自民党内で、国民民主党との連立待望論が出て来ているようです。といっても、あくまでも報道ベースの話であり、また、肝心の国民民主党側は連立入りには前向きではなさそうですが、ただ、こうした議論が出て来ること自体は歓迎すべき話かもしれません。それだけで政権与党(とくに公明党)に緊張が走るからです。また、国民民主党側にとっても連立入りにはリスクもある反面、政権担当経験を積めるというメリットもあります。
首相の権限が少ない日本
「日本は議院内閣制の国であり、そして法治国家である」――。
これは、日本の政治について議論する際に、絶対に欠かせない視点です。
「議院内閣制である」ということは、行政府の最高責任者である内閣総理大臣は、私たち国民からの直接選挙で選ばれるわけではなく、国会議員(※戦後に関しては基本的に衆議院議員が圧倒的に多いです)のなかから互選により選ばれます。
このため、多くの国民が「この人が首相になるべきだ」、などと思っていたとしても、国民投票で首相を直接選ぶことはできませんし、ましてや「この首相は気に入らない」、などと思っていたとしても、国民投票で首相を直接辞めさせる、ということもできません。
しかも、日本は法治国家ですので、首相自身が決定できる政策の余地はあまり多くなく、たとえば首相自身が「この地域にダムをつくりたい」、「こんな新幹線を作りたい」、などと思っていたとしても、「首相命令で建設できる」、というものでもないのです。
以上より、日本の首相は国民からの直接選挙で選ばれたわけではなく、かつ、首相になっても権限が強いともいえない、という特徴があるのです。
議院内閣制は特殊な制度ではない
ただし、「日本の首相は国民が直接選んだわけではない」ことは事実ですが、それでも日本は間違いなく民主主義国家です。
ある政治家が首相に選ばれるためには、(多くの場合は)まずは政党に所属し、自身が所属している政党が国会議員(とくに衆議院議員)選挙で多数党になること(※)、そのうえで自身も国会議員(事実上は衆議院議員)に選ばれることが必要ですが、このプロセスはどちらも民主的な選挙によって決まるからです。
(※ただし、1994年に発足した、社会党の村山富市委員長を首班とする内閣のように、首相の出身政党が「多数党」ではない、という事例もありましたが、この場合も連立相手である自民党と合わせれば、村山内閣は「多数党」に支えられていたことは間違いないでしょう。)
また、「政権党が多数の議席を取り、その多数党に所属する国会議員が首相になる」という日本の議院内閣制とは、じつにまどろっこしいものです。米国のように、「一般市民が大統領を直接選ぶ」という仕組みの方が、民主主義としてはすっきりしているように見えます(※)。
(※ちなみに米国の場合、厳密には「直接選挙制」ではなく、「州ごとに選挙人を選ぶ」という、非常にわかりづらい仕組みを採用していますが、これについてはBBC『【米大統領選2020】 どういう仕組みかなるべく簡単に解説』あたりをご参照ください)。
しかし、日本のような「議院内閣制」は、べつに「日本独自の仕組み」ではありません。日本でもときどき、米国に倣い、強い権限を持つ首相を選び出すべく、「首相公選制」を提唱する人もいますが、その反面、日本の議院内閣制が必ずしも民主主義の仕組みとして「特殊」なものとはいえません。
たとえばG7諸国では日本以外にも英国、カナダ、イタリア、ドイツが議院内閣制(かそれに近い仕組み)を採用しており、大統領が強い権限を持っている米国はむしろ例外です(人事院によると、フランスの場合は「大統領制と議院内閣制の中間形態にあり、半大統領制と呼ばれている」のだそうです)。
というよりも、一般に「民主主義の先進国」とされる欧州諸国の場合は、議院内閣制を採用しているケースが多いようであり、「強い権限を持つ大統領」という米国のようなスタイルは、むしろ例外的ではないでしょうか?
(どうでも良い余談ですが、著者自身の主観でに基づけば、南米諸国や韓国、フィリピン、インドネシアなど、「強い大統領制」を採用している国には、むしろ法治がうまく機能していないなどの問題点を持っているようにも見受けられるのです。)
自民党が圧倒的に強い現状
いずれにせよ、日本は議院内閣制を採用しています。これが不満であろうがなかろうが、現実の政治を議論する際には、この「議院内閣制」という仕組みを前提に置く必要があります。
現在は自民党が主体の会派が衆議院(定数465議席)のうちの「絶対安定多数」に近いとされる261議席を保有しています(※細田博之氏は議長就任のため離党中、吉川赳氏と秋本真利氏は「その他の理由」で自民党を離党済み)。
したがって、岸田文雄首相が衆議院を解散でもしない限り、また、自民党からの離党ラッシュでも生じない限りは、岸田氏は最長で2025年10月まで首相を務めることができます(ただし、これとは別に自民党内の手続として、24年9月に総裁選が行われますので、これにも勝利することが必要です)。
これに加えて自民党は現在、参議院(定数248議席)でも117議席と、過半数には足りないものの、第一党の地位にありますし、衆議院に32議席、参議院に27議席を持つ公明党と連立関係にあるため、岸田内閣が提出した法案は基本的にすべて通せる状態にあります。
自民党が引き続き現在の議席数を維持・拡大すれば、自民党政権が今後も続くのですが、その一方で、自民党政権が終わるためには、自民党(あるいは自公連立政権)が国会で多数を失うことが必要です。
この点、岸田首相自身がLGBT法、対韓譲歩、対財務省譲歩などの姿勢を見せていることで、一般に「岩盤保守層」の失望を買っていることは間違いありません。このため、「自民党を次の選挙で敗北させ、岸田政権を終わらせよう」、とする主張もよく見かけます。
「自民党が敗北すれば岸田政権は終わる」、という点については、そのとおりでしょう。もしも岸田首相が、たとえば今年の秋口に解散総選挙に踏み切り、そこで自民党が過半数を失うほどに大敗し、自民党以外の政党が単独で、あるいは連立して多数を形成し得る状況になれば、そこで自民党政権は終了です。
(※ただしその場合であっても参議院では自民党が過半数近い議席を持っているという状況は変わらないため、政権運営は順調ではなさそうですが…)。
政権担当能力をどうつけていくか
ただ、岸田内閣とともに「自民党政権も同時に終わる」のだとすれば、「どこが政権を担うのか」については大変気になるところです。「大変気になる」というのは、とりわけ「その政党に政権担当能力があるかどうか」、という視点も含めて、です。
この点、誤解していただきたくないのですが、当ウェブサイトとしては、別に「自民党政権は続くべきだ」、と申し上げているわけではありませんし、自民党以外に政権担当能力のある政党が出現すれば、その政党が政権を取れば良いとすら思っています。
しかし、「鶏と卵」ではありませんが、現実問題、すべての政党に政権担当能力がある、というものでもないでしょう。潜在的に実務能力がある政治家が集まっていたとしても、政権を担ったことがなければ、官僚機構を相手にした仕事の進め方には何かと不慣れだと思われるからです。
こうしたなかで、「日本の民主主義を前に進めていく」ためには、現実路線を唱える政党が自民党以外にもいくつか出現し、それらの政党が国会である程度の勢力を獲得していく、という流れは、ひとつの解決策になり得るかもしれません。
国民民主党「連立入り」待望論をどう見るか
こうしたなかで注目したいのが、共同通信が日曜日夜に配信した、こんな話題です。
自民、国民民主と連立論 「実現難しい」との声も
―――2023/09/03 19:05付 Yahoo!ニュースより【共同通信配信】
共同通信は国民民主党の玉木雄一郎代表が再選されたことを受け、「自民党内に国民民主党との連立論が浮上している」と報じました。記事では国民民主党内で「反対意見も強く」、「実現は難しいとの声も上がる」、などとしていますが、個人的には、必ずしも悪い話ではないのではないか、と考えます。
そもそも公明党は自民党とはずいぶんと政策の方向性が異なる政党ですし、憲法改正が遅々として進まないのも、憲法改正のための発議要件が「衆参両院でそれぞれ3分の2以上」と厳しいことに加え、公明党が連立与党に入っている、という事情もあることは間違いなさそうです。
したがって、むしろ自民党を支持している有権者にとっては、自民党とは似て非なる政策を唱える政党ではなく、もう少し自民党に似た政策を持っている政党に、連立に入ってもらった方がありがたい、という希望もあるのではないでしょうか。
これに加えて自公連立政権にとっても、国民民主党という「外部者」が政権に入ってくることは、好ましい影響をもたらすかもしれません。とりわけ公明党にとっては「自分たちが自民党から切り捨てられるかもしれない」という緊張感が高まり、結果として自民党の足を引っ張ることを控える効果も期待できるからです。
その一方、国民民主党にとっては、連立入りすることで政権担当経験を積むことができる、というメリットが得られるほか、衆議院で10議席、参議院で13議席という少数会派でありながら、自分たちの政策を実現させることにもつながります。
この点、過去には自民党との連立政権を形成したことで、政党自体が消滅してしまったという事例もあるため、この点については国民民主党側から慎重論が出て来るのは当然のことでしょうし、むしろそれを警戒するのが自然です。
しかし、とりわけ日本は議院内閣制の国であり、普通に行動したとしても、少数政党が「野党」のままで自らの主張を実現させるのは容易なことではありません。連立入りをチラつかせるなどして、自党の政策を実現させるというのは、ひとつの政治的交渉としては「アリ」といえるかもしれません。
このように考えるならば、自民党内で国民民主党(あるいは日本維新の会)との連立論自体が日本の政治を健全に機能させることに役立つのだとしたら、こうした連立論が出て来ること自体を歓迎しても良いのではないか、などと思う次第です。
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消滅した政党。さきがけ、社民党、社会党は虫の息で失敗の理由はなんなんだろう。欲に溺れ、理念を喪失し、みずからのアンディテイをすてさり、与党であることに執着する。国民からは見透かされ、信頼を失い政党さえ消滅する。暗黒の3年3ヶ月で国民は怒りはあれど政権交代には及び腰で自民党と公明党の議席減は望めぞ交代までは、い、、ま、、は、、望まないのではないか。ただ「増税メガネ」「検討士」「遺憾だけ」の総理は変えてはもらいたい。少なくとも玉木代表には頑張ってはもらいたい。「志」と「信念」が揺るぎなくあれば、乗り越えられるはずだ。獅子身中の虫の前原誠司は気になるがなんとかなる。
全くその通りだと思う。
いくら「志」が高くても、外野で吠えているだけであれば絵に描いた餅にもならない。
投票をしてくれた有権者の期待に応えるためには、政権に入らないと話になりません。その点、国民民主党のやり方は理に適っているように思います。
私も個人的には、国民民主党は連立を組んで欲しいです。
連立与党入りして経験を積むというのが、政権担当能力を習得するための最善策ですね。今の自民は参議院で若干足りないだけなので、公明を切って国民と組んでも政権維持には十分ですし、対中国の重要なバイプ、のはずが、実際は門前払いの役立たずでした。与党である唯一の存在理由は希薄になり、腕の見せどころの対中外交も空振り。公認問題でゴネたり、国交省を私物化したり、政教分離の潜在的な問題も抱えている。岸田氏に政局眼があるなら、ここは厄介払いで公明切りすべきです。
国民民主に期待というより公明切りの為に、自民は国民民主を取り込むべきかと思います。
それは自民党にとって正しい(利益になる)理屈であって,国民民主党にとっては間違った(不利益になる)理屈です.
国民民主党が何故に連立政権に参加しない方が良いと私が考えるかは再論しない.私のコメントを参照されたい.
自民党の公明切りはやりたければ切っても大丈夫か否かを自民党が勝手に判断して大丈夫だ(あるいは与党の議席数が減るデメリットを勘案しても公明を切ったほうが例えば保守主義者に対する受けが良くなる等のより大きなメリットがある)と判断すれば勝手に切れば良いだけの話で,そのために国民民主党が連立に加わってあげる必要性や理由は国民民主党側には皆無です.
削除し忘れた部分がありましたので訂正します.
誤>自民党の公明切りはやりたければ切っても大丈夫か否かを・・・
正>自民党の公明切りは切っても大丈夫か否かを・・・
どうも失礼しました.
国民民主党は自民党主体の連立政権に入ったらまず確実に議席を減らし,最終的には党が消滅する道を辿ると予測します.
その理由は,従来の国会レベルでの野党としての政権側との是々非々の駆け引きや法案修正の要求とそれを部分的にであれ政権側に呑ませるような活動が,政権に入ってしまうと連立与党内部での協議になって国民の目から見えにくくなり,国民から見た場合に国民民主党は圧倒的に数の多い与党議員集団の小さな一部(つまり比喩的に言えば自民党の弱小派閥と同レベルの存在)として埋没してしまい,党の存在感が失われてしまうからです.
当然,存在感の無くなった政党に投票する人は激減するでしょう.
ですから国民民主党にとっては,個々の事案に対して是々非々で賛成・反対を主張し,党としての独自の案を提案して与党との間で国民の目から見える形で協議し,自党の主張を部分的にでも受け入れさせた妥協案で合意したという実績を積み重ねて少しずつ存在感を高め立民や共産は論外だが自民党にも腹が立つという有権者の受け皿としての信頼感を高める戦略が適切だと個人的には考える次第です.
玉木代表の発言を見ると彼もそのような戦略で少しずつ党勢を拡大しようとしているのだろうと推測します.そしてその時間はかかるが地道なアプローチが国民民主党が政党として成長・発展するためには正解であると私は思っています.
ただ、是々非々票は殆ど維新に食われて議席増えるどころか微減なのも事実ですからねえ・・・。
対案路線は私もいいと思っておりますが今のままで先があるか不安なのもまた
迷王星様
>当然,存在感の無くなった政党に投票する人は激減するでしょう.
これは、どうでしょうね。連立入りするとき、自党議員のいる選挙区には、自民党は対立候補を立てないし、選挙応援もやるという約束は、当然取付けるでしょうから。
実際、公明党との間ではこの手の選挙協力はずっと続けているわけですが、公明党は少なくとも選挙区選挙では、一向議員数が増えないのだから、たしかに少数党に有利に働くとは言えなさそうです。しかし、もう今の公明党では、自力で党勢拡大を図れる力はなさそうなので、これがあるからソコソコの存在感を保っているとも言えそうに思えます。
国民民主が連立入りして、なおかつ党勢を伸ばすとすると、立民の議席を奪うのが一番でしょうが、連合の支援を立民から完全に奪うことが出来れば、公明よりうまく連立与党内で立ち回ることが出来そうにも思えます。
なぜ国民民主党は支持率低いんでしょうね?
今の野党の中では一番まともだと思うんですが。
私は安倍さんの時代は積極的な自民党支持でしたが、今は消去法による消極的支持です。
民主主義は、変な政権が出来ても4年間我慢すれば引きずり下ろすことができるという多大なメリットがありますが、そのメリットを活かすには大多数の国民が真面目に考えることが絶対必要です。
それは新宿会計士さんも何度も書かれてますよね。
しかし今の日本では、芸能人や、その芸能人の秘密を暴露してただけの、どう見ても政治的な資質が無い候補が政治家になってしまう。
政権を担うつもりのない無責任政党がやるだけならまだしも、自民党までが同じことをやっている。
逆に言うと、そうしなければ政権を維持することができない。
民主主義の弊害が出ちゃってます。
その点、国民民主党は主張がまともだし、知名度だけの候補も立ててません。
もっと支持されても良いような気がするんですけどね。
うちの選挙区に候補者立てたら(人にもよりますが)自民党から乗り換えるかもしれません。
>これに加えて自公連立政権にとっても、国民民主党という「外部者」が政権に入ってくることは、好ましい影響をもたらすかもしれません。とりわけ公明党にとっては「自分たちが自民党から切り捨てられるかもしれない」という緊張感が高まり、結果として自民党の足を引っ張ることを控える効果も期待できるからです。
公明党は母体の宗教集団が朝鮮系カルト宗教だって事で、リスカブス路線に一票。
自民党と国民民主党連立の噂は、公明党を牽制するために自民党が流した噂でしょう。
国民民主党支持者も揺さぶる事が出来ますので、一石二鳥です。
噂はさて置いて、国民民主党が連立いるすれば、政権批判をやりにくくなります。
また、選挙区調整などで自由に候補者を立てられなくなり、議席数を伸ばす事が難しくなるのでは無いでしょうか?
おまけに、自民党との選挙協力で当選した国民民主の議員は、自民党依存体質となり、自民党との差別化が難しくなると思います。
私は、政策毎の是々非々で閣外協力あるいは閣外から圧力をかける方が、国民民主党の支持者の期待に応えることが出来るのでは無いかと思います。
連立は、国民民主党にとっては毒饅頭かもしれません。