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「誹謗中傷からジャーナリストを守れ」提言への違和感

一般人が気軽に情報発信できる時代が到来したことで、不便さを感じているのが、ジャーナリストなのだそうです。おかしな記事を投稿したら、ネットを通じて一般人から容赦ない批判にさらされるようになったからなのでしょう。こうしたなかで、「ジャーナリストによる表現の自由の確保や表現の萎縮の防止の観点から、インターネット上の誹謗中傷に関する対策は急務である」、などとする研究報告が出てきました。いったい何を甘ったれたことを言っているのでしょうか?

一般人が気軽に情報発信できる時代に!

インターネット時代が到来したことの最大のメリットは、私たち名もなき一般人が、世の中に向かって気軽にさまざまな情報を発信することができるようになったという点でしょう。

ひと昔前だと情報発信の担い手は、事実上、ジャーナリスト(とくに大手メディアに所属する人たち)に限られていましたが、現代はそうではありません。ツイッター、ブログサイトなどを含め、私たち現代人はネット空間のさまざまなプラットフォームを使い、情報を受け取るだけでなく、情報を発信することもできるのです。

もちろん、多くの一般人は「著名人」ではありませんので、ツイッターやブログを始めたばかりの人にとっては、ちょっとした情報を発信したとしても、それを全国の人に送り届けるということは難しいでしょう。

しかし、それと同時に現代社会においては、インフルエンサーになるという「チャンス」は、誰しも持っています。

たとえば多くの人がスマートフォンを持っている時代ですから、「運良く(?)」事故現場・災害現場に遭遇するなどした場合、その現場をスマートフォンで撮影し、ツイッターなどに投稿すれば、その投稿が数千人、数万人、いやもっと多くの人々に注目されることだってあるでしょう。

こうしたインターインターネット空間が持つ可能性は無限大であり、一般人がいきなり注目されるという意味では、相当にダイナミックな話でもあります(※といっても、「注目される」のが「良い意味で」とは限らない点には注意は必要ですが…)。

ウェブ言論だと批判されるのは当然

そして、一般人であっても注目される可能性があるわけですから、インターネット空間は、専門家にとってはなおさら魅力的です。自分自身で直接、ブログ、note、ウェブ評論サイトなどで情報発信できるからです。

新聞、テレビといったオールドメディアを通した情報発信だと、どうしても曲解されたり、発言を切り取られたりして、自らの意図が世の中に正確に伝わらないというもどかしさもあったのですが、インターネット空間を通じた情報発信だと、こうしたリスクが格段に減ります。

もちろん、無名のサイトだと世間から注目されるとは限りませんが、それでも「山手線の駅名を冠した怪しげな自称会計士」の経験上、情報発信を地道に継続していれば、そのうち少しずつウェブサイトへのアクセス数が増えてくるものです。

「金融評論サイト」という怪しくて奇妙なウェブサイトに、ときとして下手な地方紙をも上回るアクセスがあること自体、インターネットの醍醐味でしょう。

ただし、「怪しい自称会計士」の場合もそうですが、ネット上で著名になればなるほど、批判される可能性も増します。

といよりも、ウェブ評論を行っている以上は、その評論する内容について批判にさらされるのは当然のことであり、また、批判自体は歓迎されるものでもあります。評論の内容自体、忌憚なき批判にさらされることで、さらにブラッシュアップされるという性質があるからです。

批判に弱いオールドメディア

もっとも、こうした状況に我慢がならないのは、いままで批判にさらされていなかったオールドメディアの側ではないでしょうか。

ウェブ評論サイトの場合だと、「大々的に批判される(かもしれない)」ということを最初から理解したうえで情報発信を行っているのですが、新聞、テレビなどのオールドメディアの場合、「自分たちが発信した情報が批判される」ということに、あまり慣れていないフシがあるのです。

というよりも、ネットが出現する以前であれば自分たちが流した情報がこれまで批判にさらされることは滅多にありませんでした。私たち一般人が新聞記事、テレビ番組に違和感を抱いたとしても、それの「違和感」を世間に伝える手段自体がなかったからです。

しかし、現代社会だと、インターネットが存在します。

新聞社、テレビ局の多くはウェブサイトを開設しており、そのウェブサイトにはツイートボタンなどが設けられているため、一般人がツイートボタンを押して気軽にその記事に対する感想をツイッターなどに投稿することができてしまうのです。

もし気になる新聞記事を見つけた場合、ツイッター・ユーザーの方は、ツイッターのホーム画面に設けられた検索ボックスで、その記事のURLを入力してみてください。きっと一般ユーザーからの反応が見つかるはずです。

批判と誹謗中傷の違い

もっとも、オールドメディアの記事に対する批判意見も、オールドメディア関係者から見ると、それはときとして「誹謗中傷」に映ることもあるようです。

本来、誹謗中傷と批判には大きな違いがあります。

一般に「批判」は、その人が出した意見に対し、論拠を示したうえでその議論に反論する行為であり、これに対し「誹謗中傷」とは、(ときとして)その意見を出した人の人格などに対するいわれのない攻撃を伴った行動です。

ただ、ネット上での誹謗中傷と批判の線引きは、明確ではありません。多くの場合、両者は混然一体となってしまうことが多いからです。

私たちは人間であり、そして人間というものには感情があります。したがって、「とんでもない文章」を読んで腹が立つと、その文章を執筆した人に対する侮辱的・攻撃的な表現を使いながら批判することもあります。

この点、「山手線の駅名を冠した怪しい自称会計士」あたりは、最初から「ネット専業」でウェブ評論活動を行ってきたためか、多少の人格攻撃を受けてもあまり気にしていないようです(※なお、「多少ではない人格攻撃」の場合はその限りではありませんので、念のため)。

しかし、著者自身がみたところ、新聞社出身、テレビ局出身のジャーナリストなどは、こうしたネット上の攻撃にはあまり強くないようです。

「誹謗中傷からジャーナリストを守れ!」

こうしたなかで、ちょっと気になった話題がひとつあるとしたら、国際大学グローバル・コミュニケーション・センターがグーグル合同会社のサポートを受けて2013年に立ち上げた研究プロジェクト『Innovation Nippon』のこんな調査報告です。

Innovation Nippon「わが国における誹謗中傷の実態調査」「ジャーナリストへの誹謗中傷の実態」

―――2023/05/01付 GLOCOMより

リンク先記事は『わが国における誹謗中傷の実態調査』、『ジャーナリストへの誹謗中傷の実態』という2種類のレポートから構成されているのですが、本稿で注目しておきたいのは、このうち後者です。

この概要版レポート【PDF】の7ページ目には、こんな記述があります。

ジャーナリストは一般生活者を大きく上回る水準でインターネット上の誹謗中傷に遭遇しており、言論の自由の観点からも対策が急務である」。

すなわち、誹謗中傷からジャーナリストを守れ、ということです。

調査によると、ツイッター、YouTubeを含めた5つのSNSや動画サイトにおいて、ジャーナリストが誹謗中傷を経験した割合は21.5%であり、これは一般生活を営む人の誹謗中傷経験率(4.7%)と比べて4倍以上だったのだそうです。

これについてレポートでは、次のような点を指摘します。

  • 一般生活者と比べてジャーナリストは誹謗中傷の被害に圧倒的に遭いやすい
  • フリーランスのジャーナリストの方が、企業に所属しているジャーナリストよりも誹謗中傷を受ける経験が多い傾向が見られる
  • 誹謗中傷をしてきた相手としては、「見ず知らずの人」が30.2%で最多であった
  • 誹謗中傷に遭った後は、「悲しくなった」(41.9%)、「怒りを感じた」(34.9%)といったネガティブな感情を多くの人が抱いていただけでなく、「他の人を信じられなくなった」(14.0%)「健康面(精神的・身体的)に何らかの影響が発生した」(9.3%)といったように、精神面的・身体的な健康被害まで少なからず発生していた
  • ジャーナリストの活動に限っても、「同様のコンテンツや近しいコンテンツに関しての記事を書くことを止めた」(20.9%)、「そのサービスでの投稿をやめた」(14.0%)、「調査の方法や各記事の内容を変化させた」(11.6%)と、表現の萎縮や調査方法の変更を余儀なくされたジャーナリストが少なからず存在している

…。

そのうえでレポートでは、「ジャーナリストによる表現の自由の確保や表現の萎縮の防止の観点から、インターネット上の誹謗中傷に関する対策は急務である」としたうえで、「ジャーナリスト、とりわけフリーランスのジャーナリストに対して、インターネット上で誹謗中傷を受けた場合の対処方法などを啓発すること」が必要としています。

いったい何を甘えているのだろうか

正直、当ウェブサイトとしても、表現者に対する行き過ぎた批判、あるいは批判とは言い難い単なる誹謗中傷に対しては、極めて批判的ではありますが、それと同時にこのレポートの主張に対しては、「いったい何を甘えているのか」という気がしてなりません。

言論活動を行っている以上、時として強い言葉を伴った批判が寄せられることは、当たり前だからです。

むしろこのレポートが主張する「インターネット上の誹謗中傷に関する対策」とやらは、「ジャーナリストに対する批判を封殺する」という発想にもつながりかねないものであり、非常に強い違和感を覚えます。言論活動を行っている以上、批判は批判として、真摯に受け止めるべきだからです。

たとえば批判を読み、自らの情報発信に間違いに気づけば、謝罪して訂正したうえで次回以降の議論に生かせばよい話ですし、自らに向けられた批判が的外れだと思うならば、その理由を添え、言論という手段を使って反論すれば済みます。

あるいは「反論する必要すらない」と思えるほどのものについては放置しておいても良いかもしれません。あまりにも低レベルな批判は、著者自身がわざわざ反論しなくても、ほかの読者などが反論してくれることもあります。

それに、現代の法制度上、私人間のトラブルを解決するための仕組みは十分に整っており、ジャーナリストらを「聖域」にする必要などありません。行き過ぎた誹謗中傷に関しては開示請求をするなりして、民事上の法的措置を講じれば済む話でしょう。

実際、著者自身も、ツイッター上で「バカ」だのと罵られ、相手に謝罪を求めた際、その相手の対応があまりも不誠実だったため、開示請求を検討したこともあります(ちなみに『改正プロバイダ責任制限法で下がった開示請求ハードル』でも述べたとおり、開示請求自体のハードルは非常に低くなっています)。

印紙代は基本1,000円、最短数ヵ月で開示されることも!当ウェブサイトの著者自身もときどき、ツイッター上で誹謗中傷を受けることがあります。こうしたなか、昨年10月1日に施行された改正プロバイダ責任制限法に基づけば、発信者情報開示を請求するための手続自体が簡素化され、印紙代も1,000円で済むようになったそうです。誰もが被害者にも加害者にもなり得る時代、ネット上の情報発信も紳士的、理性的かつ冷静でありたいものです。SNSとオールドメディアいまやSNSは立派な「メディア」だツイッターを含めたSNSは、誰もが...
改正プロバイダ責任制限法で下がった開示請求ハードル - 新宿会計士の政治経済評論

「ジャーナリストだから誹謗中傷を受けないようにしなければならない」というのは、「言論の自由」から明らかに逸脱した発想であり、特権意識そのものです。

それに、おそらくは共同通信所属のジャーナリストであろうと考えられる「桜ういろう」なる者が、ジャーナリストではない一般人であるナザレンコ・アンドリーさんや暇空茜さんを誹謗中傷したという事例もあります(『「桜ういろう」問題で開示命令:共同通信はどう出る?』等参照)。

「オールドメディア」は腐敗トライアングルの一角を占めている――。当ウェブサイトを通じて、これまでに何回となく、そんなことを指摘してきましたが、こうした見立ては正しいのかもしれません。そう判断する材料のひとつが、「桜ういろう」問題です。これに関してはナザレンコ・アンドリー氏が東京地裁から開示請求を認める仮処分を勝ち取ったとする話題が出てきました。すでに暇空茜氏も「桜ういろう」の本人を特定したうえで提訴済みだそうです。NEWSポストセブンの2つの記事先日の『「桜ういろう」処分は軽すぎ?被害者は意味...
「桜ういろう」問題で開示命令:共同通信はどう出る? - 新宿会計士の政治経済評論

ジャーナリスト「だけ」を守る法制度が必要だ、とする発想には、違和感しかないというのが正直なところなのです。

新宿会計士:

View Comments (30)

  • マスコミは土管化が進むでしょう。影響力がある個人がメディアを介して発信をする様になって、メディアの力を借りて発信していた人は排除されるでしょう。

  • 表現の自由を掲げるなら、当然それを批判される自由も(違法でない範囲で)甘んじて受けていただきたい。批判が許されないのなら、何ら裏付けのない願望・妄想記事でも言ったもの勝ちとということになってしまう。
    事実の指摘は、必ずしも誹謗中傷とはいえないでしょう。
    ただし、投稿された内容が真実であった場合ても、名誉毀損が成立するケースはあります。
    https://sakujo.izumi-legal.com/column/chishiki/ihousei-truth

  • テレビを見ていると意見の発信は:
    (A)専門家のコメント (B)テレビ局または関連新聞社の解説委員の意見 (C)タレンコメンテーターまたはゲストのコメント
    (C)は自分の意見ではなくテレビ局の書いたカンペを読んでいる。

    まず自分たちの主張に合いそうな専門家にしゃべらせる、次に専門でも何でもないタレントにテレビ局の書いたカンペを読ませる、最後に偉そうな顔した解説委員がその線でまとめる。
    これで世論のいっちょうあがり。

  • 今日の自民党総務会でLGBTQ法案通りました‼️何故オールドメディアは、此の問題点を出さないのか⁉️ネットでは大反対が溢れているのに。きっとメディアは真実を知りたくなくてネット言論が怖い❗既存権益を必死に守りきりたいのでしょ。メディアはネットを潰せない、既に我々はネット発言を獲得してしまったから‼️元からテレビ・新聞・ラジオ等は世論を扇動していますからビジネスモデルの終焉は近いと思います‼️未だCNNやFoxの方が信頼出来ます‼️日本の既存メディアの劣化は更に進む事を望みます‼️ドンキホーテで地上波を見れないテレビがバカ当たりとか。テレビはBSに限ります。新宿会計士さん著書読みました‼️是非とも新刊もお願いします‼️

  • 憲法で表現の自由は保障されてますけど、別にそれは報道会社やジャーナリストだけが権利を持ってるわけじゃなくて、全ての国民が対象ですんでね。

    「ジャーナリストは特に誹謗中傷をうけやすいから」、と言う理屈で特別に保護するなら、同じ理屈で特に保護されるべき人々は他にも出てきますね。
    政治家やその関係者も対象になるでしょう。安倍氏は故人ですが、ガースーやら安倍昭恵氏やら、たくさんいそうですけど。

    保護対象のジャーナリストを特定しなきゃならないので、ジャーナリスト保護法を作って、報道会社、ジャーナリストの国家認定制度とか導入するのかな。

    「私は国家に認定されたジャーナリストです!(キリッ)」

    海外の報道機関と付き合えるのかしらん。

  • 一言だけ。「マスゴミの、マスゴミによる、マスゴミのための提言」に見えるのですが。

    • すみません。追加です。
      今、日本に(マスゴミ会社の社員ではなく)ジャーナリストは、どれだけいるのでしょうか。

    • 石を投げたらまずいですが、この「誹謗中傷」とやらは何を基準にしているのでしょう?
       神であるマスコミに反対意見を述べることが誹謗中傷となるんでしょうかね。

  • 心無い報道に曝された、
    京都アニメーション放火事件の犠牲者の方々のプライバシーは守られませんでしたね…。

  •  GLOCOM自体がよくわからない人達、みたいな印象になりました……

     ジャーナリスト云々の前段にある「誹謗中傷の実態調査」から読んではみたものの、まぁ実態調査をしておくということの意義はわかりますが、正直「あぁうんまぁそうだろうね。で?」程度の内容と感じます。

     そして我慢して進んで本件ジャーナリストが云々を読み始めたら、出だしでもう偏向というか結論ありきというか、なんか結論を依頼されてんのかなという感。
     「ジャーナリストへの言論攻撃や暴力が民主主義国でも発生し……」という導入の時点で、出典が注記されていますが、まず日本の話ではないようです。そして具体例として「トランプの扇動によって議会が襲撃を受け…」「ドイツの右派政党がフリー記者を嘘つき呼ばわり」「記者が殺害レイプ投獄云々」。
     んんん……?なんだこれ?つらつらと「世界のジャーナリズムの危機(ただし主に左派視点)」を盛り上げた最後の最後で、唐突に「我が国でも~」と始まります。わけがわからぬ。

     日本でも私の知らないうちに、政治家の扇動で議会が襲撃されて、右派政党が大暴れし、ジャーナリストが生命の危機まで負っていたんですかね。知りませんでしたコワーイ。
     まぁイソコあたりはさんざイジられてますが。加害者はイジリのつもりでも被害者がイジメと受けたらイジメなんですよね。遺書返せば良いんじゃねと思うのだけど。

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