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菅総理の置き土産「ふるさと納税」総務省が敵視の理由

菅義偉総理大臣の置き土産のひとつが、「ふるさと納税」です。菅総理が総務相時代に導入された制度ですが、昨年度の寄付額が1兆円に近づくところにまで達したのだとか。ただ、このふるさと納税を「敵視」しているのが、総務官僚だそうです。経済ジャーナリストの磯山友幸氏によると、総務省がこれを敵視する理由は、「納税者の意思で税金の配分先を決められるわけだから、総務官僚の権限を奪うことになりかねない」からだそうです。

菅総理「ふるさと納税1兆円近くに」

菅義偉総理が先日、ちょっと気になるツイートを発信しました。

菅総理によると昨年度の「ふるさと納税」による寄付額が9654億円、利用者が891万人とそれぞれ過去最高を記録した、というのです。また、集まった寄付は「子ども・子育てや産業振興政策など、地域のために広く役立てられている」、などとしています。

ふるさと納税の利用者にとっての利点

じつはこの菅総理、2006年9月、第一次安倍晋三内閣時代に総務大臣として入閣した際に「ふるさと納税」創設に携わった本人です。

ふるさと納税は、わかりやすくいえば、地方自治体などに寄付をすれば、その金額が上限付きで所得税と住民税から控除されるという仕組みです(※ただし上限額の計算は多少複雑であり、また、少なくとも2,000円は自己負担する必要があるので注意が必要です)。

ただ、こうした寄付をすることで、多くの自治体は返礼品として、金額などに応じ、地域の特産物などを送付してくれます。

また、多くのクレジットカードのサイトなどでは常時、このふるさと納税の特集を実施していて(たとえばJR東日本系の『JREモール』などが有名でしょう)、クレジットカードを使って寄付をすれば、その分、クレジットカードのポイントも貯まります(しかもこの手のモールは還元率が良いことも多いです)。

たとえば年収500~600万円くらいの人が年間7~8万円程度を寄付すれば、ポイント還元率が3%程度だったとすれば、2,000円の控除額などすぐに元が取れますし、これに加えて昨今の物価高、ふるさと納税返礼品は生活必需品を事実上無料で手に入れる手段としても使えるのです。

ちなみにこの「7~8万円の寄付金」、厳密に計算したものではないため、注意が必要ですが、感覚的にはだいたいそのくらいです。

たとえば寄付金が控除限度額範囲内に収まれば、10万円を寄付した人は、どうせ納めることになる所得税・住民税の額が98,000円減る(※2,000円は自己負担)うえ、10万円のクレジットカード利用に相当するポイントが付与され、各地自体からコメなどの返礼品が手に入るのです。

具体的な返礼品を当ウェブサイトで示すことは控えますが、たとえば、いくつかの自治体では地元の美味しいコメを返礼品で提供してくれていて、うまく活用すれば、コメ代を浮かすことが可能です。

また、「返礼品は要らないから、むかしお世話になったあの自治体に寄付したい」、「返礼品は要らないから、災害で打撃を受けたこの自治体に寄付したい」、といった需要も相当にあるようです(ちなみに著者自身もそのような寄付を、ごく少額ですが、行っています)。

というのも、ふるさと納税は別に自分の出身地でなくてもできるからです。

ふるさと納税は、現在、自分が居住している自治体以外であれば、基本的にどこに対しても寄付できるという仕組みです。このように考えていくと、ふるさと納税は大変によくできた制度であり、自治体によっては創意工夫を凝らして税収を増やすことができるのです。

ふるさと納税vs総務省

ところが、これが面白くないのが総務省です。

総務省・総務官僚(旧自治省・自治官僚)は、地方交付税交付金の采配などを通じ、全国の自治体に対し支配力や影響力を行使していて、官僚OBが都道府県知事に立候補したりするケースもあるのですが、この総務省がふるさと納税を敵視しているとの情報があります

「ふるさと納税」1兆円に迫る。総務省の抵抗にもかかわらず3年連続最高を記録

―――2023.08.03付 現代ビジネスより

これは、現代ビジネスに3日付で掲載された記事で、執筆したのは経済ジャーナリストの磯山友幸氏です。全部で2000文字ほどですが、文体がわかりやすいうえにデータも引用されていて、さらに磯山氏なりの分析も示されているなど、非常に信頼度が高い良記事です。

わかりやすくいえば、総務省がこの「返礼品」を敵視し、規制しようとしているものの、それにより一時的にふるさと納税額が減ることはあっても、納税額が伸びるのを抑制することに失敗している、というものです。これについて磯山氏は、こう指摘します。

そんな伸びが許せないのだろうか。総務省はさらに規制強化を決めた。2023年10月から返礼品の規制をさらに厳格化、『寄付金受領証の発行や仲介サイトへの手数料、送料を含めて寄付額の5割以下』とすることを求めるという。また、『地場産品』の定義もより厳しくする方向だ

…。

このくだりを読むと、読者としては、こんな疑問を頭に浮かべるのではないでしょうか。

総務省は本来、ふるさと納税を推進する立場にいるはずなのに、なぜ、ふるさと納税の足を引っ張ろうとするのだろうか」。

このからくりは、こうです。

総務省は全国の自治体が財政赤字にならないよう、地方交付税交付金を配分する権限を握っている。地方自治体の財政状態を見て、補助金で穴埋めする形になっているのだ」。

ちなみに磯山氏によると、1765の自治体のうち、地方交付税交付金(総額17兆2594億円)をもらっていない自治体はたったの77であり、それ以外のすべては「総務省の厄介になっ」ていて、この交付税交付金が総務省の地方自治体に対する「権力の源泉となっている」、というのです。

結局は自分の権限が奪われるのが面白くない

そのうえで磯山氏は、交付税交付金こそが、地方自治体が財政的に国から自立するのを妨げていると指摘。それに風穴を開けつつあるのが「ふるさと納税」なのだ、としたうえで、こう結論付けています。

納税者の意思で税金の配分先を決められるわけだから、総務官僚の権限を奪うことになりかねない。何とかしてふるさと納税の拡大に歯止めをかけたいというのが本音なのだ」。

まったくそのとおりでしょう。

ちなみに磯山氏の記事にはほかにも重要な指摘がいくつかでてくるのですが、それらについては原文でご確認ください。

おそらく、菅総理の本当の狙いも、この「納税者が自分の意思で税金の配分先を決める仕組み」の導入にあったのでしょう。

その菅総理が、官僚機構から嫌われた人物であったことは間違いありません。故・安倍晋三総理大臣の時代には内閣官房長官を務め、安倍総理の後継者として総理大臣に就任した人物であり、官邸主導で官僚機構をコントロールする仕組みを作った人物でもあるためです。

ただ、官僚機構という、オールドメディア、特定野党と並ぶ「腐敗トライアングル」(『【総論】崩壊始まる官僚・メディア・野党「腐敗利権」』等参照)から嫌われているということは、逆に言えば、菅総理こそが自由・民主主義の実践者だった、ということでもあるのかもしれません。

いずれにせよ、菅総理という人物がまた何らかの形で政府の要職者として仕事をし、日本社会に貢献するチャンスが訪れるのかどうかについては、注目しておいて良い論点かもしれません。

岸田文雄・現首相も内閣改造をするなら、菅総理を三顧の礼で迎え入れ、何らかの要職(財相、外相、総務相など)に起用するくらいのことをしてはいかがかと思うのですが、いかがでしょうか。

新宿会計士:

View Comments (29)

  • 私は菅前総理ファンではありますが、そして総務省のファンではありませんが、現状のふるさと納税制度には反対です。
    住民税の総額が変わっていないにも関わらず(もちろん景気などの影響で増減はあると思いますが)、寄付の最大3割の返礼品、仲介サイトの手数料、携わっている地方自治体の役人の給与などなど、新規に発生している費用があるとすれば、そもそも住民税が高過ぎたんじゃないの?その新たに発生した費用分住民税を安く出来たんじゃないの?としか思えません。
    住民税の分捕り合いに住民税が使われている訳ですから、そういった意味での是正は必要だと思います。

    • 確かに。
      私はふるさと納税しないので、仕組みがよくわかりませんが、仰っている、
      ・寄付の最大3割の返礼品
      ・仲介サイトの手数料
      ・携わっている地方自治体の役人の給与
      これだけで5割くらいなりそうな気がします。

      それなら、住民税が5割引きでいいような気もします。

    • 私はふるさと納税制度に賛成です。

      自分自身が現在居住している本州最北端の県は40の自治体あり、それぞれに魅力的な観光資源と特産品を有しています。しかしながら、脆弱なインフラも相まってその発信力は微々たるものであり、結果として魅力的な観光資源を活用出来ず特産品支援も出来ず、静かに廃れています。
      そのような地方を私たち自身が直接かつ継続的に支援できるスキームがあれば良いと常々思っておりました。
      また、篤志家ではない一般人である私たちが、見返りのない純粋な寄付や継続支援は現実的ではないとも思います。
      見返りとしての返礼品が地元特産品であることで、地方の雇用創出の一助になっていることを鑑みるに、ふるさと納税制度はなかなかに考えられた良い制度だと思っています。

      • 転勤族様

        これが、正しくこの制度の目的です。やはり、現場におられると、菅さんがどういう思いで制度を思いつかれたかが、実態として分かるのですね。菅さん自身、地場に産業がないので、集団就職で東京に出て来られた方ですから、地方を何とか自力で活性化出来るようにしなければならないと強く思っておられたのでしょう。
        故郷納税制度は、納税そのものが最終目的ではなく、この制度をテコに地方が地場の産業を育てて、自立出来るようになることです。そして、いちいち陳情をしなければ、ならない地方交付金制度から少しでも自由になって、本来の自治を確立出来るように、という事ですね。

        • 追記します。

          良く言われる、3割自治から少しでも脱却出来て、自主財源で行政が出来るようにという事ですね。実際、大阪の泉佐野市は、それを実現して、市の行政サービスを格段に向上させていますね。

          • さよりさま

            「ふるさと納税制度」は自治体(の担当者)の志を高めることが出来る良い仕組みですね。

          • 転勤族様

            全くその通りです。そこが、菅さんの狙いでもあったのだと思います。誰でも、具体的な目標がなければ、頑張りたくても頑張れませんから。やはり、菅さんは、よく分かっていますね。

  • 私はふるさと納税反対の立場でした。
    納税が「法の下に平等」に反しているように思うからです。
    ふるさと納税をやった人とやらない人で差をつけていいのかな。

    「でした」と言うのは、最近は支持しない税金の使われ方をする自治体に、意思を持って納税を拒否するツールとしてはいいのかも、と思い直してきたからです。

    それでも不平等だなぁーと思ってます。

  • 埼玉県川口市、暴れ回るクルド人を助ける為に税金使われるのは嫌なので、ふるさと納税はありな手段だと思います。
    病院の業務止めるとか何考えているのか。

  • 官僚としては、報告書をきちんと見る菅義偉総理より、報告書をよく見ないで判を押してくれる岸田総理の方が好きだ、ということでしょうか。(もっとも、官僚がよい結果を出せるのなら、邪魔をしないで総理は判を押せ、になるのかもしれません)

  • 本来は公共サービスを受けている居住地の自治体に納めるべき地方税を、他の自治体に納めて返礼品までもらうのだから、確かにおかしい制度なんですよね。ただ、他の方も書かれているように、居住地の自治体に納税したくない場合の抵抗の手段にはなるでしょう。

    税収減になっても、地方交付税の交付団体なら75%は補填されるそうです。よく話題に上る川崎市や世田谷区は不交付団体なので影響が大きいそうですが、どちらもヘンな条例を制定したり、おかしなコロナ対策を行ったりしていたことで有名ですよね。裕福な自治体も無駄遣いできなくなるなら良いことじゃないですか?

    ふるさと納税で住民税流出 横浜市は272億円超 川崎市、世田谷区も多額 全国の総額は過去最多に:東京新聞 TOKYO Web
    https://www.tokyo-np.co.jp/article/266222

    >横浜、名古屋、大阪の上位3市やさいたま、千葉両市などは地方交付税の交付団体であるため、流出分の75%は国から補てんされる。一方、東京都や23特別区、川崎市は、独自の税収で財政運営できると国から判断された不交付団体であるため、流出分はそのまま減収となる。

  • 制度の主旨は、返礼品による地場産業の活性化だったと思います。だが、どうした訳か、泉佐野市などはアマゾンのギフト券などを返礼品したので、寄付額が急増。泉佐野市が何故そんな事をしたかと言えば、当市は余り産業のない市で、税収が少なく、公立の小中学校にプールやその他の公共施設を作ることができなかったらしいです。
    また、地場産業が無いので独自の返礼品も無かったので、制度のスキをつく形でアマゾンのギフト券にしたらしいです。故郷納税のお陰で市内の学校にプールを作る事ができたり公共施設も充実させることが出来たらしいです。その後、総務省の規制がキツくなってからは、市内に故郷納税の返礼品を作る企業を誘致して規制をクリアするようにしているとか。
    故郷納税は、一つの産業分野を作り出した事になります。何より、地方自治体が地場産業活性化の目標が出来ました。この辺りは、菅さんの狙い通りです。
    問題は、住人は住んでいる自治体のサービスを受けているのに、その自治体に納税していないという事になる点ですが、それは、国から交付金が受け取れるので穴埋め出来る、菅さんらしく良く考えてあると思います。
    それでも、やっと1兆円。この制度を最大限使った場合の故郷納税の総額がどれ程になるのか、例えば、県を除いた市町村税の総額が20兆円とすれば、1兆円は5%。未だ未だ増える余地はあるのか?
    いずれにせよ、故郷納税制度の目的は、地場産業の活性化を目的として、地方交付税に依存しない、地方の自立を目指している事になります。
    だから、地方自治体も、この主旨に沿った努力をするべきで、制度のスキをつくような事をやっていると、自治体としての力が付かないですね。
    しかしながら、国内産業の活性化の為の有効な制度ではあると思います。
    個人的には、現住している自治体のサービスを受けていることの恩義と生まれ育った故郷の恩義との間で迷いがあり、使った事はないですが。

  • 「ふるさと」納税でも何でもなくお得な返礼品の自治体に寄付しているだけ。
    返礼品がなくても自分の生まれ故郷の自治体に寄付しますか?

    私の家から出るゴミを集める費用、自治体が実施する健康診断の費用、近くの公園の維持管理費用は誰が払うのか。

    • >お得な返礼品の自治体に寄付しているだけ。
      返礼品目当てなので寄付ではなく通販、それも金持ち相手の通販ですね。

      返礼品などなくしてしまい、その代わりに市町村長のお礼状にしたら
      誰もふるさと納税などしないでしょうね。

      元地方公務員としてはやはり住民税は住んでいる自治体に支払うべきだと思います。
      ただ1月1日現在の住所地に一年分を納めるのではなく、
      国民健康保険や介護保険のように月割りにすればよいと思います。

      • >>元地方公務員としては

        市民としては、故郷納税が沢山取れるように地元産業を活性化して、魅力ある返礼品を開発して、地元を発展させる意欲のある地方公務員を求めますね。
        愚痴を言う公務員は要らない。

        • >愚痴を言う公務員は要らない。

          完全に同意です。
          何様のつもりでしょうか。
          自治体として行政サービスに至らないところがあったのでは無いかと、反省すらしない様な自治体なんかそっぽ向かれて当然です。

  • 河川の草刈りとか環境美化活動でやらせる今の自治体にあまり税金落としたくないので限度額の9割くらいやってます。
    高額納税者ほど優遇される、良いシステムだと思います。
    これこそ平等。

    • なかなか良い事言われます。
      今の地方税率は、一律10%なので、高収入層への地方税率を累進的に高くして、彼らが、より故郷納税をするモチベーションを高めれば、地方の活性化に勢いも付きますし、高額納税者は、より沢山の返礼品が貰えるので、高い税金への不満も和らぐでしょう。
      これは、誰がやれるのでしょう?菅さんにもう一度、首相に戻ってもらえば、出来るかな?

  • 返礼品の金額が納税金額の3割までと線引きされているんですから税額の方を3割引いて貰えないですか?
    返礼品要らないですから。

    • 前澤友作は、南房総市に20億円寄付して、返礼品は要らないと言いました。

      3割引いたら、納税額、残りますか?
      市役所の役人の一人は雇えますか?

      • さより様

        ふるさと納税がなぜか返礼品合戦になり総務省が「返礼品は税額の3割まで!」と釘を刺してる事について申し上げています。
        税金の呼び込みに返礼品が独り歩きしている状況はなにか違和感を感じますし、数年前の泉佐野市のように実質キャッシュバックで巨額を集めるのが税のありかたなのか疑問に思っております。

        このインフラ整備がどうしても必要でこれだけ税収が必要だから…とプレゼンしてくれる自治体をみたことがありません。

        どうしても返礼品での釣り合戦になり営業ツールの3割が必要なら本来は税金自体から3割引いても自治体が予定する予算編成は間に合うけど余計に徴収しているという意味にも解釈出来ます。
        返礼品納入業者の選定も現実にわけわからない事が多々あり利権の様相を呈しているという話もこぼれ聞き始めました。

        ふるさと納税自体に反対ではありません。
        自治体が本業そっちのけでビジネスしているように見えて仕方がないのです。

        • がみ様

          ご指摘されている事は全くその通りだと思います。
          ただ、そういう負の面も確かにありますが、本来の主旨に沿った活動をして、地元活性化をやっている地方も多い、と言いますかこちらの方が多いと思います。
          又、返礼品3割相当が地場の産品であれば、その3割もその自治体の企業や業者の売上になり、地元の雇用などに貢献してその自治体にお金が落ちるだろうというのが、この制度の主旨です。ですから、寄付額から3割減っているように見えますが、実は減っていないという魔法のような仕組みです。ですから、寄付者も得、地元も得となります。ただ、中には、泉佐野市のように、地場産品が何も無い、そもそも地場産業が元々何も無いという所は、制度のスキを突いてアマゾンギフト券等を使ったので、総務省が本来の主旨に戻せ、と。すると、今度は、県外業者を何とか引っ張ってきたのです。この泉佐野市は、余程何も無い所のようです。
          本来以上のような仕組みの制度ですが、どんな制度でも抜け穴があり、それを突いてくる者はいます。その穴は、制度を運用しながら、パッチを当てて行くしか無いのでしょう。
          以上のように見ております。

  • リンク先の記事は泉佐野市が返礼にAmazonギフト券を上乗せしたりと4市町やりすぎたのを書かいてありませんし、総務省がふるさと納税自体を敵視しているというのは言い過ぎじゃないですかね。

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