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日本人出国者の減少は国内旅行の良さに気づいたから?

昨年10月以降、日本政府が外国人観光客の受入を再開し、日本と外国の往来がほぼ正常化しているなかで、アウトバウンド(出国日本人)はコロナ以前になかなか戻っていません。ピーク時と比べ3分の1、という水準にとどまっているのです。こうしたなか、外国航空会社の幹部らが相次いで日本を訪れ、プロモーションを行ったとの報道もあるのですが、さて、日本人の海外旅行は元通りになるのでしょうか?

日本人の海外旅行は復活するのか?

外為市場では日本時間の14日、一時、1ドル=145円を突破するなど、年初来の最安値を付けたようです。ただ、マーケット関係者も盆休みに入りつつあるためでしょうか、基本的には薄商いのなかだと極端なプライスが付くこともあるので、あまり深刻にとらえるべきではないのかもしれません。

ただ、円安と海外物価高だと、日本人が外国に行き辛い状況にあることは間違いありません。

こうしたなかで、日経ビジネスに14日付で、こんな記事が掲載されていました。

「日本人の海外旅行は復活する」 海外航空会社幹部、続々来日の狙い

―――2023/08/14 06:00付 Yahoo!ニュースより【日経ビジネス配信】

記事によると「日本発の海外旅行客数はなお伸び悩んでいる」としつつも、「円安の修正などを見越し」、海外航空会社が日本路線のシェアを獲得するための争いに積極参入している、というのです。とくに7月に海外航空会社や観光団体の幹部らの訪日が相次いだ、などとしています。

ただ、その一方で「お盆が近づき、国内の交通機関や観光地はにぎわいを見せる一方、日本人の海外旅行は依然として盛り上がりを欠いている」のが実情。

日経ビジネスによると、JTBが7月6日にまとめた夏休み(7月15日~8月31日の期間)の旅行見通しは、国内旅行者数は延べ7250万人とコロナ禍直前の2019年(7240万人)を上回るものの、海外旅行者数は120万人で「19年(303万人)の4割の水準にとどまる」のだそうです。

インバウンドがアウトバウンドの数倍にも達する

これについてはすでに当ウェブサイトでは何度となく指摘してきたとおり、インバウンド(日本にやって来る外国人観光客)とアウトバウンド(外国に出かける日本人)の人数を比較すると、前者が後者の数倍に達しています。

日本政府が外国人観光客の受入を再開する以前であれば、出国日本人と入国外国人の人数はほぼ均衡しているか、日本人出国者が訪日外国人をむしろ上回っているくらいでした。ところが、昨年10月にインバウンド観光が正常化されて以降、毎月のように前者が後者を大きく上回っています。

2022年以降のインバウンドvsアウトバウンド
  • 10月…訪日外国人**498,646人vs出国日本人349,557人(1.43倍)
  • 11月…訪日外国人**934,599人vs出国日本人379,196人(2.46倍)
  • 12月…訪日外国人1,370,114人vs出国日本人432,193人(3.17倍)
  • 01月…訪日外国人1,497,472人vs出国日本人443,105人(3.38倍)
  • 02月…訪日外国人1,475,455人vs出国日本人537,705人(2.74倍)
  • 03月…訪日外国人1,817,616人vs出国日本人694,292人(2.62倍)
  • 04月…訪日外国人1,949,100人vs出国日本人560,178人(3.48倍)
  • 05月…訪日外国人1,898,900人vs出国日本人675,661人(2.81倍)
  • 06月…訪日外国人2,073,300人vs出国日本人703,259人(2.95倍)

(【出所】日本政府観光局および法務省データをもとに著者作成)

これをグラフ化したものが、次の図表です。

図表 インバウンドvsアウトバウンド

(【出所】日本政府観光局および法務省データをもとに著者作成)

明らかに、日本人の出国者数はピーク時の3分の1少々に留まっているのです。

物価高?円安?ウクライナ戦争?

この理由については、正直、よくわかりません。

とくに欧米路線などについてはロシア上空を避けるためでしょうか、燃料サーチャージなどにより航空運賃が高騰しているという話を耳にしますし、また、海外ではコロナ明けとウクライナ戦争の2つの要因により物価が高騰し、これに円安が打撃となり、日本人が海外に行き辛い状況にある、といった事情もあるのかもしれません。

ただ、航空会社も事情はさまざまであるようです。

たとえば冒頭に挙げた日経ビジネスの記事によれば、トルコのターキッシュ・エアラインズは「日本-欧州の最短路線」を掲げて旅客数を伸ばしており、8月7日からは成田・イスタンブール線を週3往復から4往復に増便。

12月15日以降は週7往復(つまり毎日運航)にするほか、関西-イスタンブール線の運行も12月12日以降、約6年ぶりに再開する、などとしています。

日経ビジネスによると、同社の取締役会長は「法人市場で新たな顧客を獲得している」と明らかにしたそうです。

アジアから欧州に向かう航空機がロシア上空を通過できなくなり、ターキッシュが「日本-欧州路線の最短距離を運航する航空会社になった」、というわけです。

(ちなみに記事とは関係ありませんが、ウクライナ戦争以前は9時間半と、「日欧最短路線」だったとされる成田・ヘルシンキ路線は、現時点では13時間ほどかかるようです。)

また、日経ビジネスによると、日本人向けに8月15日以降、ビザ免除での滞在期間を15日から45日に延長するベトナムに関連し、ベトナム航空が成田-ダナン線の運航を再開・増便している、シンガポールのLCCが日本で広告を強化している、などとしています。

ただ、外国の航空会社が日本で海外旅行のプロモーションをするのは自由ですが、果たしてそれで日本人の海外旅行需要がどこまで戻るのかについては、もう少しの見極めが必要でしょう。

日本旅行の魅力

じつは、東京・山手線の駅名を冠した怪しげな自称会計士の事例でいえば、民主党政権時代の円高期を中心に、ずいぶんと海外旅行に出かけました。欧州路線や米国路線は、安いチケットだと10万円を切るくらいのものもありましたし、20万円も出せば、マイルなどと合わせてビジネスクラスにアップデートもできました。

また、欧州といえば「物価が高い」というイメージがありますが、2010年代前後であれば、北欧などの極端に物価が高い地域でもない限り、田舎に行けば、日本円で5~6千円も払えば立派なホテルに宿泊することもできました。

「怪しい自称会計士」は国際運転免許を携行して欧州や豪州などでドライブをするのが好きでした。運転に疲れたら欧州の片田舎にあるレストラン兼宿屋で食事をとり、そのままワインやビールでも飲んでベッドにダイブする、といった旅行スタイルは、本当に楽しかったと思います。

ただ、この「怪しい自称会計士」は当時、仕事などで全国各地を頻繁に出かけることもあったのですが、ある日ふと、「わざわざ欧州くんだりに出かけなくても、国内旅行で十分に楽しめるのではないか」、「海外の名所に似た場所は、じつは日本国内にもあるのではないか」、と気づいたのです。

たとえば、地中海に浮かぶマルタ島という観光地があり、たしかに海は美しく温暖なのですが、同じような離島観光地であれば東京からほど近い伊豆大島であったり、沖縄県の石垣島や竹富町、波照間島であったり、と、魅力的な観光地はいくらでもあります。

また、欧州にはバーデン=バーデンのような温泉地もあるのですが、「温泉」といえば、火山国である日本国には、それこそそこここに温泉が湧きだしています。温泉ならば東京都心部にある大手町でも湧いているほどです。

大都市もあれば美しい自然もあり、四季もある――。

「怪しい自称会計士」が欧州などの旅行を通じて発見したのは、じつは「日本は旅行先としての魅力がある国だ」、ということだったのかもしれません。

いずれにせよ、ここから先は根拠のない仮説ですが、もしかして日本人の出国者が減った理由は、円安でもウクライナ戦争でもなく、単純に日本人が国内旅行の良さに気づいただけのことなのかもしれない、などと思う今日この頃です。

新宿会計士:

View Comments (10)

  • 2015年の資料をみると日本人の出国者数1620万人。うち東アジア+東南アジアで70%を占めていた。特にトップ5の国、中国、韓国、台湾、タイ、香港で全体の半分強。
    現在中国への観光は全面的に回復していないのかもしれない。また、うっかり写真をとって拘束されるリスクを考えると普通の人の行くところではない。韓国はノージャパンのイメージ悪すぎで訪問客が減っている可能性がある。
    北米とハワイも多いのだが、今すごい物価高。ツアーを組むと手の出せない値段になってしまうのかもしれない。

  • 私は、独身時代に行った欧州がとても良かったとの思いがあり、
    子育てが終わったら今度は夫婦で(長めに)行きたいとずっと思っていました。
    けれど、その間に彼の地はテロ(昔もありはしたけれど)や移民、
    或いはゴミ問題がいろいろ報じられるようになり、
    再訪してがっかりするよりは、素敵だった思い出だけにしておこうという気になりました。
    差別主義者と言われるかもしれませんが、
    「パリオペラ座」や「英国ロイヤルバレエ」も今は人種が混在しており(当地のダンサーが少なくなり)、
    なんだか「パリで観たの」「ロンドンで観たの」という、日本公演の時とは別の高揚感もなくなってしまったような...。
    年齢がいって、もう長時間の飛行機は無理、というのも大きいですが(笑)。

    現在は「いつか行こうと思っていた」場所或いは季節の国内旅行を楽しんでおります。これだけでも(お金と時間の制約もあるので)生きている内に達成できるかわからない程多いことに、今更気づいてしまいました(笑)。

  • 日本政府観光局と日本銀行の統計データから
    出国日本人数(元データは出入国在留管理庁)と年平均円レートのデータを比較してみました。
    なお、出国日本人数は旅行者数ではないことにご注意願います。

    2012年/79.8円 /18,490,657人 2013年/97.6円 /17,472,748人
    2014年/105.8円/16,903,388人 2015年/121.0円/16,213,789人
    2016年/108.8円/17,116,420人 2017年/112.2円/17,889,292人
    2018年/110.4円/18,954,031人 2019年/109.0円/20,080,669人

    これだと相関係数は-0.26なので円安と弱い負の相関関係ありになりますね。
    (円安になるとほんの少しですが出国日本人が減る)

    為替レートは日々変動しますので年平均自体意味がないですし、
    年平均レートで海外旅行を決める人もいないでしょう。

    そこで月平均で計算しなおしてみました。
    出入国在留管理庁と日本銀行の統計データを使用しました。
    為替レートを見ていきなり(例えば翌週)海外に行くとは思えませんので
    仮にですが、3か月後に海外旅行するものとして試算してみました。
    例えば2015年5月の為替レートを見て2015年8月の旅行を決めるといった具合です。

    2012年4月から2019年9月の出国者数の場合で計算しました。
    データ数が多いので個々のデータは書きません。

    するとなんと相関係数は-0.055!相関関係はほとんどなしということになりました。

    とは言うものの出国者数にビジネス出張や留学、遠洋漁業船乗組員なども含まれてしまい、
    肝心の海外旅行者数がわからないため結論はわかりませんね。

    ※それにしても入管はいつの間にか出入国「在留」管理庁になっているんですね。

  • コロナ前はよく行っていたが、最近海外に出掛けていません。国内は以前も今もよく出掛けます。行かなくなった理由は当家では、以下です。
    ①治安の悪化。コロナの混乱とその後のインフレ、ウクライナ戦争、暴動など、コロナ前に比べて海外の治安状況、安全度は明らかに悪くなっています。行きたいと思っても先日暴動があったばかりだったり、航空路が戦争地域に近かかったりすると二の足を踏んでしまいます。
    ②衛生面や医療面の不安。おさまってきたとはいえ、海外でコロナに罹患したときのリスクも旅行の判断材料になります。特に、医療の遅れている地域は不安です。
    ③原油高と円安。燃料サーチャージや円安の影響で、コロナ前と比べて旅行代金は倍になっています。以前の金額を知っているものからすると、こんなツアーがこの値段はあり得ないという感覚があります。しばらく経てば、感覚が現実に合致するかもしれませんけど。
     主要な観光地は行っているので、残った行きたい地域が①②に該当するものが多いです。今考えると、サンクトペテルブルクのエルミタージュ美術館を見といて本当に良かったと思っています。

  • 我が家は、コロナ渦の際に、キャンピングカーまでは考えませんでしたが、かろうじて車中泊も出来る車を新調し、キャンプ用品を買いそろえました。この夏は、SUPのボードやラッシュガード、マリンシューズなども。
    貧乏性の私は、一旦、趣味用に買っちゃうと元をとるまでは止められないんですよね。今は海とか川ばかりですが、そのうち四国八十八か所巡りにでも挑戦しようかと思っていますし、久しぶりに奈良や京都も廻ってみたいし、来年の夏は北海道一周かな。
    行く先々で出会うのは、カナダやオーストラリアなど外国の方々が多いのですが、日本人も多いですよ。話は合いませんが、若いギャルも結構おられます。

  • 海外旅行に行きたくても行けない(経済理由)、海外旅行に興味がない(内向き)が理由かな。若者の留学も減っていることもそういうことだろう。(ただし、データでは海外留学者数は増えている。以前と留学の実態が異なる。)

    そのうち日本人が国内旅行をすることも難しくなるかもしれない。日本人の収入は上がらないのにホテル代爆上がり。ニセコや白馬など日本人がインバウンド旅行者にサービスする時代。しかも物件オーナーは外国人。
    かつてタイなどで日本人が豪遊していたのと逆の様相。
    そういう時代が来るのかな?

    • ブログ記事中のグラフでは出国日本人数はほとんど横ばい。長期の傾向。

  • ご覧になった方も多いかもしれませんが、こんな動画を見つけました。

    ●【海外の反応】CNNアナウンサーが突如として日本と中国を比較!「劣等感を感じているようですね…」ショックに包まれた中国人たち
    https://www.youtube.com/watch?v=Q8PVAahVu5g

    ●【海外の反応】親日家リチャードギア氏が驚愕!「日本が好きなら日本へ行くな!」という台湾の発言を知り日本を訪れた結果・・・!
    https://www.youtube.com/watch?v=VYP7VlbHZ9k

    この動画、本当にこのCNNのアナウンサーが言ったことなのかどうなのかは分かりませんが、言われている内容は、当の日本人も納得できることです。
    又、リチャードギアに関する動画も本当かどうか分かりませんが、やはり言われている内容は、日本人として納得できることです。
    やはり、こんな日本に住んでいれば、態々海外に出かけようとする理由を見つけられない人達が多いのかもしれません。

    昔、「日出る所の天使、日没する所の天使に・・・」という書を送ったという話がありますが、これを言い換えれば、
    「文化豊穣なる所の民、文化それ程でもない所へ何故出かける必要が?」という気持ちが、日本人の心の底にあるのかも。

    それよりも、日本文化を理解できない国の民は、来ないで頂きたいですね。
    騒いで汚して迷惑を掛けて帰るのは御免です。
    来るなら、日本の文化と自然をしっかり堪能して頂きたいものです。
    リチャードギアほどまでとはいかなくても。

  • 日本観光が魅力的と言うより、単に円安が進み過ぎたのが原因ですよね。コロナが明けたらハワイに行こうと思ってましたが、コロナ前でも二倍近かったハワイの物価が三倍になってしまったのでハワイ旅行は諦めました。

    円安は日本企業の競争力をアップすると言う人がいますが、働く者からしたら賃金の低下になります。国内はデフレで物価が上がってないと言われますが、人件費削って安売りしてるだけで、その安い商品を買いに旅行者がやってくるだけで、日本人は疲弊するだけです。

    結局、派遣や外国人労働者によって人件費を抑えて企業業績を良く見せ、経営者や投資家は株高でウハウハしている一方、労働者はデパート→スーパー→100円ショップと低品質な生活を押し付けられる。格差と言うより奴隷化ですね。

    • 最近、ハワイに行ってきた友人の話によると、ハワイの物価は今の日本の5倍らしいですよ。チップもありますし。
      もう殆ど、日本人は居ないと言っていました。