X

「値上げラッシュ」で新聞全体の部数がさらに減る皮肉

昨今の物価高の影響でしょうか、新聞の値上げラッシュが生じています。ただ、それと同時に安易な値上げは読者の新聞離れをもたらし、最終的には新聞の滅亡までの速度を速める結果を招いているのだとしたら、それはそれで大変皮肉な話です。こうしたなか、ウェブ評論サイト『FACTA ONLINE』によると、案の定、値上げでいくつかのメディアの部数が減少しているのだとか。

新聞業界の概況

#①新聞部数について

新聞の部数の減少が止まらない。

一般社団法人日本新聞協会が毎年発表する『新聞の発行部数と世帯数の推移』によると、2022年10月1日時点における新聞部数は合計3085万部で、その内訳はセット部数が593万部、朝刊単独部数が2440万部、夕刊単独部数が52万部だったのだそうだ。

ただし、「セット」「朝刊単独」「夕刊単独」という区分は少々わかり辛いので、「セット」を「朝刊」「夕刊」にバラしてみた場合、朝刊部数(セット+朝刊単独)は3033万部、夕刊部数(セット+夕刊単独)は645万部、合計で3678万部という計算だ。

この「朝刊部数」「夕刊部数」「合計部数」という概念を使い、データが存在する最も古い2000年以降の新聞部数と比べてみると、図表1のとおり、朝刊については4割以上、夕刊に関しては7割近くが減少。この20年あまりで部数がおよそ半分近くに減っていることが判明する。

図表1 新聞部数の推移(2000年vs2022年)
区分 2000年→2022年 増減
朝刊部数 5189万部→3033万部 ▲2156万部(41.55%)
夕刊部数 2001万部→645万部 ▲1356万部(67.78%)
合計部数 7190万部→3677万部 ▲3512万部(48.85%)

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成)

#②新聞部数の落ち込みが加速

話は、それだけではない。

新聞部数が落ち込む速度が、ここ数年、加速しているのだ。

図表2は、同じく日本新聞協会の2000年から2022年までの各年のデータをもとに朝刊部数と夕刊部数のそれぞれの推移を計算し、2017年から22年までの部数の落ち込みが同じペースで今後も続くと仮定した場合の予測部数を示したものだ。

図表2 新聞部数の推移(実績値と予測値)

(【出所】一般社団法人日本新聞協会『新聞の発行部数と世帯数の推移』データをもとに作成。なお、「予測値」は2017年から22年までの5年間の平均減少部数が今後も続くと仮定した場合の部数推移)

これで見ると、夕刊に関しては2030年前後に、朝刊に関しても2035年ないし36年あたりに、それぞれ部数がゼロになる、という予測が出ている。

この予測値自体は「線形である」という意味において、かなり粗いものだ。

もしも新聞業界が本腰を入れて読者に対し強く訴えかける素晴らしいサービスを生み出したならば、この部数減少傾向を止めることができるかもしれないが、はて、どうだろうか。

#③新聞の値上げラッシュ

残念ながら、そのような「素晴らしいサービス」が新聞業界から生み出される気配は見えない。

それどころか、最近だと主要全国紙・ブロック紙・地方紙などにおいて、値上げや夕刊廃止などの動きが相次いでいる(図表3)。

図表3 おもな新聞の値上げ一覧

(【出所】『文化通信』の『購読料改定』タブや各紙ウェブサイトの発表などをもとに作成)

あくまでも一般論だが、ある製品・サービスが売れなくなっているタイミングで値上げをするのは悪手である。今回の主要紙の値上げが新聞業界にとって吉と出るか、凶と出るか――。

急減する新聞部数

数字と理論が大事

政治にせよ経済にせよ、何かを論じるに際しては、可能な限り、理論と事実の双方が必要です。そして、事実のなかでも非常に強いものが、「数字」であり、こうした「数字」を「理論」ないし「考察」により裏付けることで、何らかの将来予測を行ったりすることもできます。

さて、今さら指摘するまでもありませんが、新聞部数は長期的に見て、凋落傾向にあります。これについて本稿の冒頭では、当ウェブサイトでこれまでに何度となく紹介してきた「データに基づく新聞業界」を、ざっと振り返ってみました。

新聞業界を説明する理論①紙媒体としての限界

冒頭ではまず、「新聞部数が急減している」、「部数が急減しているにも関わらず新聞各社は値上げを行った」、という2つの事実を、数字で確認してみました。次に、これを「理論」ないし「考察」で裏付けておくと、これには「紙媒体としての限界」、そして「日本のメディア独自の問題」に分けられるのではないでしょうか。

紙媒体としての限界

新聞は紙に情報を刷り、それを人海戦術で物理的に全国津々浦々に送り届けることで成り立つビジネスである。しかし、新聞に刷り込まれるレベルの情報は、現代社会においてはインターネットを使って配信することが可能であり、それどころか、紙媒体よりも遥かに多くの情報量をネットで送ることが可能になりつつある。

新聞はいうまでもなく、「紙媒体」です。

ところが、紙媒体の場合は情報を刷り込んだ瞬間から、その価値が下がり始めます。情報は鮮度が命だからです。

そのうえ、新聞は刷り上がるまでに時間もかかり、それを配送する過程で莫大な時間を浪費しますし、物理的な紙媒体を全国に送り届けるためのコスト(人件費に加え、地球温暖化ガスの社会的コストなど)も、大変なものです。

正直、情報をネット配信したら、紙代、インク代、燃料代、人件費など、「物理的に情報を送り届けるためのコスト」のすべてが浮きますので、コスト削減の観点からは、情報は紙に印刷するのではなく、ネットで配信する方が遥かに合理的です。

しかも、最近のネット環境だと、単に文字情報だけでなく、情報をさまざまな写真・動画などのかたちに変えて、読者の元に送り届けることができます。

ひと昔前だと「ネットは遅いし写真も表示し辛いから紙に印刷する」という需要がありましたが、昨今はコロナ禍以降のペーパーレス化という流れもあり、もう新聞は紙に印刷せず、ネット配信した方が、ユーザーの利便性、新聞社のコスト削減、情報の多様化などの観点から遥かに優れているといえるのです。

もうひとつの問題は「日本のメディア」

しかし、そうも簡単にいかない事情が、日本のメディアにはあります。

日本のメディア特有の問題点

日本のメディアは記者クラブという特権的な制度を持ち、酷いときには記者クラブを通じて手に入る情報をそのまま記事に流し込んで仕事をしたつもりになっている記者もいた。そして、長年の情報独占の結果、出てきたのが、エビデンスや客観性の徹底した軽視という姿勢だ。

ただ、上記の「紙媒体としての限界」は、何も日本の新聞に限った話ではありません。全世界共通の話でしょう。

ここで重要なのは、日本の新聞がデジタル化戦略に明らかに失敗しつつある、という兆候です。

以前の『部数減の朝日新聞、デジタル有料会員数も減少に転じる』でも紹介したとおり、現在、新聞社のなかで、圧倒的多数のメディアがデジタル化に失敗している様子がうかがえるからです。最大手の朝日新聞でさえ、紙媒体、デジタル媒体ともに読者が減っているありさまです。

日本のメディアがここまで苦戦している理由はいくつか考えられますが、そのひとつは、記者クラブなどを通じ、新聞(やテレビ)の記者らが、情報を独占的・排他的に入手し続けて来た、という構造でしょう。

もちろん、日本経済新聞社元編集委員の鈴置高史氏、朝日新聞社元編集委員の峯村健司氏らのように、なかには自身の努力により情報を取ってこようとする記者、慧眼により物事の本質を見抜く力に秀でた記者も存在はします(※ただし残念ながら2人とも新聞社を退社済みです)。

しかし、大変失礼ながら、圧倒的な多数は、そもそも客観的事実を客観的事実としてそのまま捉える能力すらなく、それどころか、一般人からSNSなどを通じて「エビデンスを呈示せよ」と要求されたら、「エビデンスで殴るな」と逆ギレする、という状況なのです(『メディア「エビデンスない報道をエビデンスで殴るな」』等参照)。

そういえば『「事実を正確に伝える力」、日本の新聞に決定的に欠如』などでも議論したとおり、日本の新聞記者は諸外国と比べ、「事実を正確に伝えること」の重要性に対する意識が明らかに弱いのです。

まるで、「俺たちは新聞記者だ」、「俺たちが伝える情報を、お前たち国民は有難がって無批判に受け入れろ」、とでも言いたいかのようにうも見えます。

何のことはありません。

社会のインターネット化が進んだ結果、国民誰もが自由に情報発信できるようになり、エビデンスがない新聞記事に対し、一般人が自由にツッコミを入れられるようになっただけのことでしょう。

だからこそ、ネット空間で得られる自由な情報活動に開眼すると、もう紙媒体(やテレビ)などの世界には、なかなか戻れなくなってしまうのではないでしょうか。

FACTAによると部数はさらに減る

いずれにせよ、新聞業界の惨状を理解するうえでも、「実際の数値がどうなっているか」という基礎データとともに、「なぜ、新聞部数が急減しているのか」という要因分析の部分が重要ですが、なぜか不思議なことに、こうした要因分析が新聞に掲載されることはありません。

なぜか――?

その理由は簡単で、新聞業界は新聞部数急減の現実とその理由を、直視したくないからでしょう。これまで自分たちが独占的に情報を発信する側だったわけですから、そんな新聞社にとっては、自分たちの情報発信が適切なものではない可能性があるということを、テコでも認めたくない、ということでしょう。

こうしたなかで、新聞部数という観点から、さらに興味深い記事が、ウェブ評論サイト『FACTA ONLINE』に掲載されていました。

日経は2カ月で朝夕刊合わせ19万部マイナス、「据え置き」の読売も減少止まらず、「2025年の崖」が迫る。

―――FACTA ONLINEより【2023年11月号 LIFE掲載】

FACTAによると、新聞代の値上げに踏み切ったメディアが相次いで部数を大きく減らしているのだそうです。

とくに目立つのは7月に値上げした日経新聞で、6月から7月までの1ヵ月間で朝刊が9.4万部、夕刊が6.4万部、それぞれ減ったのだそうです。

また、6月に値上げした毎日新聞も、5月から6月にかけて1ヵ月で朝刊が8.7万部減少したほか、今回は値上げを見送った(はずの)読売新聞でさえ、4月から8月にかけて朝刊が15万部近いマイナスとなった、などとしています。

記事によると日本ABC協会の調べで、日経新聞の7月の朝刊販売部数は147万7312部で、前月比で9万4469部と、わずか1ヵ月で6.0%ものマイナスは「異例と言えよう」、などとしています。

ちなみにFACTAによると、値上げした地方紙関係者は「(解約した読者が)据え置いた他紙に流れるケースはあまりなく、経済状態から購読を停止して無読者になる傾向が強い」と述べたそうですが、これも当ウェブサイトのこれまでの仮説と整合しています。

正直、自業自得

いずれにせよ、正確な新聞部数については、日本新聞協会が(おそらくは年内に)発表する予定の2023年10月1日時点の部数データを見てみないことには、このFACTAの記事が正しいのかどうか、判断にまようところではあります。

しかし、エビデンスを軽視し、ひとりよがりな記事の配信を続けてきた新聞業界のことですから、単純に紙媒体の発行をやめてネット化したとしても、読者がネットについて来てくれるという保証はどこにもありません。読者は新聞購読を止めるための何らかのきっかけを探しているに過ぎあにかもしれないからです。

そして、新聞各社の値上げが決定打となり、新聞業界の滅亡が早まったのだとしたら、これは「自業自得」と呼ばれる、大変皮肉な現象と言えるのではないか、などと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (21)

  • >直視したくないからでしょう。
    なぜかダチョウが浮かんでしまいました。ダチョウさん、ごめんなさい。

  • 見たくない事実は記事にしない。
    新聞記者の崖、なのか、それとも、新聞記者の壁、なのか。

  • 夕刊廃止する新聞社が多いようだが、今まで夕刊配ってた人、その時間何するんだろう。

    • 出前館の出前やっている人もいるらしい。1回300円程で、1日3000円程稼ぐとか。そんなに長続きすることでもなさそうですね。早晩、何か抜本的な事を考えなくてはならないのでは?

  • 新聞とは違う話題だが、最近の週刊誌は合併号が多いらしい。
    1か月に最低1回は「合併号」という週刊誌もあるらしい。
    かつて合併号は盆暮とゴールデンウイークくらいだったが、何か経営的な問題で合併号を増やしているのだろうか。
    ここ数年週刊誌を買ったことがないので事情を知っている人いたらお願いします。

  • 現状、一般家庭では電気、ガス、ガソリンがすごい値上げになり食料品が値上げになり、よほどの必需品以外の出費は削られていきます。その選択が迫られている中で値上げしますと言うのですから、タイミングよくやめるところは多いと思います
    どれくらいまで部数が少なくなると新聞の配達所が成り立たなくなり配達が出来なくなるのでしょう、その時点で新聞は徐々になくなっていくのでしょうね
    人口の密度の高い都心と人口密度の低い地方とでは新聞をとっている率も違いがありそうでどちらが先になくなっていくのでしょうか
    でも10年も持たないでしょうね

  • 先日、久しぶりに「新聞」と言うものを購入しました。しかも2回も。
    驚いたことに1回目は、コンビニを2軒回っても売り切れで3軒目でようやく購入でき、そのため2回目は朝6時に速攻でコンビニに行って購入しました。

    阪神が優勝した時のデイリースポーツが買えなくなる・・・
    新聞が廃れてしまうと困ることもあるのだなぁ、としみじみと感じましたね。

    くだらない話でごめんなさい。

  • 現在もNPBのセリーグ球団では読売と中日は親会社が新聞社ですね
    巨人は球団経営だけ分離してやってけるかも知れませんが、ドラゴンズは将来身売りするかもしれませんね
    いつか読売も「もとは新聞社だったんだよ」と語られる日が来るのでしょうか

    • かつては鉄道会社がいっぱいあったのに:

      阪神、阪急、近鉄、南海、西鉄、国鉄、西武

      今残ってるのは阪神、西武だけか。

  • >新聞各社の値上げが決定打となり、新聞業界の滅亡が早まったのだとしたら、これは「自業自得」と呼ばれる、大変皮肉な現象と言えるのではないか、などと思う次第です。

     自業自得と主張されていますが、いまだに紙の新聞で宅配を依頼している家庭及び企業もそこそこあり、一般新聞ならまだ月に四千円程度なのでそのような契約者は恐らく倍の八千円になっても新聞購読を続けるのではないでしょうか。そういう人には自業自得と言われても馬の耳になんとやらと言うことでしょう。

     本当のことを報じない(朝日以外は嘘は報じないし、読売は第五福竜丸の誤報も訂正しないとかいわれているが)かどうかは紙の新聞を取っている人にはどうでも良いのであり、表面的なニュースだけを毎朝読めればそれでよろしいのかも知れません。面倒なパソコンや携帯を操作して見にくい画面で見る必要もないので、紙の新聞を宅配してくれるのは有り難いのではないでしょうかね。

     テレビにしても中途半端なニュースを報じても常連は誰も文句を言わないので特に問題がないのでしょう。

     そうなると部数が減ろうがドウしようが解約する人はあまり多くないでしょうからまだまだ当分の期間は新聞の息の根が止まることはあり得ないような気がします。

     嫌ならネットニュースを見れば良いのであり、その収入もあるからまだまだ当分、現状の新聞による報道という商売は継続することでしょう。

     ネットニュースでも良いのだが、最近は漢字とひらがな、カタカナが並んでいるだけで、小学校で習う5W1Hさえ守らないので、日本語として意味が通じない記事も多いので、ネットニュースも信用おけないものがあるから、カネを払って読む気はしなくなる。

     報道内容が支那、朝鮮の報道状態に近づき、知らしむべからず、由らしむべしと言う方向に進む以上、web主様の主張されるように、報道は自業自得で滅亡に向かうのでしょう。

     元々ゴシップ記事や下ネタ記事には興味がない者には有料情報を契約した方が役に立つのではなかろうか?

     そうなると優秀な有料記事を配信するところが生き延びるのかな?

     早い話、私は30年以上、テレビは見ない、新聞は見ない(テレビは見ないと情報が得られないが、新聞はどうしても目を通したいときは図書館に見に行けばいつでも見られるので(気の利いた図書館なら明治の創刊時からのニューコピーサービスもある)、それで十分で、特別な新聞以外の新聞及びテレビなど見なくても全く不自由は感じません。

  • 実はさっき近くの販売店から新聞購読再開してほしいという電話があった。
    もちろん断ったが。
    結構困ってる雰囲気。

  • 毎度、ばかばかしいお話しを。
    新聞社:「我々はエビデンスが嫌いだ。だから、「値上げラッシュで新聞業界全体の部数が減少sというエビデンスも認めない」
    まあ、どこからか、都合の良い数字を見つけてくるんでしょうけど。

1 2