「日本人の作り出す製品が世界的に信頼されている」とする指摘は、かなり以前から目にするものでもあります。こうしたなか、元国連職員で著述家の谷本真由美の著作『激安ニッポン』によれば、日本はインバウンド開発よりもモノを作ることやその技術を大切にすべき、とする指摘がありました。まったくそのとおりでしょう。ただ、それ以上に興味深いのは、中国の通貨が世界から信頼されることはあるのかどうか、という視点との関連です。
目次
ユーロでさえ万全ではないのに、BRICS共通通貨がうまくいくのか
先日の『BRICS共通通貨では西側通貨体制が揺るがない理由』を含め、当ウェブサイトでしばしば議論している話題のひとつが、「BRICS」などと呼ばれる国々が共通通貨を作ったところで、それらがまともに国際通貨として機能するのかどうか、という論点です。
結論からいえば、地理的共通性も、宗教、民族、基本的価値などの共通点も持たず、それどころか先進的な金融市場すら持たない国々が、いきなり共通通貨を作ったところで機能するはずもなく、それどころかあっけなく崩壊するのが関の山です。
地理的に近く、各国が自由、民主主義といった共通の価値観を持ち、さらには欧州連合(EU)司令などに基づきさまざまな制度を共通化しているEU加盟国内の、さらに財政収斂基準などを満たした国しか参加できないユーロという仕組みでさえ、現在、完璧にうまくいっているとは言い難いのが実情です。
中国、インド、ロシアといった「個性的な(?)」諸国が共通通貨をうまく運営していけると考えるのは、正直、素人考えです。ましてや、「BRICS共通通貨がドル基軸体制を揺るがす」などと言い出せば、その人は「少し金融の実情を知らなさすぎる」、「不勉強すぎる」、などと非案されても仕方ありません。
元中国駐在員による中国のおカネ事情
ただ、それと前後して、『紙幣が信頼できない理不尽な中国』でも指摘したとおり、金融・市場制度以前の段階として、そもそも中国においては「紙幣そのもの」が信頼されていない、という話題もあります。
とある点に惹かれてその話題を調べ始めたところ、まったく別の論点にたどり着く、というのは、よくある話であり、知的好奇心の刺激としては、それなりに興味深い点です。当ウェブサイトでは国をまたいだ人の移動に関する統計を調べているのですが、「日本から中国に渡航した人数」という論点を調べていたところ、そこから「中国におけるおカネの信頼性」という、まったく別の論点にたどり着くこともあるようです。中国を訪れる日本人日本人の渡航先に関する統計は存在しない「数字に基づく議論」をモットーとする当ウェブサイトでは以... 紙幣が信頼できない理不尽な中国 - 新宿会計士の政治経済評論 |
具体的には、中国ではニセ札が横行しており、(一説によると)深夜のタクシーなどでは運転手によるニセ札との「すり替え」なども行われている、といった話もあります。当該記事に対する読者コメント欄も大変に興味深く、とりわけ「元駐在員」様と名乗る、現地に詳しいと思しき方によれば、こんなことも指摘されています。
「8年半の駐在員赴任経験に照らし、中国でニセ札が横行しているというのは事実である。ATMからも普通にニセ札が出て来る」。
ATMからもニセ札が出て来るというのは、何とも恐ろしい話です。
ただ、個人的に興味を覚えるのは、「元駐在員」様のこんな指摘です。
- 現金決済の場合、汚くて臭いお札から渡してくる
- 財布が汚れこの世のものとは思えない悪臭を放ち、ズボンまで臭くなる
- 自販機も増えてきたが紙幣が汚過ぎて読み取れないことも多い
- 制度を落として読み取るとニセ札が使用されるという悪循環に陥っている
…。
こうした「生の情報」、大変に貴重です。
もしこの指摘が事実なのだとしたら、それは中国という国において、「通貨」という最も基本的な部分において、当局がその信頼を維持・向上するための役割を放棄しているという意味でもあります。
日本の千円札は1~2年で裁断されているらしい
ちなみに「元駐在員」様は、個人的な感想と断ったうえで、「お札がきれいな国」イコール「先進国」、などと述べていますが、これは本当にそのとおりかもしれません(もちろん、米国などのように、先進国であっても紙幣が汚い国は存在しますが…)。
著者自身もたしかに若いころはずいぶんと世界各地を回りましたが、流通している紙幣の美麗さでその国が先進国であるかどうか(あるいはその国の通貨当局が「通貨制度」そのものを大切にしているかどうか)がわかる、というのは、そのとおりだと思います。
日本の場合、日銀ウェブサイト説明によると、日銀は市中から回収した紙幣をチェックし、「再度の流通に適さない」と判断されるほどに汚損したものについては裁断しているのだそうで、お札の平均的な寿命は千円札、五千円札が1~2年程度、1万円札が4~5年程度だそうです。
しかし、流通している紙幣が極端に汚れていたり、ニセ札が横行したりしている場合には、紙幣そのものに対する人々の信頼が低下します。しかも、本人に過失がないのにニセ札を掴まされた人たちを救済する制度がないのですから、中国の通貨当局は無責任極まりないと言わざるを得ません。
正直、通貨制度そのものをまともに運営する意思も能力もない国の通貨が、米ドルに代わる「世界の基軸通貨」になるはずなどないでしょう。
谷本真由美氏のニッポン論
さて、こうした議論の直後だからでしょうか、ウェブ評論サイト『プレジデントオンライン』が31日付で配信した、こんな記事が目に付きました。
日本人は己の価値に全く気付いていない…世界中で圧倒的な人気を誇る”日本では当たり前”の身近な製品
―――2023/08/31(木) 6:17付 Yahoo!ニュースより【プレジデントオンライン配信】
記事タイトルからもわかると思いますが、いわゆる「日本・日本人は素晴らしい」、などとする記事です。
ただ、よくある「日本礼賛記事」ではなく、日本が信頼されている理由とその課題などについても指摘した、なかなかに優れた記事です。正直、全文に無条件に賛同するわけではありませんが、それと同時に参考になる記述も多く出てきます。
記事は著述家で元国連職員の谷本真由美氏が執筆した『激安ニッポン』という書籍を再構成したものだそうです。
【参考】『激安ニッポン』
(【出所】アマゾンアフィリエイトリンク)
谷本氏によると、「日本人は控えめな人が多く」、「マーケティングや営業が非常に下手くそ」としたうえで、「日本のもの」は北米や欧州など、世界で深く信頼されている、などと指摘します。
- 「特に中国では日本人というのは非常に生真面目で嘘をつかないので取引がやりやすいということで有名です」。
- 「なので、彼らは日本人と取引する際、相手が誠実なので安心して買うことができると考えているのです」。
- 「実は北米や欧州でも日本のものは安心できるということで有名です」。
- 「トヨタをはじめとした日本のメーカーは海外ではまだまだ強く、道路状況が厳しいタイや南米、アフリカでも日本車は人気があります。イスラム国のテロリストでさえ、乗っていたのはトヨタのピックアップトラックです」。
これらの点については、たしかにそのとおりでしょう。
「激安」ということは、モノやサービスの買い手にとっては、「良いものを非常に安く手に入れることができる」という意味であり、そんなモノやサービスを生み出す日本という国が信頼されるのは自然なことです(※それが日本にとって良いことかどうかは別として)。
通貨についても同じことが言える
そのうえで、谷本氏は「投資すべきは『インバウンド』より『高付加価値の産業』」、などとして、付加価値が高い技術や機械を作り続ける大切さを説くのです(※このあたり、当ウェブサイトの『中国人が秋の日本旅行を忌避か?』などで議論した内容とそっくりです)。
中国国際放送は盛大に勘違いしているのかもしれませんが、中国人観光客が激減したとして、現在の日本経済に大きな影響が生じるというものではありません。すでにオーバーツーリズムの問題に悩まされている日本にとって、ある意味では願ったりかなったりです。それよりも、中国国際放送が「放射能汚染水」などと虚偽の内容を報じること自体、同放送が風評加害者となっている証拠です。インバウンド観光業の課題日本の「インバウンド観光業・外国人観光客」の実情については、当ウェブサイトでは常々、日本政府観光局(JNTO)や法務... 中国人が秋の日本旅行を忌避か? - 新宿会計士の政治経済評論 |
ただ、こうした議論を眺めていて気づくのは、やはり、その国の通貨というものも、結局のところ、「その国自体に対する信頼」の指標なのかもしれません。谷本氏は日本人の製造技術の高さを指摘するのですが、じつはこれについては、金融商品を開発・運用する能力についても同じことが言えるのです。
すなわち、結局のところ、日本の通貨が信頼されているのも、中国の通貨が信頼されていないのも、「その通貨が国際的に広く流通しているかどうか」、という定量的な側面だけでなく、もっと根源に、「その通貨自体を発行している国がどこまでその通貨の信頼を守るために仕事をしているか」、という問題でもあるのかもしれません。
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BRICS共通通貨の呼称が決まった。
「ブリッコ」
sqsq様
またの別称は「SCRIBble」
含意は「ぞんざいな走り書き程度のもの」ってことで(笑)。
「特に中国では日本人というのは非常に生真面目で嘘をつかないので取引がやりやすいということで有名です」。
「なので、彼らは日本人と取引する際、相手が誠実なので安心して買うことができると考えているのです」。
「実は北米や欧州でも日本のものは安心できるということで有名です」。
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「信なくば立たず」というのは中国の格言ではなかったですかね?
もう25年前になるかな?当時付き合っていた中国人の友人から中国では日本人に対する犯罪は厳しい罰則があるんだとか。だとしたら日本人も随分舐められたもんだ。紹興に行ったとき、ホテルのバーで飲んでいたら「南京虐殺の責任とれ!」とからまれた。だけど回りの中国人が「この日本人がやった訳じゃない!」とみんなで助けてくれた。昔のことだけど、いまの中国では信じられない。
中国やタイ、フィリピンや台湾もそうだが瑣末なお札の造りでサイズも大分小さい。カリオストロじゃあるまいに、あの作りでは、偽札は北朝鮮あたりなら作れれるかもしれない。新札を見た事がない。汚いんだよ。日本札で汚くても、あそこまで酷いのはないとおもう。一説には韓国のお札も日本が作っているときいた。ホントかね?
日本から紙幣用印刷機を輸入しているというのが正解ですね。なんでも、ホログラムなどの偽造防止技術を組み込んだ紙幣を印刷できる印刷機は世界でも2社しかないのだそうで。
参考: http://daishi100.cocolog-nifty.com/blog/2019/08/post-d29c8d.html
ありがとうごさいます。知識がふえました。
>「激安」ということは、モノやサービスの買い手にとっては、「良いものを非常に安く手に入れることができる」という意味であり、そんなモノやサービスを生み出す日本という国が信頼されるのは自然なことです
>(※それが日本にとって良いことかどうかは別として)。
4行目、私は新宿会計士さんの、この冷めた視線が好きです。
良い物を不必要に安く売るのはバカでしかなく、経済原理の大原則を踏みにじる愚か者の
所業です。
こういう日本礼賛記事には辟易とする。
こういう日本人の人のいいところに付け込んで上手くやっているのが中国人です。
犯罪もそう。フィリピンで現地人から金を巻き上げていると思いきや、フィリピンで
日本人から金を巻き上げている。何と情けない。中国人から金を巻き上げて見ろや!
当方コメントをご使用頂きありがとうございます。追加でお金に関するお話をさせて頂きます。中国ではクレジットカードが普及しません。赴任していた当時ですら有名ホテル、ホテル内レストラン、ゴルフ場と日本人が好きな日式カラオケぐらいでした。幸い、クレジットカードが普及せずともWeChat pay, Alipayが普及しました。ただ、本質はクレジットカードカード会社の審査をパスできる人が少ない、踏み倒す人が多い、未回収が多数発生するリスクが高いという考えられない事が起こる国という事です。そもそも偽造、偽証(偽称)が横行しますから。それとテロリストの車の話ですが通じる事象として香港、台湾、タイのタクシーはトヨタ車が多い事です。日本好きというのもあるかも知れませんが故障が少ない、燃費が良い、止まって走るという事です。どこかの車のようにいきなり爆発する、ブレーキ突然効かなくなるということは起こり得ません。
追伸ですが年明けから3度目の中国駐在となりました。何故今更と思いましたが社命なのでやむなしです。公安に捕まらない程度にVPN経由で現地から状況をお伝えできればと思っています。
貴重な現地の情報を有難うございます。
ところで、クレジットカード審査で思い出したことがあります。一時、日本で「信用スコア」の語をよく目にしました。
今、現地でこれが普及してクレジットカード審査にも使われている、というような状態でしょうか。
綺麗なお札の話を追加させて頂きます。アメリカのように先進国であっても汚いと紙幣という記載がありましたが個人的には少し事情が異なっているように思います。アメリカの場合、細かいシワ(紙幣全域にシワがある)、手垢で多少の汚れはあるものの油、悪臭はないかと。加えて上記にような紙幣はせいぜい10ドル紙幣以下の少額紙幣ではないかと思います。ユーロ紙幣でも同様ですが。ユーロ圏、アメリカの一般庶民は意図的に余り高額紙幣を持たないように思います。地域によっては財布ではなく、少額紙幣を小さく折り畳み、分散(ポケットや靴下の中、カバンの中)させて持ち歩き、カードと別にしている人も多く、治安の問題が大きいため高額紙幣を持ち歩くリスクを考えるとカードの方がということでしょうか。ですのでユーロ紙幣、米ドル紙幣も高額紙幣は比較的綺麗な場合が多く、中国は1番高額な100元札も汚くて臭いですね。
なるほど❗️
ご返信ありがとうございます。
ベトナム、シンガポールは以外と紙幣全般に綺麗でした。
紙幣が汚い国、嫌だなぁ…。
紙幣のプラスチック化はどんどん加速しているようですね。手元にあるリンギットとドン、じっと見つめています。どちらもポリマー紙幣です。自販機もちゃんと食べてくれました。日本の技術装置が使われているでしょうから、その方面のご専門家さまから最近の世界紙幣事情をお伺いしたいものです。
10年位前に初めて香港の10ドル札(プラスチック)を見たときは「そこまで」と思いましたが、汚損対策が切実な国も多いのかもですね。
香港の紙幣はあまり汚い印象はなかったですが。
そう言えば、私が上海に駐在していたころ、現地社員に現金はキャッシュディスペンサーで調達して、ATMは使わないようにとアドバイスされたことを思い出しました。理由を尋ねると、『入金のできる機械では偽札が入ってる恐れがある』とのことでした。ほんまかいな?と思いましたが、帰国までアドバイスを尊重して生活していました。また一度偽札を掴まされたことがありました。古北のカルフールで現金支払いし釣り銭をもらった内の50元札が偽物だったようです。日本ではそうそう味わえない経験でしたね。当時はアリペイもまだ無く、なるべく支払いはクレジットカードは使わずに現金払いを心がけてました。懐かしい思い出です。