株式会社朝日新聞社が半年ごとに公表すると表明している『朝日新聞メディア指標』の最新データが出てきました。これによると値上げの影響もあったのか、朝日新聞朝刊はこの半年で18.8万部も減少しました。1カ月あたりだと3.1万部で、このペースで部数が減っていけば、遅くとも2035年には新聞朝刊部数がゼロになる計算です。ただ、それよりもっと深刻なのは、デジタル版有料契約数が伸びないばかりか、むしろ減少に転じていることでしょう。
朝日新聞メディア指数の公表
株式会社朝日新聞社は今年1月19日付で、『朝日新聞メディア指標』というものの公表を開始しました。
「朝日新聞メディア指標」を公表
―――2023/01/19付 株式会社朝日新聞社ウェブサイトより
これによると、これは株式会社朝日新聞社の「媒体力」を示すためのもので、「報道機関である朝日新聞のコンテンツがどれだけの人に届いているかを示す指標」として、▼朝刊販売部数、▼朝日新聞デジタル有料会員の合計数――など4つの項目を、原則として半年ごと、4月と10月に公表するとしています。
これについては初回は2022年12月のデータが、4月18日付で2023年3月分のデータが、それぞれ公表されているのですが、19日付で2023年9月分の数値も出てきました。よって、現時点までに出て来ているデータは3期分です(図表1)。
図表1 朝日新聞メディア指標の一部
時点 | 朝刊部数 | 朝デジ有料会員 | 合計 |
2022年12月 | 383.8万 | 30.5万 | 414.3万 |
2023年3月 | 376.1万 | 30.5万 | 406.6万 |
2023年9月 | 357.3万 | 30.3万 | 387.6万 |
(【出所】株式会社朝日新聞社・コーポレートサイトの報道発表をもとに著者作成。なお、「朝刊部数」はABC部数を意味する)
紙媒体の減少は急速
注目点は、おそらく2つあります。ひとつは朝刊部数の減少速度が速くなっていることをどう見るか、そしてもうひとつは「朝日新聞デジタル」の有料会員数が(微減とはいえ)減少に転じたことをどう見るか、です。
まずは紙媒体の方から見ていきましょう。
朝日新聞朝刊(ABC部数)の22年12月末から23年3月末にかけての減少は7.7万部で、1ヵ月あたりにすれば2.6万部でした。。ところが、23年3月末から9月末にかけて減少したのは18.8万部で、1ヵ月あたりで3.2万部と、部数減少ペースが少し早くなっているのです。
1ヵ月3.2万部ずつのペースで部数が減っていけば、朝日新聞朝刊は2023年9月から起算して113ヵ月後(つまり9年5ヵ月後)の2033年2月までには部数がゼロになる計算です。
ただし、この部数減少自体はやや誇張されている可能性があります。朝日新聞が今年5月1日から、月ぎめ購読料を500円引き上げたからです(統合版は3,500円から4,000円に、朝夕刊セットは4,400円から4,900円に値上げ)。
あくまでも一般論ですが、値上げがなされれば顧客は離れます(これは朝日新聞に限った話ではありません)。
よって、1ヵ月あたりの減少ペースが2.6万部から3.2万部に増加した理由がこの「値上げ要因」だったとして、朝日新聞の部数の減りを1ヵ月あたり2.6万部で再計算すれば、「寿命」は2035年2月頃まで、約2年延びる計算です。
有報ベースでも部数は急減している
ただ、正直、これも誤差の範囲でしょう。
ちなみに株式会社朝日新聞社は、主要新聞社の中では珍しく有価証券報告書を公表しており、経営内容を比較的詳細に知ることができます。
『朝日新聞1部の月間製造原価は1年で400円以上上昇』でも報告したとおり、株式会社朝日新聞社の過年度有報でも、はやり朝日新聞の部数は急減していることが伺えます(図表2。とりわけ2015年3月期以降、減少のペースを速めています)。
図表2 朝日新聞の部数推移
(【出所】株式会社朝日新聞社・過年度有報をもとに著者作成)
朝日新聞・有報分析で見える物価上昇と新聞業界の課題株式会社朝日新聞社の決算からは、朝日新聞の朝刊1部当たりの製造原価が前年比でざっと411円上昇したことがわかりました。その一方で、メディア・コンテンツ事業の利益水準は、相変わらず厳しい状況にありますが、それを好調な不動産部門や持分法適用関連会社などの利益で下支えしている格好です。ただし、新聞の売上高があまりにも大きいがため、経営学的に見て、やはり同社にはさらなるリストラが必要だと診断せざるを得ないでしょう。新聞事業は苦境が続く売上高は連単ともに右... 朝日新聞1部の月間製造原価は1年で400円以上上昇 - 新宿会計士の政治経済評論 |
朝刊部数に関しては公式ベースで2023年3月期には400万部を割り込み、399.1万部となりました。データで確認できる最も古い2006年3月時点の部数が813.2万部でしたので、この20年弱で部数がざっと半分以下に落ち込んだ計算です。夕刊部数に至っては3分の1です。
こちらの有報の部数をベースに、「部数がゼロになるまでの年数」を求めたら、先ほどのABC部数の試算よりももう少し早い約7.1年後と計算され、つまり2030年3月期には紙媒体の朝日新聞朝刊が姿を消すことになります。
「1部当たり」の製造コストも増えている
いずれにせよ、ABC部数ベースの「2035年2月ないし2033年2月」なのか、有報ベースの「2030年3月期」なのかはともかくとして、朝日新聞の部数がなかなかの勢いで減って行っていることについては間違いなさそうです。
(なお、上記は公式ベースの部数に基づく議論です。『FACTA「朝日新聞84万部超押し紙」が事実なら?』などでも紹介したとおり、朝日新聞の実売部数はこれよりさらに少ないとする情報もありますが、本稿の試算ではこれらの情報を勘案していません。)
こうしたなか、新聞社に限らず、通常であれば、事業は採算が取れているうちに閉鎖するものです。新聞社のビジネスもこれと同じで、部数が減り過ぎて固定費が賄えなくなれば、新聞事業の継続を諦めざるを得なくなります(今年の例でいえば大阪日日新聞が「休刊」したようなものでしょう)。
これを株式会社朝日新聞社の例に当てはめても、同じことがいえます。
今年、すなわち2023年3月期の有報を使って朝日新聞の月間製造原価を計算すると、1部あたり2,894円で、2022年3月期と比べて411円上昇しています(うち材料費が23円、労務費が141円、経費が247円)。
これはウクライナ戦争勃発などに伴う原価上昇の影響というよりは、どちらかといえば部数が減少したことで、固定費(輪転機の減価償却費、配送トラックの手配コストなど)の1部あたりの負担が増えていることが原因と見るべきでしょう。
これに今後は用紙代や燃料費などの高騰の影響も襲ってくると考えると、やはり、紙媒体の新聞を発行し続けることの負担は、これからますます重くなります。
しかも、ただでさえコスト上昇と労働力不足、部数減の「三重苦」にあって、紙媒体の新聞を各家庭まで戸別に配達するというビジネス自体、持続不可能となりつつあります。したがって、採算割れとなるより前の時点で、新聞の刊行体制を大幅に見直さざるを得なくなるのではないでしょうか。
もしもどうしても紙媒体で新聞を発行し続けると決断するのであれば、比較的経営体力が残っているであろう新聞社(株式会社読売新聞グループ本社や株式会社中日新聞社あたりでしょうか?)の印刷工場に印刷を委託し、配達もそれらの販売店網に委託する、といった選択肢しか残っていないかもしれません。
デジタル戦略もうまくいっているとは言い難い
ただ、こうしたなかで、先ほど指摘した「ふたつめの論点」であるデジタル戦略についても、今回のメディア指標では非常に興味深い示唆があります。
朝日新聞デジタルの有料契約数は、2022年12月末時点で30.5万件であり、これが23年3月時点で30.5万件と横ばい、そして23年9月時点で30.3万件と微減とはいえ減少に転じているのです。
というよりも、この30.3万件という契約数、株式会社朝日新聞社の新聞事業を支えるにしては、そもそも少なすぎます。朝刊のABC部数の2022年12月末から23年9月末にかけての9ヵ月間の部数減少が26.7万部だったわけですから、朝デジ有料会員総数と同数の部数が毎年消失している計算です。
社会がインターネット化しているにも関わらず、そしてネット戦略に比較的早い時期から取り組んできたにも関わらず、朝日新聞デジタルの契約数がほとんど増えていないどころか減少しているというのは、非常に興味深い現象と言わざるをえません。
正直、インターネット上の情報提供サイトにおいて、情報自体に課金するというビジネスモデルはなかなか難しいのが実情です。
新聞業界のなかでは読売に次ぐ最大手であるはずの株式会社朝日新聞社ですら、ここまで部数減に苦慮していて、有料会員獲得もままならない現状を見ると、株式会社朝日新聞社よりも経営体力が弱いメディアはどうなってしまうのか、他人事ながら心配になります。
とりわけ株式会社朝日新聞社の場合は不動産事業などの優良な「副業(?)」を持っており、手元キャッシュも潤沢ですが、こうした優良資産もなく、売るべき資産も残されていないようなケースだと、部数減で経営がジリ貧となるのを待つしかないのでしょうか。
その答えは、早ければあと数年内に見えて来るでしょう。
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水と安全と情報はタダでは無いのですが、いかんせん毒水ならぬ毒情報をちょこちょこ流して来たのが既存メディアなので、積み上げて来た信頼と実績で生き残りの可否が決まるんだろうなぁってところです。
紙でもネットでも、金を払ってでも読みたいという記事を載せればここまで深刻な問題にはならないでしょうに。
それもあるでしょうが、80年以上日本人として生きているが、小学校で習った報道は5W1Hの原則を守らないものだから、どの新聞も「誰が」、「いつ」、「何処で」、「ナンのために」、「何をしたのか」と言う条件のどれかが抜けている記事が結構あるので(さすがに全部が抜けてはいないが)、書かれている記事では報道する事実の全貌が掴めないものが結構ある。
気が向いたら無料のネットニュースを「しょうがないな」と思いながら読むこともあるが、このようなお粗末な新聞にカネを払うつもりはないから30年以上宅配を取っていないが、カネを払った記事ならそうでもないのかな?
ま、そのような無料のネットニュースでもないよりはマシかも知れないが。こんなものにカネを払って読む御仁もいるようだが、御奇特な方もいる者だと思うが。
記者にもう一度、小学校の授業を受けさせたらどうだろう?そうすればもう少し新聞としての報道の目的を達成できようと思うが。
朝日が喫緊に為すべきは、紙媒体購読者を対象としたデジタル版無料開放だと思うんですけどね。
・・・・・
>こうした優良資産もなく、売るべき資産も残されていないようなケースだと・・
*たぶん、ジリ貧のすえに・・「”毎日”が日曜日(休廃業)」ですね。
あそこはスポンサーがいるって
海外メディアにすっぱ抜かれていたから
まぁ生き残るんじゃ無いですか?
https://matomame.jp/user/20yama20/65df2b8a116cbe3fb54d
今にして思えば、こんなに内容が薄いものによくも月数千円も払っていたものだと。今も購読している人がいることが不思議に感じる。
電子版は、中身で勝負しなければならないからやはり厳しい。何故なら、有料版の見出し部分だけで大方が分かるし、日本の新聞記事では最後まで読んでも深掘りしたものが読めないので、お金を払ってまで読む必要がないと分かっているから。又、同じ記事は他でも読める。
つまり、日本の新聞には独自性と強みがない。だから、お金を払ってまで読む気がしない。
長谷川幸夫の動画を見ていたら、毎朝、米国のニュースをチェックしていると言っていた。日本の新聞では国際情報は分からない。では、国内ニュースはどうかと言えば、官邸発表と忖度記事と妄想記事ばかり。あと、事件記事。
これで、生き残って行けると考えているのが不思議。日本のマスコミは温室の中にいる。
読んでいたのは朝日ではありません、念の為。こんな内容が薄いとは、新聞全般の事です。
さよりさま
先日、高校時代のプチ同窓会があり参加してきました。
雑談から参加者11名のうち少なくとも2名が朝日新聞を購読していることが判明しました。
赤色の教師達に刷り込まれた洗脳は相当根深いようです。
現役時代にその洗脳がとけることを願います。
転勤族さま
朝日vs産経には、面白い話があります。
知人の夫婦は、奥さんが朝日、旦那が産経だそうです。
奥さんは、勤め先の労組に洗脳されていて、朝日に書いてあるような考えを持っているようです。夫婦で話すと、全く旦那さんの話を受け入れ無いので、政治関係の話はしないそうです。若い頃は、奥さんに少しは分かって貰おうと会話はしていたらしいですが。家では、朝日を取らされているので、旦那さんは毎日外で参加を買っているそうです。
朝日に書いてあるような事に洗脳される人がいる事が本当に信じられないです。
あと、その人が住んでいるマンションで古新聞紙回収の日は、ロビーに古紙を出して置くらしいですが、朝日の方が多いらしいです。これも信じたく無い話です。
参加 → 産経、でした。
さより様
朝日新聞などが所謂モリカケサクラで大騒ぎしていた頃
喫茶店でちょくちょく朝日新聞を確認していたのですが
確かな証拠や新情報も無いのに連日「アベは怪しいぞ」の記事を書いていましたね。
そして、よくよく読むと根拠は憶測と思い込みしかない話を
さも本当に悪い事をしている様に思わせる文体にしている事に
ちょっと恐怖を覚えましたね。
こんなもの毎日読んでいたらそりゃ正常な判断が出来なくなる。
さよりさま
hadukiさま
久しぶりの再会でしたので赤色っぽい話題にはなりませんでした。
二人とも東証プライム企業の部長職、少なくとも品行方正なリーダータイプですが、高校時代の「朝日新聞を購読せよ」という刷り込みは根深いなと思った次第です。
昨日の情報を今朝見てどんな気持ち?ってところかな。
ネットで出た記事は数か所見られるが、新聞だと1紙だけだよね。
ネットは速報から時間が経過するとある程度詳しく見ることができる。
古い情報に4,000円も払うなんて無駄でしかない。
まあ、これは朝日に限らずだけどね。
若い人はもともと購読していないから減りはしない。
高齢の購読者(これが一番多いのではないか)は様々な理由で買わなくなる。死亡、介護施設への入居、認知機能の衰え、年金生活による収入減。
もうすぐ定年という人、定年したら新聞やめようと思ってるはず。月4-5千円あれば外食1回できる。新聞やめてなにも困ることがないのに驚くだろう。
それ以外の減少理由:近くの床屋が新聞置くのやめた。予約制になって待つ人がいなくなったとのこと。近くの医院の待合室でも新聞置いていない。待ってる人はスマホ見てる。
私は定年退職3年前に関東に転勤してから新聞の購読とテレビの視聴を辞めました。これ辞めても生きるのに何も困りませんね。今思うと、もっと早く辞めていても良かった。ただ、現在は産経ニュースの月550円の有料会員になっています。ささやかな応援のつもりです。
数日前、ポストに朝日新聞お試し配達2週間、というビラが入っていました。以前は1週間だった気がします。
いよいよ損益分岐点割れが間近に迫ってきたのかなぁ?と。
次はどんな手をうつのか。お試し1ヶ月?
配達戸数は折り込みチラシ市場を維持したい新聞販売店にとって生命線デスしネ
押紙分捨てるくらいなら…的自爆営業かハタマタ版元から販売奨励金でも出てンのか、新聞一部で炊飯するタイガー新型炊飯釜とともに今後にちうもく??
試してもらえさえすれば買ってもらえる、というのは、好景気時でなければ優良商品だけなのですが。ビラなんかに金を使ってしまって、もはや何がしたいのって感じですね。まさかいまだに自社商品に自信を持っているのでしょうか……
ましてや今の人達は、基本無料サービスやサブスク、オンデマンド形式に慣れきっていますし、お試し期間だけ利用してあとは即解除というのにも慣れていて、試してしまったし買ってあげないとなんていう遠慮などしません。よほどのものでなければ金は出さないでしょう。しかもそこに値上げ済みときて。
もはや昔ながらの販促など意味がないところまで来ているのに、せめて気付いても良さそうなものですが。
洗剤、ティッシュ、パリーグ外野席チケット、
付けるから
新聞一ヶ月だけとってよ、、
昭和のドラマあるあるです。
オタク歴40年の会社員さま
いわゆる拡張団ですね。
平成初期まで見かけた(というか訪問を受けた)ことがありますが、最近はどうなのでしょう。
パリーグチケットなんて今やプラチナですね、
往年のドリフターズのコントでも、
いかりや長介由紀さおり夫妻の屋敷に
仲本工事扮する営業 が執拗に新聞勧誘、
最後にダメだこりゃ‼️、
ダメでもいいから取ってよ‼️
と
見事な二段オチ(笑)。
(朝日新聞に限った話ではないのですが)朝日新聞デジタル版と新聞紙の朝日新聞とで差別化をはかって、デジタル版のしかない内容が、紙よりも優れていて、仕事に直結するとなれば、多少の割高料金でも、紙からデジタル版に切り替える人がでてくると思うのですけど。もっとも、そのためには記者の取材能力を、今以上に上げる必要がありますけど。
現在進行中のハマスの攻撃は、攻撃予兆情報がイスラエル上層部にあがっていても、それを軽視していた、との推測がありますが、(別に朝日新聞だけではありませんが)現場の記者が朝日新聞上層部が気に入らない重要情報をとってきた場合、上層部は、それを感情的に拒絶するのではないでしょうか。
新宿会計士様 いつも興味深い記事をありがとうございます
デジタル版の部数が紙媒体の1/10以下で微減に転じたのは結構危機的ですね
以前も述べましたが新聞社は遠からずヤフーやMSNなどのニュースサイトに記事を買い取ってもらうしか生き残る術は無いと思います。