日曜日に就任したアルゼンチンのハビエル・ミレイ大統領の最初の仕事は、「女性・ジェンダー・ダイバーシティ省」を含めた省庁の廃止だったのだそうです。個人的に省庁数が少なければよいとは思いませんが、日本にも財務省や文科省、環境省など、余計な仕事ばかりする省庁がたくさんあることを思い出しておくならば、省庁再編も含めたミレイ大統領の手腕に対しては、注目する価値がありそうな気がします。
日本がアルゼンチン化…絶対にしません!
「日本がアルゼンチン化することはあるのか」――。
ここ数日、そういうなかば馬鹿げたテーマで日本経済についていろいろと考察してみる機会がありました(たとえば『数字で見た「現在の日本がアルゼンチン化しない理由」』等参照)。
アルゼンチンといえば現在、通貨が暴落し、国内でもインフレが進行し、人々の生活も非常に苦しいようだと伝えられています。日本時間12月12日付のロイターの報道によれば、11月の「月間インフレ率」が11.9%になった、などと伝えられています。
Argentina monthly inflation set to spike to 12% as Milei era begins
―――2023/12/12 12:31 GMT+9付 ロイターより
これと同じような状態が、現在の日本で発生し得るのでしょうか。日本が財政破綻し、通貨が暴落し、ハイパーインフレで人々の生活が立ち行かなくなる、という確率は、いったいどの程度あるのでしょうか?
結論からいえば、その確率は、いまこの文章を読んでいるあなたの頭上に隕石が落ちて来るのと同じくらいだと考えて良いでしょう。そもそも日本とアルゼンチンが置かれている状況が、あまりにも異なり過ぎるからです。
日本は世界最大の債権国であるとともに、いわゆる「川上産業」の集積国でもあります。
民主党政権時代に発生した原発事故の影響で、国内の主要原発の多くが稼働を停止しているなどの事情もあり、石油等のエネルギーの輸入が貿易収支を圧迫しているというのは懸念点ではあるものの、それでも直ちに日本経済を破綻に追い込むというレベルではありません。
巨額の対外債務を抱え、高いインフレ率に苦しむアルゼンチンとは、状況が全く異なるのです。
共通項は「通貨安」のみ
ではなぜ、「日本のアルゼンチン化」などとする言説が出てくるのでしょうか。
そのヒントのひとつは、日本円が米ドルに対し下落しているという現象に、経済・金融の素人でもあるライター達が注目してしまったことにあるのかもしれません。
国際決済銀行(BIS)データによれば、日本円も年初来で見たら米ドルに対して10%前後下落するなど、円安が進んでいるとされていますが、アルゼンチンペソの場合は公式レートベースで米ドルに対し、約103%(!)も下落しています。
政策金利は日本がマイナス0.1%ですが、アルゼンチンは133%(!)です。
結局のところ、通貨安の原因については、日本の場合は純粋な日米政策金利差でだいたい説明がつくのですが、アルゼンチンの場合だと、通貨・財政運営全般に対する国内外の信任の欠如によるものだとしか言いようがありません。
単純に「通貨安」という現象をもって、日本とアルゼンチンを同列で比較すること自体、かなりの無理がありそうです。
アルゼンチン大統領の公約とは?
さて、こうしたなかで、「中央銀行の廃止」「米ドルの採用」などの提案でも知られる、ハビエル・ミレイ氏が日曜日、アルゼンチンの大統領に就任しました。
以前の『アルゼンチンで「ペソ廃止と経済ドル化」実現するのか』でも取り上げましたが、ミレイ氏の公約集 “PLATAFORMA ELECTORAL NACIONAL” のうち、経済政策にかかわる部分は、こんな具合です(翻訳エンジンなどを参考にした仮訳)。
経済改革
以下の項目を想定した経済改革
- 非効率な公共投資の廃止
- 国家の最適化と縮小
- 真に高品質な雇用を創出するためのインセンティブ
- 赤字の公社の民営化
- 民間投資の奨励
- 地方間、州間、国際的な物資の輸送や貿易を促進するため、さまざまな輸送手段を相互接続する全国道路網の拡張、新規投資の導入と既存投資の強化
- 国内の重要拠点に港湾と空港を創設し、既存の港湾を改善する
- 近隣諸国、国内各州、地域間の物流を促進するため、民間資本を活用して高速道路、路線、道路を整備する
- 国が借り上げている不動産の賃貸契約を見直し、国が所有している非生産的な遊休不動産との交換を促進する
- 貿易と地域経済を促進し、国土全域での製品交換を促進するための民間投資を奨励する
- 第三段階として、中央銀行を廃止する
- 国民が通貨制度を自由に選択できる通貨競争を導入し、または経済をドル化する
- すべての為替障壁を直ちに撤廃する
- 貿易関税をすべて撤廃する
- 為替レートを統一する
- 賃貸法の取扱いを巡る国内全体の法を見直し、契約日時、契約更改、取引通貨などに関する取引当事者間における予見可能性を改善する
(【出所】 “PLATAFORMA ELECTORAL NACIONAL” )
これらのなかには、「為替レートの統一」など、現在は公定レートと闇レートに別れている為替制度を統合するなどのものも含まれています(そのわりに、現時点において為替レートが「統一」されている気配はありません)。
さっそく省庁を18→9に再編
ただ、まだミレイ政権は発足したばかりということもありますが、ミレイ氏は就任直後、政権公約にもあった「省庁数削減」に直ちに手を付けたそうです。
これに関し、英字紙『ブエノスアイレスタイムズ』によると、「女性・ジェンダー・ダイバーシティ省」などが廃止されて「人的資本省」に吸収された、などと報じています。
Javier Milei’s government begins with first presidential decrees
―――2023/12/11 12:40付 Buenos Aires Timesより
個人的に省庁数は「減らせばよい」というものではないと考える反面、純粋に経済学的側面から見たら、成果が上がりづらい省庁に手を付けるというのは、試みとしては興味深いこともまた間違いありません。
そういえば、わが国にも日本経済のためにならないこと、日本の国益に背くことばかり画策する省庁があります。
「Fラン大学」と呼ばれる程度の低い教育機関を放置し、そこに私学助成金を注ぎ込んでいる文科省。
レジ袋有料化を主導した環境省。
そして不必要な増税を繰り返してきた財務省。
省庁の再編は、べつにアルゼンチンでなくても、常に考えていかなければならない問題点でしょう。
アルゼンチンの試みは注目に値するかも?
そういえば、「橋本行革」で経済企画庁が廃止されたためでしょうか、日本には「GDPの最大化」に責任を負う省庁がありません。「税率の最大化」を目指す財務省に歯止めをかける機能が政府からは失われたのです。
また、国税(法人税・所得税・消費税)は国税庁・税務署、社会保険料は日本年金機構、法人住民税・事業税は都道府県税事務所、個人住民税の特別徴収は市区町村役場、と、公租公課によって手続をする管轄がまったく異なるというのも、人々に無駄な労力を強いています。
国税庁を財務省から切り離したうえで、これらの公租公課を一元管理する「歳入庁」を内閣府の直下に創設し、徴収窓口も一元化すれば、公租公課の徴収率も上がるはずなのですが…。
いずれにせよ、このミレイ大統領という人物がインフレと通貨暴落に悩むアルゼンチンの経済的混乱を収束させるのか、あるいはそれができずにさらなる混乱に陥っていくのかは現時点ではわかりませんが、地球の裏側のアルゼンチンの動向、私たち日本人にとっても意外と関心を持つ価値があるテーマのひとつなのかもしれません。
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本記事中の見出しに『さっそく省庁を18→9に再編』とありますが、引用された『ブエノスアイレスタイムズ』の記事内の記述によると、元々あった省庁の数は19のようです。
そうなんですよ。情報源によって削減前の省庁数、削減された省庁数などが違うので、悩むんですよねぇ~…。「21→8」だったり、「19→9」だったり。
今回のアルゼンチン新大統領の掲げた政策は
その意気込みの点だけでも立派です。
実現し効果が出るまで我慢が必要で
大変そうですが、真っ当であり応援したい気持ちです
なんせ、
同じ脆弱通貨と経済こけかけで悩んでいても
自分たちで努力するアルゼンチンと違って
岸田騙してスワップでウッシッシという
姑息な考えしかないどっかの半島なんかとは
大違いでまともです。
ちなみに、
半島に泣きつかれて
「円安悪玉論」を唱える
韓流の吽国際経済学者(笑)さんたちの
おかしな記事が散見されますが
日本の円安は
半島やアルゼンチンと違って
通貨崩壊気にしなくていい
信用ある国際決済通貨なので
米国の高金利に追従して
利上げしなくていいいからの円安です
あとは、
高い組合費を巻き上げながら
ちんどん屋のような賃上げデモで
お茶を濁しイデオロギーに走ってきた
これまでの日本の低賃金の主犯格であり
現在の官民一体賃上げへの抵抗勢力である
どぶサヨ労組の専従でおまんまさん を排除して
物価高に見合う賃上げ確保を急ぐべきなのです。
韓流さんは、
本国半島メディアでは連日のように
「韓国に取って悪い日本の円安是正」の記事、
そして日本では、あたかも
日本にとって(?)悪い円安??(笑)論
流布にご執心です。
そして、
半島メディアではこれまで
「アルゼンチンのようになるな」の危機感が
繰り返し登場していましたが、
実は半島のために大切なのはそうではなくて、
「アルゼンチンを範として見習ってのまともな経済再建目指す」
という
これまでのコウモリ外交や日本騙し画策を反省した
姿勢こそがIMFや国際社会から求められているのですが
まあ、韓流の流儀からは無理なんでしょうなあ(笑)
そういう面から評価するならば、日本から韓国へのトリクルダウンをビタッと止めてる岸田はグッジョブ。
思うに、ホーネットやファルコンが何機墜落しても騒がれないのにオスプレイだけは大手メディアや沖縄県知事が大騒ぎ。
たぶん、オスプレイは相当に戦略的に嫌なのですな。
思うに、アホな議員が何人スキャンダルしても騒がれないのに杉田水脈だけは大手メディアや野党が大騒ぎ。
たぶん、杉田水脈は相当に戦略的に嫌なのですな。
わかりやすい。(笑)
アルゼンチンの新大統領は、ハイエク、シカゴ学派系のリバタリアンですね。
ここまで筋金入りの自由主義者が大統領に選ばれるという事は、アルゼンチンの国民は、自国の現状にブチ切れたという事なのかもしれません。
かつて華やかだったブエノスアイレスの復活を望んでいるのでしょう。
当然ながら、中国とはとても相性が悪いですね。
ラテンアメリカが中国に乗っ取られるのではないかと危惧していたアメリカも、アルゼンチンの豹変ぶりにビックリでしょうね。
窮すれば即ち変ず、変ずれば即ち通ず (易経)
「窮すれば即ち変ず」アルゼンチンは今この状態に至ったのだと思います。
ミレイ大統領の改革が成果を挙げることを期待します。
以前のコメントで、アルゼンチンみたいな国とは関わり合いにならないほうが良いという投稿をさせて頂いたのですが、ちょっと軽率でしたね。
ミレイ大統領の過激な自由主義的政策は、本当に実施されれば歴史的な社会実験になる思います。
「変ずれば即ち通ず」を期待しています。
ポルポト アミン レーニン ・・・
これまでの歴史を見ると
尖った政策を前面に押し出した指導者が登場すると
ほぼ悲惨な結果以外見たことがありません
どんな地獄になるのか気になります
ミレイ大統領の公約を読むと、全体主義とは正反対の政策ですね。
ハイエク、シカゴ学派系は、全体主義や社会主義とは正反対の思想を基礎としています。
右翼にせよ左翼にせよ、政治の介入により世の中を意図した方向に作り変えることが出来るというのは人間の浅はかな思い上がりでは無いのかという事です。
前日銀総裁の黒田さんが推奨しているカール・ポパー著「歴史主義の貧困」は主にマルクスなどの「科学的社会主義」の欠陥を鋭く批判しましたが、これは歴史が証明するところとなりました。中国の未来も暗いと言わざるを得ません。
ミレイ新大統領は、全体主義、社会主義、計画経済の欠陥は理解しているように思われます。
>ポルポト アミン レーニン ・・・
これまでの歴史を見ると
尖った政策
上げてる者達、何か政策あった?
単に理屈を付けて、粛正の嵐を吹かさせただけ。
ものを書くなら、他人の勉強になること書かなきゃね。
素朴な感想ですけど、省庁の数が半減したということは、大臣の椅子の数も半減したということでしょうか。
「ドル化」の内容に興味がある。
具体的にどのような手続き踏んでいくんだろう。
成功すれば追随する国も現れるかもしれない。
そもそも日本の官僚(≠公務員全体)は無駄に多すぎますよね。財務省とか環境省とか
省庁ではありませんが、真っ先に無くして欲しいのは学術会議です、とりあえず。
我が国も"アルゼンチン化"しよう!!
そもそも前掲論者はアルゼンチンを知らないでしょう。あれほど豊かな国はありません。小麦と肉の食料品や鉱物、水産資源など、IMF指導下常連であっても食って行けるのです(格差の拡大や貧困層の増加もありますが)。左翼のバラマキ肥大化政権のあと、1990年台は1ドル=1ペソの固定相場で息を繋ぎ(ですからドル=ペソは経験済みです)、2000年台には変動相場の中でそれなりに成長著しかったものです。ところが不幸にも、メキシコやブラジルの南米通貨危機がアンラッキー、再び左翼経済音痴政権は為す術知らず。
「美麗」大統領、なかなか過激な発言ですが、省庁再編、国内投資、当然の政策です。このようなハッキリとした国家再興のリーダーを我が国にも・・・アルゼンチン化しましょう!
日本の焼け太り文化を輸出してあげよう。