「野党の政権奪還は、まず世襲制の脱却から」――。こんな謎な主張が出てきました。世襲議員に問題がある者がいることは間違いありませんが、少なくとも野党が政権を奪還できない理由は、世襲「制」とはあまり関係はないように思えてなりません。単純に、野党が提案する政策に魅力がないからではないでしょうか。
目次
世襲議員の数々
日本には、「世襲議員」――、すなわち親子、親戚などの血縁により議員を務めているというケースが見られます。
たとえば故・安倍晋三総理大臣自身、父親である安倍晋太郎、母方の祖父である岸信介らが政治家でしたし、実弟である岸信夫氏、甥の岸信千世氏らもまた政治家です。
また、麻生太郎総理大臣に関しても、母方の祖父・吉田茂を筆頭に、縁戚者に政治家は多く、岳父(奥さんの父親)鈴木善幸やその息子(つまり麻生総理の義弟)の鈴木俊一氏も政治家で、一説によると長男の将豊(まさひろ)氏も麻生総理の後継者となるべく、現在、準備をしているとのうわさもあります。
ただ、この世襲議員を巡っては、批判があることも事実でしょう。
これらの批判のなかには、「生まれた時から親の地盤や看板を引き継げるのはうらやましい」、といった妬みもありますし、さらには「二世」「三世」などが問題を起こしたり、批判されたりすることも、しばしばあるでしょう。その典型例が、田中眞紀子氏かもしれません。
田中眞紀子氏は田中角栄の長女というネーム・バリューもあってか、1993年に衆議院議員に初当選した翌年、94年に発足した村山富市内閣で科学技術庁長官として初入閣するなど、何かと話題を呼んだ人物ではあります。
その後は小泉純一郎政権発足の立役者のひとりとなり、小泉内閣で外相として入閣したものの、事務方との対立などの要因もあって外相を更迭されると、今度は紆余曲折もありながら民主党に移籍し、野田佳彦内閣下で文科相として入閣するなどしました。
ただ、大学設置基準を満たしたとして大学設置・学校法人審議会の認定を受けた3つの大学の開学を認めないなどと述べたことなどの混乱もあり、2012年12月16日の衆議院議員総選挙では現職閣僚でありながら落選してしまいました。
世襲議員の問題点とは?
この田中氏は民主党政権の事例ですが、ほかにも岸田文雄・現首相自身、長男を首相秘書官に任命したところ、週刊誌から「官邸情報がダダ漏れとなっている」と報じられたり、欧州の観光地などを公用車で巡っていた疑惑が持ち上がったりする始末。
最後は同じく週刊誌が報じた「官邸年末忘年会」などの記事が決定打となり、岸田首相は長男を秘書官から更迭せざるを得なくなりました(これにより岸田首相長男が政治家になれる可能性がどうなるかは気になるところです)。
このように考えていくと、世の中の人が考える「世襲政治家の最大の問題点」とは、次の2点に集約できるように思います。
政治家一族に生まれれば、親や縁戚が残してくれた地盤などを利用することができるため、「裸一貫」から選挙に出ている候補者と比べて最初から有利である(つまり「ズルい」)
二世政治家、三世政治家などのなかには、明らかに政治家適正がない者や、素行が良好でない者がおり、そのようなものが「世襲」という理由で議員になるべきではない
ダイヤモンド「来る総選挙で野党が政権に返り咲く2つの方法」
こうした2点を踏まえたうえで、本稿では、ウェブ評論サイト『ダイヤモンドオンライン』に掲載されたこんな記事を紹介してみます。
来たる解散総選挙で、野党が政権に返り咲くための「二つの方法」
―――2023.8.24 12:00付 ダイヤモンドオンラインより
「来たる解散総選挙で、野党が政権に返り咲くための2つの方法」。
リンク先記事は全部で8000文字と非常に長いのですが、結論的にいえば、「世襲制からの脱却」、「国会レッドカード制度」、「国民提案制度」の3つだそうです(ちくしょう3つだ!)。
なお、ちなみに「国会レッドカード制度」とは、「各党の本部に大きなボードをつくり、自民党議員への評価を野党各党が書き出す仕組み」のことですが、そんな仕組みを作らなくても、SNSなどで、各議員の行状が、一種の「デジタルタトゥー」のように残るようになっているのではないでしょうか。
これにより自民党議員でいえば、松川るい氏や今井絵理子氏、森まさこ氏といった議員などのようなケースもありますが、むしろこうしたデジタルタトゥが残っているのは、立憲民主党の小西洋之氏、あるいは「うな丼大臣」の更迭を求めた宮口治子氏など、野党議員の方が多いのではないか、などのツッコミは、あえてしないことにします。
世襲制の欠点や「なぜ世襲制が問題なのか」などの言及がない
ただ、8000文字を超える長文でありながら、肝心の「世襲制の弊害」について触れられている箇所はありませんし、「世襲制」をなくせば政治がどのように良くなるのかについての説明も欠落しています。
また、世襲「制」、などとおっしゃいますが、べつにこれは「制度」ではありません。
事実上の世襲議員であっても、日本ではちゃんと選挙というプロセスを経ないと議員になることはできません。極端な話、先ほど例に挙げた田中真紀子氏のように、「二世議員」などであって選挙で落選することだってありますので、基本的には世襲だからといって無制限に議員になれるわけではない、ということです。
また、世襲議員には先ほど挙げた「弊害」――とくに(田中真紀子氏のように)「適正のない者が議員になってしまう可能性がある」というリスクなど――もあるのですが、その反面、長所もあります。
たとえば、幼いころから政治家である身内を見て育つため、政治家としての心構えが自然に身に着くこと、また、国内外の政治家同士での人脈ができることなど――です。世襲には弊害もあるかもしれませんが、一概に否定すべきものではありません。
また、「世襲は日本の問題だ」、などとおっしゃる方もいるのですが、「政治家の身内が政治家になる」ことを「世襲」と呼ぶならば、ケネディ家やブッシュ家出身者などの例を挙げるまでもなく、「民主主義国の模範」であるはずの米国においても「世襲政治家」は多数います。
野党が政権取れないのには、「ほかの理由」があるのでは?
それどころか、記事の末尾は「野党よ、自民党を政権から叩き出せ」、などと提案されていますが、著者の方、なにか壮大な勘違いをされていないでしょうか?
「世襲制」からの脱却で、野党が政権を取れるかどうか、という問題ではありません。話はとても単純で、野党が政権を取れないのは、とくに最大野党である立憲民主党などが提案する内容が、国民から支持されていないからでしょう。
なぜ「野党が自民党を政権から叩き出せば日本が良くなる」のか、その具体的なところが、まったくと言ってよいほど説明がなされていないのです。
いずれにせよ、野党が世襲制から脱却すれば、それだけで政権交代が実現するという考え方自体、なんとも理解に苦しむところであることは間違いないでしょう。
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「世襲」で議員になったわけではなく選挙で選ばれたからでしょう。
ある議員「国のため、国民のためとでも思わなきゃ、あんなかっこ悪い仕事やってられない」と言っていたと書かれていた。これたぶん本音でしょう。
私だったら親が議員でもぜったいやらない。「やなこった」
日本だけではなく、アメリカではケネディー一族、ブッシュ親子、インドのガンジー一族、フィリピンのマルコス親子、ペルーのフジモリ親子とかすぐに思い浮かぶね。
世襲制が問題というか、有権者の問題なのでは?と思います。
「野党は悪くない」という前提で、野党が政権を取れない理由をいろいろ考えてみました、みたいな発想ですね。
郵便ポストが赤いのもみんな自民党が悪いのだ、ですね。
コリャ駄目だ。
>(ちくしょう3つだ!)。
ꉂꉂ(ˊᗜˋ*)ʬʬ
国民提案制度創設は、政権とったあとのことだから、野党が政権を取るための提案は、2つで良いのかもですね♪
それはそうとして、「政局」視点のみの提案なのが、ある意味すごいのです♪
あたしは、できれば「政策」を競って欲しいと思うんだけど、そんなキレイ事じゃあ選挙に勝てないってことか、そもそも野党に政策なんかないってことなのかな?って思ったのです♪
それ
今川氏真も武田勝頼も豊臣秀頼も再評価されている時代に、制度ですらない世襲議員批判を頼みにするとはなぁ……そもそもこの時代並居る将星もほとんどが当然に世襲なのですが。今川義元や徳川家康などは、世襲故に幼少期に辛酸を嘗め、世襲故に高度な教育と高い意思を得て大成に至ったのでしょうに。
リンク先記事は駄長文すぎて1~7Pのうち2~6Pを読み飛ばしてしまいましたが、正解でした。というか最後のページだけでも後悔しました。三権分立て。
とりあえず一年やらせろ、大掃除って完全に悪夢の民主党政権交代のフレーズで、読み飛ばしたせいで当時の回顧記事かと思いました。当時TVでおそうじプロ女優としてもてはやされて今はすっかりヤベぇ感じになってしまわれた松居一代が、政見放送の鳩山の横でニコニコしていたのを覚えています。
安倍氏はとりあえず自民党に投票しておけば安心と教えてくれた
危地田氏は候補者一人一人をよく見て投票せよと教えてくれた
だんだんと情報化が進む中で世襲はむつかしくなるのでは
新聞が情報を仕切っていた時代ならコントロールできたかもしれませんが
情報発信を一般の人がするようになっているのによほど資質がないと難しいのではないかと思います
本当は維新のように弁護士なり自分でキチンと生きていく道を作って、給料を削って議員になりある程度の年齢になったら民間でまたお金を稼げる人が何年かだけ国のために頑張るといった感じになってゆくといいのですが
そんな流れにはならないですかね
政治家が世襲で問題ならば、小泉純一郎(元)総理や鳩山由紀夫(元)総理も問題なのですね。ということは、ダイヤモンドも「鳩山由紀夫(元)総理が問題だった」というまともな評価を下した訳ですね。
「野党が政権を取れないのは、世襲議員が問題なのでなく、鳩山由紀夫(元)総理が世襲議員であったことが問題なのだ」
まあ、野党は鳩山由紀夫(元)政権を総括すれば、ましになるかも。
よくもまぁこんなくだらない記事を掲載するなぁ、自らを以て自身の寿命を短命化しようとしているのだな、と感心しました。
私の選挙区は田舎町で、選出されるのはいつも世襲議員の河野太郎。
言わずとしれた悪名高い河野洋平の息子であり、河野洋平もまた、河野一郎の息子。
3代の世襲国会議員ですね。
河野一郎は地元小田原に東名高速道路が通らないことを不満に思い、小田厚を強引に作った人として地元では知られています。
しかし、今日日国会議員が地元に利益誘導などなかなか出来ず、地盤という価値も下がっているのではないでしょうか?
河野太郎を当選させることで地元に何か起こるというわけもなく、恩恵があったとしても限定的で、それを受けるのは極一部で、票数としてみたら大したことは無いのではないでしょうか。
そんなちょっとした下駄程度のことに目くじら立ててもしょうがないでしょう。
それより何より我が選挙区で、残念ながら圧倒的に一番マシなのが河野太郎という地獄をなんとかして頂きたい次第。
河野VS共産党とか河野VS社民党の事実上の一騎打ちのような選挙区では、河野が圧勝するに決まっているじゃないですか。
党としてまともな政策を打ち出し、まともな候補者を立てれば、国民は喜んで投票しますよ。
たとえば処理水の件について、汚染水ガーと喚き散らしてるような風評加害のクズ政党なんかには普通の人は投票しませんよ。
まともな政策を打ち出し、まともな候補者を立てているのに党勢が上がらないのであれば、そのときは世襲批判でもなんでもやればよろしい。
反論意見恐れ入りますが、お近くの選挙区で、TPP交渉で中心的役割を果したあの甘利議員が、野党やマスコミの執拗な妨害工作のあげく落選した事件もありました。比例で復活できましたが。。
クズ政党と侮っては足元をすくわれることもあるのです。
甘利氏はTPPのタフネゴシエーターとして一部では評価されていますが、有権者は交渉の現場を見てるわけではないので中々評価ポイントにはならなかったのでしょうね。
そもそもTPP自体も賛否ある話でしたし。
そして金銭疑惑のときに急な健康上の理由で引きこもったのは、悪い印象を持った方も多いことでしょう。
それに女系天皇容認などという狂った発言をしたことも大きなマイナスです。
これだけで右翼の人からは投票先から除外されるのではないでしょうか。
一方、甘利氏に勝った太氏のことは、ほとんど存じ上げてませんので、少し調べた限りでは、立民ではめずらしい何でも反対の人でなく、原発再稼働も憲法改正も賛成、アベノミクスも評価するような人のようです。
天皇についても、男系は絶対であるという考えの持ち主。
そして選挙区内で長年熱心に足を使って選挙活動を行ってきた人物のようです。
こう見比べると、どうも単純に金銭スキャンダルを利用した選挙妨害で負けたという話では無いように感じます。
現実的で、自民党支持層からも評価される若い政治家が出てきて、色々問題あった甘利氏の票を奪ったという構図に見えます。
つまり私の言う、まともな候補者が出てきたから喜んで投票したという話の実例になるのではないでしょうか?
実際自分の選挙区のことではないので、甘利氏については多少知っていますが、太氏は今調べた程度の知識しかないので本当のところはわかりませんが。