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新聞は無料配布されても魅力なし

若者だけでなく、社会の中堅層からも順調に見放されつつある新聞。直近5年間の部数減少が今後も続くと仮定したら、遅くとも15年以内に、新聞超過の発行部数がゼロになるという計算です。こうしたなか、「新聞週間」にあわせ、「新聞の魅力を知ってもらおう」という観点から新聞の無料配布が行われたのだそうですが、はて、無料配布することで具体的にどんな「魅力」を訴えかけようとしたのでしょうか?

すでに若者のメディアではなくなったオールドメディア

新聞、テレビを中心とするオールドメディアは、現在、少なくとも「若者のメディア」ではありません。

総務省『情報通信白書』から判明する、ここ10年弱のデータに基づけば、年々、オールドメディアの利用時間は減り、ネットの利用時間が増えていて、しかもこの傾向はとくに若年層ほど顕著であることがわかります。

図表1は、平日におけるすべての年代のメディア平均利用時間をグラフ化したものです。

図表1 全年代・メディアの平均利用時間(平日、単位:分)

(【出所】総務省『情報通信白書』データをもとに著者作成)

これによると、2022年において史上初めて、ネットの利用時間がオールドメディア(テレビ・リアルタイム視聴、テレビ・録画視聴、新聞、ラジオ)の利用時間合計を抜きました。ネット利用時間はこれに先立つ2020年において、テレビ視聴時間を抜き去っていました(コロナ禍の影響もあったのでしょうか?)。

社会のネット化は止まらない

また、最も古い2013年のデータで見ると、どの年代もネット利用時間がテレビのリアルタイム視聴時間を下回っていました(図表2)が、最も新しい2022年のデータで見ると、すでに10代から40代までにおいて、ネット利用時間がオールドメディア利用時間を抜き去ってしまいました(図表3)。

図表2 メディア利用時間(2013年)

(【出所】総務省『情報通信白書』データをもとに著者作成)

図表3 メディア利用時間(2022年)

(【出所】総務省『情報通信白書』データをもとに著者作成)

これが50代に波及するのは、時間の問題でしょう。

ただし、60代以上は依然としてテレビを中心とするオールドメディアに依存しているらしく、また、昨日の『回答者が高齢者に極端に偏るNHK世論調査=内部資料』でも取り上げたとおり、おそらくはメディアの世論調査も回答者が高齢者に著しく偏っている疑いは濃厚です。

新聞はあと15年以内で…?

ただし、『新聞部数が急減するなかで地方紙も「値上げラッシュ」』でも取り上げましたが、とりわけ新聞に関していえば、もう滅亡が目の前に迫って来ています。

図表4は、一般社団法人日本新聞協会のデータをもとに、2017年から2022年までの5年間における新聞部数の減少が継続したと仮定した場合に、新聞業界全体がどうなるかを予測したものです。

図表4-1 朝刊部数の予測値

図表4-2 夕刊部数の予測値

(【出所】一般社団法人日本新聞協会のデータをもとに著者作成。「予測値」は2017年から22年までの部数変化が今後も続くと仮定した場合のもの)

夕刊は遅くとも8年以内に、朝刊も15年以内に、部数がゼロになってしまいます。

当たり前でしょう。

このインターネット時代、文字情報だけでなく、画像、音声、動画などもネットで気軽に配信できるわけですから、情報を紙に印刷し、大量の地球温暖化ガスを撒き散らしながら、それらを人海戦術で各地に配送するというビジネスモデル自体など、すでに完全に破綻しているのです。

これに加えて新聞社の場合、なまじっかこれまで部数が大変に多かったこともあってか、ネット戦略で初動に失敗し、主要メディアはろくにネット課金すらできていません。というよりも、現在の日本の多くの新聞に、ネット上でカネを払ってまで読むに値する記事が掲載されているのか、という問題点もありそうです。

「新聞の魅力知って」と新聞配布…具体的な魅力って?

こうしたなかで、ちょっと興味深い話題があるとしたら、これでしょう。

若い世代も新聞の魅力知って 熊日などが朝刊を無料配布 熊本市 15日から秋の新聞週間

――― 2023年10月14日 13:00付 熊本日日新聞より

熊本日日新聞が14日に配信した記事によれば、熊本県内で日刊紙を発行する6社でつくる「県支部新聞公正取引協議会」なる組織が熊本市内の広場で、秋の新聞週間(15~21日)に合わせて新聞を無料配布したそうです。

目的は「若い世代にも新聞の魅力を知ってもらうため」だそうで、異なる2紙を入れた210袋を買い物客らに手渡した、などとしています。

ただ、正直なところ、記事を読んでもこの「協議会」が訴えようとした「新聞の魅力」とやらが、いまひとつ、見えてきません。最新ニューズはお手持ちのスマートフォンで簡単にチェックできる時代に、わざわざ紙に古くて偏った情報を印刷した代物が訴えかけようとした「魅力」とは、いったい何なのでしょうか。

このあたり、以前の『【エコ】これからは「生ゴミといえば新聞紙」の時代へ』などでも取り上げたとおり、新聞「紙」自体にはそれなりの使い道があります。

子供の習字の練習で墨を塗ったり、年末の大掃除でガラス戸を水拭きするのに使ったり、雨に濡れた革靴を乾かしたり、てんぷらの余分な油を吸わせたりするだけでなく、折り紙の要領で大きな箱を作れば、簡便的な生ゴミ入れにも使えます。

しかし、そうした用途に使うのであれば、正直、最初から文字も写真もなにも印刷されていない「白紙」の方がありがたいと思う人も多いのではないでしょうか。

いずれにせよ、200部ほど新聞を無料配布したとして、その200人のなかから「よし!新聞の素晴らしさがわかった!」、「新聞の購読を始めよう!」などと思う人が何人出て来るかについては、ちょっと知ってみたい気もする次第です。

新宿会計士:

View Comments (18)

  • 熊本日日新聞は、新聞ではなく、新聞紙を無料配布したのではないでしょうか。(またはネットに社名を売り込んだ(?)か)

    • それならインクで汚さず、白紙を配布してくれれば包装紙として使えるのですが。

  • 我家にも、9月初めの1週間ほど、読売のナントカ記念キャンペーンとかで無料配布があった。新聞が配達されるなんて久しぶりの事でもあり、毎朝、郵便受けを見に行くのが少し楽しみではあった。

    だが、肝心の新聞を開いてみれば、何ら目新しいニュース、読みたくなるような解説・論説もなく、やけに多いスポーツ欄はパスし、パラパラめくって5分もかからず読了(大体のニュースは、昨日の内にネットで知っていたものばかり)。期待はしてなかったが、改めてガッカリ。

    ページ数も、昔(20年ほど前だったか)、取っていた時期に較べるとかなり薄くなっており寂しくさえ感じるほど。重ね重ね、昨今の、新聞の零落ぶりを想い知らされた次第。後で、新聞店が何度も勧誘に来たが、(少し可哀そうにはなったが)丁寧に「お断り」をした。

    ということで、紙の新聞に将来が無いというのはその通りだし、あの無気力な紙面をみれば、新聞社自身もそのことは自覚しているだろう。

  • 「熊本日日新聞社など県内で日刊紙を発行する6社でつくる県支部新聞公正取引協議会」が配布した新聞がたった200部あまり?? PRするには少な過ぎると誰しも思う数です。おそらく協議会が準備した部数はもっと多かったけれど、受け取ってくれた人が200人程だったということかもしれません。

    協議会 「えー、新聞いらんかね、タダだよ」
    買い物客「いらんわ、ティッシュはないんか」

    というケースが多かったのでしょうか。

  • 新聞の影響力低下をしみじみ感じたのが、最近の朝日新聞社説。昔のことをほじくり返して 「杉田水脈議員に議員の資格はない」 と書いていたけど、何の影響もなかった。
    一昔前なら、朝日新聞の社説で名指しで批判されたら、政治生命が終わるくらいの大ダメージだったのに。

  • 先般新宿会計士様に御紹介いただいた新聞紙でご飯が炊けるお釜が気になって仕方がない…
    割りばし使ったやつを洗って乾燥させておいた時は何本くらいで炊けるんだろう…
    新聞紙燃やす前提だと屋外使用だよな…
    卓上で釜めしみたいに使えないよな防災上…

    欲しいけど買って使える状態が滅多にない。
    だが物欲的には欲しい…悩む

  • >最も古い2013年のデータで見ると、どの年代もネット利用時間がテレビのリアルタイム視聴時間を下回っていました

    ちょうど10年前なんですね。当時のまとめサイトやニコニコ動画では 「テレビの放送事故」 が鉄板ネタの1つだったから、みんなテレビを見ていたんですよね。(YouTubeよりニコニコ動画の方がよく見られていたなんて、今の若い人は知らないかも。)

    若い人をターゲットにした 「深夜バラエティ」 というジャンルもあったし。NHKも 「着信御礼!ケータイ大喜利」 という生放送の深夜バラエティを放送していて、結構人気がありました。

  • オレ、いま61才。来月62才になる。オレの家は5年前には新聞購読を止めた。お袋が84才位だったかお袋も止めた。毎日新聞を60年位購読していたが読売に変えたのが最後の3年前かな。表題にあと15年とあるけど10年位で廃刊続出かもしれないな。若い世代はインターネットだろうし、情報が瞬時に入るから新聞の情報媒体としては用をなさない。それこそ靴を乾かすか薪紙位にしかいらんだろうな。大変だ!

  • 『無料配布』自体は魅力的で、なんせ、
    生ゴミの処理にも役立ちます。
    印刷前の紙の状態での『無料配布』だったのなら
    その魅力はもっと高まったことでしょう。

  • 私は株式投資とFXをやっている。
    「早耳」である必要はないが「世間からズレている」ような状態は避けたくて新聞を定期購読していたが最近やめた。ネットとテレビで充分と思ったからだ。
    朝5時45分からのテレビ東京の「モーサテ」「FT」を録画してみている。このテレビ局、もしかしたら経済専門チャンネルを目指しているのかもしれない。地方系列局が少なく身軽なのだろう。
    東京株式市場の開いている間、地上波TokyoMXで「ストックボイス」という番組をやっている。この番組、ネット視聴も可能。もちろん無料。
    「モーサテ」「FT」「ストックボイス」は番組の中でいろいろな有料配信サイトを紹介して誘導しようとしている。
    証券会社のサイトでではすべての銘柄の「決算短信」「有報」その他の開示をクリック一つで閲覧できる。

    もう紙の新聞など「お呼びでない」のだ。

  • そもそも、新規新聞購読者を、紙面ではなく景品で釣っていたのに。
    昔から、魅力がないから景品商法をやって来たのに、今頃、「魅力を知って」と言って、無料配布したら、それは、「魅力がないことを知って」というキャンペーンになっているのではないか?
    どうして、これに気が付かないのだろう?
    やはり、こんな人達が作る新聞には、未来永劫魅力は生まれないかもしれない!

    • たしかに、逆プロモーションになってるとしか思えないんですよね。荷物になるしロクなこと書いてないし。

      本文中にもある通り、
      「古い情報」だから売れないと気づけば分析力や解説・論説で売るしかない(のにできてない)。
      「偏った情報」をなんとかするにも自社の解説・論説を分析して魅力ある内容に改変するしかない(のにやってない)。
      思いついたのが、いつも通りの新聞をタダで配ることぐらいというのも終わってる。

      分析力に劣り、情報の取捨選択を間違い、それを認識して改善することができない(理由は省くけどw)。
      そんな人たちが作ったものを定期購読して自分の生活や経済活動や思想信条に反映させていたら、どんどん社会から落伍していく。恐怖ですよ、恐怖。

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