる記者がいないのはなぜか。
新聞社全体の知識と高橋洋一さん一人の知識を比較して、その差は圧倒的です。
こんなポンコツメディアが生き残れるはずがないでしょう。
10年以上前から私は、自分でデータを集めたり、ネットで情報を集めています。
当然のように新聞やテレビが生き残れない事は明白です。
株式会社日本経済新聞社の社是・理念はこちらに掲出されています。
https://www.nikkei.co.jp/nikkeiinfo/corporate/philosophy/
かなり以前ですが、日経の化学産業の記事で「アセチックアシッドというものを」という文章を見てから日経の記事は全く信頼しなくなりました。化学産業の担当記者が酢酸を知らないということは、三菱UFJ銀行を知らない金融担当記者と同じレベルです。その記事が掲載されたということは、いわゆるデスクも同じレベルということになります。こんなものを信頼したらどうなるのか。日経を読んでる人を見ると、笑いしか出ません。
昔から日本の新聞には疑問を感じていました。大きな事件についての記事はどの新聞を読んでもほぼ同じ(まあ、当然ではありますが)であり、違いは家庭欄などの「新聞」ではない部分ばかりでした。しかし結構これが根強い人気の元になっており、クロスワードパズルやら川柳を読むのが好きで新聞を止められない方もいるかと思います。新聞紙がネット化すると、これらの娯楽部分がごっそり削ぎ落とされている場合が多いので当然のこと、ニュースだけのためにカネを払って有料購読しようなんて考えないでしょう。無料のヘッドライン部だけ見れば事足ります。
また、新聞紙衰退の大きな原因のひとつはテレビやラジオの番組表が新聞を見なくてもよくなったことではないかと、密かに考えています。
つまりは過去も、多くの人々は新聞のニューズ部分を期待して読んでいたのではなく、付録の娯楽部分を楽しんでいたということに、社会の公器を唱える高慢な新聞社自身が気づかなければ消滅するのみでしょう。多くの人にとって新聞紙のニューズ部分はむしろ付録だったんすよ。
その考えでゆくと、「高尚な」大新聞よりも情報量も娯楽要素も多いスポーツ紙は生き残れることになりますが、どうなんでしょう。
新聞がなくなってもニュースがなくなるわけではない。
つまり「何を読むか」が重要であって、「何で読むか」は重要ではない。
新聞は「不要な情報」が多すぎる。テレビラジオ欄、株式欄、連載小説、読者投稿俳句短歌等。いまだに4コマ漫画を連載している新聞まである。
新聞のビジネスモデルはデパートと同じ。旺盛な消費に対して「何でもあります」という品揃え。かつてデパートは「何でも置いてあるけど欲しいものは何もない」と言われ、今はそんなことを言ってくれる人もいない。地方デパートは閉店、都内でパートは次々に家電量販店に替わった。
紙の新聞を電子化するだけでは問題の解決にはならないと思う。
sqsqさん
>「何を読むか」が重要であって、「何で読むか」は重要ではない。
新聞
素晴らしい!言ってはいけない格言が出ました。
これは、今のマスゴミさん、一番言って欲しくなかったことですよね。
>「何でも置いてあるけど欲しいものは何もない」と言われ、
以上に加えて、マスゴミの問題は、要らないゴミを運んで来ることです。
要らないゴミとは、新聞紙のことではなく、フェイクな妄想左翼偏向記事の事です。いや、唯一、欲しいものは、新聞「紙」だけです、って?
>地方デパートは閉店、都内でパートは次々に家電量販店に替わった。
新聞社は、廃業、ネットに置き換わった!
>紙の新聞を電子化するだけでは問題の解決にはならないと思う。
この文言、追い討ちですね。
今迄あなたと付き合って来たけど、あなたは、中身の無い人だった!
わたし、それは、ずっと分かってたのよ、だけど、他にいい人いなかったから仕方なく付き合っていたの、でも、今は、ネットっていう新しい人が見つかったの。だから、もうあなたは必要ないの、本当にあなたは、体裁ばかり揃える中身の無い人だった、実は、わたし、ウンザリしてたのよ。
ということを言いたいのですね?
現代系お得意の「匿名の関係者」の発言がどこまで本当なのか怪しいもんですが・・・
日経の電子版のピークアウトがもう来るとは意外でした。
逆に、何人社員を抱えられるか逆算できそうですし、見切りを付けたい中の人には価値ある情報なのかもですね。
もし私が日本経済新聞社経営陣のひとりであったなら。そんな思考実験をしてみてはどうでしょうか。
系列会社の一覧はこちらで読めます。会社の数だけ総務部門があり社長がいるのか。どの会社にどんな任務を担当させて、どれどれを清算事業譲渡するか年末年始頭の体操にはよさそうです。
https://www.nikkei.co.jp/nikkeiinfo/corporate/group/
(趣旨違いかもしれませんが)海外メディアの電子記事を、日本で機械翻訳で読むことがインテリ(?)の証になるなら、日本のインテリ向け(?)新聞は、要らなくなるのではないでしょうか。
論評の質も問題ですが、そもそも報道すらしない事象が多すぎて役に立たないですね日本の新聞。
ブルームバーグみたいに論評抜きで事実だけ垂れ流す項目を増やさないと、いつもニュースはブルームバーグからやってくるように見えてしまいます。
いつも謙虚で礼儀正しい生成 AI 、報道記事は AI 書かせればいいと考えています。
読者の知性を馬鹿にする日本経済新聞記者よりも不快でないですし、きっと清浄で公正になると考えます。