このインターネット化社会は、大した設備がなくても個人レベルで気軽に情報発信ができるようになったという意味で、非常に良い時代です。そのなかでも特に有意義なことがあるとすれば、在野の専門家が大手メディアの誤りを指摘する論考をすぐに発表できるようになった、という点ではないでしょうか。しかし、大手ウェブ評論サイトは懲りずに、「悪い円安論」を掲載するようです。
誰もが情報発信できる時代
インターネットが普及して良かった点があるとすれば、情報発信のハードルが非常に下がったことでしょう。
ひと昔前だと、新聞記者、テレビ局関係者、有名人などでもない限り、「不特定多数の人々に対し、自分の考えを発信する」というのは、非常に難しかったからです。
個人で思い立って、新たに新聞社やテレビ局を作ろうと思ったとしても、まず高額な設備投資自体に耐えられませんし、新聞の場合はなんとか印刷に漕ぎ着けたとしても、刷り上がった新聞を流通経路に乗せるのも大変ですし、テレビの場合は総務省が電波を割り当ててくれる保証もありません。
ところが、現代社会には誰でも気軽に使える情報発信プラットフォームがいくらでもあります。
X(旧ツイッター)など、SNSの多くはいずれも基本的に無料で使用できますし(Xの場合は有料プランもあります)、また、PC操作にそこまで抵抗がない人であれば、無料ブログサイト、noteなどを使用することだって可能です。
ちなみに山手線の駅名を冠した怪しげな自称会計士のように、独自のドメインを取得して独自サイトを構築するのも、現代ではさほどコストを要しません。
さらには、YouTubeを筆頭とする動画サイトでは無料でチャンネルを開設することができますし、初期費用としてちょっと高画質なカメラに投資できるのであれば、プロ顔負けの動画を撮影し、アップロードすることもできてしまいます。
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(【出所】アマゾンアフィリエイトサイト)
専門家が大手メディアの誤りを指摘できるようになった
すなわち、かつてであれば「文章を不特定多数の人々に読ませる手段」は新聞や雑誌、「映像・動画を不特定多数の人々に視聴させる手段」はテレビや映画などに限られていたのですが、現代社会だと、驚くほど気軽に、こうした情報発信をすることができてしまう、というわけです。
情報発信のハードルが下がれば、新聞、雑誌などでおかしな記事をみかけたときに、在野の専門家がいっせいに「その記事はおかしい」などとツッコミを入れることもできるようになりましたし、それにより、これまで官僚機構やオールドメディアが結託して垂れ流してきた「悪質なウソ」も、通用し辛くなっているのです。
こうした「悪質なウソ」の典型例が、「国の借金問題」でしょう。
「日本政府の借金は国民の借金」。
「日本政府は山ほどおカネを借りているから、いずれ財政破綻する」。
この手の主張に対しては、当ウェブサイトもさることながら、ネット上で経済・金融の専門家らから寄ってたかって批判されるようになったため、財務省やオールドメディアも最近はこの手の「財政破綻論」を、あまり言わなくなりつつあります。
最近のトレンドは「悪い円安論」
その代わり、最近だとこの「日本破綻論」に、いくつかの派生形が出てくるようになりました。
その典型例が、「悪い円安論」でしょう。
酷いケースになると、日本と(経済が破綻の危機に瀕しているとされる)アルゼンチンを比較して、「そのうち日本もアルゼンチンのようになる」と言いたいかのような主張も見かけます。
「円安で物価が上がって生活が破綻する」、「生活支援のために政府が貧困層への支援をすれば国の借金が増えて将来世代にツケが廻る」、といった具合です。
これについては『数字で見た「現在の日本がアルゼンチン化しない理由」』でも指摘したとおり、「あり得ない主張」です。産業構造としても、資金循環構造としても、日本とアルゼンチンが置かれている状況が、まるで異なるからです。
というよりも、この手の「悪い円安論」を唱えている人たちのバックグラウンドを見ると、たいていの場合は経済・金融の専門家ではないようですし、また、「悪い円安論」の論考のなかでも、実際の数字(対外債権債務や輸出入品目別分解など)の議論がほとんど出てこないという特徴があります。
少し厳しい言い方ですが、「素人が専門知識もなしに思い付きで書いている」というレベルの文章が多すぎるのです。
そういえば、「コロナウィルスはただの風邪」、「マスク・手洗いなど必要ない」、「ワクチンは有害」などと主張している人たちの多くは、明らかに感染症に関する知識もありませんし、医学に関してもほぼ素人同様、というケースが多いようです。
また、「福島汚染水(※原文ママ)を海に垂れ流すな」、などと主張している人たちも同様に、ベータ線とガンマ線の区別もついていないなど、科学的な知識を完全に欠いていることが多いようです(健康被害をもたらす可能性という意味では、トリチウムよりも喫煙の方がよっぽど問題でしょう)。
いずれにせよ、この「悪い円安論」「財政破綻論」は、いずれも「専門知識も現実の数字も無視している」という意味では、「反ワクチン」「反原発」など、科学的知見を否定する人たちと態度がソックリではないか、などと思う次第です。
デイリー新潮にも「悪い円安論」
ただ、この「悪い円安論」がウケるためでしょうか、いくつかの大手ウェブ評論サイトでも最近、この手の言説を見かけることが増えてきたような気がします。
こうしたなかで、大手ウェブ評論サイト『デイリー新潮』には、
もはや日本は最貧国… 輸入大国なのに岸田総理の円安放置で物価はさらに上がる
―――2023/12/12 10:55付 Yahoo!ニュースより【デイリー新潮配信】
末尾の紹介文によると、記事を執筆した方は「音楽評論家・歴史評論家」だそうです。
ただ、全体で3000文字あまりの文章を読む限り、マクロ経済学や経営学などに関する考察はあまり見当たりません。
たとえば先般成立した補正予算案については、こんな具合です。
「いうまでもないが、補正予算の7割は国債でまかなわれる。すなわち、いまの物価高の影響を多少なりとも緩和するために、将来にツケを回して借金をするという話だ」。
「いみじくも鈴木俊一財務相が、財源とされている税収増の分は『すでに使われている』と答弁しており、減税のために借金するという本末転倒が行われる可能性が濃厚である」。
大変失礼ながら、この記事を執筆なさった方は、現在の日本の税収が過去最高水準を更新しているという事実、毎年巨額の剰余金が発生しているという事実を、どうして無視するのでしょうか。
財務省『令和4年度一般会計決算概要(剰余金)』【※PDF】によると、昨年度予算については出納済みの歳入額は153兆7294億円、支出済みの歳出額は132兆3855億円で、財政法第41条の剰余金が21兆3439億円だったと記載されています。
おカネに色はありませんので、短期的な資金繰りとして国債発行をすることだってあり得るでしょうし、税収が増えたら、その分の財源は国債償還に充てられることもあります。こうした点は、財政学、会計学の基礎中の基礎でしょう。
ただ、それ以上に困惑するのが、『輸入大国ニッポンでは円安なら物価は高止まり』の項です。
「物価高の原因。それはひとえに円安である。日本はわれわれの身の回りのあらゆるものが輸入製品で賄われている輸入大国なのだから、円安になれば物価は上昇する。きわめて単純な話なのだ」。
この時点で、記事を執筆された方が普通貿易統計などに一切目を通していないことは明らかでしょう。
日本のGDPに対する輸出入依存度は、単純計算でそれぞれ20%前後です。
主要原発が稼働を停止しているため、石油等のエネルギーの輸入が日本全体の物価を押し上げているという側面があることは否定できませんが、さすがに「われわれの身の回りのあらゆるものが輸入製品で賄われている」、は、数字を無視した暴論です。
また、論考の中には、例の「カロリーベースの食料自給率が38%」、「だから日本は食料自給率が低い」とする言説も出てきますし、「購買力平価でみて日本は貧しくなった」などの主張も出てきます。
「1ドルが150円前後で推移している現状では、日本人は多くのものを標準の1.5倍の価格で買わされているということになる。われわれの生活の過半が輸入に依存している以上、円高に誘導するほかに、物価を下げる方途はない」。
なかなかにわかりやすい「円安悪玉論」ですが、この「われわれの身の回りのあらゆるものが輸入製品で賄われている」が虚偽であるという点については、先日の『数字で見た「現在の日本がアルゼンチン化しない理由」』あたりを読んでいただくのが早いでしょう。
現実の数字を見ていますか?
ただ、驚くのはこんな記述です。
「2023年3月期、過去最高益を上げた企業が続出し、株価も堅調に推移している。そうした報道を見て、日本経済の状況は悪くないと錯覚する人も多いと思うが、そこに落とし穴がある。最高益を更新する企業の多くは、いうまでもなく輸出企業である」。
残念ながら、この点も認識が大きく誤っているようです。たとえば日経新聞が今年8月に報じた次の記事によれば、上場企業は2023年3月期まで3期連続最高益となり、とりわけ小売り、サービスなどの内需企業が好調だ、などとしています。
上場企業、今期3期連続最高益 小売り・サービス復調
―――2023年8月17日 2:00付 日本経済新聞電子版より
記事の全体が経済学の理論や現実の数字を無視している時点で、正直、結論が適切なものになるとも思えません。
ただし、先ほども指摘したとおり、最近だと「明らかに経済の素人が書いた経済記事」が増えていることも事実であり、なかには「金融緩和悪玉論」を主張したいがために、そこから「悪い円安論」につなげる、という発想もあるようです。
いずれにせよ、経済記事を読むときには、可能な限り、正しい経済学の理論に加え、現実の数字を念頭に置くことが望ましいことは間違いないでしょう。
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>最高益を更新する企業の多くは、いうまでもなく輸出企業である
ちょこっと修正してみました♪
最高益を更新する企業の「うちもっとも」多く「の利益を上げたの」は、いうまでもなく輸出企業である
これなら大丈夫かな?
「音楽評論家・歴史評論家」爆笑。
仮にも歴史評論家であるのなら、かつて円安であった時代に(日本、外国含め)どのような経済的な影響があったか、その結果、生活がどのように変化したか、そういった比較を数字を出して表記していただきたいですよね。
自国通貨が安くなって困るのは輸入品が割高になるから。
輸入品が高ければ自国生産品を使えばいいじゃない。
悪い円安論のキモは、“自国生産する能力がない”という間違った前提の論です。
日本は自国生産する能力がないのではなく、輸入品が割安なので自国生産しなかっただけです。
自国生産品が輸入品より割安になり売れて儲かるようになれば、自国供給に舵を切り 悪い円安論の前提が崩れます。
あと、アルゼンチンを例に出してますが、アルゼンチンは長い左翼政権がバラマキをして通貨の供給を国力以上に増やしましたが、財務真理教の日本は国民からの徴収を増やす酷税国家なのでアルゼンチンと比べるのは間違ってます。
>われわれの生活の過半が輸入に依存している以上、円高に誘導するほかに、物価を下げる方途はない
前後を読んでないけど、物価を下げること自体が目的化してるようで、ちょっとおかしいなって思うのです♪
なんていうか物価高で日々の生活が苦しいからなんとかしなきゃってのは同意なんだけど、そのためには、個々の商品の値段を下げるってのよりも、収入とか所得を増やすってのが基本だと思うのです♪
物価高→悪、値下げ→正義みたいな感覚がデフレの元にあって、その結果として経済的な閉塞感に繋がってる気がするのです♪
昔、テレビなんかでやってたような(今でもあるのかな?)、赤字覚悟の激安飲食店を紹介する番組、個々のお店の努力はすごいけど、そういうのばっかり見てると、適正価格の感覚がおかしくなっちゃうんじゃないかとも思うのです♪
最終的には、健全にインフレさせる(厳密に言うと給料をインフレさせる)ことが望ましいので、円安で物価は高めキープのほうが望ましいです。同時に、値上げして売れなくなる商品を作っている会社は辞めるべきです。同時に、給料の継続的な上昇が確認できるまでは消費税をむやみに減らすのは私は反対です。
消費税は反社会的な団体からでも徴収できますから、それなりに効果があると思っています。パチンコの3店方式で3回消費税取れますし。
逆情報工作しに行きました。
ザイム真理教くたばれ。
先週一時的にドル/円が4-5円急落した(円高になったということ)
株式市場は全面安、日経平均は600円以上下げた。
これは何を意味しているのか?
評論家が何を言おうが市場は円安は日本経済にとってプラスと考えているということ。
「日本で900円のシマホッケ定食がニューヨークで5000円、あ~日本は貧しくなった」
こんなことを言っている経済評論家がいるが、私なら「日本人でよかった」「日本はなんて豊かなんだろう」と思うけどね。ニューヨークで5500出さなけりゃ食べられないものが900円で食べられるんだから。
sqsq様
120%同意です。
仮にドル円が75円になったとしても、シマホッケ定食は2500円+チップですよね。
まだ、円ユーロが120円くらいだった恐らく8年前くらい、オランダ出張で、到着日の夜中に喉が渇いてホテルの冷蔵庫にあったミネラルウォータを飲んだのですが、なんと5ユーロ。600円ですぜ・・・
私は、円安円高だからと叫ぶ以前に、欧米の社会が既に崩壊しているとすら感じます。
>私が今年、ヨーロッパに数度行った際の実感でいえば、飲食費も交通費も宿泊費も日本の1.5倍から2倍である。海外に行くと、あたかも最貧国から来たような錯覚に陥る。いや、もはや日本が最貧国だという印象は、錯覚といいきれないのかもしれない。
「国債残高=日本の借金論」はさすがに通用しないばかりか、それを吹聴している勢力の下心さえ見透かされて、最近はほとんど見かけなくなりました。「悪い円安論」も、まともな経済分析をやってる人たちから散々に論駁されて、最近ではかなり下火になったと思っていたのですが、まだこういうことを言い張る人もおれば、それを載せるメディアもあるんですね。
槍玉に上がっているデイリー新潮に掲載の記事、経済統計に関する知識ほぼゼロで書いている点については、エントリーの内容で尽くされていると思うので、それとは別の観点からこの香原斗志氏の「思い違い」を指摘したい。氏の論考の末尾の文章を引用しましたが、ここには重大な「錯覚」が含まれていると思います。
コロナ制限開け以後、欧米からの訪日客数は増加の一途を辿っていますが、燃油サーチャージによる航空料金の高騰を考えれば、その理由が日本の「安さ」に惹かれてというものではおそらくありますまい。国内観光地でボッタクリに遭うよりマシ、なんて隣国の訪日客爆増なんかの状況と同列に論じられる現象とは思えません。
日本国籍を取得した、あるいは長期在留資格を有する外国出身者が発信している、訪日外国人観光客へのインタビュー番組が、ずいぶんの数YouTubeに上がっています。フォロアー稼ぎのために日本人の耳に聞こえが良さそうなコメントだけを選んでる、という可能性も排除はできませんが、ともかくそういうところで訪日観光客がほぼ異口同音に語っているのが、うまい料理と、ホテル旅館の良質のサービス、また効率的、快適な交通システムです。
わたしが最後にヨーロッパを旅行したのは、もう大分以前のことですが、その頃の日欧の状況を思い返してみると、そこまで欧州の人が日本の諸事情を高く評価するような差はなかったという気がします。(米国はその当時から、もうかなりひどかった w)
つまり香原氏が述べている状況が本当なら、今のヨーロッパでは飲食、宿泊、交通費に日本の1.5倍から2倍の金を費やしても、日本並みに満足のいく旅行気分は味わえないということになります。そして、比較される飲食、宿泊、交通に関する日本の現水準は、安定的な円経済圏のなかで培われてきたものであって、円高だの円安が関わるものではないはずです。
わたしには、この問題が日本経済の失敗の結果とはとても思えません。ましてや「日本が最貧国だ」などとはとんでもない。ひとえにこれは欧州経済の失敗に帰すべきはなしに思われてしかたがありません。高い金を払っても、大した物は口に出来ず、ホテルでのサービスは悪く、列車の遅延は当たり前、車内の騒々しさ、汚さには辟易。なぜそんな風になってしまったのか?
欧州各国が、チャイナに国内市場を荒らされてしまったこと、大量の移民を無分別に受入れ、その社会化教育に失敗してしまったこと、その2つが大きな原因に思われてならないのです。
ま~た「日本の物価は安すぎる、つまり日本は貧乏!」論ですか。
でも書いたのは音楽評論家・歴史評論家?なんでここまで畑違いの人に?
これってまるで、「ノルマを消化しないといけないが、関連性の高い専門家は
書いてくれなくなったので畑違いの人物に無理やり書かせた」様に見えるんですが……