コロナ禍の入国制限が昨年10月に撤廃され、現在の日本はさながらインバウンド大国と化していますが、これにより一部の地域では、オーバーツーリズムが問題となっているようです。とくに、とあるウェブサイトではJR嵯峨野線の大混雑を受け、「京都市民の怒りが爆発寸前」、などと指摘されています。ただ、観光客が殺到する京都で、市バスが大混雑しているとする問題は、すでに5年以上前から指摘されていたものでもあります。
日本はインバウンド大国に!
以前の『訪日外国人は189万人:「インバウンド大国」の日本』などでも取り上げたとおり、日本はすでに、「インバウンド大国」となりました。
図表1は、日本政府観光局(JNTO)や法務省のデータをもとに、出国日本人と入国外国人を1枚のグラフにあらわしたものです。
図表1 出国日本人、入国外国人
(【出所】JNTO、法務省データをもとに著者作成)
コロナ前であれば、出国日本人は(季節変動はありますが)だいたい月間150万人前後でしたが、入国外国人は第二次安倍政権発足(2012年12月)以降に増え始め、2015年ごろに出国日本人と逆転。コロナ直前の2019年には平均して月間260万人を超える外国人が日本に入国していました。
昨年10月に日本政府が外国人観光客の受入を正常化して以来、入国外国人が激増しています。中国人の団体観光などが低調である影響でしょうか、コロナ前の水準にはまだ微妙に至っていませんが、1~5月までの累計で864万人、平均値で見れば173万人に達するなど、急激に回復しています。
しかし、日本人出国者数の回復については遅れており、今年に入ってから5月までの出国者数は累計で291万人、平均して58万人に過ぎません。
大幅な「入超」
その結果、入国外国人(B)から出国日本人(A)を引いた人数(B-A)を求めると、図表2のとおり、すでにコロナ前の水準に達してしまいました。大幅な「入超」です。
図表2 B-A
(【出所】JNTO、法務省データをもとに著者作成)
そして、インバウンドが増えることが良いことかどうかは、また別の話です。
著者自身もとある理由で先日、地方出張の手配をしたところ、ある地域に1泊するためのホテル代が昨年と比べて約1.5倍に、その地域と東京を往復するための航空運賃に至っては約2倍に急騰していたのです(※ただし、航空運賃が高くついたのは、直前に予約したため、という事情もあるのかもしれませんが…)。
「京都市民の怒り爆発寸前」
実際、各地で外国人観光客が増えているとの話は見聞しますが、こうしたなかで、一部地域ではオーバーツーリズムの問題も生じ始めているようです。『メルクマール』というウェブ評論サイトに11日付で掲載されたこんな記事を読むと、そのことを実感するかもしれません。
京都市民の怒り爆発寸前? JR嵯峨野線「インバウンド大混雑」、JR西が抜本的対策を採らないワケ
京都市を走るJR嵯峨野線の混雑が深刻さを増している。嵐山地区へ向かう外国人観光客が殺到しているためだが、抜本的な混雑解消策は取られないまま。どうしてだろうか。<<…続きを読む>>
―――2023.7.11付 Merkmalより
記事を執筆したのはフリージャーナリストの高田泰氏です。
高田氏によると、嵐山地区に向かう外国人観光客が京都市を走るJR嵯峨野線に殺到し、混雑が深刻さを増しているのだそうです。というのも、列車の本数は少なく、4両編成と短いためです。
地図で調べてみると、たしかに嵯峨野線は京都駅から嵐山まで直接アクセスするのに便利です。阪急電車と異なり、JR京都駅と直結しており、日中であれば(待ち時間を無視すれば)京都駅から15分前後で到着できるからです。
高田氏によると、「横浜市から英国人の夫とやってきた30代の日本人女性」が「まるで朝の通勤ラッシュ」と驚いたのだそうであり、また、陽気な歓声を上げる外国人観光客と対照的に、嵯峨野線を利用する大学生の不満の声なども出ているのだそうです。
これについて京都市はウェブサイトで主要観光地の混雑状況を発信しているほか、JR西日本も夏休み期間中に嵯峨野線の増結や増便などで対応するとしているものの、いずれも抜本的対策と言い辛いのが現状でしょう。
(なお、記事タイトルにもある「なぜ大幅な増発が難しいのか」については、高田氏が記事の中できちんと解説していますので、気になる方は是非、リンク先記事をご参照ください。あながちJR西日本に全面的な責任があるとはいえないと思います。)
すでに5年前から指摘されていた京都市バスの大混雑
ただ、調べていくと、京都市では嵯峨野線以外でも、さまざまな問題が生じているようです。
たとえば京都市民にとっての「足」であるはずの市営バスに外国人観光客が殺到しているというのです。
京都市に“観光公害”発生中!?外国人客増加で市バス大混雑の状況に「観光客だけ運賃値上げ」の案出るも独断で導入できない法的事情と現実的ハードル
―――2023/06/23 20:00付 Yahoo!ニュースより【よみうりテレビ配信】
ただ、この問題はコロナ前から発生していたもので、フリージャーナリストの姫田小夏氏もウェブ評論サイト『JBプレス』に、約5年前の時点で「京都で外国人観光客が増えすぎて地元住民の生活に支障が出ている」とする趣旨の記事を寄稿しています。
えげつない大混雑、それでも京都はやはり京都だった/外国人観光客が増えすぎて地元住民の生活に支障も
―――2018.4.16付 JBプレスより
2018年といえば、インバウンドが急増し、2019年と並んで過去最大レベルの外国人観光客が日本に押し寄せていた時期でもあります。インバウンド観光需要が爆発的に増えたとして、公共交通機関の整備が追い付かなければ、こうなるのはある意味では当然のことかもしれません。
もちろん、高度成長期の「通勤地獄」などを克服してきた日本のことですので、交通渋滞問題に対しても何らかの叡智を示すことができるに違いない、とする楽観論を持つこともできなくはありません。
ただ、それと同時に指摘しておきたいのは、「人数独り歩き」のリスクです。
当ウェブサイトではかなり以前から、インバウンド観光客の「数値目標」を撤回すべきだと主張してきましたが(『「数値ありき」での外国人観光客数目標設定に反対する』等参照)、その理由は、「人数」を政策目標に設定してしまうと、その人数が独り歩きするリスクが極めて高いからです。
今から約2年半前、産経新聞社が刊行する雑誌『月刊正論』の2020年5月号に寄稿したのが、『「外国人観光客4000万人」の目標を撤回せよ』と題した論考です。この論考は当ウェブサイトにおける外国人観光客需要の議論を踏まえたものですが、残念ながら、この手の議論は沙汰やみになってしまいました。コロナ禍のため、インバウンド需要自体が激減したからです。ただ、そろそろインバウンド規制緩和という流れが見えてきました。そこで、改めてこの「4000万人目標」の議論を掘り起こしておきたいと思います。入国制限の撤廃は近い?遠い... 「数値ありき」での外国人観光客数目標設定に反対する - 新宿会計士の政治経済評論 |
もちろん、現在の外国人観光客殺到も、「コロナ明け」と「円安」という2つの側面があるのかもしれませんが、それと同時に日本政府にもオーバーツーリズムを避けるため、旅行単価が低い国と高い国をある程度選別し、たとえばビザ免除プログラムの運用を変えるなどの工夫が必要ではないでしょうか。
View Comments (13)
バスに大きな荷物を持って乗られるのは困りますなぁ
マイカーを優先して市電をなくしてしまったのがだめなのかな
まぁちょっとした距離は歩くのが一番ですな
バスは乗るもんじゃない
ちなみに私は南の伏見区民なのでそれほど被害は受けていません
伏見稲荷よりまだ南なので
中心部へ行くときは臨戦態勢で参りますです
京都観光地激混みというけど、確かにその通りなんですが、外国人ならともかく、日本人ならちょっとは下調べしてからにして欲しいな。実は今年4月に行きました(爆笑)。日曜日で大混雑してましたが、ほどよい多さです。私はこういう風にしました。
例えばJR京都駅は凄まじい混雑だから利用しないと決めておく。で、嵐山に行きたいなら、大阪方面からは阪急電車利用、特急で西院駅下車(昔のように大宮駅には停まりません。ソコの貴方、分かってますか?(^^))。嵐電がすぐソバです。嵐山終点迄行って下さい。150円かな。交通系電子マネーは下車時だけでワンタッチです。2回ではありません。
次に保津川下りやトロッコ列車乗りたいなら、阪急電車桂駅または長岡天神駅下車(特急停車)バスに乗り換えJR亀岡駅まで行く。そこからは京都市内方向にJRで戻れば、楽に着きます。
え?新幹線利用?ん〜とりあえず京都駅は下車しないでください(爆笑)。洛西、洛北は何かと阪急電車が便利です。あ、市営地下鉄はぼったくり、高いヨ。
うちの近辺でも、観光&旅行客によってメリットを得る人と得れない人の二極化が進んでいますね。
行政は、地域振興&税収の見地から、どちらかと言うと前者を応援しがちです。
私のように観光&旅行客と関係の無い人間は静かに暮らしたいだけなのですが、うちの北側にもトリーメント宿泊&キャンプ施設ができ、日増しに暮らしにくくなっていくことを感じます。
施設に隣接している住民と、少し離れた住民との間でも意見が違い、隣接住民に対する同情の声は少なく、このままでは家を売却して出ていくしかないように感じます。
グローバリストの岸田さんは何ら手をうたず、おそらくこのような状況は、今後日本全国に拡大するように思います、外国資本による不動産取得も進むでしょう。
いわば、バブル時代の地上げの現代バージョン、観光による地下げと値が下がった住宅を買いあさる外国資本という構図でしょうか。
そのうち神社仏閣等も単なるテーマパークになり、伝統的な古き良き日本文化は消え去るように感じます。
日本人の殆どがそのテーマパークに勤務し、所有者の外国人に仕え、一昔前の発展途上国のような国になるのかもしれません。
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この方は極端な発言が多いので、気をつけてください。
前も、日本はg7から外れるべき!と反日円高マンセーの野口ゆきお氏と同じ主張されてましたから。
観光目的のひとり歩きがリスキーなのかと思ってしまった。
最近日本の治安もアレだからなあ。
京都観光は特定の所に人が集中しがちです。
おまけに、短い電車や輸送力に劣る市バス、狭い歩道など観光客を迎える各種施設は未だに貧弱です。
一昨日も四条通を歩きましたが、歩道から人が溢れそうです。
四条河原町や四条川端通りの交差点は未だに渋谷のようなスクランブルになっていません。
これに中国本土からの観光客が加わるとかなりひどい状態になると予想されます。
コロナ騒動にもかかわらず現在建設中の大型ホテルも幾つかあります。
問題だと騒ぐのなら早急に総合的な対策を講じる事が必要だと思うのですが、そのような動きは無いようです。
一体責任者は誰なのでしょうかね?
ちょくちょく、嵯峨野線には乗りますが、確かに、コンスタントに混んでますね。
混んでいると言っても、京都から、20~30分、運賃で 420円の亀岡までですが。
亀岡には、Jリーグ京都サンガのスタジアムもあるので、早目の対策をお願いしたいですが・・・
でも、亀岡を過ぎるとガラガラなので、なかなか、難しいとも思いますね。
関東では、鎌倉の土日曜日の自家用車の大渋滞。混むのが分かっていても、車で来る庶民の我儘意識は変わらないようです。一体どういう意識で生活しているのか?自分だけは何とかなると思っているのか?
一駅二駅離れた所の駅前駐車場に車を預けて、そこから電車で来た方が、渋滞の車の中で待ち続けるよりも、有効に時間が使えると思うのですが。
かつて20年ほど前に鎌倉に車で行ったのを最後に、あそこに行くときは常に公共交通機関で行ってます。あそこに通じる道はそもそもは切り通しですからねぇ。(笑)
鎌倉観光は駅から歩いて行ける範囲にかなりの物が含まれますし、バスや江ノ電でかなり面を押さえられるんですよね。
紅葉見るのに北鎌倉→円覚寺(国宝舎利殿あり)の組み合わせとか、お手軽なので時々利用してます。近年の紅葉はまばらで今ひとつではありますけど。
うちは子供がいないんですが、小さいお子さんのいるご家族のためにも車での観光は避けられるなら避けたいなとも思います。
そういえば、鎌倉殿放映中は観光客がものすごかったそうで敬遠していましたが、思い出したのでちょっとまた行ってみたいと思います。
全く仰る通りです。鎌倉ほど、コンパクトな地域に多種豊富な楽しみが詰まっている所は無いのではないかと思います。あれ程に効率の良い観光地域に何でわざわざ鉄の塊の箱を動かしてエッチラコッチラと行こうという気のなるのか?
これは、日本人の不思議さの一つではないかと思います。
インバウンドとは言っても、欧米豪の観光客と、アジア地域からの観光客の、日本へ来る目的が違うのではないかと思います。
欧米豪人は、日本の歴史・文化・自然、等をじっくりと楽しむためにやって来るのではないかと思います。
参考の為に、youtubeのURLを付記します。
https://www.youtube.com/watch?v=4VL1jImjEbo
この動画、中山道の馬籠宿から妻籠宿までを歩く外国人観光客を紹介しているのですが、
殆どが欧米豪の個人及び個人グループの観光客です。
日本の文化と歴史と自然とじっくりと堪能しようとしています。
片や、アジア人観光客は、団体旅行でやって来て、物見遊山だけで帰って行くのではないでしょうか?
観光消費額で言えば、米豪人の一人当たり消費額は多くなり、団体旅行のアジア人の消費額は少ないでしょう。
しかも、団体客はじっくりとその国を理解相という意識も低いでしょう。
山陰本線(嵯峨野線)の近郊型電車は、吹田総合車両所京都支所所属の221系と223系(2500番台と6000番台)が在籍しています。
4両編成が主力で、6両編成は少数派となっています。
6両編成は湖西線がメインでしょうし、ラッシュ時は4+4ので8両対応するか、福知山支所の223系5500番台を併結した2+4の6両で対応するしかないですからね。