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ロボタクシーは東京「駅チカ不動産」価格を下げるのか

Buying, Finance, Finance and Economy, Home Finances, Home Improvement

「駅チカ物件の価値が高いのは、鉄道での移動が安いからだ。したがって、鉄道以外に便利な交通手段ができれば、駅地価物件の価値が下がる」――。とあるウェブサイトに、こんな趣旨の記事が掲載されました。その主張内容が正しいかどうかは脇に置いて、なかなかに興味深い仮説です。ただ、テクノロジーが変化すれば、私たちの生活も大きく変わる可能性がある、という点については、そのとおりといえるかもしれません。

鉄道は便利で効率的な輸送手段

著者自身の持論ですが、東京や大阪といった日本国内の大都市がここまで発展した理由のひとつが、鉄道にあります。

とりわけ東京を中心とする首都圏では鉄道網が大いに発達しており、山手線の駅などを基点に放射状に延びるJRや私鉄の路線、これらの路線を相互につなぐ地下鉄網が張り巡らされ、郊外と都心部を驚くほどの効率の良さで結んでいるのです。

そして、鉄道は「輸送効率」という観点からも、ほかの交通システムと比べて優位を持っています。

日本通運『環境に優しい鉄道輸送』によると、トンキロ当たりのCO2排出量は自動車が1,209g・℃であるのに対し、鉄道はその53分の1に相当する23g・℃、トンキロ当たりのエネルギー消費量は航空機の21,439キロジュールに対し鉄道は442キロジュールで49分の1だそうです。

JR西日本の『鉄道と環境問題のかかわり』というPDFファイルの説明によると、鉄道は線路の上をレールと車輪の摩擦によって走るため、走行時の抵抗が小さく、したがってエネルギー効率が良い乗り物であるとされています。

とりわけ都市部の通勤電車は専用軌道を走行するため、渋滞などのロスも基本的にはありません(※ただし、一部の路線では「電車が渋滞する」という事態も発生していますが…)。つまり、通勤電車の場合、平日は反復・大量に人々を効率よく運ぶことに特化しているのです。

最近の都心部では自転車なども増えて来たが…

その結果、当然の帰結というべきか、日本の大都市では、鉄道駅、とりわけJRのターミナル駅近辺は、たいていの場合、ビジネス街や繁華街などとして発展・繁栄しています。

もちろん、JRのターミナル駅から数キロ離れた場所が繁華街やビジネス街となっている例はありますが(東京でいえば浅草、名古屋でいえば栄、大阪でいえば御堂筋など)、これらの場所もたいていの場合、付近にはJRなどのかわりに地下鉄や私鉄が走っています。

したがって、現在のところは、「日本の大都会の繁華街」≒「鉄道」、と考えておいて良いでしょう。

この構造は、変わるのでしょうか。

そのヒントがあるとしたら、自転車や電動キックボードかもしれません。

最近だと東京都心部などでは、シェアサイクルやシェア電動キックボードなどの拠点も多く、また、意外と繁華街では自転車置き場も充実し始めています(※個人的に電動キックボードを無免許で運転することができるというのは問題が多いと思いますが、その点は脇に置きます)。

このため、都心に近い場所に住んでいたら、意外と鉄道を使わなくても便利に移動ができたりするものです。暑すぎず、寒すぎない時期、天気が良ければ東京都心で自転車に乗る人を見かけることも多いでしょう(※なお、自転車を運転する場合、くれぐれも歩行者優先でお願いします)。

とくに最近だと、バッテリーも長持ちするなど電動自転車も性能が上昇しています。ちなみに東京駅から新宿駅まで、中央線に乗れば最短12分程度で到着できますが、自転車に乗った場合も25分程度です。

物価上昇の折、地下鉄の運賃を節約したいと思う人もいるかもしれませんし、また、某怪しい自称会計士のように、都内に出かける際には、目的地までダイレクトに到達できる自転車を重宝するというケースもあるのかもしれません。

こうした動きが広まれば、もしかしたら近い将来、地下鉄などの鉄道利用者が激減し、鉄道の駅の価値が下がってくるのではないか――。

「首都圏駅チカ物件が一等地でなくなる」…?

果たして、その可能性はあるのでしょうか。

これについて考えるうえで、ちょっと興味深い材料がありました。

1億超が当たり前、高騰し続ける「首都圏駅チカ物件」がぼちぼち一等地ではなくなるのは本当か? ロボタクシー、スペースXは普及するのか

―――2023/09/28 10:00付 Yahoo!ニュースより【集英社オンライン配信】

これは、集英社オンラインが28日に配信した記事ですが、知的好奇心としてはなかなかに興味深い議論が紹介されています。記事はウェブページ換算で3ページにまたがりますが、ここで注目したいのが、都内などの不動産物件を巡る、「駅前が一等地という定説」が崩壊するのかどうか、という議論です。

著者の方はこう指摘します。

なぜ、ここまで駅チカの物件に人気が集まっているのでしょうか?現時点では、鉄道が最も安い移動手段だからです。コロナ禍によりリモートワークなどが浸透したかに見えましたが、特に日本においては物理的に会社に行く、という行為が未だに評価される傾向が強いため、交通の便が付加価値となります」。

この記述、一見するともっともですが、個人的には全面的に賛同することはできません。

駅前の物件は人気が高く、また、価格も上昇しがちではありますが、その理由は単純に駅前が便利だからでしょう。もちろん、「鉄道が最も安い移動手段」という指摘も間違いではないのですが、商売をする側としても鉄道駅に近い場所に出店する傾向がありますので、必然的に鉄道駅近辺には商業施設などが集まりやすいのです。

ただ、この「安価で効率的な移動手段である鉄道の駅が付加価値を持つ」という視点は、大変に重要です。

このような視点に立てば、もしも将来、鉄道の社会的役割が低下すれば、「駅チカ物件が高額だ」という現象にも変化が訪れることになる(かもしれない)からです。

その具体例として記事が挙げているのは、「ロボタクシー」です。

筆頭として挙げられるのは、ロボタクシーでしょう。ロボタクシーが浸透し、既存のタクシーはもちろん、各種鉄道より安価に利用できるようになれば、駅まで歩いていくことはなく、自宅前にタクシーを呼び、オフィスまでドア・ツー・ドアで移動できるからです」。

出勤に限りません。学校、買い物、バカンスなど、あらゆるシーンでの浸透が進むと考えられます。その結果、ターミナルの基点とされていた駅は、これまでよりも使われなくなり、周辺の不動産価格が下落。そのような未来もあり得るかもしれません

…。

ロボタクシーで鉄道利用者激減は考え辛い

はて。

そのような将来はあり得るのでしょうか。

そもそも論として、「ロボタクシー」の技術自体はすでに存在していますが、問題はこのコストとエネルギー効率です。

まず事業者がそのタクシーに設備投資しなければなりませんし、その耐用年数次第ですが、減価償却も必要でしょう。また、通常のタクシーと異なり運転手が存在しないため、人件費はかかりませんが、ガソリン代(EVの場合は電気代)や清掃コストは必要です。

自然に考えて、事業者の減価償却費、エネルギー代の負担を考慮に入れると、やはり「その利用代金が鉄道よりも安くなる」というのは少し考え辛いところです。

また、都心部に暮らす人ならばまだしも、首都圏で遠距離通勤をしている人にとっては、その遠距離をロボタクシーで通勤するというのは考え辛いのが実情でしょう。自動運転の技術が進んだとしても道路渋滞を解消することができるかどうかはわかりませんし、やはり効率が悪いからです。

もちろん、自動運転技術が確立し、ロボタクシーが普及すれば、自家用車がなければ暮らせないような場所であってもアクセスが改善されますので、地価は上昇するかもしれません。

しかし、やはり自然に考えて、ロボタクシーは「郊外の我が家から最寄り駅までの利用」となり、その最寄駅から都心部までは、今までと同様に通勤電車を使用する、という通勤パターンが多くなりそうに思えてなりません。

リニア開通で私たちの生活はどうなる?

ただし、この記事ではほかにも興味深い内容が記載されています。

現在工事が進んでいるリニア新幹線を例に挙げ、著者の方は、「より高速で移動できる乗り物が開発されていけば、人々の動線、アクセスエリアは大きく広がっていく」と指摘。とくに東京・大阪間の移動が1時間少々に短縮されれば、「関東圏と関西圏の人たちが、今よりも活発に両エリアを移動する」と述べています。

(※もっとも、中央リニア新幹線の場合は静岡県の川勝平太知事が建設を妨害しているという問題もあるほか、そもそも東京側の起点が品川駅の地下深くであるため、全線開通したとしても品川の地下駅に至るまでの移動時間がかなりかかるという可能性はありそうですが…。)

この主張通りなら、「鉄道駅に近い場所の価値が落ちる」とする著者の方の前段の主張と矛盾する気もしますが、ただ、社会の変化とテクノロジーの進化が私たちの暮らしを変えていく可能性があるという点については、まったくその通りでしょう。

その意味では、未来の交通の在り方を考察するのは、知的好奇心の刺激という観点からは興味深い作業だといえるのかもしれません。

新宿会計士:

View Comments (10)

  • ロボタクシーの前に全自動車作ったほうがはやいのではと思う。乗って行き先を告げたらあとは車に任せて寝るなり音楽聞くなり仕事するなり出来るようになれば生活はかなり変わるだろう。後はまあコスパがどうなるか。

  • 通勤や買い物に限定すると、鉄道に勝る交通手段は今のところないと思います。
    旅行などに行く場合は、どちらにするか悩むこともありますが。
    東京でロボタクシーが通勤の主役になるのは無理ではないでしょうか?
    道路がロボタクシーで埋まってしまって二進も三進も行かなくなりそうです。

  • たびたび昔の話で恐縮だが、むかしは東京駅から成田空港まで成田エクスプレスで3000円位の移動費がかかった。それが東京駅近郊から出るバスでは所要時間が短くて1000円で成田空港までいけるのだ。バスによってはホテルにもまわってくれる。タクシーロボだか無人自動車だかでも料金次第では利用はあるだろうがエネルギーコストと車両点検などの人件費はかかるだろうから、地価の低下にはつながらないと推察する。それより障害者支援をお願いしたい。仕事がない。収入がない。どうしよう。

  • 少し前にサンフランシスコで実証実験中の自動運転タクシーが大好評と言う記事を何点か読みました。「サンフランシスコ 自動運転タクシー」あたりで検索すれば出てきます
    肯定的なものでは、料金が安い、チップが不要、(客が)運転手に気を使わず済む、(客が)安全、など
    否定的なものでは、狭い道で緊急自動車の通行を妨げる、想定外の事態事故に対応できない場合、などが記憶に残っています。
    利用者目線では概ね満足しているかの印象は受けました。勿論、過渡期の新技術ということで好意的に見る人は多いかもですが、それだけ現在のサンフランシスコが色々な治安面や対人サービスに問題を抱えている(日本に比して)という事かもしれません。

    新宿会計士様の
    >そもそも論として、「ロボタクシー」の技術自体はすでに存在していますが、問題はこのコストとエネルギー効率です。
    この異見には全面的に賛成です。自動運転タクシー自体が鉄道に変わって移動手段のメインになることは東京のような都市圏ではコストとエネルギー効率の面から考え難いです。

    但し、それでも一部の人(例えば富裕層や体の不自由な人など)のニーズや、充分に公共交通の整備されていない過疎圏でペイできる可能性はあると思うので、今後労働力の現象する高齢化社会の日本でこそ喫緊に実証実験を始めるべきサービスではないかと思っています。

    つい最近、タクシーやトラック物流などの労働力不足の対応に、外国人労働者や高齢者を充てようとする政策提案が自民党が有ったかとは思いますが(小野田議員の反対意見で知りました)、長期的な影響で見るならば、外国人や高齢者で対応するよりもロボットの自動運転タクシーや高速などの自動運転トラックで対応したほうが影響は少ないと考えています。
    そのためにも特区的なものでの実証実験をできるだけ早く実現して問題点と解決策の洗い出しを今すぐにでも初めてもらいたいと思っています。

    展開が新宿会計士様の論旨にはズレたかも知れませんが、近未来の交通のあり方に対する一意見として。

    • 投稿前にチェック出来ていなかったです
      中段
      ☓この異見には全面的に賛成です。
      ◯この意見
      ☓今後労働力の現象する
      ◯減少する

  • 鉄道の安さが駅チカ物件が一等地の理由だとすると、ロボタクシーがそれを揺るがすことはないように思うのです♪

    CO2排出量が、そのままエネルギー効率とか輸送費用に繁栄されるわけじゃないにしても、50倍以上の差を覆すのは難しい気がするのです♪

    >トンキロ当たりのCO2排出量は自動車が1,209g・℃であるのに対し、鉄道はその53分の1に相当する23g・℃、

    それはそうとして、CO2排出量の単位はg・℃でいいのですか?

  • 逆じゃないかな。
    基本、便利になれば、地価は上がる。

    全自動タクシーが導入された地域の地価は上がると思います。
    新線が出来れば、地価が上がるように。

  • 残念ながらリニア中央新幹線は静岡県民さんのおかげて2027年には到底実現できませんね。多分将来に渡っても静岡県民さんのおかげで目処が立ちませんね。困ったことです。リコールって知ってます?