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台湾有事をわかりやすく説明する元陸将の「危機意識」

日本人必読といえるような記事が、現代ビジネスに掲載されていました。『現代ビジネス』編集次長の近藤大介氏と、陸上自衛隊元陸将の山下裕貴氏の対談記事です。大変な長文ではありますが、非常に秀逸な記事です。ごく近い将来、より具体的にいえば、台湾有事は2027年前後に発生し、日本が巻き込まれる可能性も高いこと――などが示されています。これはごく近い将来の日本有事の予言でもあるのです。

台湾有事に鈍感な日本人

私たち日本人が意識しておかねばならないのは、日本を取り巻く安全保障環境が極めて危うくなってきているという事実――、とりわけ、近い将来に発生するかもしれない台湾海峡危機です。

ただ、「台湾有事」などといわれても、1945年の第二次世界大戦終了以降、本土が戦場になったことがほとんどない日本人にとって、その具体的な姿はイメージできないのかもしれません。要するに、日本人はこの問題に対し、鈍感なのです。

(※ただし、ソ連による千島列島などへの軍事侵攻が発生したのは同年8月15日以降のことですし、また、朝鮮戦争の際には、現地に掃海部隊を含めた日本人も派遣されており、少なくない戦死者が出ているという事実もありますが、この点についてはとりあえず脇に置きます。)

また、この台湾有事については、ほかにも問題がいくつもありますが、その大きなものは、日本政府が私たち日本国民に対し、今そこにある危機をちゃんと説明しているは言い難い、という点でしょう。

一読すべき記事

こうしたなかで、日本人ならば是非とも一読しておくべき記事を発見しました。

「台湾侵攻戦争」中国軍上陸の「Xデー」は…!? 日米の参戦、その意外な結末を、自衛隊元陸将が完全シミュレーションする

―――2023.08.22付 現代ビジネスより

これは、現代ビジネスに8月22日付で掲載された、『現代ビジネス』編集次長の近藤大介氏と、陸上自衛隊元陸将の山下裕貴氏の対談記事です。

記事によると山下氏は講談社プラスアルファ新書『完全シミュレーション 台湾侵攻戦争』を上梓されたそうで、今回の対談記事も同著を下敷きにしつつ、いわば、近藤氏が私たち読者の疑問を代弁し、これに山下氏が答える、といった体裁です。

文字数をカウントすると8000文字を超えるくらいの長文で、ウェブページで換算してなんと8ページ(!)というボリュームですが、山下氏が同著を執筆するに至った経緯や現実の「台湾有事がどう進行するか」に関してもわかりやすく解説されており、臨場感もあってか、ぐいぐい引き込まれてしまう良文です。

詳しくは当該記事及び山下氏の書籍などを読んでいただくとして、本稿では両名の対談から気になった部分をいくつか取り上げていきます。

台湾有事は日本有事

全体を貫くテーマをわかりやすくいえば、「台湾有事は日本有事」、です。

近藤氏は山下氏の著書が「中国人民解放軍の台湾侵攻の様子を、大胆かつ詳細にシミュレーションしている」点に驚いたと話を切り出したところ、山下氏は次のように明かすのです。

じつは、台湾有事の机上演習(シミュレーション)というのは、政府首脳や国会議員を対象として、これまで非公開で数回、行っているんです。詳細は話せませんが、私は企画・指導役として参画しています」。

そして、そのメインシナリオは、2027年ごろに中国人民解放軍が台湾に侵攻し、台湾の西半分がごっそり中国軍に占領されてしまう、というものだそうです。まさに、ウクライナ戦争でロシア軍が短期間でウクライナ東部を占領したようなものでしょうか。

ではなぜ、2027年なのか――。

これについて山下氏はいくつかの理由を挙げるのですが、その最たるものが、習近平(しゅう・きんぺい)総書記が4期目を迎える年に該当している、という事実でしょう。山下氏によると、「台湾を占領して中国統一を果たそうとする機運」が「中国国内で高まる」からです。

ただ、山下氏が台湾侵攻を2027年頃と予想する理由は、それだけではありません。この年が人民解放軍近代化目標の第一段階完成の年であり、建軍100周年を迎える節目でもあるからです。

これについて、近藤氏には若干の異論もあるようでもありますし、また、対談では「習近平が人民解放軍を掌握しているかどうか」などのファクターにも深入りがなされるのですが、このあたりはぜひ、原文で直接読んでいただきたいところです(故・安倍晋三総理大臣の偉大さが改めてわかる記述もあります)。

あるいは、「なぜ2027年なのか」に関しては、もうひとつ、別の要因もあります。これについて山下氏はこう述べます。

少なくとも2025年まではない。これは本にも書きましたが、西太平洋地域(台湾周辺)で、中国軍がアメリカのインド太平洋軍に較べて、優勢を保てないからです。アメリカ軍は、横須賀を母港とする第7艦隊、日本に駐留する第5空軍、韓国駐留の第7空軍、アラスカの第11空軍などが、睨みを利かせています」。

このバランスが、2025年以降に崩れていく、というのです。

山下氏「台湾は日本を巻き込もうとする」

そして、こうした状況で、台湾が国連に加盟しておらず、国家承認している相手国が世界に13ヵ国しかなく、米国、日本、欧州連合(EU)などと国交もないという状況が響いてきます。これについて山下氏はこう強調します。

世界秩序というのは、同盟関係で保たれているわけです。ヨーロッパには31ヵ国が加盟するNATO(北大西洋条約機構)があり、アジアには日米同盟や米韓同盟などがある」。

しかし台湾は、基本的に米国から武器を買っているだけであり、日韓などと異なりべつに合同軍事演習をやっているわけではありません。いちおう、米国には「台湾関係法」はありますが、やはりこれだけだと不十分でしょう。

そして、いざ2027年の中国による台湾侵攻が実現した場合の具体的な戦闘の進展などについては、台湾の地形なども関係してくるのですが、その際に台湾の半導体工場がどうなるのか、中国が占領した地域の住民はどうなるのか、花蓮に首都機能を移した台湾がどうなるのか、など、論点は盛りだくさんです。

ただ、このようなシミュレーションを見せられると、どうしても気になるのは、「日本がどう対処するか」、でしょう。

というよりも、山下氏はこう述べます。

ただ、一つ言えることがある。それは、もしも私が台湾の参謀総長だったなら、アメリカ軍を参戦させるために、日本を巻き込むということです。日本を巻き込めば、日米同盟によってアメリカ軍が入ってくるからです」。

すなわち「台湾有事」に関しては、むしろ台湾の側に、日本を積極的に巻き込みに行くというインセンティブがある、というわけです。そのためには、台湾が残存する戦力を強引に日本の西南諸島に避難させ、それを中国軍が攻撃することで、日中が交戦状態に入り、日米同盟に従い自動的に米国も参戦する、というわけです。

台湾当局も中国人民解放軍が増長するまで、手をこまねいているわけではないでし、当然、その具体的なシミュレーションは行われているのでしょう。

安倍総理の偉大さ

ただし、じっさいに日本の自衛隊(あるいは米軍)が中国側と戦闘に入るまでのプロセスは、複雑な法的なプロセスを踏む必要があるため、なかなかに厄介ですし、日本側に軍法がないことも問題を複雑にしている、などの問題点も指摘されています。

このような記事を読んでいると、本当に現在の日本を取り巻く安全保障環境が厳しさを増しているということが理解できますし、その意味ではごく近い将来の日本有事の予言でもあるのです。

いずれにせよ、このような状態を見越して安保関連法制を通し、日台関係を構築してきた安倍総理の偉大さを改めて痛感するのではないでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (26)

  • 年寄りの子や孫のために、「(対ロを除く)安倍さんの業績」及び「(対環境を除く)菅さんの業績」を引き継げるのは、口だけ番長ではなく、小野田防衛政務官のような人だと勝手に応援しています。
    以下、小野田紀美【参議院議員/岡山】SNSより最近の主な主張です。
    ①Aug 20
    (現代ビジネス)
    「移民を「「安くて便利な労働力」」と考えるのは誤り、移民大国の惨劇に日本も直面するのか」
    ②Aug19
    (産経ニュース)
    「葛根廟事件を知ってますか…日本人1千人を殺害したソ連軍の暴虐」
    ③Aug22
    (MOFA of Japan)
    ”Following Inter-Ministerial Councils regarding #ALPSTreatedWater, which announced if there are no interference due to weather or sea conditions, the day of the initiation of discharge of the water is expected on Aug 24, the IAEA has published a statement.”

  • >それによると、中国軍の台湾侵攻と同時にアメリカ軍が介入した場合、中国の侵攻は失敗に終わると結論づけています。具体的には、中国軍が艦艇138隻、航空機161機、死傷者2.2万人もの損害を被るというのです。

    習近平皇帝にとって、2万人の死傷者は痛手と言えるのか疑問ですね。

    ああ言う立場に立つと、補充の効く消耗品でしか無いでしょうし。

    •  「1人の死は悲劇だが1万人の死は統計に過ぎない」なんて物言いを想起しますね。ただこの言葉の当時とは時代が違い、2万のうち多くを占める"小皇帝"を前線に送り出して、中国そのものが安定するかは疑問ですが。「人口は武器」と言った毛沢東も、草派の陰から習に「違うそうじゃない」と嘆いているかも。

      • 農民 さん

        確かに一人っ子政策が続いて生まれた小皇帝が2万人となると、親と祖父母で12万人位が不穏分子予備軍化しちゃうんですね。

        うーん、、、多いようなそうでも無いような。

      •  何万人何十万人戦死しようが何も起こりゃしませんよ、ウクライナで死んでいるのはモスクワの若者ではないように中華人民共和国の侵略戦争で死ぬのは都市住民(特に北京の若者)ではないから。

  •  なるほど、味方すべき台湾こそが、日本が戦争にまさに「巻き込まれる」原因になりうるわけですか。ま同盟ってそういうものだし、台湾としたら当然の戦略だし、日本はそれを批判するなどより、それを見越した準備と、むしろ台湾に手厚い支援が出来るぞという実力と姿勢を"中国に"示す方が、抑止にも万一の時の被害低減にも役立ちそうです。
     そういえば、基地があると攻撃されるぞ、武器を持つと攻撃されるぞ論の方々は、「台湾に味方すると攻撃されるぞ」とは言いませんね。「日本が戦争になるとしたら、攻めてくるのは中国です!」と明言する事になってしまうからでしょうか。黙って見捨てるのが彼らにとっては最善手(飼い主を悪者にせず自分たちも安全)というわけか。アメリカの戦争に巻き込まれるぞってそういうことね。遠くのとかつけるから中東あたりをイメージしてたけども。
     意外と、現実主義者も理想主義者も同じところを見据えていたんですね。

     余談。向こう数年は戦えるPC新調して正解だった。

    • >基地があると攻撃されるぞ、武器を持つと攻撃されるぞ論の方々は、

      中国の日本へのメッセージは「日本は台湾に関わるな」ですものね。
      軌を一にしていると思います。

      >向こう数年は戦えるPC新調して正解だった。

      今は円安ですけど需給が緩みっぱなしなので、新調するにはいい時期だと思います。私のPCも8割方新陳代謝しました。

  • 昨日の産経新聞にルトワック氏のインタビュー記事が載っていましたが、彼は「ウクライナ戦争が続いている間に台湾に侵攻する」と言う見立てですね。

    既に国内で食料増産体制に入り、また生きた牛や鶏肉の輸入が急増しており、開戦に伴う禁輸措置に対抗し「籠城出来る」体制を作りつつあるとも。

    特に後段の話は生々しさを持って迫ってくる感があります。いずれにせよ時間の問題なんでしょう。

    その時の首相が岸田で外相が林とは… 嗚呼…

  • 宇露戦争が長引けば、欧米陣営のウ支援にも支援にも次第に疲れが出てくるのは避けられない,という見方が根強くあるようです。プーチンはそれを狙って、粘り腰で踏ん張っているんだとも。

    戦争の帰趨がどうなるかは分かりません。ウクライナにしても、今のところ国民に旺盛な、戦意だけでいつまでも持ちこたえるのは難しいでしょうし、欧米諸国からの説得、ないしは圧力を受けて、不本意な形での和平に応じる事態に追い込まれるかも知れません。

    この戦争に直接容喙できない立場の日本ですが、その後始末については大きな役割が期待されています。また日本自身の国益の点からも、それに積極的に関わっていく必要があると思います。何よりも肝心なのは、ロシアがこの侵略の不当性を認め、ウクライナに対する謝罪と賠償をおこなうまで、国際的な締め出しと経済制裁は決して緩めない。また、抜け駆け的にロシアに手を伸ばすものには、相応の罰則を与える。そうした枠組みづくりを主要国間で構築することに、力を注ぐべきでしょう。

    ロシアが自らの国力を消耗させていくだけの戦争をいつまでもずるずる続けるのか、あるいは一方的に停戦を宣言して、とりあえず占領した地域を既得権と主張して居座り続けるのか、どうなるにせよ、彼らの側から侵略の非を認めることは、現状ではありそうには見えません。しかし、現状の西側諸国との断絶状態を2027年まで続けたとしたら、ソ連邦崩壊直後のようなズタボロ状態に陥るのは、明らかなように思えます。

    直接戦火を交えているのではなくとも、西側諸国、とくに日米にとっては、宇露戦争への対処は、二正面作戦です。ロシアが愚かな意地を張り続ける限り、その衰退は目を覆うような悲惨なものになる。それを見せつけてこそ、中国に台湾侵攻などいかに国益に合わぬものかを思い知らせることになるはずです。「敵は本能寺にあり」。それは常に心にとめておかねばならないことだろうと思います。

  • >>それによると、中国軍の台湾侵攻と同時にアメリカ軍が介入した場合、中国の侵攻は失敗に終わると結論づけています。具体的には、中国軍が艦艇138隻、航空機161機、死傷者2.2万人もの損害を被るというのです。

    戦争は、一度始めると中々終わらないです。
    この程度の損害で終わる訳が無いし、アメリカ軍が介入して、この程度の損害しか与えられないとしたら、何と言ったら良いか、アメリカ側もそれなりの損害を受けると言う事なのか?このシミュレーションは余り現実的ではないと、素人でも感じてしまいます。例えば、航空機161機なんて、今、露は約1000の航空機を持っていると言われているが、その内、161機が無くなったからと言って戦争を止めるとは考えられない。上に述べられているような損害で止めるような戦力しかないとすれば、そもそも戦争なんか始めないでしよう。

    実際、ウクライナでの戦争は、既にこれ以上の損害は、双方とも出していて、戦死者は、双方合わせて、50万人を超えているとも言われています。それでも、終わる気配は無い。

    戦争は始めれば、双方とも文字通り「死力」を尽くした戦いになります。
    歴史には、30年戦争など長々と続く戦争が沢山あります。戦争はしないのが一番。これは、何とかムネオが言うような抵抗するな、ということでは更々無く、例えば、スイスのように断固として自らを守るという姿勢を堅持するとか。スイスの場合は地政学的に中立的であり易い事があります。スイスは、それが分かっているから、早々に中立宣言をして周辺の強国を牽制させ合っているのです。つまり、自らの地政学的位置付けと周辺国の力関係をよく考えての存在戦略です。

    更に、敵を太らせるな、というのは、最も重要な戦略です。現在のように、世界中の国が、C国に工場を造り、せっせとお金を落として差し上げているのは、わざわざ自分達で敵を強くしている事になっているように見えませんか?
    日本の戦略の先ず第一歩は、なる早で、C国から工場を全部国内に引き上げる事です。

    • 焦土作戦というのがあります。
      敵がニ度と戦えないようにする、或いは、戦意を喪失させると言う、徹底戦略です。
      これを、戦争を始めてからやるのは、下策です。これを、戦争が起こらないように使うのが上策です。
      つまり、敵になりそうな相手は、太らせるな、ということです。貧しいままにしておけ、ということです。
      改革開放にまんまと乗ったのが、下策だったのです。
      これを先ず、修正するのが今の所の上策です。
      先進国は、皆、C国から引き上げるのが先ずやるべきことでは?

    • >戦死者は、双方合わせて、50万人を超えているとも

      多分、同じ情報の出元の物を見ていると思いますが、50万人は死者ではなく死傷者だったと思います。

  • kindle版を購入しました。今ならポイント還元で3割引ですね。(笑)

    台湾軍が南西諸島に押し入り避難するなんてのは、日本が望むと望まざるとに関わらず、台湾有事が日本有事になり得る一例ですよね。台湾側に日本を巻き込む意図があれば、なおさらだという。説得力があります。
    現実には何が起こるかわからないですが、日本みたいに抱きつき相手として安牌な国はなかなかないかもですね。押し入ってくる他国の軍用機を結果的に受け入れてしまうことも、あるかないかで言えば現実的にあり得てしまう気がします。

    山下氏は以前からネットで発信はしていたんですがフォロワー数も少なく、ここ数ヶ月で急にテレビでの露出が増えました。
    露宇戦争では、専門家である現職防衛省職員や自衛隊OBがテレビ解説で多用され、タブーが一つなくなったのはよかったかと。
    湾岸戦争の頃は江畑謙介氏ばかりでした。
    とかく軍事畑の人々はリアリストが多い印象です。平気で妄想を垂れ流す左界隈と対極だと思っています。

  • 世界に冠たるお人好し国家日本。ODAで他国を肥やし、他国に工場をたて、技術を供与し、わが国の脅威になる国を育成してきた。政治家や官僚の一部は、私腹を肥やし、本当に必要な政治体制の構築を怠ってきた。議員削減しかり比例区代表制しかり、特権意識ばかりがクローズアップされる。女性の議員比率をふやす?優秀なら自然と増えるだろし、失敗しても豊田真由子女史のように、好感度をあげる人もいる。国会でフネこいてるじいさんよりは真面目な女性議員がいいにきまってる。おフランス旅行一行じゃこまるけど。いまこそ、総理以下国の舵取りが難しく重要な時代はない。岸田文雄以下林外相では期待できない。

  • 恐竜に国境ない、化石はのび太由来
    命名の中国学者、日中学生と交流

    https://www.asahi.com/sp/articles/ASR8Q4198R8PUHBI02N.html

    昨日の朝日新聞(沖縄タイムス、西日本新聞も)が一面で取り上げていた内容です。外務省は「待っていました」とばかりに対中宥和外交を再開したようです。
    と思えば、NHKは日米韓首脳会談を報じて、「日米韓」vs「中露北」の対決構図を明示してみせていいます。
    もう一体、何が何やら、呆気に取られます…

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