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旅館がルール違反の喫煙者に罰金1万円を要求した理由

「お客様は神様」――。日本社会に根付いてきた、この歪んだ考え方が、少しずつ追放されていくのかもしれません。こうしたなかで本稿で取り上げておきたいのが、鳥取県にある旅館が館内ルールを破り、室内で喫煙した喫煙者から1万円の罰金を徴収したとする話題です。Googleマップのレビューで本人がこれについて苦情を書いているのですが、旅館側はこれに毅然と反論しています。

高校生店員に「マイセンくれ」で逆ギレする客

最近、当ウェブサイトで頻繁に取り上げる話題が、「お客様は神様」、です。

たとえば先週の『「お客様は神様」と「デフレマインド」のコンビニ業界』では、コンビニエンスストアの利用者がアルバイト店員である高校生に対し、「マイセン(くれ)」、などとぶっきらぼうに要求。この店員が「マイセン」という単語を理解できなかったのに対してキレ散らかした、などとする話題を取り上げました。

また、そのさらに前の『「客に飲食という生理現象を見せるのは無礼」、本当?』などでは、勤務中の高速バスの運転手が高速道路のサービスエリア(SA)でカレーを食べていたところ、これに対し一部の乗客(?)からバス会社に苦情が入ったとする話題を取り上げました。

どちらも、なかなかに強烈です。

とくに「マイセン」の件は、なかなかに呆れます。

これはたばこの銘柄「メビウス」のことだそうですが、なぜ「マイセン」が「メビウス」になるのかといえば、「メビウス」の銘柄名がかつて「マイルドセブン」だったことと関係しています。一部の喫煙者は「マイルドセブン」を勝手に「マイセン」と略していたそうで、そうした喫煙者は現在でも「メビウス」のことを「マイセン」と呼んでいるのだとか。

同じく「マールボロ」は赤マル、「マールボロ・ゴールド」は金マル、「マールボロ・メンソール」はマルメン、「セブンスター」はセッター、なのだそうですが(?)、正直、高齢の喫煙者でもない限り、こんな略称に詳しくないでしょう。ましてや高校生の店員(※おそらくは未成年者)が「マイセン」と言われて理解できる方が不思議です。

「お客様は神様」、は歪曲された考え方

このあたり、くどいようですが、こうした「モンスター客」の存在には、やはり「お客様は神様」という、極めて歪んだ発想が、日本国民の潜在意識に存在する可能性を示唆しています。

この「お客様は神様」は、歌手の三波春夫が1961年に舞台で話した内容がいつのまにか曲解されて伝わり、「カネを払う客の側が偉い」、すなわち「カネを払えばどんな理不尽なことを要求しても許される」という意味合いに歪曲されているものです。

実際、「カネを払えば客はどんな理不尽なことをやっても良い」という解釈が間違っていることは、株式会社三波クリエイツ代表取締役の三波美夕紀さんが『三波春夫オフィシャルサイト』の『「お客様は神様です」について』というページなどを読めば明らかでしょう。

喫煙で1万円罰金…なぜ?

さて、こうした「お客様は神様」に関連するのでしょうか、もうひとつ、こんな話題がありました。

「タバコ吸ったら罰金一万円取られた」客が怒りの口コミも… 「当館は全室禁煙です」旅館が公開反論、毅然対応にネット称賛

―――2023年08月09日12時02分付 J-CASTニュースより

J-CASTニュースによると、鳥取市内の旅館で、宿泊者がタバコを吸ったところ1万円の罰金を旅館から徴収されたとして、Googleマップのレビュー欄に「星1つ」という低い評価とともに、「普通そんなことありえない」、「もう訪れることはないと」、などと投稿したというのです。

※なお、記事に旅館の実名は掲載されていないのですが、実際にGoogleマップで該当すると思しきコメントを探し当てると、正確な原文は次の通りでした。

客室でタバコ吸ったら罰金一万円取られました、普通そんなことありえないですもう行くこ無いですが、皆さん気おつけて星に騙されないようにしてください、

控え目に申し上げて、なかなかに強烈なコメントです。

「普通そんなことあり得ない」というのは、禁煙の部屋でわざわざタバコを吸う、このコメント主の方ではないでしょうか。というのも、この旅館はそもそも「全室禁煙」であり、エントランスの外に喫煙所を設けているほか、チェックインの際にも禁煙との案内をし、館内の至るところに禁煙と表示していたからです。

オーナー側は毅然と対処、読者コメントも旅館に好意的

ただ、それ以上に興味深いのは、このオーナーの側のコメントでしょう。

これによるとこの旅館が宿泊者に対し、1万円の罰金を要求した理由は、「高齢で全館禁煙の認識がなかったこと」、などにあります。通常3万円のところ、むしろ1万円に割引いた、というわけです。

しかも、記事(やGoogleマップのコメント欄など)によると、清掃にかかった費用だけで罰金額を超えたそうであり(エアコン2台で約15,000円、カーテンのクリーニング数千円)、そして臭いがなくなるまでの丸2日間、客室の販売ができなかった機会損失を考慮に入れれば、実損失はもっと高額となりかねません。

ちなみに該当する客室は最大5名、1泊最大5万円の売上が見込めるのだそうですので、最大で2日間10万円の機会損失が生じた格好です(※ただし料理などの原価を考慮すれば、実損害はそれよりも少なくなります)。

J-CASTニュースでは、「一連のやりとり」について「SNSでは旅館の対応を称賛する声が相次いでいる」、などとしています。

この「旅館の対応を称賛する声」については現時点で確認していませんが、記事自体が『Yahoo!ニュース』にも転載されており、これによると、高評価コメントの中には、こんな意見が見られます。

  • 確実に迷惑・悪質と判断できる客には『あなたは客じゃない、出ていけ』と言える社会になるべき」。
  • 毅然とした対応にすごく好感が持てる」。
  • 客側の投稿が残った方が、ホテル側の反論も残り続けるので、抑止力になるのでは?」。
  • 旅館の対応が当然」。

また、例の「お客様は神様」に言及したうえで、その考え方を非難する意見も散見されます。

これに対し、少なくとも上位コメントの中に、喫煙者を擁護する意見は皆無です。

ヤフコメが日本国民の意識をそのまま代弁しているとは申し上げませんが、やはり、一般国民の側も「お客様は神様」とする考え方に対し、違和感を示し始めているのかもしれません。

いずれにせよ、働き手がどんどんと減っていく時代が到来してきますが、少なくとも当ウェブサイトの読者の皆さまのなかで、「カネを払う立場が絶対的に偉い」、「店員は奴隷か何かだ」、などと思っていらっしゃる方がいれば、その考え方については是非とも今すぐ改めていただきたいと思う次第です。

新宿会計士:

View Comments (18)

  • 俺の娘は16歳歳。遅くにできた娘だから心配事が多い。そんな彼女がセブンイレブンでバイトをするという。普通に暮らしてきたから、若者言葉に疎いおれは本稿の記事を読んで心配になった。娘に話し、わからない言葉を使う客が来たら先輩方に聞くんだぞ、、と言って聞かせた。話はかわる。おれは、タバコは吸わない。だからタバコの匂いには敏感で、部屋中に匂いが染み付くタバコは閉口する。旅館だかホテルだかの宿泊施設には喫煙所なり喫煙の有無を必ず聞かれるはずだ。ホテルなり旅館なりにはルールがある。とくにタバコの匂いは吸わない人には強烈だ。手入れをしてもなかなか染み付いた匂いは取れないと思う。一番信じられない思いをしたのは寿司職人がタバコを寿司を握る事にタバコを吸うのを目撃した時だ。寿司を食べながら周りを気にせず、紫煙を燻らす人もいる。この記事では部屋でタバコを吸った客から別途一万円を徴収したそうだが、労力を勘案したら一万円でも安いと思う。

  • 禁煙の旅館で喫煙するなど、回転寿司へ行って醤油さしをなめるのと同じ行為ですわな。
    もっと懲らしめてやってもよかったのでは、と思う。

  • 自分で言うのもおかしいけど、俺は店員に丁寧に敬意を持って接しています。何故なら、店員がいないと商品もないし会計も出来ないからです!

  • 今後、根拠なく低評価を付けた客は、「威力業務妨害罪」で告発出来るようしたら良い。
    また、コメント無しの評価星だけ付けるのも禁止にしなければいけません。理由無しの評価なんて、参考にする方にも意味が無いので。
    以前、歯医者の評価で最低点が付いていたが、それは、受付の女性の感じが悪かっただけ。そんなのは、受け付けの女性を、代えればいいだけなので、医師自身の評価とは関係ないから、見た人は、その評価は除外して考えることが出来ます。
    それから、アマゾンのレビューでも、梱包が悪かったでけで、最低評価を付ける人間がいるが、これは困りものです。流通オペレーションの問題と本の内容は関係ないので、著者が気の毒なのと、読者にも迷惑な情報です。

    • >根拠なく低評価を付けた客は、「威力業務妨害罪」で告発出来るようしたら良い。
      根拠は自分の気持ちだけで充分かと、しょせんその程度意味しかないと思います。

      >理由無しの評価なんて、参考にする方にも意味が無いので。
      個別の評価ではなく全体の評価を判断するのでは?私は総合評価としてGoogleMapの評価は参考にしています。

      • 世の中、けんたさんのように冷静で客観的でいる事が出来る人ばかりで無く、単純に評価に左右される人の方が多くて、商売は、良いにつけ悪いにつけ、風評に左右されるので、星の評価点は商売人には、死活的に作用します。それが現実的な事実です。残念ながら。

  • 私は喫煙者ですが、この輩(あえてそう呼ぶ)は、確認しとけば罰金払わなくて済んだと思う。第一に「予約した時点」、次に「チェックインの時点」、最後に「客室に灰皿が無かった(だろう)時点」と、色々チェックポイントが、旅館側とこの輩側、お互い合ったと思う。

    旅館側も「喫煙したら罰金を取る」と言うコトは、それに当たって、必ず掲示なり口頭なりで注意喚起してるハズです。で、罰金取られて書き込みをするという暴挙、全く擁護出来ませんな、完全な輩です。

    タバコは、「あ、この人いつも〇〇の10㎎のソフトをカートン買いする人だな」と印象づけて、尚且つ住んでる市内に少しでも税金が落ちるよう、購入するコンビニを2,3店決めてます。

    いつも同じ店員さんとは限らないので、たまに時間がかかる事もありますが、トラブルもなく買えてます。タバコ止めろという、耳の痛い話はナシで^^

  • 1万の追加料金でタバコが
    吸えるなら安いものかと思いますが
    なんのクレームがあるのでしょう。

  • お客様は神様論の終焉を意味する出来事かと思います。今回は喫煙者ですが、傲慢な客が減る事は、サービス業従事者にとって安心出来る事です。泣き寝入りせず毅然とする事が、とかく生産性が低く、不人気業種といわれるサービス業界の改善に繋がる一歩かと思います。今回の旅館側の毅然とした対応は立派です。

  • 近い将来、日本国内でチョイス(選び選ばれる)せれる時代が訪れる。
    という概念を以前に空想したことがあります。
    客として選ぶ立場と選ばれる立場が混在する。

    例えば私立の学校などでは受験生が入学を志望する学校を選べる一方、
    学校側も学力試験や面接等で入学志望者のうち受け入れるに相応しい対象者(保護者を含む)を選別できる。

    つまり今後、相対関係において、無茶苦茶な要求を行う消費者は排除される。

    それと同時に夢想した法律案があります。
    ・キラキラネーム禁止法
     (学校の卒業、入学式等で名前を読み間違えたことに対して損害賠償請求等を規制する法律)
    ・スマートホン操作中の被害損害賠償制限法
     (スマホを歩行しながら操作中に何かしらあっても損害賠償等を申し立てられないとする法律)

    要は自己責任だろうという事です。
    今回の件であれば、罰金はもちろん、ブラックリスト化で、
    今後、宿泊施設の利用が制限されるという様な事があってもおかしくないと思います。
    中国では信用度指数なるものが運用されているとか。

    それにしても、煙草ってそんなに我慢できないモノなんですかねー。

    • よく歩きたばこを見かけますが(禁止区域の中でも)、その後ろ10mくらいを歩いていてもたばこの匂いがするのをご存じですか。良い日和の清々しい朝などにそういう目に逢うとがっかりします。
      追い抜けばいいだろって? 10m先を歩いている人を追い越すには相当なエネルギーと時間を要します。その間ずっとたばこの匂いを我慢せねばならないわけで。やっと追い抜いたと思ったら、そのまた先に歩きたばこの人がいたりして・・・
      件の高齢者も、昭和の時代には旅館内をはだけた浴衣にスリッパ、咥えたばこで歩き回り、一室で濛々とたばこの煙に巻かれながらの徹マンなどをしてきた方なんでしょう(昭和には全くOKでした)
      どうも、昭和のオヤジはしょうがねぇな。でも、こんな高齢者ばかりではありません。大部分は世間様に迷惑をかけてはいけないと教え込まれた人達であり、モンスタークレーマーはどの世代にも共通して一定数いますよね。

  • ブログ主の論旨(「お客様は神様」という考え方への批判)とは異なる観点からのコメント。
    私人である旅館が「罰金」という刑罰を科すのは、刑罰権の国家独占主義と罪刑法定主義に反するのでは?
    (1万円という金額であれば、「罰金」とは言わずに「ルール違反によって被った精神的損害の慰謝料」と言えばよいだけなので、言葉遊びに過ぎませんが。)

    • そんなんいうたら、駐車場とかどないすんねんww
      追加料金が嫌なら使うな、それで終わり。
      罰金というのは、言葉遊びの問題であって、追加料金と言い換えたらええよ?