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人手不足倒産は「適正賃金」さえ払えば十分に回避可能

悪い円安論に続き、人手不足倒産論、でしょうか。日銀の金融緩和のおかげで日本は雇用が著しく改善されたのですが、これが気に入らない人がいるようです。帝国データバンク(TDB)によると今年は人手不足倒産が高止まりしているというのです。TDBがこの「人手不足倒産」とやらをどう集計しているのかは知りませんが、何のことはない、「都合よく低賃金で重労働に耐えてくれる人がいなくなった」というだけのことでしょう。

雇用が大事

社会が安定するために必要な条件とは、いったい何でしょうか。

これに関しては諸説あるかもしれませんが、当ウェブサイトとしては、まっさきに「雇用」を挙げたいと思います。

「生まれてから家庭でしっかりと育てられ、就学し、義務教育を終え、そこからさらに高等教育を受け、就職して結婚し、子供を産む。しっかり働きつつ、子供を育てる」。

ちょっと前までは当たり前だったこんな人生のパターンも、最近では未婚者の増加などにより崩れていると聞きます。もちろん、結婚して家庭を持つのが必ずしも幸せだと断言するつもりはありませんし、なかにはさまざまな事情があって、そうした道を進まない人もいるでしょう。

ただ、私たちのような小市民がきちんと生活をしていくためには、やはり仕事をしなければなりませんし、社会全体で十分な仕事がなければ、人々は結婚するどころか、社会生活すらまともに営むことができないかもしれません。

実際、世界史を紐解くと、戦争や恐慌などを契機に雇用が失われ、社会が不安定化した事例など、いくらでも出てきます。やはり、社会の安定のためには雇用、すなわち働く場が必要なのです。

適正な報酬が必要:「お客様は神様」は間違い

ただ、働く場があれば何でも良い、という話ではありません。

適正な報酬が支払われることが必要です。

日本の場合、長時間労働、丁寧な接客などが「ヨシ」とされているフシがありますが、正直、支払う賃金・報酬水準と見合わない労働を強いるカルチャーには、感心しません。

また、日本には「お客様は神様」なる珍奇な思い込みに基づき、飲食店やスーパー、コンビニなどの店員さん、宅配業者の配達員さん、鉄道の駅員さんやバス・タクシー運転手の皆さんらに対し、偉そうな口をきいても良い、などと勘違いしている者がいるのは困りものです。

なかには「店員ふぜいが」、「運転手ふぜいが」、などと、職業そのものを下に見る者もいますが、このような者たちは、いったい何様なのでしょうか。

ただ、長引くデフレ不況のなかで、こうした「お客様は神様」的な、あるいは奴隷労働的な低賃金・重労働が罷り通ってきたこともまた間違いありません。

逆にコンビニなど、一部の業態は、最低賃金すれすれの低賃金で従業員をこき使うことを前提にビジネスモデルが成り立ってきたフシがありますし、低賃金・重労働の職種が残っているのも、日本全体で雇用の場が少なく、そうした場所でも人々は我慢して働かざるをえなかった、という事情があるのです。

黒田緩和で雇用情勢が改善

ところが、こうした状況が、安倍晋三総理大臣、そして安倍総理が任命した黒田東彦・前日銀総裁の登場により、大きく変わりました。日銀の金融緩和の影響などもあり、30年間、テコでも動かなかったようやく物価水準が、ここにきて、ようやく上昇し始めたのです。

そして、経済学の理論通り、日銀緩和の影響で雇用が伸び始めました。いつも指摘している通り、有効求人倍率は1倍を超え、失業率もほぼ完全雇用水準とされる3%以下の水準に下がり切ったのです(図表)。

図表 完全失業率(反転表示)と有効求人倍率

(【出所】完全失業率は総務省統計局『労働力調査 長期時系列データ』、有効求人倍率は政府統計の総合窓口『一般職業紹介状況(職業安定業務統計)』データをもとに著者作成)

雇用が改善し、この状況が長続きすれば、次に発生するのは賃金水準の上昇でしょう。

ただし、残念ながらこれはタイムラグを伴います。賃金は典型的な遅行指数だからです。

しかし、賃金はすぐに伸びるわけではないのですが、雇用の逼迫状況が継続すれば、必ず伸びてきます。現に、低賃金・重労働の職種では、今まで通りの雇用を確保することができなくなってきているようです。

「人手不足倒産」という意味不明のワード

こうしたなかで目に付いたのが、帝国データバンク(TDB)が『Yahoo!ニュース』に配信した、こんな話題です。

人手不足倒産、既に年ベースで過去最多を更新 建設業・物流業が半数以上、「2024年問題」が顕在化

―――2023/11/14 13:50付 Yahoo!ニュースより【帝国データバンク配信】

TDBによると、「人手不足倒産」の件数の高止まりが続いているのだそうです。

具体的には、2023年10月時点の「人手不足倒産」の件数は29件、年間累計で206件となり、すでに昨年の水準を超過し、2014年以降で初めて200件を上回る高水準となったのだそうです。

また、「人手不足倒産」の業種別内訳は、いわゆる「2024年問題」――2024年4月以降、時間外労働の上限規制が適用されること――の影響を受ける建設業と物流業が109件で、全業種の過半数を占めている、としています。

ただ、TDBのいうこの「人手不足倒産」、定義がいまひとつよくわかりません。

いちおう、TDBが公表しているレポートなどを読むと、TDBはこの「人手不足倒産」を「法的整理(倒産)となった企業のうち、従業員の離職や採用難等により人手を確保できなかったことが要因となった倒産」という意味合いで使用しているようですが、ずいぶんと曖昧です。

倒産はたいていの場合、手形が不渡りとなる、銀行取引を停止される、といった資金繰りによるものが中心ですが、「人手不足で事業継続を断念する」という事象を、どうやって集計しているのか、その基準はまったくわかりません。

倒産した企業が「うちは人手不足で倒産したんです」、などと勝手に述べているだけ、という可能性だってあるでしょう。

本質は安く使える労働力が不足し始めたこと

ちなみにTDBの記事では、「人手不足割合の高止まりが続いた場合、今後さらに人手不足倒産が相次ぐ可能性ある」、などとしているのですが、記事の内容をよく読んでみると、それは正直、経営者の自業自得です。

新型コロナが感染拡大したことで経済活動が止まり、一時的に人手不足は緩和されたものの、その後は景況感の回復にともない人手不足割合は再び上昇している」。

こうした状況が続いた場合、足元では物価高などにより各種コストが高騰し、人件費に割ける余力が残されていないというケースもみられるなか、人手不足倒産の件数はさらに増加しそうだ」。

つまり、この「人手不足」という経済現象は、コロナ禍で経済活動が止まることで「緩和される」というものなのだそうであり、ここに経営者らのホンネがちらりと見え隠れするします。要するに、今までのような低賃金で重労働を強いるということができなくなった、という話なのです。

いずれにせよ、人手不足を解消する方法は、とても簡単です。

適正賃金を払うこと」。

これに尽きます。

そして、もし適正賃金が支払えないということであれば、それはビジネスモデル自体が間違っている、という話でもあります。優秀な働き手が欲しければ、手厚く賃金を支払わなければならないことは、古今東西、経済学的な鉄則でもあるからです。

経営者としては何とかして外国人の単純労働者を日本国内に入れようと思っているのかもしれませんが、自身の経営能力のなさを棚に上げて、今まで通りに低賃金労働を強いようとする態度はいただけません。

いずれにせよ、最近だと「悪い円安論」を含め、世の中のメディアが「日銀は金融緩和を止めろ!」の大合唱を始めるなか、今度はこれに「人手不足倒産」という、なにやら正体不明の難癖にかこつけて、「日銀は金融緩和を止めろ!失業率を上げろ!」と言い出す可能性に、1ウォンを賭けてみたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (56)

  • 適正賃金は正解ですね。今は特定の企業の賃金だけ上昇している。
    結果、銀行金利が下げ止まりをしている。政策金利で米国5.5%、欧州4.5%さしあたり日本は3.5%ぐらいにすれば、為替も安定するのではないか。
    今までの、政策のツケが日本の経済をおかしくしている。大企業を優遇しているから貧富の差ができていると思う。

  • 適正賃金を払うこと。それが出来ないのであればビジネスモデルがまちがっている、、個人の零細商店なら自らの賃金、給料をさげれば、一時的には凌げても永続的ではない。ある程度の企業であれば、賃金の他年金や雇用保険あるいは退職金積み立ても準備しなくてはならない。今の景気で会社に投資するならば銀行融資が一般的か。金利を勘案するならば政府系銀行か。確かにビジネスモデルをいわれたら返す言葉はない。だけどコロナ禍でも一般の零細企業は倒産を余儀なくされた。人手、資金、、理由は山程ある。おれは個人の肉屋を営んでいた。卸と一般販売で頑張ったけどコロナ禍で三年間卸売りの売り上げと収入がなかった。歪な政府支援で一ヶ月10万円の支援だった。飲食店が一日6万円といわれていた。そうこう言ううちに脳出血で倒れた。親父から受け継いだ店を潰してしまった。個人商店だもの、、雇用保険もない。60で倒れたから前倒しで年金を支給されている。悔しいがどうにもならない。

  • JRが国鉄だった時代を知ってる人なら、駅員や車掌の接客態度が酷かったことも覚えていると思う。「おもてなし」 や 「お客様は神様」 というカルチャーは、べつに日本人の国民性によるものではなく、デフレのせいで売り手より買い手のほうが絶対優位という状況が長く続いたことから広まり、定着したものだと思う。

    • 完全に同意です。
      すぐに国民性の責任にするのはもはやヘイトスピーチですからね。

    • 私鉄の例:
      デフレになって、鉄道会社のストライキがなくなり、駅員は会社の言うことを聞くようになり、人的サービスが良くなった。
      人的サービスが良くなった、とは言うが、これはようやく人間らしくなった、と言った方がいいくらい。
      その前は、駅員の方が乗客より偉かったから。

  • 水は高いところから低いところへ流れ、人は低いところから高いところへ流れる、というのが自然の法則です。
    高い給料を払え無い会社が人を確保するには、それなりの工夫が必要です。
    一人で沢山作る、儲かる商品を作る、人件費以外のコストを削減するなど利益を上げる努力をするか、労働条件を働く人の都合に合わせる、仕事にやり甲斐という付加価値を付けるなどの知恵を絞る必要があります。
    外国から低賃金労働者を受け入れるなどというのは愚策であり、日本の将来に禍根を残すことになります。
    人手不足倒産した会社に足りなかったものは、人手ではなく知恵と努力だったのではないでしょうか?

    • 円安で外国人の単純労働者に旨みがなくなってるのも、日本の賃金上昇に追い風ですね。

  • 適正賃金・適正報酬を考えるにあたって、
    ・産業別の適正賃金・適正報酬
    ・地域別の適正賃金・適正報酬
    はどうなのか調べてみました。
    以下、データは令和4年度賃金構造基本統計調査より抜粋。

    産業別賃金
    電気・ガス・熱供給・水道業   402.0千円(1位)
    学術研究、専門・技術サービス業 385.5 千円(2位)
    宿泊業、飲食サービス業     257.4千円(最下位 対1位比64%)

    都道府県別賃金
    全国平均311.8千円
    東京都 375.5千円(都道府県1位  対全国比120%)
    青森県 247.6千円(都道府県47位 対全国比79% 対東京比65%)

    自分自身は青森に来てから、生活費に余裕が出来ました。
    自分は転勤族で、同一職掌であればどこに居ても給与は変わりません。
    都道府県別賃金最下位の青森県下で勤務している限り楽しく過ごせると思います。
    ですが、それは全国転勤のある勤務先に勤めている前提です。
    青森県下の地元企業勤務であれば、全く違う感想になると思います。
    東京本社に戻ったとしたら、今の生活レベルは維持できないかもしれません。

    何が適正なのか、とても難しいなと思っています。

    • これは、むか~しから、そうですね。物価(特に家賃)が、2~3割も違うのに、全国同一賃金ですからね。転勤したみたかったけれど、一度も転勤したことなし。ず~と、本社勤務。
      だから、地方から本社を見たこと無し。どんな景色なんでしょうね。本社に戻れなくなるかもしれないという漠然とした不安みたいなもの感じるのかなあ?

      • さよりさま

        いま住んでいるマンションは3LDK(築20年、80平米、駐車場1台分含む)で8諭吉です。
        幹線道路沿い、バス停まで徒歩2分、公共交通機関までの移動時間(青森駅まで10分、新青森駅まで15分、青森空港まで20分)といった環境です。
        家賃補助がありますので、そりゃ楽になります。

        10年ほど前、上司である役員から
        「(君のように)地方経験が長くなると(相応のポジションで本社に戻っても)本社で意見が通らなくなるよ」
        と言われました。
        本社で生き抜くには「正論で突破する」能力より「社内政治に長ける」能力が求められることに気付いたのもその頃なので「それなら地方勤務で良いです」と。

        会社のお金で長期旅行(地方勤務)させて貰えると考えると、転勤も意外と楽しいですよ。

        • 転勤族様 チクリと刺さりました。

          本社6年→地方6年→本社3年、社内政治など我関せずで、
          上層部から疎ましく思われ窮屈で退社、独立起業から19年。
          いまだにその会社とは取引があり、私が生き残ってることに、
          生き残ってる上層部からまだ疎まれてる(笑)

          「社内政治に長ける」能力が求められることに早く気付ければ、
          まだ、その会社にいたかな~と何となく振り返ってしまった。

          • バッカスさま

            20代に本社経営企画部門に居たことがありましたが、会議で「総論賛成、各論反対」が本当に多く、当時の上司が各部の意見調整に奔走されているのを見てきました。その方は副社長に上り詰めましたが、「社内政治に長ける=調整能力に長ける」ってこういうことなんでしょうね。

            さよりさま
            まさに「島耕作」の世界ですね(笑)
            自分自身が管理職になってから、この漫画を楽しめるようになりました。

        • 転勤族さま

          そういう事なんですね。地方に転勤になった人が羨ましかったので、上記のように書いて見ました。東京の物価高で、生活余力はなかなか持てず。然し、地方に行けば、同じ給与で天国生活。更に、転勤手当なんてのも付いたりします。
          出世欲が無ければ、地方がいいですね。地方に転勤になり、長年次の辞令が来ないので、もう転勤ないだろうと家を作ったら、転勤辞令が来たとか。これは、人事が嫌がらせをしているとしか思えないですねぇ。それから、定年退職後もその地方にずっと住んで、そこが遂の棲家・棲地になる人もいます。転勤、サラリーマン人生の割と大きな構成要素ですね。

        • 転勤族さま

          >能力より「社内政治に長ける」能力

          社内政治というか、誰かの派閥に付かなきゃならないですね。或る大手商社、各役員の派閥にそれぞれ、連綿と繋がる部下連の蜘蛛の糸が出来ます。所が、或る問題で、大きな赤字が出ました。役員の誰かが責任を取り辞任辞職をしなければなりません。蜘蛛の糸に連なっていた課長以上の役職者に、その会社での「明日は無い」。皆さん辞めました。しかし、派閥に入らなければ、出世は無し。サラリーマン人生、賭けですね。個人的にも、トップから俺の子分になれと言われた事もありましたが、無視していたら、組織表を持って来て、ずっと外れの場所を指して、ここでも給料は変わらんけどな、と言っていました。それでも無視していた所、ある問題が発生し、当方の力がどうしても必要になり、その話は無し。次には、そのトップが業績下降で辞めろと言われたが、必死に抵抗したとか。サラリーマン世界、ドラマより、ドラマチックです。

          • さより様

            なんだか次記事の「高市総理」の可能性~に通ずるものがあるような。
            高市大臣は「正論で突破する」イメージが高いと思うのですが、
            派閥を領する「党内政治に長ける」能力がバランスよく必要なのか。

            果たして結末は!? ドラマチックです。

    • 転勤族様
      >青森県下の地元企業勤務であれば、全く違う感想になると思います。
      そうなんですよね、田舎の人口はどんどん減っていきますが、結局地元に残るのは親から譲り受けた土地、建物があって場合によっては親の年金による支援や子育て支援が期待できるなど生活基盤が確立されている場合で、長男など実家に残る人以外は頭の出来がよくて高い給料を貰えるところに勤められる人以外は出ていったりします。
      とてもじゃないが生活が成り立たないんですよね。

      各自治体でUIJターン支援で呼び込みみたいなことをしますが、個人的にはあまり意味がないと思ってて、それは適正給与を払ってれば人手不足倒産はない、というのと似たようなことだと思うんですよね。

      • 田舎の一市民さま

        地方は働く場所の確保が必要ですよね。
        また生活インフラが安定提供されるのかも考えてしまいます。

        個人的には北の大地で生活拠点を移したいと思っていますが、諸々考えると札幌一択になります。
        その時に北海道新聞が生き残っているか知りませんが(笑)

  • 例外パターンの話になるかもしれませんが。
    保育園の先生とかはどうなんでしょうね。特に低年齢。
    子供3人につき先生1人以上とか、どう頑張っても補助金無しには先生に適正賃金を出せるとは思えません。

    • バッサリいいますが、転職すればええがな笑
      出前館でもやれば1日2万くらいは稼げますし

      • あ、先生側はそれで済む話なんですけど、問題は保育園の側です。
        「適正賃金出せないなら潰れるべき」であれば、保育園という施設自体が消滅すると思うのですが、そうじゃないよなぁ、と。
        こういう施設こそ国営化、が答えですかね。

  •  こちら、農産物に適正価格が付かない状況で適正賃金を出すのは難しい……という時期もあるにはあります、というか今です。北海道の同業では時給2000円提示しても人が来ない事例があるのだとかで、ココまで来ると適正云々よりもイメージ作りに失敗しているせいな気もしますが。
     政府補助を始め安定化制度をかなり享受できる業種ではありますし、逆に適正販売価格より高騰する時期もあるので長期的なバランスは取れているとは言えるのですが、短期的な適正ラインを把握するのは難しいですね。経営側からすれば、適正な賃上げが出来るのと同様に適正な賃下げも出来るのであれば流動的になるのですが無理筋。
     人手不足倒産の定義がよくわからず統計も存じませんが、第一次産業(特に個人)だとままありそうだな、という印象です。こういった面でも、よくいわれる法人化・集約化が有効なのでしょうか。

    • 農民様

      私は自分の仕事柄、建設業のことしか考えませんでしたが、農業や水産業などの第一次産業も全く同じ状況ですね。
      先日ニラの収穫を見る機会がありました。
      細いニラの束から色の悪い葉を取り除き、纏めて包んでいました。
      あのニラをスーパーで100円程度で売ってるんですよね。
      技能実習生が居なかったら200円ぐらいに値上がりするのかな?
      それでも売れると思うので、それはそれで良いんですが、問題は農業の賃金が上がって労働者がそちらに流れれば、建設業は更に人手不足になってしまうだろうと言うことです。
      負けずに建設業も賃金を上げれば、今度は農業が人手不足になってしまう。
      労働人口が減っている以上は、どこかの業種にしわ寄せが来るのは避けられない。
      賃金競争力?というものがあるとすれば、もう現代の日本では第三次産業と高度に自動化が進んだ第二次産業しか競争力を持っていないのではないでしょうか。
      農業も建設業も、自動化で大幅に労働者を減らすことはできそうもない業種です。
      2,000円の時給は高いように聞こえますが、日当16,000円では年間にしたら360万円です。
      それでいて将来の保証もない。
      肉体労働で疲れる上に夏は暑くて冬は寒い。
      これでは若者は見向きもしませんよね。
      第一次産業と建設業は、このまま衰退するしかないのでしょうか。

  • 適正賃金がいくらなのかというのは、考えてみると難しい問題なんですよね。
    特に建設工事業についてそう思います。
    ゼネコンの社員などは、概ね適正と言えると思います。
    地方の山奥のダム建設現場に赴任させられてキツい思いをしてる人もいますが、30代で1,000万円以上貰えるなら我慢するでしょう。
    しかし、二次下請け三次下請けの中小企業で働く職人達はどうでしょうか。
    国交省の建設工事設計単価では、普通作業員、要するに最もベーシックな土工が県によっては日当2万円以下です。
    もし完全週休二日制で有給休暇20日なら年間勤務日数225日ぐらいなので、年収450万円以下。
    この賃金で現代の若者が働いてくれるとは思えません。
    実際に工事現場では高齢化が進んでいます。
    いくらぐらい払えば若者が工事現場に来てくれるのか。
    もしかしたら日当3万円、年収675万円でも、デスクワークで400万円を選ぶのではないか。
    では日当4万円、年収900万円なら?
    しかし、中小企業の経営者がいかに努力しても、元請けのゼネコンが日当2万円以下で受注しているので、それ以上払えるはずもありません。
    そう考えると、外国人単純労働者しかないような気もします。
    建設業は新宿会計士さんの言われる「もし適正賃金が支払えないということであれば、それはビジネスモデル自体が間違っている」業種に該当しているんだと思われますが、外国人労働者以外にどうしたら人手不足を解消できるのか、良い案が思いつきません。

    •  上ツリーと併せてこちらで。

       おそらく農業と建設業で共通するであろうキツイキタナイキケンをさておいたとしても、当地域では冬にそもそも仕事が無いため"年収"を提供できない、誰でも出来るカンタンナオシゴトの裏返しで特殊な技能を要求されない作業しかなく将来の保証をしようがないなど、若者が来ないと嘆く以前にもうそもそも求めもしない世界ですからね。
       季節でも大きく労働需要が偏りますが、一日のうちでも時間が極端です。日の出前の収穫作業だけ、主婦の方や本業をお持ちの方の出勤前の小遣い稼ぎに来てもらう感じのアルバイトで充当していることが多く、日中は機械化によって農園主だけでも良かったりする。なので、農業の場合は適正賃金(時給)といった待遇より、単純に労働形態が嫌われているかもしれません。時給2000円であっても早朝の3時間しか仕事がないのであれば生活費のタシが関の山、労働者側は異様に働きづらく、経営者側になると取り分は多いがリスクや不安定感がすごい。
       当方では無縁ですが、技能実習生は確かに「便利」なのかもしれません(私自身も技能実習から独立です、外国人ではないですが)。外国人実習生に依存して成立しているようでは内から見てもダメな構造だなと思いますが、制度が正当に存在している以上は、それに頼った経営をする方も出てくるでしょう。ちなみに当地域では、外国人労働者自体はそこそこ見かけますが、実習生は意外なほど居ません。
       ニラの例示ですが、農家は値段をつける立場に無く、市場原理次第です。まわらなくなってモノが不足してから値上げになるのかなと。単価が上がって労働力が減っても経営が維持できるとなれば良いですが、価格を受け入れられるか、消費者次第ですかね。「ならいらない」となれば廃業ラッシュです。

       "外国人労働者、ましてや移民で誤魔化すくらいならば、賃金を上げて日本人雇用を増やすべき"というの自体は私も強く同意するものなのですが。急激に改善できるようなものではないようです。

      • 最後の一段落、凄く同感です。
        近くの弁当工場では24時間体制でベトナム人が大勢働いていますが、全員最低時給だそうです。
        これが日本人の賃金上昇を阻害しているのは間違いありません。
        しかし、このベトナム人達を帰国させて高賃金で日本人を募集すれば問題は解決するのかと考えると、そう簡単ではない気がします。

        農業は輸入品との市場競争力は高いと思うんですよ。
        工業製品と違って鮮度が重要ですし、国産には高い信頼性がありますので、輸入品より高くても売れる物です。
        それでも限度があり、ニラ一束500円ではさすがに売れないでしょう。
        であれば競りではそれよりも安い価格しか付かず、時給を上げたら農家は赤字になってしまう。
        建設業も状況は似ていて、日当2万円だと1,000万で受注できる工事を日当3万円払うことにして1,200万円で受注しようとしても、入札で失格になってしまって受注できません。
        結局のところ、お金を払う側が多く払ってくれないことにはどうにもなりません。
        また、消費者が物価上昇を受け入れてくれて賃金を上げることができたとしても、サービス業も同じように賃金を上げたらそちらに労働力が流れてしまう。
        仕事内容が不人気だから、サービス業よりも大幅に高い賃金を提供するしかありませんが、それでもサービス業で普通に生活できる賃金を得られるなら3K労働は絶対にやらない人も多い。
        かなり小さいパイを業種間で奪い合うことになりそうです。
        採算取れる範囲ではどうしても人を雇えないのであれば、3K職場では外国人労働者の導入は避けられないのではないか、外国人も奪い合いの対象になる程度に人数を絞って賃金が下がるよにしたらどうか、とも考えるんですが、一旦導入したら不景気になったら追い返すということもできないので、また元通りになりそう。
        今後、3K職場でもスーパーの無人化レジのような画期的な省力化が図れると良いのですが、何となく悲観的になってしまいます。

  • 賃金を上げれば労働供給が増えるというのは大学の経済学で「労働の供給曲線」「余暇の需要曲線」として習う。確か賃金をどんどん上げていくと逆に労働供給が減るという興味深いことも習ったように記憶している。十分稼いでいる人は賃金の上昇よりも余暇の方に目が行くということかもしれない。
    定年しても仕事をしないかという話はある。これに対する反応はいくつかある。

    ① 「是非やりたい」、「すぐやりたい」
    ② 「せっかくのおはなしですがもう年なので」
    ③ 「いくらくれるかによるね」

    ① のタイプは金に困っているか、身体を動かしたい、社会とつながっていたいという動機かもしれない。
    ② のタイプは賃金の上昇などには反応しない。ある意味定年前に定年後の賃金まで稼いでしまったということだろうか。
    ③ のタイプこそ労働の供給曲線の教えること。高くなれば働く(労働を供給する)

  • 適正賃金を払えない様ならそれは経営側の努力不足……と断言できるケースばかりでも
    ないでしょうけれど、だからと言って過度の搾取が正当化される訳でもないですからね。

    現代日本は人類の歴史の大半からすればあり得ないレベルの贅沢な楽園です。
    今の日本人の生活基準をローマ時代で再現しようとしたら奴隷が何百人も必要らしいですし、
    200年前の王族よりも(利便性や快適さと言う意味では)良い生活をしているでしょう。
    昔はコンピュータどころか電子レンジだって自動車だって冷房だってなかったのですから。
    現代の基準で見ても、一般的な日本人は世界の過半数から見れば金持ちです。

    ここまで安定していて積み重ねがある社会が、労働者を過剰に働かせなければ
    成り立たないとは信じたくないですね。

    • 全く書かれている通りです。
      「科学技術は奴隷」です。
      奴隷労働を科学技術が置き換えて来たのです。

      人類の人口増加を支えているものの一つは、化学肥料と農薬です。
      これらによってどれだけの食糧増産が出来たか?そして、どれだけの人口を養えているか。

      有機肥料農業を唱えるのもいいですが、それは、時代に逆行することになります。

      書き出せばキリがないので止めますが、人類の歴史も知らずに、有機材倍は絶対善、化学肥料・農薬は悪、みたいなことを言う無知迷妄の輩には、呆れるばかりです。

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