なんとも中途半端な経済対策、ブラケット・クリープも「取り過ぎた税金の返却」も議論されていない自民党内の空気――。今すぐ選挙があったとしても、自民党はそこまでこっ酷く負けることはないのかもしれませんが、それにしても有権者をバカにしています。ただ、この経済対策も、見方を変えれば、結果論として財務省や宏池会(とくに宮沢洋一税調会長)の影響力低下のきっかけになる可能性があるのかもしれません。
岸田首相の経済対策は「やらない方がマシ」
岸田文雄首相が指示した、1人あたり4万円の定額減税などを柱とする経済対策を巡っては、正直、「やらない方がマシ」というレベルではないかと思われます。
『国民民主党がブラケット・クリープ対策の必要性を提唱』などでも指摘したとおり、現在の日本には①実質的なインフレ増税(ブラケット・クリープ)の回避、②「取り過ぎた税金」を還元するという意味を兼ねた経済対策、という、少なくとも2つの観点からの減税が必要です。
ですが、岸田内閣・岸田自民党が打ち出したのは、(現在のところは)1人あたり定額での4万円の減税、生活に困窮している世帯に対する7万円の給付などであり、しかも社会保険料、消費税、法人税といった諸税についてはほとんど議論すらされた形跡がありません。
岸田内閣総理大臣記者会見
―――2023/11/07付 首相官邸HPより
想像するに、多くの人が、「どうせ1回限り」と感じていることでしょう。
髙橋氏「財務省は減税を嫌う」
もちろん、当ウェブサイトとしては、政治家の実績を評価するにあたっては、基本的には是々非々で議論すべきだと考えており、これに関しては岸田首相に対しても、まったく同じことが成り立ちます。
中国の違法な海洋進出が続くなかでのフィリピン・マレーシアの訪問(11月3~5日)などは、外交成果としてはなかなかに素晴らしいものだったのではないかと思いますが、残念ながら「やらない方がマシ」な経済政策のためか、世間にこの功績が伝わっているかは微妙でしょう。
これに関し、嘉悦大学教授の経済学者・髙橋洋一氏はウェブ評論サイト『現代ビジネス』に6日付で寄稿した記事のなかで、そもそも財務省が減税を「不思議なほどに忌み嫌う」と指摘しています。
岸田首相の「減税を含む経済政策」はまったく不十分だ…データで検証してみると
―――2023.11.06付 現代ビジネスより
髙橋氏は賃金が物価上昇を上回り好循環になるNAIRU(インフレを加速しない最低失業率)を実現するうえで、GDPギャップ15兆円をやや上回る20兆円規模の「真水」の対策が必要だと指摘。財源として、直近3年分の税収の上振れ部分(15兆円)や外為特会の含み益(30兆円)などの活用を提案します。
この15兆円を「財政出動」とするのか、消費税等の減税の原資とするのかは意見が割れるところですが(当ウェブサイト的には「財政出動」ではなく「減税」が正解だと考えています)、ただ、残念ながらこの髙橋氏の提案を、岸田首相や現在の自民党が取り入れている様子は見られません。
宮澤喜一の甥が減税を邪魔した!?
ちなみに髙橋氏によると、岸田内閣が税制改正を先送りした要因としては、岸田首相自身が現在、自民党内の税調を抑えられなかったからだそうです。自民党税調会長といえば、「あの」宮澤喜一の甥で岸田首相の従兄でもある宮沢洋一氏です。
髙橋氏は財務省が減税議論を嫌う理由について明確に触れていませんが、端的にいえば、「税金を取って配る」こと自体に利権が生じるからでしょう。
たとえば、同じ30兆円の経済対策があったとして、それを「減税」というかたちで実現してしまうと、財務官僚にとっては最初からその30兆円を触ることができません。しかし、30兆円を税金として取り、それを給付金として配れば、政権にとってはわかりやすい「成果」となりますし、財務省としても采配する権限が生じます。
「余計な事務コストがかかっているではないか」、「パンフレットの製作などでおカネがかかるじゃないか」、などといったツッコミは、霞が関ではタブーなのでしょう、多分。
つまり、官僚機構は「カネを取ること」と「カネを配ること」を利権としているフシがあります。
NHKの受信料のように、客観的に見て税金としての性格が極めて強いものを「契約に基づく受信料」として半強制的に徴収していること、総務省がふるさと納税を異常なほどに嫌うことなども、すべては官僚機構にとっての采配権が失われることを懸念してのものなのでしょう。
自民党内の雰囲気に注目したい
ただし、今回の経済対策に不満を持つ人は多いかもしれませんが、当ウェブサイト的に見れば、これはこれで良かったのではないか、などと考えるようになりました。
まず、減税が1回限りのものとはならない可能性があることです。
今回の経済対策があまりにも不評だったとすれば、岸田首相として、解散総選挙を打つことができなくなる(かもしれない)、という要因は、決して無視できません。
いや、もちろん、『「立憲共産党で三つどもえ」なら自民に有利:解散好機』などでも指摘してきたとおり、もしも岸田首相が現在、このタイミングで衆院の解散総選挙に踏み切った場合は、自民党はそこそこの勝利を収める、というのが当ウェブサイトの見立てです。
またしても、「立憲共産党」になるのでしょうか。立憲民主党が日本共産党と選挙協力や候補者調整、基本政策協議などを行うことで合意したようです。日曜日の補選では、とくに長崎第4区で自民党と立憲民主党の候補者の得票差が拡大したなどの事情もあり、これに加えて(まやかしの)「一時減税」を公約に掲げやすいという状況、さらに維新の伸長を抑えるなどの目的も踏まえると、年内解散総選挙は岸田首相にとって合理的な選択肢であると考えざるを得ません(それが日本にとって良いことかどうかは別として)。衆参補選をどう読むか「... 「立憲共産党で三つどもえ」なら自民に有利:解散好機 - 新宿会計士の政治経済評論 |
しかし、岸田首相ももたもたしていたら解散の好機を逸し、その間に野党(とりわけ日本維新の会)の選挙準備が整えば、自民党が大敗するというシナリオも見えてきます。
追い込まれれば追い込まれるほどに、岸田首相(あるいはその次の自民党総裁)にとっては、結局はさらに踏み込んだ減税を検討せざるを得なくなるでしょう。
今回も減税議論を妨害したのが宮沢洋一氏であるとするならば、自民党は「組織として」、宮沢洋一氏を更迭しなければ、自民党自体が選挙で勝てなくなる可能性があります。その意味で、宮沢洋一氏主導で中途半端な経済対策ができあがったのならば、これは自民党内の増税派を自爆させる契機となるかもしれません。
いずれにせよ、現代社会は新聞、テレビといったオールドメディアだけが情報の伝達を担っているわけではありません。
財務省としては「財政再建が必要だ」、「直間比率是正が必要だ」、「社会保障財源が必要だ」、といったウソを次から次へと並べ立て、安倍政権時代に低下した省としての影響力を復活させたいのだと思われます(※だからこそ、「悪い円安論」やデタラメなグラフの記事などを日経新聞社に書かせているのかもしれません)。
「不備があったから差し替えた」。それはわかります。ですが、差し替えた後のグラフにも不備があるようです。昨日の当ウェブサイトでも指摘したとおり、日経新聞が掲載した「斬新なグラフ」は左右の軸の起点が一致しておらず、あたかも日本の方が米国よりも高金利であるかの印象を抱いてしまうのですが、これはもちろん事実ではありません。いずれにせよ、日本を代表する大手新聞がこのようなグラフを平気で掲載するからこそ、新聞が廃れていくのではないでしょうか。斬新過ぎるグラフ!昨日の『日経新聞が掲載した斬新なグラフ』では... 日経新聞、「グラフの不備」認めて再投稿したものの… - 新宿会計士の政治経済評論 |
しかし、ネット空間が日々、社会的影響力を増してくるなかで、財務省の増税プロパガンダが破綻する日も近づいています。国民の知的水準が著しく上昇し、財務省や大手オールドメディアの低レベルなウソに引っかからなくなっているからです。
その意味では、今回の経済対策が財務省や宏池会にとっては「終わりの始まり」となるのかどうかには注目しておく価値はあるのかもしれません。
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「取りすぎた税金」というのは予算と比べて上振れたという意味だろう。
企業の利益が上振れ、個人の所得が上振れて法人税、所得税の税収が予算を上回ったということだろう。では消費税収は? 物価が上がっているのだから消費税収も増えているはず。
一部減税、一部国債償還に回せばいいじゃないかな。
下振れたときには赤字国債発行で賄っているのだから上振れたらそれを償還するのがスジではないか。
テレビメディアを観る者、日経新聞を読む者は極めて財務真理教徒になりやすいですからね。私は元財務真理教徒でした。
今般岸田文雄首相が「うかつにも」給付金もどきを持ち出してまったため、税金取り過ぎ論議を沸き立たせる事態を惹起してしまった。国政の最終責任者として減税のムシロ旗に引っかかるほど単純であるはずがないと当方予測していましたが、見事に泥レスリングのマットに引きずり込まれましたね。
中途半端に自民党が負けずに済んで、財務省と税調が減税せず増税で良いんだになるのではないでしょうか?悲観的です。
だいたい、値上げするとなかなか値下げできないんだよ。ただここ数年は仕入れや光熱費やらが値上げ一方だからね。だから余計に岸田自民党の無策ぶりが際出す。んで自民党には選挙で鉄槌をくださねばならないんだけど、野党の体たらくを見るに絶望的な気分になる。泉健太の信念のなさをみると国民民主党がいいかなっておもえてきた。玉木は元財務官僚だしな。経済は鈴木俊一よりはわかるだろ。維新は議員の質に若干不安があるし、保守党はなにも見えないしなぁ。どうしましょ!
11月2日付の記事『中途半端?経済対策閣議決定へ…解散総選挙はどうなる』へのコメントで、愛知県東部在住さんが紹介されていた、財務省が公表している「一般会計税収の推移」のグラフ。あれ見ていて面白いと思ったのは、平成元年(1989年)に税率3%で導入された消費税の税収額が、国民の消費増に伴って平均年0.4%くらいの割合で増加していたのが、5%への税率上げの翌年、平成10年から、8%への再引き上げの直前平成25年までの、なんと15年間も、ほぼ10兆円/年のレベルを保って、ほとんど変動していないことでした。
それが意味するところは明らかでしょう。消費税上げを契機に、日本人は本当に必要な物以外にカネは使わないという風に、消費性向を改めたということだと想います。まあ、高額所得者なら、年1回の海外旅行くらいなら「どうしても必要な」消費のうちに入るってこともあるでしょうが、それにしても総じてカネを使わなくなった。
税率8%上げのあとにも同じことが起きています。消費税収額は階段状にジャンプアップして、そこで安定。つまりまだ、必要品を削ってまで生活を切り詰めるところまでは行ってなかったのです。しかし、税率が10%となった令和2年度以降、税率アップ分だけでなく消費税収はじわじわ上がり続けています(令和5年分はまだ見込み額でしょうが)。年率にして0.8%の増加。
ここ数年の物価上昇からして、0.8%という値は小さすぎます。おそらくは必要なものでも買わずに我慢するか、より安物で済ませるか、大半の国民がいよいよ緊縮生活のフェーズに入らざるを得なくなった。これが最近急速に高まってきた痛税感の正体ではないでしょうか。
財務省の帳尻にも、岸田首相のメガネ越しにも、そんな国民生活の風景は多分見えてないんでしょう。だから、高々4万円。しかも一回限りと断りを入れながら、「減税してやると言ってるのに、・・・」などという馬鹿げた台詞が出てくる。
だけど、本格減税を行わなかったどころか、消費税上げまでやった安倍内閣の支持率があれほど高かった事実と照らし合わせると、「増税メガネ」と揶揄されてるだけで、今のところホントにやったわけでもない増税が、岸田氏の支持率をそこまで落とす原因というのは、少し考えづらい気がします。
安倍内閣の支持率が、いわゆる「草の根保守層」の厚さに対応すると考えるならば、岸田首相はその半数からそっぽを向かれたと見るべきでしょう。その理由が何だと言ったら、対韓譲歩なんかも関係してはいるでしょうが、わたしはLGBP法案のごり押ししたことへの反発が、一番大きいんじゃないかと思っています。
草の根保守層と言われる人たちだって、それぞれが属する社会的属性によっては、アベノミクスの恩恵を受けた人もいれば、むしろそれが不都合だった人もいて、経済面での利害は様々だと思うのですが、にも関わらず、それを超えて多くの人びとからの支持を受けた理由と言ったら、トランプ大統領を初めとした欧米指導者に、自身の意見を明確に表明した上で良好な関係を築き、CPTPP、FOIPに代表されるグローバルスタンダードに通じる構想を、自らの政策として推進したこと、そして、それが日本の保守層が抱く伝統的価値観とまさに適合することを示して見せたことが、国内向けには、より重要だったのではないかと考えています。
岸田首相が、実現可能性なんかほぼゼロと言って良い「核廃絶」なる文言を、広島G8サミットの議長を務めた自らのレガシーとせんがために、米民主党政権の大統領や駐日米国大使のご機嫌取りとして、無理矢理LGBT法案を通したなんていう憶測が、果たして本当か嘘かは知りませんが、その説が広く浸透していることは事実です。そして私自身を含め、草の根保守層に強い反感を生んでいることは、大いにありうるだろうと見ています。
「増税メガネ」も「反LGBT」感情も、いまだほとぼりが冷めてはいません。自民党は普段から各選挙区での世論調査をしっかりやってるそうですから、地元の後援会から「先生、今選挙やったら、アンタ落ちるよ」と言われている衆院議員は相当な数に上るのかも知れません。まさか自民党下野にまで至るとは思えませんが、消費税減税を第一の経済対策とする国民民主党、LGBT法案の改正を重要政策として掲げる日本保守党あたりが、比例区で予想外の議席を獲得することにでもなれば、たとえ自公で議席の過半数は保てても、国民が岸田政権の姿勢に明確なNOの審判を突きつけたと顕れと見做されるでしょう。結果、退陣やむを得ずとなる可能性は、無きにしも非ずという気もします。
慧眼!
ワタクシゴトながら緊縮傾向強化は加齢に伴う諸活力低下かとボンヤリ考えとりましたが実際現実に可処分所得と生活費を…「もっと働け!」
>官僚機構は「カネを取ること」と「カネを配ること」を利権としているフシ
官僚機構にとどまらず、財務省からカネを分捕ってきてそのカネを配ることを政治家の力量とする国会議員、県会議員らの政治家や団体、これに群がる(カネを配られる側)業界人、その業界にぶら下がっている有権者家族=利権の連鎖…。
>同じ30兆円の経済対策があったとして、それを「減税」というかたちで実現してしまうと、財務官僚にとっては最初からその30兆円を触ることができません。
最大の理由は経済対策そのものから税金とれるからでしょう。
法人の場合コロナ給付金は利益の一部で税金がかかります。
補助金で固定資産を買えば固定資産の価額から差し引けますが、その分少ない減価償却を通して利益を押し上げ、税金払っているということ。
いつも興味深い記事をありがとうございます
選挙といえば、以前の記事で
宏池会系の議員のリストを作っていただいて非常にありがたかったです。
次回もまた整理し上げていただけますと
選挙の投票先の判断に有益なので助かります。
明治以降の過去の法律・勅令が全てwebで検索できるようになったようです。
名古屋大学:日本研究のための歴史情報・法令データベース
https://jahis.law.nagoya-u.ac.jp/lawdb/
法令の検索では大活躍の政府のe-govですが、現在の法令と直接関係ないと思われる過去のものは入っていません。そこで大学の研究チームが1886年以降の法律と勅令を全てデジタル化してくれたそうです。
さっそく思いついた1887年の「保安条例」で検索したところバッチリ全文が表示されました。e-govには収載されていません。過去に調べようとしたことがあったんですが、全文は見つからなかったんですよね。
「新しいおもちゃ」を与えられた子どもモードで触ってます。(笑)
対象を1886年以降としたのはおそらく1885年12月が内閣発足なのでそれ以降ということかと推察します。太政官布告は収載されていません。
ちなみにe-govには6件の太政官布告が政令の分類で収載されているようです。
関連記事
中日新聞:明治~平成の130年分の法令「全文検索」できます 名古屋大がDB作成し公開
https://www.chunichi.co.jp/article/800709
説明が不十分と思われる新聞記事を晒した上で、オリジナルのプレスリリースを。
名古屋大学:過去の法令を全文検索できるデータベースを公開 ~法制度の移り変わりを調査する出発点に~
https://www.nagoya-u.ac.jp/researchinfo/result/2023/11/post-581.html
すみません、雑談板と間違えて書いてしまいました。
主旨ズレなので削除していただいても構いません。
元雑用係様
良いWebサイトをご紹介くださり、ありがとうございます。
日本法令索引
https://hourei.ndl.go.jp/#/
(明治19年2月の公文式施行以後の法令と、帝国議会及び国会に提出された法案が検索できます。また、法令の改廃経過や法案の審議経過等が参照できます。)というサイトでは、画像データが出てくるものでしたので、名古屋大学の文字データで出るのは、見やすく、素晴らしいものですね。
ありがとうございます。
スキャンデータはいくつか合ったようです。
雑談板にも入れていますが、国立公文書館のサイトもありました。
おっしゃる通り、テキスト検索できることの利便性は計り知れないですね。
つい出来心で
台湾 朝鮮 関東州 樺太
などとキーワード検索してみました。ざくざく掛かります。
カタカナ送り仮名文章はこんなにも読みにくいのかと嘆息しますが、法律勅令が意味するもの=意図実態、時代背景などを探るとっかかりにするに大変便利なサイトと思います。歴史家はよろこびそうですね。
その辺の検索ワードも楽しそうですね。知られざる日本の海外領土経営の実態とは。
関係ないんですが、言われて触っていて先ほど気づきました。
満州は正しくは満洲(さんずい)と書きますが、例のサイトでは「満洲」または「満州」で検索すると違った結果が現れます。
該当の法律を見ると「州」「洲」が混在していました。原本が誤字だったのか、テキスト化時のミスか。