国の借金論のウソについては、当ウェブサイトでもこれまでずいぶんと力を入れて取り上げてきた論点のひとつです。こうしたなか、『集英社オンライン』は15日、産経新聞の田村秀男氏とジャーナリストの石橋文登氏の対談記事を配信したのですが、そのなかに、「財務省が記者クラブに一般会計を家計に譬えたレジュメ(概要)を配り、新聞記者は何の疑問も抱かずにそれを紙面化していた」、とする証言が出てきます。官僚とオールドメディアの結託が日本を悪くしてきたという証拠でしょう。
目次
国の借金論
当ウェブサイトは「読んでくださった方々の知的好奇心を刺激すること」を目的に、山手線の駅名を冠した怪しげな自称会計士がネット空間の片隅でひっそりと運営するウェブ評論サイトですが、その「裏の目的」がいくつかあります。
ひとつは「国の借金論」のウソを世間に広めること、もうひとつは新聞、テレビを中心とするオールドメディア界隈の報道のウソを世間に広めることです。
本稿ではこのうち前者に関し、あらためてざっと振り返っておきます。
当ウェブサイトでは常々報告してきたとおり、「国の借金」、「国民の債務」などのレトリックは、正直、不正確であるだけでなく、国家財政の実情を歪める極めて悪質なプロパガンダです。
いわく、「国の借金は1200兆円にも達している」。
いわく、「これを国民1人あたりにすると1000万円だ」。
いわく、「日本のGDPは500兆円台だ」。
いわく、「日本の借金はGDPの2倍以上だ」。
だからこそ、この借金をさっさと返さないと、次世代にツケを負わせることになるし、早く返さないと日本は財政破綻してしまう、という主張につながります。あるいは最近の円安も、日本円が国際社会で信頼を失っている証拠だ、という論調にもつながることもあるようです。
負債の裏には資産がある
もちろん、この「国の借金」という用語は正確な用語ではありませんし、定義もよくわからない代物ではありますが、敢えてこの「国の借金」という用語をむりやり使うならば、日本にはその「国の借金」とやらを大きく上回る「国の資産」があることを忘れてはなりません。
そもそも経済学の世界では、異なる経済主体の債務を混同してはなりません。
一国の経済主体としては政府、企業、家計などがありますが、閉鎖経済を前提とすれば、これらの経済主体相互間の資金貸借は、理論的には一致します。
そして、金融資産の世界では、誰かから見た負債は、他の誰かから見た資産です。たとえばあなたが銀行からおカネを借りていれば、それはあなたから見たら「借入金(負債)」ですが、銀行から見たらあなたに対する「貸出金(資産)」です。
中央政府の債務もこれと同じです。
「国の借金」を便宜上、「国債・財投債・国庫短期証券」と定義すれば、2023年6月末時点における「国の借金」の残高は1240兆円(時価ベース)ですが、この1240兆円は政府から見たら借金ですが、逆に、これは誰から借りているのでしょうか。
政府の借金は国民の資産
結論からいえば、85%は国内から、15%は海外から借りています(※「海外から借りている」といっても、もちろん、外貨で借りているわけではなく、円建てで借りています)。これを一覧にしたものが、図表です。
図表 国債の保有主体(2023年6月末時点、時価ベース)
主体 | 金額 | 構成割合 |
中央銀行 | 584兆円 | 47.07% |
預金取扱機関 | 129兆円 | 10.45% |
保険・年金基金 | 241兆円 | 19.45% |
社会保障基金 | 50兆円 | 4.02% |
海外 | 181兆円 | 14.61% |
合計 | 1240兆円 | 100.00% |
(【出所】日銀・資金循環統計データより作成。なお、「国債」は資金循環統計上の「国債・財投債」、「国庫短期証券」の合計)
国内主体のなかで最も多くの国債を保有しているのは日銀で、1240兆円のうちの47.07%に相当する584兆円を保有していますが、日銀はこんなにたくさんの国債を保有してしまっていて、大丈夫なのでしょうか。
結論的にいえば、問題ありません。
日銀の負債側を見てみると、預金取扱機関(銀行、信用金庫、信用組合、労働金庫、農協など)から受け入れた当座預金の残高が507兆円に達しており、国債の購入はこの預金取扱機関からの預金で充てられている格好です。
国債デフォルトの3要件をひとつも満たしていない日本
ということは、預金取扱機関にとっては家計から預け入れられた預金が日銀当預に化けているだけの話であり、日銀がこれらの国債を市場に放出した場合は、預金取扱機関がその国債を競って買い漁ることになるだけの話でしょう。
なんのことはない、日本国債は自国通貨で発行され、8割以上が、おもに自国国内で消化されているだけの話です。すなわち「政府の借金は国民の資産」、というわけです。
いずれにせよ、「国の借金の額が多すぎるから、いずれ日本は財政破綻する」、という主張については、数字で見て間違い、というよりも「虚偽の主張」であることは明らかです。
というのも、国の国債がデフォルトするための条件は、①国内投資家が国債を買ってくれなくなること、②海外投資家が国債を買ってくれなくなること、そして③中央銀行ですら国債を買ってくれなくなること、という3つの条件が必要ですが、上述の通り、現在の日本の場合はこのデフォルトの第一要件すら満たしていないからです。
国債デフォルトの3要件
次の①~③のすべての要件を満たしたときでなければ、国債はデフォルトしない
- ①国内投資家が国債を買ってくれなくなること
- ②海外投資家が国債を買ってくれなくなること
- ③中央銀行が国債を買ってくれなくなること
(【出所】当ウェブサイト作成)
財政危機?なら外準を売れ!NHKを解体しろ!電波を売れ!
ただし、百歩譲って「国の借金論」でいうところの「借金の額が多すぎる」、「今すぐ借金の額を減らさなければならない」という点が事実だったとしても、それは「増税や歳出削減によって財源を調達しなければならない」、という話にはなりません。
なぜなら、国は「売れる資産」をたくさん保有しているからです。
その「売れる資産」の典型例は、外為特会で保有している外貨準備でしょう。よく「外貨準備は外貨だから売れない」、などと言い出す人もいるのですが、これは間違いです。外貨準備を日銀に移管すれば良いだけの話だからです。
日本は法律の関係上、外貨準備は政府が管轄しているのですが、諸外国では中央銀行が管轄しているケースも多くみられます。そこで、法律を改正し、政府が保有している外貨準備(6月末時点で約180兆円)を時価で日銀に移管し、その180兆円を日銀政府口座に振り込めば良いのです。
政府がこの180兆円を使えば、今すぐに「国の借金」とやらを180兆円減らすことができるでしょう。
ただ、こんなことを言うと、「日銀は政府の子会社のようなものだから、そんなことをしても、『国の借金』は減ったことにはならない」、などと反論する人が出てくるかもしれません。
しかし、そのような人は、「国の借金」は1240兆円ではなく656兆円に過ぎないことを認めていることになります。そもそも現時点において、総額1240兆円の国債のうち、47%に相当する584兆円を日銀が保有しているわけですから。
それはともかく、「国の借金」とやらを減らす方法としては、たとえば、いまだに実施されていない電波オークションを実施する、NHKを解体・整理する、無駄に多い政府系の天下り法人を解散して残余財産を国庫返納させる(または株式会社化して上場させる)など、いくらでもあります。
やっぱり財務省の罪は大きいが…
ただ、それより重要なことは、なぜ財務省が「国の借金論」などの大ウソを喧伝してきたのか、です。
結論からいえば、財務省による増税の手段です。つまり、「国の借金がヤバいから増税しろ」、は、端的にいえば、財務省(または旧大蔵省)が増税を強行するための屁理屈に過ぎなかったのです。
日本の財務省では、官僚が評価されるための軸は、「自分の在任期間中にGDPを伸ばしたか」ではなく、「自分の在任中に新たな増税を実現したかどうか」で決まるようです。だからこそ、経済成長の機会を潰してまで強引な増税が強行されてきたのでしょう。
その際にセットとなるのは、なんといってもオールドメディア(新聞、テレビなど)でしょう。
日本のオールドメディアは取材能力が著しく低く、したがって客観的事実を調査・報道する能力も非常に低いという仮説については、これまでに何度となく当ウェブサイトで指摘してきたとおりです。
こうしたなかで、その仮説を裏付ける証拠が出てきました。『集英社オンライン』が15日付で配信した記事がそれです。
「財政を一般の家計感覚でしか考えられない」財務省の退廃が増税の原因!? 円安傾向が強まり為替差益で日本はボロ儲けしているはずなのに…財務省の“埋蔵金”隠しの実態
―――2023/11/15 08:04付 Yahoo!ニュースより【集英社オンライン配信】
記事は産経新聞特別記者・編集委員兼論説委員の田村秀男氏と元産経新聞政治部長でジャーナリストの石橋文登氏の対談ですが、冒頭に掲載された田村氏の説明は、会計学的に見てもおおむね正しく、かつ、非常にわかりやすい言葉で述べられているため、是非ともご一読ください。
財務官僚の作文を垂れ流してきた新聞
それよりも本稿で引用しておきたいのは、石橋氏の発言にある、こんな一節です。
「産経に在籍していたとき、経済部に『なんで毎年こんなバカな記事を出すんだ?』と問いただしたことがあります。それでわかったのですが、財務省が記者クラブに一般会計を家計に譬えたレジュメ(概要)を配っていたのです。経済部記者は何の疑問も抱かずにそれを紙面化していたわけです」。
すなわち「財務官僚の言い分をこれまで新聞がそのまま無批判に垂れ流してきた」、です。おそらく、これが全てなのでしょう。
たしかに「年収500万円の人がサラ金から1200万円の借金を負っているようなもの」にたとえれば、「これは大変だ」、と勘違いしても不思議はありません。
新聞社の中では比較的丁寧な取材を心掛けているであろう産経新聞社ですらこの惨状なのですから、おそらく日本のメディアの多くは、財務官僚が作った資料を記者クラブでもらってきて、それをそのまま記事にしているという事例は多いのでしょう。
つまり、「国の借金論」のウソについて論じていくと、結局は「オールドメディアの問題」にたどり着く、というわけです。大変おもしろいですね。
いずれにせよ、「国の借金」論が罷り通る日本の将来は真っ暗だ、などと思う方もいるかもしれませんが、そんなことは全然ありません。
新聞、テレビがろくに報じなくても、最近だと「国の借金論はウソである」、「日韓諸懸案はまったく解決していない」、といった事実が、とくにネットを使いこなす若い世代の人々の間に広まって来ている(『聡明な高校生も国の借金論のウソを見抜けるネット時代』等参照)からです。
こう考えていくと、当ウェブサイトのような弱小サイトであっても、こうやって定期的に「国の借金論のウソ」を蒸し返し続けることには、それなりの意義があることなのかもしれません。
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ザイム真理教に洗脳されてますね
テレビメディア、新聞紙見てる限り洗脳は解けないかも!?
>政府の借金は国民の資産
この表現に素朴な疑問なのです♪
「政府の借金は国民の資産」ってのは、言葉どおりの意味だとは思うのです♪
ただ、国民が資産を持ってるからって、(国債の保有額に応じて課税するとかじゃなければ)政府の借金がチャラになる訳じゃないと思うのです♪
で、政府の借金とやらは政府が返さなくちゃいけないってことは確かだと思うのです♪
もちろんその方法が、増税とかじゃなくて、政府の資産を売却するなり、インフレで実質的な圧縮するって方法で良いんだとは思うのです♪
ただ、なんととなく「政府の借金は国民の資産」ってフレーズが、異なる経済主体であるはずの政府と国民を混同した言葉のようにも感じて、ちょっと気になるのです♪
私は財務真理教徒でしたが、今は違います。テレビメディアや新聞紙(特に財務省の広報し日経新聞)ばかり見てると洗脳されますね。
過去最高の準備高って、元費は国民の税金なのではないか?おかしいのだ。国民を苦しめ他国を助ける。親日国ならともかく、反日国の韓国を助ける理由がわからない。財務省解体を叫ぶ政党があるなら、迷わず支持したい。財務省解体、NHK解体なら完璧だ。
>「年収500万円の人がサラ金から1200万円の借金を負っているようなもの」にたとえれば、「これは大変だ」
いやぁこれは大変ですよね。年収500万円の人に1200万円も貸し付けちゃったサラ金側が。どうして審査が通ったのでしょう……
財務省が一般会計を家計に例えるということは、家計では、(年金は別として、働き手の定年等により)いずれ収入が無くなる、そうすると、財務省は、一般会計では、いずれ税金を取るのをやめるつもりという意思表示でしょうかね?
というような切替えしをするメディアの人はいないのでしょうね。
現在1240兆円の国債残高。うち584兆円を日銀が保有。
国が破綻するような兆候はないし、韓国のように通貨危機にビクビクする必要もない。
EUは国家債務の上限をGDPの60%と定めているが現在はEU加盟国全体で80%だそうだ。
守っていない国が多いという事。日本のGDP600兆円とすると1240兆円は206%、日銀保有分を差し引いた656兆円はGDPの109%。EUではギリシャ178%、イタリア144%ポルトガル114%フランス、スペイン111%、ベルギー105%、イギリス101%でEUの先進国と比べて遜色ない。
それとは別の問題として、いつまで続けられるのか(赤字国債の発行を)ということも考えなければならない。現在長期金利が上がり始めている。金利が上がっても既発の国債の利払いには影響しないが新発国債の利払いは上がる。
かつては国債発行の限度を個人金融資産残高という評論家がいたが、「個人金融資産と何の関係があるのだ」という批判にさらされて黙った。
いつまでも続けられるはずがないのは確かだが、どのあたりが限度なのか。またきしみ始める兆候は何なのか。
このへんをスパッとクリアーに解説してくれる評論家はいないかね? まあむりだろうな。
>当ウェブサイトのような弱小サイトであっても、こうやって定期的に「国の借金論のウソ」を蒸し返し続けることには、それなりの意義があることなのかもしれません。
ご謙遜を(笑)。
わたしが知る限り、財務省が振りまく「国の借金論」に対して、「複式簿記」という会計学の基本的知識を以て、その誤謬を理論的に暴いて見せたこのサイトでの議論は、かりに最初のものでなかったとしても、そうした知識が広まるよりずっと以前の時期だったと思います。
たとえ「弱小サイト」にせよ、こういう理論的な論駁が出てくれば、財務省としては放置しておくことは出来なかったでしょう。当たり前なら、御用マスコミ、息の掛かった経済評論家などの口を通して、大々的に潰しに掛かって不思議はないはずですが、そうした反論は、少なくとも真面な風を装った体のものと言ったら、まずお目にかかれません。よほど痛いところを突かれたんでしょうね。
近頃は「国の借金」という言葉は使わず、国債の残高云々にも触れずに、進行する少子高齢化を口実に、福祉予算の爆増といった将来の財政危機を煽り立てる方向に、舵を切っているように思えます。
まあ、これについても、長期的スパンで考えなければならない問題を、単年度会計の考え方に落とし込んでる、ごまかしの部分が相当あるんじゃないかという気がするのですが、一度このサイトで、この問題を本格的に採り上げていただければと期待します。
>複式簿記
取り敢えず、PLとBSを作るとして。
税金その他の収入と国債発行による借入。
そして、支出と負債と資産形成。
資産の部の中身が分からない。
国債は、日銀引受が多い。これは、通貨発行と同じだから、いずれ、通貨価値の下落で借入価値額の減額と同じ事。
やはり、よう分からないです。誰か作ってみてくれませんか?
経理の専門家の方もおられるようなので。
確か高橋洋一が現役のとき複式簿記の考え方で国の財務諸表を作ったと記憶している。
国の財政は基本的に単式簿記。マンションの管理組合の決算で出てくるアレじゃないかな?
そういうことをやった国はなくて、外国から教えてほしいという依頼があったと言っていた。
経理の問題と言うよりどこに行けばどんな記録があるかを把握していなければできない仕事。
さすが財務官僚。
例えば1000兆の国債を発行していく枠をつくり、現在の70歳以上の年寄りが無事に幸せに亡くなっていくために使っていく、人口の急激な削減による緊急事態政策として100年200年の長い返済としてみてゆき、その世代の相続税は多くとってゆく形にして、生きている間に使わないと損で資産が無くなっても安心に暮らせるようにする、若者の年金も自分たちの為の積み立て分だけとして、経済にどんどんお金が流れるようにしていく状態で経済を良くして行く
世界的に見ても経済が良くなり、世界がうらやむような老後を過ごせる国になったとしても、個人資産が2000兆以上あり世界に500兆ぐらいの債務国であっても1000兆の国債を発行するとすれば円の価値は世界で認められなくなり暴落するのでしょうか
人口が1億2千万から8000千万や5000千万人と急減が分かっているのに今のままズルズルと景気悪くしてGDPもよくならない閉塞した中で、経済が悪く若い人が海外に働きに出ていく国でいいのでしょうか
日本経済新聞記者=御用口パク疑惑は深まったのではないでしょうか。